屋敷豪太 × Luna 〜UNIVERSAL AUDIO Luna徹底探査

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LunaはSummingを入れる前から良い音
レコーディング・スタジオで再生している感じです

日本のダブ・バンドの草分け、MUTE BEATでの活躍を皮切りに、ソウル・II・ソウルやシンプリー・レッド、ネナ・チェリー、マッシヴ・アタック、アラニス・モリセットなどの作品に参加し、世界的なグルーブ・アクティベイターとして認知。以後、国内ではkōkua、DUBFORCEなどに参加しつつ、ソロ活動も展開してきた屋敷豪太。2018年に多彩なゲストを迎えたソロ・プロジェクト・アルバム『THE FAR EASTERN CIRCUS』をリリースした後、故郷である京都・綾部市の蔵を改装してスタジオ造りを始めた。そのコアとして導入されたのが、Luna Recording Systemである。なぜLunaにたどり着いたのか? スタジオを稼働させたばかりの屋敷に、オンラインで話を聞いた。

 

ビンテージ・マイクの音色を生かすために
Apollo+UAD-2システムを中心に

 『THE FAR EASTERN CIRCUS』は京都市内の町家をプライベート・スタジオとして、Apollo Twin Xをメインに据えて制作された。そこから屋敷は、新たな拠点として“蔵のスタジオ”を造ることになる。

 

 「コロナ禍になる前くらいから、蔵をスタジオにすることを考えていたんです。蔵は物を保管するところだから温度や湿度は一定だし、壁が分厚いから防音もしっかりしている。100年以上はたっている蔵ですが、改装とともに電源を入れて、グラウンドもちゃんとして。床も浮床にしました」

 

 ドラムはもちろん、アップライト・ピアノも常設。ブースとコントロール・ルームを分けず、元の蔵の造りを生かしたレイアウトだが、生楽器の合奏とレコーディングができる環境を整えていった。その中で、屋敷がこだわりたかったのはマイクだそう。

 

 「いろいろなレコーディング・セッションに参加する中で、自分の好みの音だったときにセッティングを見ると、使われているマイクは大体同じものだった。ああ、やっぱりこのマイクが好きなんだな……と思って、このスタジオを造る計画と合わせてビンテージのものを探したり、リイシューでも遜色(そんしょく)の無いものはそれを購入したりしました」

 

 その一方で、そのマイクの接続先として選ばれたのが、Apolloだったのが興味深いところだ。

 

 「Dub Master Xと“最近はプラグインのシミュレートも良くなっているよね”という話をしている中で、UNISONプリアンプのあるApollo+UADプラグインがいいんじゃないかなと考え始めるようになりました。彼もLogic Proユーザーだから、互換性も高いですし。Apolloでつないでいればコンピューターに負担をかけず、レイテンシー無しで録れる。ライブをやっていても、デジタル卓からの返りが若干遅れることがあるんです。それで演奏できなくはないけれど、若干の気持ち悪さは感じます。Apolloでレイテンシーが無いのは、やっぱり素晴らしいなと」

 

 スタジオを造るにあたって、京都で知己を得たレコーディング・エンジニア、谷川充博氏(スタジオファーストコール)にも意見を求めたという。

 

 「彼はビートルズ・マニアでビンテージ機材にも造詣が深い。初めてお会いしたときに、僕がロンドンで使っていた機材が彼のスタジオにたくさん有って、初めてなのに昔からの友達に会ったような気がしました。それで谷川さんのスタジオで、僕の買い集めたマイクとドラム・セットを、まず谷川さんのビンテージ機材とPro Toolsで録ってみて。続いて、僕が持ち込んだApollo X8PとApollo Twin Xを使い、同じセッティングをUNISONやUADプラグインで再現して録ったんです。そうしたら、どちらも甲乙付けがたくて、谷川さんが“僕、胸がざわざわするんです”と言ったんですよ。たぶん、ブラインド・テストをしたら、どちらがビンテージ機材で、どちらがApollo+UADか分からない。もちろん両者の違いはわずかにあったのですが、そのレベルの差であれば、後は使い手のセンスでやっていけると思ったんです」

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スタジオのデスク。メインのコンピューターはAPPLE MacBook Proで、画面にはLunaが映る。デスク右にはApollo Twin X、その下のラックにはApollo 8とApollo X8P、UAD-2 Satellite Thunderboltと同Thunderbolt 3などが収められている

Lunaの出音でプレイの内容も変わる
その上でExtensionsやUADプラグインもある

 そんなスタジオ建設計画を進行しているうちに、昨年の春登場したのがLuna Recording System。Apolloをコアとしている屋敷は、当然その存在が気になり、テストをし始めたそう。そこでまず注目したのが、Luna Applicationの音質だったという。

 

 「まず、出音がLogic Proとは違う……好みの問題はありますが、Logic Proは派手に聴こえるんです。僕だけがそう感じているのかと思ったら、同意見の人も多い。同じファイルをLunaで聴き返したら、Summingを入れる前から、出音が良いんです

 

 そのLunaの出音の良さを、屋敷はこう語る。

 

