CELEMONY Melodyne 5 〜第4回 修正だけではないMelodyneの使い方

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クリエイティビティを支える進化を遂げた万能オーディオ・エディター

 筆者の普段の仕事では、Melodyne 5を使う作業時間のおよそ7割が、素材の編集や修正作業になります。しかし、残り3割は、Melodyne 5の先進的な機能によって新しい音楽を生み出すクリエイティブな使用法です。修正作業に使用することの多いMelodyne 5ですが、そればかりではなく、機能を活用して新しい音楽を作り出すこともできるツールになっています。連載最終回となる今月は、私の普段の修正作業におけるMelodyne 5の使用方法を中心に、クリエイティブな作業に便利そうなアイディアも紹介いたします。

 

シンセのオーディオ・データを参照して
メロディのピッチ修正を行う

 さまざまな便利な新機能が追加され、ますます使いやすくなったMelodyne 5ですが、バージョンアップのたびに実装を期待し続けている機能があります。それはMIDIファイルのインポートです。楽曲を修正や編集する際に、MIDIデータが参照できるとエディット時に非常に効率が上がります。またポリフォニック・モードでMIDIデータを利用することができたら、ポリフォニック素材の和音構成をMIDIデータに合わせて自動的にトランスポーズしたり、ハモリを加えたりなどできるようになり、大変面白いと思います。

 

 とはいえ、オーディオ・データを読み込むことで、その代替とできる場合があります。収録した素材がある程度完成形に近い場合は自動で修正する、あるいは耳で確かめて違和感のある部分を少しだけ変更すれば済むことですが、収録時に何らかの原因でふさわしい音階からかけ離れてしまった場合、リファレンスが無いとふさわしい音階を“推測して”修正することになります。伴奏の和声や楽曲のキーやスケールから完成形を推測することも可能ですが、ふさわしい音階から2度、3度と音程を外してメロディを歌ったりコーラスを収録した場合は、違うものとして偶然音楽的に成立しているケースがあるため、作曲者や編曲者が自身で修正する場合でなければ、曲の意図を汲み取り切れないことがあり得ます。

 

 そのような大幅な音程の変更が必要な場合は、MIDIデータや楽譜があればそれを利用することをまず考えます。先述のようにMelodyneはMIDIファイルをインポートできないので、MIDIデータをいったんソフト・シンセなどでオーディオ・データに変換。そのオーディオをMelodyne 5 Studioに読み込んでマルチトラック表示し、エディットの際にふさわしい音程が明確になるようにして作業するのが効率良いと感じています(画面①)。

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画面① マルチトラック対応のMelodyne 5 Studioで、リファレンスとなるシンセで作ったメロディ(画面上半分)を読み込み、録音したボーカル(下半分)と比較参照できるようにしておく

 また、メロディやコーラスの音階のガイドとして仮歌が存在する場合はそれを読み込んで使用します。仮歌が上手に歌えている場合は、ガイドとしては大まかな音程だけでなく、しゃくりやビブラートの微妙なピッチの表情の参考となり得るため音楽的により高度な編集をすることができます。

 

 一方でこんなことがありました。カバー楽曲の制作で、原曲とは全く異なるコードへとアレンジを行いました。原曲のコーラス・アレンジのトップの動きや和声の連結などの大まかな雰囲気を保ったまま、アレンジで採用した違うコードにぶつからないようなコーラス・ラインを考えようとしていた……のですが、レコーディングの当日までに間に合わなかったのです。そこで、いったんは原曲を完コピしたコーラス・アレンジで収録を行い、それをMelodyne 5にインポート。収録後に原曲とは異なるコードを利用した新しいアレンジのトラックに合うようにコーラスを変化させました(画面②)。

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画面② 録音後にコーラス・パートを異なる和声へ変更したい場合にも、トップ・ノートや和声の動きを保ちながら、内声やルートのピッチのみを変える調整が簡単に行える。この際、コード・トラックにコードを入れておくと便利だ

不協和音となるリバーブ成分を
ポリフォニック・ピッチ補正で濁らないように

 Melodyne 5 Studio/Editorのポリフォニック・モードを使用すれば、弦楽器や打楽器の長い余韻や長い残響の環境で演奏されたリバーブ成分が不協和音になってしまった場合でも、ポリフォニック素材の中から問題となる部分だけピッチシフトしてその問題を取り除くことができます。

 

 以前、エンジニアとしてミックスを担当した楽曲で、静かなブリッジ部に入った途端、転調前のストリングスの余韻と残響が不協和音になっていました。とはいえ、静かなブリッジへ滑らかに移行するためにはストリングスの余韻と残響も不可欠であったので、余韻とリバーブをフェード・アウトして短くしたり、余韻の音量を小さくするといった妥協策を採りたくはなかったのです。

