新たなAD/DAを実装することで
従来機よりダイナミック・レンジが向上
まずは入出力から見ていきます。入力はマイク/ライン(XLR/TRSフォーン・コンボ)2つと、ADAT(S/PDIFオプティカル兼用)1系統。ch1はフロント・パネルにHi-Z(TRSフォーン)が用意されており、こちらの使用時はリア・パネルのマイク/ラインと切り替わります。Apollo Twin X最大の特徴は、この2つのマイク/ライン入力に搭載されたUnison対応のマイク・プリアンプ。ギター・アンプやレコーディングに用いられるマイク・プリアンプなどをエミュレートしたUAD-2プラグインと連携し、実機の入力インピーダンスやゲイン・ステージの挙動、回路動作などを忠実に再現するUnisonテクノロジーによって、ニア・ゼロレイテンシーでのかけ録りを実現しているのです。UAD-2プラグインは内蔵のDSPで駆動させる仕様となっており、DAW内でプラグイン・エフェクトとしてインサートも可能。Apollo Twin XはこのUAD-2プラグインとともに使うことで、高次元のサウンド・クオリティ、モニター・ルーティングの自由さ、抜群の安定性を持ったレコーディング・システムとして真価を発揮するのです。Apollo Twin XはQuadとDuoの2機種がラインナップされていますが、これは内蔵DSPの搭載数を表しています。
出力はTRSフォーン端子のモニターL/RとラインL/R、ヘッドフォン・アウトを用意しています。
電源アダプターはアダプター本体にメガネ・タイプの電源ケーブルを接続する、従来機よりしっかりとした仕様となりました。AD/DAの刷新によるダイナミック・レンジの向上とともに、縁の下の力持ちとして、サウンドに貢献するのではないでしょうか?
立ち上がりの速さが格段に進化した出音
存在感と表現力に優れるファットなプリ
それでは実際に使っていきます。Apollo Twin Xとの比較対象は、筆者が所有する先代のApollo Twin MKII。いずれもQuadモデルです。まずはヘッドフォンで筆者プロデュースのマスタリング済み楽曲を聴いてみましたところ、Apollo Twin Xが圧勝。立ち上がりのスピード感が段違いです。周波数およびダイナミック・レンジもApollo Twin Xの方が豊かで、押し出し感と音場の見通し感に優れています。Apollo Twin MKIIの方が少々ひずみっぽく、上の周波数帯域が頭打ちになっている印象。低域は少し緩めです。また、ライン出力も同様の傾向でした。
次はマイク・プリアンプをコンデンサー・マイクでチェック。素のマイク・プリアンプと、先ごろ発売されたUAD-2 Avalon VT-737 Tube Channel StripをUnisonで鳴らしたパターンを比較します。公正を期すために、外部DAコンバーターで再生しました。Unisonの有無を問わず、Apollo Twin Xの方が存在感と表現力に優れたファットなサウンドです。Apollo Twin MKIIだと少しザラ付いていて、厚みが足りなく感じました。面白く感じたのは、Apollo Twin MKIIの方がUnisonの有無でサウンドの差が大きかったこと。Unisonでかけ録りした方がリッチなサウンドになります。一方Apollo Twin Xでの差は、ニュアンスの違いとして聴こえる印象。甲乙付けがたいですね。
次にエレキギターとエレキベースをUnisonで録音しました。ギターはUAD-2 Diezel Herbert Amplifier、ベースはUAD-2 Gallien-Krueger 800RB Bass Ampで試していきます。縦軸のそろい方は圧倒的にApollo Twin Xに軍配が上がるので、特にベースでは芯をとらえたワイド・レンジなサウンドで良い結果を残しました。エレキギターは周波数レンジが限定されることが必ずしも悪いわけでは無いため、Apollo Twin MKIIもなかなか良いサウンドを鳴らしてくれます。ギター・アンプは両モデル同じセッティングでも、ギターのひずみ量が変わって聴こえました。特にトランジェントの出方が違いますね。
テスト終了後、同じ数のDSPを搭載した両モデルを触ってみると、Apollo Twin Xの方が発熱も抑えられているように感じました。従来機から確かな進化を遂げたApollo Twin X。既にUAD-2関連の機器を10台ほど所有している筆者なのですが、今回のレビューでApollo Twin Xも欲しくなってしまいました。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2020年3月号より)