 「レコーディング・スタジオで普通にドラムを録ってプレイバックしたときのような感じ。Logic Proは、良くも悪くもLogic Proの音というか。テスト・レコーディングで多くのミュージシャンにこのスタジオに来てもらって、Logic ProとLunaで録り比べをしてみたんですが、彼らにもその違いはよく伝わりました。この蔵に来て、田舎の空気を吸って音を出すというだけでも、東京でのレコーディングとはミュージシャンにとっても違いますよね? それと同じようにというか、Lunaで録ると、Logic Proでのレコーディングとは違った演奏になっているんじゃないかという気が僕はしているんですよ。SSL卓で録るのとNEVE卓で録るのでは、同じ音楽でも違ってくるじゃないですか? それくらいLogic ProとLunaの違いがまずある。その上で、Luna ExtensionsにNeveとAPIのSummingがあって、その後に無数の優秀なUADプラグインが使える。とても良いところを突いていると思うんです」

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スタジオ内全景。LUDWIGのドラム・セットのほか、ギター、ベース、アップライト・ピアノを常設。2階部分にアンビエンス・マイクを立てることもあるという。写真で屋敷は、ドラムのトップに立てたリボン・マイクCOLES 4038を調整中

メインテナンスに悩まされず
最良状態のビンテージ機材の音を得る

 マイク以外はビンテージ機材を用意せず、Lunaに任せるという選択をした屋敷。ロンドン時代には多くの機材に囲まれたスタジオを構えていたが、それに伴ってメインテナンスの問題にも頭を悩ませていたという。

 

 「ビンテージ機材を維持するには、メインテナンスしてくれる人が必要。ロンドンでは機材の不調は日常茶飯事で、“今なら調子が良いから、今のうちに録れ!”みたいなこともありました(笑)。そういうのを身をもって知っているので、ビンテージ機材が欲しいのは山々ですが、気軽に手が出せません。UADプラグインは、きちんと良い状態のビンテージ機材をシミュレートしていて、いつも同じ状態を保ってくれるし、実機ではできない新しいことに挑戦できるという側面もありますよね。先日のテスト録音では、UNISONプリアンプのNeve 1073を多用しましたが、通すだけでNEVEっぽい感じになりました。実機のNEVE 1073を12chも買ったら一体なんぼするねん?って(笑)。それにFairchild 670やTeletronix LA-2Aをインサートしたら……ちょっとしたスタジオですよ」

 

 実際、この蔵のスタジオにコンソールやアウトボードを置いたら、それだけで空間が埋まってしまう。従来であればライブ・ルームかコントロール・ルーム、どちらかのスペースしか取れなかったところだろう。屋敷はこう続ける。

 

 「UNISONで言えば、V76も好きですね。僕はロンドンでMCIのコンソールを使っていましたが、ドラムにはNEVEも好きだけど、MCIの方が好みなので、MCI Summingもぜひ出してもらいたい(笑)。LunaのSummingもTAPEも、コンプのゲインを上げていくような感じと近い……ひずむわけではないけれど、ニュアンスが付いていって、質感が調整できます

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UNISONで使用することが多いというNeve 1073 Preamp & EQ Collection。インピーダンス切り替えも、実際にハードウェアのApollo内で入力インピーダンスが300Ω/1.2kΩで切り替わる

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TELEFUNKENの真空管マイクプリを再現したV76 Preamplifierもお気に入りのUNISONプラグインだ

Lunaにファイルを読み込めばLunaの音に
アナログとデジタルがシームレスにつながる

 一方、長年Logic Proを使ってきた屋敷は、これをLunaと今後も併用していくという。

 

 「DAWはクリエイター・ツールでもあるので、どうしても使いたい機能がLogic Proにあったりします。でも、最終的にはLunaに移してミックスするのがベストかなというのが今得ている感触です。あと、このスタジオで一発録りやオーバー・ダブをするのもLunaでしょう。Lunaはステムを作るのが簡単なので、書き出してからLogic Proに読み込んで、Logic Proで作った部分だけまたLunaに読み込めばいい。Logic Pro+Apolloで録った音でも、Lunaに読み込めばLunaの音になっていることは確認済みなので、LunaとLogic Proのいいところを使い分けたいと思っています」

 

 ドラマーでありながら、自身がプログラミングしたビートで世界を席巻した経験を持つ屋敷にとって、アナログとデジタルの共存は長年追求してきたテーマだそうだ。

 

 「蔵のスタジオも、アナログのように見えてデジタルの部分がある……それがLunaです。これまではデジタルとアナログで作業環境が分かれていて、同化した作業は難しかったと思うんですよね。例えばレコーディング・スタジオで演奏をして、持ち帰って打ち込みの音を混ぜたり。逆に打ち込みで作ったものをスタジオで生に差し替えたり。ここだったら、ドラムの横の譜面台にAPPLE MacBook Proを置いて、その場でマイキングしたり、エレクトロニック・ドラムの音色をレイヤーしたり、シームレスに制作できる。それもMacBook Proと複数台のApolloがThunderboltだけでつながっているからできることで、すごくやりやすい。暇さえあればここでのセッティングのことを考えています。今後、谷川さんと一緒に、American Set、British Setとか、Lunaでの録音用プリセットを一緒に作ろうとしていて。リンゴ・スターとほとんど同じドラムとマイクもあるから、そんな再現もできるようになりますよ」

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仲間のミュージシャンを招いて行ったレコーディング。UNISONプリアンプのほか、Teletronix LA-2AやOcean Way Studios、Neve Summingなどが使われているのが分かる。ギターはFuchs Overdrive Supreme 50 Amplifierをインサートしたようだ

 

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