 

 その状況を見ていた担当ディレクターから、”Melodyneでピッチ・シフトしてしまえばよいのではないか?”と提案がありました。私もなるほどと思ってその通りにしたところ非常にうまくいきました(画面③)。

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画面③ リバーブの残響成分をオーディオ・ファイル化し、和声を変えることで、転調直後でも響きを濁らせずにおくことが可能となる

 このような場合においてもMelodyne 5から実装されたコード・トラックとコード構成音背景表示機能は便利で、より視覚的にこのような作業が行えるようになっています。

 

ドローン素材のピッチをコントロールして
コード進行にマッチさせる

 Melodyne 5 Studio/Editorのポリフォニック・モードと、新たに追加されたコード・トラック機能を組み合わせて、 既存のドローン素材を楽曲のコード進行に合わせてみましょう。

 

 最初に、曲にふさわしい雰囲気のドローン音を用意します。次にMelodyne5 Studioのサウンド・エディターを使って倍音ごとに異なるエンベロープを作成。アタック・タイムを遅くするとパッド系の音色が作成できます(画面④)。元素材とかけ離れた遅いテンポ設定にすることで、非現実的な楽器音を新たに創造するのも面白いでしょう。

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画面④ Melodyne 5 Studioに搭載されているサウンド・エディター機能(下段)。MIDIノートのコントロール・チェンジなどのように、倍音分布やEQなどをブロブ単位で調整できる。ここではボリュームにスペクトル変化(下段左)やフォルマント(同中央)、音量(同右)のエンベロープを描き、パッド音色へと仕上げている

 そこにパッド系のシンセをレイヤーしたり、映画音楽のBGMのようなループ素材集の中からふさわしい雰囲気のものを選択して重ねます。このときにどのようなボイシングにするかはある程度計画を立てておきましょう。

 

 次にディケイ部分が混じり合わないようにピアノ音色などでシンセを鳴らし、コード進行のガイド・トラックを作成。これをMelodyneへトランスファーします(もしくはARAを使用してポリフォニック・サステイン・モードで分析)。該当トラックを選択してメニューから“和音を分析する”を実行。するとMelodyneのコード・トラックにコード・ネームが表示されるようになります(画面⑤)。

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画面⑤ コード進行に沿った別素材をオーディオに書き出して、Melodyne 5 Studioに読み込む。その後、コードを解析すれば、楽曲のコード・ネームを抽出してくれる

 続いて、最初に作成したパッド系の音色を埋める際に読み込みポリフォニック・サスティンで分析します。背景をコードにして分析したブロブ(Melodyne上の波形)をダブル・クリックすると、このドローン音色がコード・トラックの情報からコード・ネームにふさわしい和声にピッチ・シフトされます(画面⑥)。Melodyne 5を使用すると、既存のドローン音素材もコード進行とぶつかって濁ってしまうことなく、幻想的な雰囲気を作ることができます。

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画面⑥ ドローンにコードを適用する。もともと同じピッチを保っていたロング・トーンが、コード・チェンジに合わせてピッチ・シフトしているのが分かる

 いかがでしたでしょうか。Melodyne 5についての連載もこの第4回でひとまず終了となります。

 

 私が音楽制作の仕事に就いてから、ピッチをいじるという作業に一体何時間を費したか分かりませんが、いつになっても難しく取り組みがいのある作業であると実感しています。ソフトウェアの機能は追加され進化し、どんどん便利になっていきますが、それをどのように活用していくか、常に新しい使い方を勉強する姿勢が重要であることを、この連載を執筆する中で再認識いたしました。またこのような機会があればと思います。ありがとうございました!

 

Mine-Chang

【Profile】作編曲家/プロデューサーとしてアーティストへの楽曲提供やCM音楽などで活躍するとともに、prime sound studio form所属のレコーディング・エンジニアとしても活躍中。

 

製品情報

hookup.co.jp

CELEMONY Melodyne 5

Melodyne 5 Studio:100,000円
Melodyne 5 Editor:60,000円
Melodyne 5 Assistant:36,000円
Melodyne 5 Essential:9,000円
(Essentialはダウンロード版のみ)

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【REQUIREMENTS】
▪Mac:INTEL製デュアル・コア・プロセッサー(クアッド・コア以上を推奨)、4GBのRAM(8GB以上を推奨)、mac OS 10.12以降(64ビット)、DAWと連携する場合はARAもしくはAAX/AU/VST3互換のアプリケーション
▪Windows:INTELまたはAMD製デュアル・コア・プロセッサー(クアッド・コア以上を推奨)、4GBのRAM(8GB以上を推奨)、Windows 10(64ビット)、ASIO準拠のオーディオ・インターフェース、DAWと連携する場合はARAもしくはAAX/VST3互換のアプリケーション

 

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