DAW内部で完結! Digital Performerのクイックスクライブで譜面を作る|解説:野中“まさ”雄一

DAW内部で完結! Digital Performerのクイックスクライブで譜面を作る|解説:野中“まさ”雄一

 野中“まさ”雄一です。DAWで楽曲制作を行う際、譜面の作成は別の専用ソフトで、という方は多いと思いますが、ソフト間の受け渡しや微調整が必要……と意外に面倒なものです。実はDigital Performer(以下DP)上でも、十分現場で実用に足る譜面を作成できます。今回はその機能、“クイックスクライブ”をご紹介します。

手弾きのMIDIデータをクオンタイズで調節

 歌モノの曲を制作していると必要になるのが、“メロ譜”と呼ばれるボーカル譜です。制作者1人で完結するような曲の場合は必要がないかもしれませんが、ボーカリストをはじめ複数の人が制作に関わる場合、共通項として必要不可欠なもの。僕は必ず音源と一緒に作成するようにしています。

 まずはメロのMIDIトラック作りです。シンセでオーディオ化しておいて、後にスタジオでアーティストや仮歌の方が聴きながら歌えるような“ガイド・メロ”として使います。タメなどのニュアンスも取り入れたいので、なるべく手弾きで打ち込んでいることが多いです。そして、この“ガイド・メロ・トラック”を基に“メロ譜”を作成していきます。

 初めに、ガイド・メロのデータを残すため、トラックウインドウからテイクを複製。ここでshift+Qを押すと、選択トラックがクイックスクライブエディターで表示されるのですが、手弾きのデータですので、音価やリズムの都合で、譜面が少し見づらいものになっていることが多いです。

手弾きで弾いたものをそのまま表示した状態。分かりやすいよう意図して雑に弾いたため、休符が妙な位置に描かれた譜面になっている。複雑な曲ほど、意図した音符にするのが難しい。これでは譜面を渡される方が困惑してしまうので、ここから調整していこう

手弾きで弾いたものをそのまま表示した状態。分かりやすいよう意図して雑に弾いたため、休符が妙な位置に描かれた譜面になっている。複雑な曲ほど、意図した音符にするのが難しい。これでは譜面を渡される方が困惑してしまうので、ここから調整していこう

 そこで、自分のリズムの悪さを反省しつつ(?)、譜面のおかしな部分にクオンタイズをかけていきましょう。譜面の場合、アタックはもちろんですが、音の切れ際の影響が重要です。クオンタイズ設定で、“クオンタイズの対象”の“リリース”にチェックを入れることでリリースも調整され、正しい音符になる確率が高いです。ただし元データが雑な場合、意図しない場所のリリースが伸びてしまうこともあり、MIDIエディターである程度リリースを調整してから行うといいかも知れません。

譜面上の音符が意図したものと違う場合、基本的には音価を整えることで解決する。クオンタイズ設定でリリース(赤枠)にチェックを入れると、リリースのタイミングもクオンタイズされて音符が整う。手弾き入力の場合、特にリリースは意図しないタイミングの音符になりやすいので注意が必要だ

譜面上の音符が意図したものと違う場合、基本的には音価を整えることで解決する。クオンタイズ設定でリリース(赤枠)にチェックを入れると、リリースのタイミングもクオンタイズされて音符が整う。手弾き入力の場合、特にリリースは意図しないタイミングの音符になりやすいので注意が必要だ

 また、MIDIエディターではcommandキー(WindowsではCtrlキー)を押しながらドラッグすることで、リリースをグリッドに合わせたり、はみ出た音符をカットしたりすることが可能です。その場の手軽な方法で編集していきましょう。

 音符が整ったら、次は譜面自体のレイアウトをしましょう。クイックスクライブでは、エディター右上のミニ・メニューでいろいろな項目の設定ができます。A4紙サイズで縦表示の場合、大抵は1段が4小節表記だと見やすくなります。ミニ・メニューのオプションから“メジャースペース”を選択し、一段に表示する小節数を“4”に設定します。(突発的に細かい音符が出てくる曲は、“自動表示”にすると読みやすいです)。

 次に段組です。こちらは同じくミニ・メニューのオプションから“トラックオプション”を選択。“スタッフ間の空白設定”で1段ごとの幅が選べるようになります。キリのいいところまでで、1ページにまとまるように調整しましょう。

 マーカーも譜面に表示できるので、“マーカーオプション”から高さを調整。フォント自体は譜面上のマーカーをクリック後、テキストメニューのフォントパネルで全体的に変更できます。ミニ・メニューではほかに“スコアの長さを設定”で、曲の終わりの小節を指定できます。1番だけの譜面を作成したいというときなどは、1番までの小節を指定すればOKです。

 調号は、譜面上の音部記号と拍子の間の部分辺り(カーソルが変わります)をクリックすると一括変更できます。段組の始まり以外から転調する曲については、チェンジキー・メニューから設定しましょう。

譜面上に歌詞を当てはめていく

 ここまで設定ばかりで大変でしたが、かなり見栄えが整ってきたと思いますので、今度は歌詞を入れましょう。歌モノは歌詞のハマリ、大事です。

 まずは、プロジェクト・メニューから“歌詞”ウインドウを開き、ここにひたすら歌詞を入力していきます。次に譜割を作るために入力した歌詞に半角スペースを打ち込んでいくのですが、スペースが入ると次の音という仕組みのため、1音に2文字以上入れたり、小さい“ゃ”などの拗音(ようおん)にスペースを入れたりしないように。大抵は1音1文字になることが多いので、まずは歌詞の頭からひたすら右矢印キー→スペースを交互に連打して、1文字空き状態を作ってから、2文字以上の部分のスペースを戻していくと効率が良いです。

