データ納品まで気を抜かない! Digital Performerのバウンストゥディスクを解説|解説:大橋莉子

データ納品まで気を抜かない! Digital Performerのバウンストゥディスクを解説|解説:大橋莉子

 こんにちは、大橋莉子です。乃木坂46やHKT48、モーニング娘。をはじめとするアイドル/アーティストに楽曲提供をしています。今回は“バウンストゥディスク編”です!

オケをパートごとにまとめてバウンス

 レコーディングやミックスに向け、ステム・データやパラデータを用意するのも作家の仕事の一つです。データの書き出しにかなりの時間がかかるので、面倒に思っている方も多いことでしょう。ですが、ここで気を抜いてはいけません。実は作家になりたてのころに、パラデータのバウンスをミスしてしまい、うっかり空データを提出してしまったことがあります。提出直後に気付き、すべてのトラック・データを再度一から確認して提出し直しましたが、これは作家のマナーとしてはNGです。もしレコーディングやミックスの当日に空データを発見していたら……考えたくもないですよね。また、“提出前にきちんと確認していないのだろうか?”と各所から思われてしまう可能性もあるでしょう。

 エンジニアやクライアントの負担を増やさないためにも、そしてレコーディングやミックスがうまくいくようにこの工程もしっかりと処理しなければなりません。そこで今回は、Digital Performer(以下DP)上で行っているバウンストゥディスクについて詳しく解説していきたいと思います。

 まずは、シーケンス上のトラックに不足がないことを確認します。追加でのデータ提出は、クライアントへの負担にもつながりますので、一度にすべてのデータを提出できるように事前の確認を怠らないようにしましょう。また、最初の1〜2小節には何もデータを入れずに、トラックの始まりを必ず3小節目から設定するように。私の場合は、アウフタクトやイントロ始まりのエフェクトなどを入れている楽曲が多く、プラグインの読み込みを考慮し、3小節目からスタートしています。

筆者が楽曲データを提出する際は、3小節目から曲が始まるようにしている。エフェクト・プラグインなど、コンピューターがデータを読み込む時間を見越しての配慮だ

筆者が楽曲データを提出する際は、3小節目から曲が始まるようにしている。エフェクト・プラグインなど、コンピューターがデータを読み込む時間を見越しての配慮だ

 上記が確認できたら、最初にステム・データを作っていきましょう。あらためて説明すると、ステム・データとは複数のトラックを楽器の種類ごとにまとめたオーディオ・データのことで、プリプロやレコーディング時などに使用します。今回の連載では歌唱アーティストのボーカル・レコーディングを想定して、ステム・データを作っていきましょう。

 シンセ・メロは、レコーディング時に確認できるよう主メロとハモに分けてモノラルでバウンスを行います。追加でMIDIでも書き出して、クライアントやアーティストが指定の音色に変更できるようにしてもよいかもしれません。

 オケのトラックは、種類ごとにまとめて書き出していきます。先に提示したプロジェクトの場合、ベースが2種類入っているのでバウンスして統合します。複数トラックをまとめてバウンスするときには必ずマスターフェーダートラックを入れ、全体の音量が振り切っていないかどうか、音量が適切かどうかを確認してから書き出すのを忘れないように。ステレオかモノラルのどちらで書き出すかは音色によりますが、ステレオにする場合は“バウンストゥディスク”のファイルフォーマット“Core Audio Export(wav)”より書き出します。モノラルで書き出したい場合は、“プロジェクトフォーマット”よりチャンネルの“モノ(減衰無し)”を選択。ファイル形式は、特に指定がない限りWAVファイルで24ビット/48kHzにしています。

ファイル・タブ→バウンストゥディスク・ウィンドウへアクセス。ファイル・フォーマットを選択すればさまざまな書き出しファイルの形式を選択できる。ここではWAVファイルを選択

ファイル・タブ→バウンストゥディスク・ウィンドウへアクセス。ファイル・フォーマットを選択すればさまざまな書き出しファイルの形式を選択できる。ここではWAVファイルを選択

モノラルで書き出す場合は、バウンストゥディスク・ウィンドウでファイルフォーマットは“プロジェクトフォーマット”を選択。チャンネルを“モノ(減衰無し)”にすればモノラルで書き出すことができる

モノラルで書き出す場合は、バウンストゥディスク・ウィンドウでファイルフォーマットは“プロジェクトフォーマット”を選択。チャンネルを“モノ(減衰無し)”にすればモノラルで書き出すことができる

 また、ドラムは録音時にアーティスト側から“ハイハットを切ってほしい”“キックの音量を下げてほしい”“リズム隊につられてしまうので、全体的に音量を下げてほしい”などの要望があるケースも多いです。それらに対応できるように、ドラムやリズム周りは一つにまとめずにそれぞれを書き出しています。

