Device 36 グラニュラー・シンセシスを応用したリバーブ

基礎的な機能ブロックをつなぎ合わせることで独自のソフトウェアを構築できるCYCLING '74 Max。現在ネット上では数え切れないほどのパッチがシェアされており、それらのプレーヤーとしても活用が可能です。ここでは最先端のプロフェッショナルが作成したクールなパッチを紹介。パッチのサウンドを試聴できるほかファイルをWebよりダウンロードして、新しい音楽の制作に役立ててください。

Device 36 グラニュラー・シンセシスを応用したリバーブ

プレゼンテーション・モード ▲プレゼンテーション・モード
パッチング・モード ▲パッチング・モード

ファイルをダウンロードする→ParticleReverb

[gen~]を使ってDSPを構築

今回紹介するのは、グラニュラー・シンセシスを応用したリバーブ、Particle-Reverbです。まず大まかな仕組みを説明します。グラニュラー部分のインプットは、一定時間[buffer~]に録音。その[buffer~]から、指定したグレイン・サイズ(波形を細かく分割するときの大きさ)、ポジション(分割する場所)、各ランダム範囲に影響を受けてグレイン(波形を細かく分割した粒子のようなもの)が生成されます。従来のリアルタイムのグラニュラー・シンセシスと異なり、Particle-Reverbではグレインの生成量が非常に多いです。設定では、5msごとに指定した長さのグレインが生成され続け、オーバー・ラップして(重なって)いきます。オーバー・ラップ数(同時再生数)が300~400と上がるにつれ、音が重厚になり、リバーブのようなエフェクトとなるのです。CPU性能の劇的な向上とともに誕生した、ハイエンド向けグラニュラーということになりますね。EQやコンプなどに比べるとまだ歴史が浅い分、探求心がくすぐられます。

続いてGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)の解説をします。上部のボタンをクリックするごとに、ランダムにサンプルが再生されます。再生されたサンプルに対し、Particle-Reverbのエフェクトがかかります。Particle-Reverbのパラメーターは、その下にあるXYパッドに集約。横軸がグレイン・サイズで、縦軸がポジションとなっています。⌘キー(WindowsはCtrl)をホールドした状態でドラッグすると、グレイン・サイズとポジションの各ランダム範囲を設定できます。このGUIにおけるXYパッドでは、XとYの範囲を同時に操作することができます。1つずつパラメーターを操作するより、音作りや設定の認識が直感的に行えますね。[jsui]オブジェクトを使用して一から自由にデザインできるMaxならではの操作性です。

続いてDSP部分の解説をしましょう。プレゼンテーション・モードを解除して、XYパッドのbpatcherを開くと[gen~]オブジェクトがあります。[gen~]オブジェクトをクリックすると、gen exprという[gen~]オブジェクト専用のプログラミング言語で描かれたスクリプトが表示されます。[gen~]オブジェクト1つでDSP部分を完結させることにより、サンプリング・レートに正確な挙動を一から作ることができます。さらに処理も軽くなりますね。結果として、適切な処理をすれば再生中にインターフェースを動かしてもクリップ・ノイズが乗ることなく、400ほどのオーバー・ラップ数であっても動きます。

MSPオブジェクトと[gen~]オブジェクトの一番大きな差は、クロックの解像度です。MSPオブジェクトから出力/入力されるbangは、基本的にMaxのAudio Statusで設定されたSignal Vector Size周期で行われます(Audio Interruptがオンの場合)。例えば、Sampling Rateが48000でSignal Vector Sizeが256の場合、その周期は5.333msになります。マイクロ・タイムスケールが基本のグラニュラー・シンセシスではとても致命的なことです。グレイン・サイズや生成インターバルの値が小さいときや、1サンプル・レベルの処理を行いたいといった場合に、MSPオブジェクトでは対応できなくなってしまいます。

Max for LiveでLive APIも応用可能

僕が感じるMaxの最大のメリットは、GUIとDSP部分のどちらも作りやすい点です。それぞれJavaScript、gen exprと使用言語は異なります。しかし、言語を習得することによりDSPをデザインし、最適化したパラメーターをオリジナルのGUIに落とし込むことが可能です。例えば単純なローパス・フィルターのパッチで、カットオフとレゾナンスを円形の回転するGUIに落とし込んでみます。同じDSP処理でも、従来のスペクトラム・アナライザー系GUIでは見せることのない表情が垣間見えます。DSPからパラメーターの組み合わせ、GUIデザインまでコンパイル時間を挟むことなく制作できることで、開発時間の短縮にもつながります。

また、Maxのプロジェクト・ファイルをMax for Liveとして書き出すことで、ABLETON Liveでも使えます。“モジュール化”によって汎用性が高いだけではなく、Maxを通してLiveのAPIにもアクセスすることも可能。これは市販のプラグインではできないことです。Live APIを利用することで、クリップのリネームやまとめての書き出し、ワークフローの改善につなげることも可能です。LiveユーザーでMaxにも興味がある方は、Max for Liveも強くお薦めします。

今回のParticle-Reverbは、僕が作ったMax for LiveのParticle-Reverbから機能を大幅に制限したトライアル版となっています。本来ならばPitch(−12〜+12)、Chorus、Parametric EQ、Freeze、Feed Backのパラメーターがあり、すべてのルーティングがFeed Backパスに入っています。こちらのパッチでは、よりダイナミックな音作りを楽しんでいただけるでしょう。Max for Live版のParticle-Reverbは僕のWebサイトより購入いただけます(https://gumroad.com/szk_1992)。ぜひMax for Live版Particle-Reverbも触ってみてください!

suzuki kentaro

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【Profile】Technical Sound Designer
Twitter: https://twitter.com/szk_1992

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