譜面が整ってきたところで歌詞を入力する。歌詞の漢字は、読みやすいようにすべて平仮名で打つのもポイント。歌詞を打ち終わったら、頭からすべての文字に半角スペースを入れる。画面上の歌詞の場合は、“ざっ”や“じゅ”などのほか“ねん”や“woo”など、1音で複数文字を読ませたい部分のスペースを消して詰めておく。最後に全選択して、オートフロー・ボタンを押せば歌詞が反映された譜面の完成だ

譜面が整ってきたところで歌詞を入力する。歌詞の漢字は、読みやすいようにすべて平仮名で打つのもポイント。歌詞を打ち終わったら、頭からすべての文字に半角スペースを入れる。画面上の歌詞の場合は、“ざっ”や“じゅ”などのほか“ねん”や“woo”など、1音で複数文字を読ませたい部分のスペースを消して詰めておく。最後に全選択して、オートフロー・ボタンを押せば歌詞が反映された譜面の完成だ

 完成したら、歌詞を入れたいトラックを全選択、歌詞ウィンドウも全選択して、右上にある“オートフロー”ボタンを押すと、譜面に歌詞が表示されます。スペースを間違えて意図したハマりと違っていた場合は、修正後もう一度行ってください。

 ちょっとした部分や追いかけの歌詞などは、譜面でそのまま手打ちが早いです。こちらはクイックスクライブのミニ・メニュー、ツールパレットの歌詞テキストツールを選択し、必要な音をクリック、歌詞を入力してスペースで次の音に進みます。

 最後に、同じくツールパレットのテキストツールで自由な場所にテキストを書き込めます。タイトルなど必要な情報を入れてプリントやPDFなどで書き出せば、メロ譜の完成です!

タイトルなどテキストを入れて完成。追いかけのあるコーラスを加え、さらに本文では紹介しきれなかったがコードやアーティキュレーション、かけ声なども加えている。繰り返し(画面上では9小節目以降)は譜面上のみで作ることもできるが、繰り返しとなる部分(本来の13〜16小節目)をミニ・メニューの“選択された小節を隠す”を選ぶことで、シーケンスのワイパー表示を同期させることも可能だ

タイトルなどテキストを入れて完成。追いかけのあるコーラスを加え、さらに本文では紹介しきれなかったがコードやアーティキュレーション、かけ声なども加えている。繰り返し(画面上では9小節目以降)は譜面上のみで作ることもできるが、繰り返しとなる部分(本来の13〜16小節目)をミニ・メニューの“選択された小節を隠す”を選ぶことで、シーケンスのワイパー表示を同期させることも可能だ

 DPの譜面作成は、ストリングスやブラスのレコーディングでも活躍します。ストリングスでは、僕も全然読めない“ハ音記号”が必要なこともありますが、こちらもトラックオプションから“ハ音記号”を選択するだけで自動変換してくれます。自分用に、ト音記号の譜面と合わせて2種類作っておくことも簡単ですね。

クイックスクライブエディターのミニ・メニュー、トラックオプションで演奏する楽器に合わせて、音部記号を変更可能。ビオラはハ音記号、チェロはヘ音記号などと指定するだけで、自動的に変換される。ファゴットなどの譜面で用いる、アルトハ音記号なども使用可能だ

クイックスクライブエディターのミニ・メニュー、トラックオプションで演奏する楽器に合わせて、音部記号を変更可能。ビオラはハ音記号、チェロはヘ音記号などと指定するだけで、自動的に変換される。ファゴットなどの譜面で用いる、アルトハ音記号なども使用可能だ

 ブラスでは実音とはキーの違う譜面が必要になりますが、トラックオプションのトランスポジションという項目でパート譜のキーを変更するだけで設定可能です(トランペットならB♭など)。元データは実音のまま、譜面のキーを変更してくれます。またスコアのキー設定側を変更しないことから、パートをまとめて書き出したい場合は実音、パート譜を書き出すと移調キー、という作業を自動で行ってくれるため非常に便利です。

ブラスなど移調楽器については、トラックオプションからキーを設定可能。オクターブが変わる楽器についても同じように調整できる。スコアは実音にしておくことでディレクションする際などに和音を把握しやすいため、筆者は元データはそのままでパート譜のみを変更するようにしている

ブラスなど移調楽器については、トラックオプションからキーを設定可能。オクターブが変わる楽器についても同じように調整できる。スコアは実音にしておくことでディレクションする際などに和音を把握しやすいため、筆者は元データはそのままでパート譜のみを変更するようにしている

 いかがでしたでしょうか。譜面専門ソフトを使うのがおっくうで……という方も、DP上でなら!ということで、ぜひ挑戦してみていただけたらうれしいです。僕の連載は今回で最後となりました。まだまだお伝えしたい機能もたくさんありましたが、またいつかどこかで。お読みいただき、ありがとうございました!

 

野中“まさ”雄一

【Profile】作編曲家/キーボーディスト/ドラマー。AKB48、乃木坂46、氷川きよし、中島美嘉などのJポップをはじめ、CM/映画/アニメなど、多方面での幅広いジャンルの楽曲制作および編曲、プロデュースなどを行い、これまで1000曲以上の楽曲をリリース。2015年にはオリコン日本編曲者年間売り上げランキング1位となる。2019年、2020年、2021年、日本レコード大賞優秀作品賞受賞。

【Recent Work】

『久しぶりのリップグロス』
AKB48
(キングレコード)

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

f:id:rittor_snrec:20211027135559j:plain

LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報