 ここで一つTipsです! ステム・データを書き出しするとき、どのトラックをどの名前でまとめたのか分からなくなってしまうことがあります。私はメモをとってからステムをまとめていて、その際にはDPの“プロジェクトノート”機能を活用しています。ステム・データ作成時だけではなく、MIDI打ち込み時に歌詞が急に浮かんだときやアレンジのイメージなどを言語化するときにも活用できますね。

プロジェクトノートへはサイドバーの▽から画面のように選択できるほか、プロジェクト・タブ→プロジェクト・ウィンドウを選ぶことでも呼び出し可能

プロジェクトノートへはサイドバーの▽から画面のように選択できるほか、プロジェクト・タブ→プロジェクト・ウィンドウを選ぶことでも呼び出し可能

プロジェクトノート画面。サイドバー上にメモを表示させ、自由に書き込むことができる。なおDP11から、環境設定→Text Sizeで文字の大きさを変更できるようになった

プロジェクトノート画面。サイドバー上にメモを表示させ、自由に書き込むことができる。なおDP11から、環境設定→Text Sizeで文字の大きさを変更できるようになった

パラデータの納品はエフェクトをオフにしたデータで

 次は、個々のトラック・データの書き出し=パラデータの書き出しをしてみましょう。ここでは、ミックス(トラック・ダウンとも言います)のための納品を想定して進めていきます。事前準備として、全トラックのエフェクトをオフ、パンをセンターに設定しておき、ナチュラルな状態にしておくように。エフェクトをかけたままにして、エンジニアにミックスのイメージを踏襲してほしい気持ちはすごく分かりますが、調整済みのものを渡してしまうと、エフェクトを二重にかけることになってしまったりもするので、仕上がりに支障が出ます。パンについても同様です。

 パラデータの書き出しでは、ステレオをL/Rのモノラル2trに分割するので、必然的にデータの数や容量が増えます。ステレオをモノラル分割する手順は、トラックを範囲選択し“バウンストゥディスク”よりファイルフォーマット“Broadcast Wave, ディインターリーブド”になります。

パラデータの書き出しの際は、ファイルフォーマットは“Broadcast Wave, ディインターリーブド”にすることで、L/Rをモノラル2trに分割しての書き出しが可能。チャンネルが“ステレオ”になっているかどうかも注意しよう

パラデータの書き出しの際は、ファイルフォーマットは“Broadcast Wave, ディインターリーブド”にすることで、L/Rをモノラル2trに分割しての書き出しが可能。チャンネルが“ステレオ”になっているかどうかも注意しよう

 このとき、チャンネルが“ステレオ”になっていることを確認しましょう。書き出し後のデータは、末尾が“.L”“.R”に分割しています。パラデータの納品では、大抵がWeb上のクラウドやドライブなど、ファイル転送サービスを通じて行われることが一般的です。書き出したデータはWAVデータで容量が重く、アップロードに時間がかかるため、細かくファイル分けしておくことをお勧めします。

L/Rに分割したファイルは、ファイル名の末尾に“.L”“.R”が付くので、名前から判別することができる

L/Rに分割したファイルは、ファイル名の末尾に“.L”“.R”が付くので、名前から判別することができる

 最後にまとめです。

●トラックの始まりは3小節目から
●ファイル形式は“WAV、24ビット/48kHz”
●パラデータの場合、エフェクトをすべてオフ、パンをセンターに合わせた“ナチュラル状態”に
●パラデータの場合、ステレオ・トラックは左右分割(ディインターリーブド)で書き出し

 いかがだったでしょうか? 今回で音楽作家・大橋莉子の連載は最終回となりますが、少しでもDP11の使いやすさ、魅力について伝わっていたらとてもうれしく思います。そして既にDPユーザーの方や作家業に励んでいる方にとって、連載内容が少しでも有益になっていますように。またお会いしましょう! ありがとうございました。

 

大橋莉子

【Profile】SUPA LOVE所属の作詞家/作編曲家。幼少期より母親の影響でクラシック・ピアノやソルフェージュ、音楽理論を学ぶ。高校在学中に音楽作家として作詞、作曲、編曲を本格的に始める。現在に至るまで乃木坂46、HKT48、モーニング娘。'18など、さまざまなアーティスト、アイドル、声優に楽曲提供を行う。また、2020年には国民的アニメ『プリキュア』シリーズのエンディング曲に抜擢されるなど、第一線で活躍している。

【Recent Work】

『Perfect Love』
VECTALL
(blowout Entertainment)

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報