コンペ作家必見! Digital Performerでの打ち込み〜仮歌歌手へデータ納品まで|解説:大橋莉子

コンペ作家必見! Digital Performerでの打ち込み〜仮歌歌手へデータ納品まで|解説:大橋莉子

 こんにちは、大橋莉子です。普段は乃木坂46やHKT48、モーニング娘。をはじめとするアイドル/アーティストに楽曲提供をしています。今月から制作で愛用しているDigital Performer(以下DP)の連載を担当することになりました! 今年で音楽作家としての活動が9年目を迎えますが、そのすべてをDPとともに過ごしています。この連載を通して、より多くの方にDPの素晴らしさや使いやすさ、そしてコンペ作家としての作業ルーティンなどを分かりやすくお伝えできたらと思います。

仮歌用メロディのベロシティを一定に(ラップの場合は整えないよう注意)

 私がDPに出会ったのは2011年ごろ。当時中学生だった私は、とにかく浜崎あゆみさんの大ファンで“私もこういう曲を作ってみたい!”と作曲家を目指すようになりました。もともと幼少期からピアノを習っていたこともあり、音楽に触れることやメロディを作ることには慣れていましたが、どうやって楽曲を作るのかは分からないことだらけ。そもそも同級生に作曲家を目指している友達が居なかったので、DAWの存在すら全く知らず“作曲=ボイス・レコーダーで録音or譜面に書き起こし”だと思っていたほどです。そこで、浜崎あゆみさんに楽曲提供をしている中野雄太先生に話を聞きに行き、“今はコンピューターで打ち込みをして作曲するんですよ”と言われ、初めてDAWの存在を知ります。そして中野先生から教えてもらったのがDPでした(長い目線で作家活動をするなら絶対にDPが良いです!とかなり強烈なプッシュでした)。そこから機材を用意し、のめり込むようにDAWに熱中。高校に上がるころには、学校に行って部活をして、帰宅して即制作、毎日作曲漬け!みたいな日々でした。幸いなことにデジタル製品に強かったこともあり、持ち前のオタク気質で楽しみながらものすごいスピードで打ち込みをしていたのを覚えています。

 私が導入したころのDPはバーション7でしたが、APPLE iMacの画面で初めてMIDI打ち込みをしたときの感動は今でも忘れません。“キーボードで打ち込んだメロディやコード、手グセまでがこんな細かくMIDIデータ化されている……”と衝撃を受けました。打ち込みをした後のエディットのしやすさにも驚きましたね。

 日常の音楽制作では、作曲から編曲、ボーカル・エディット、ミックス、各種データ納品までのすべての工程をDP上で行っています。作家で言うところの、打ち込み〜仮歌レコーディング、各種エディット、ラフミックスを済ませ、コンペ提出から採用後のアレンジ作業、録音用ステムの書き出し、ミックス用パラデータ納品までです。第1回は、音楽作家の目線で作曲〜MIDI打ち込みルーティンを紹介していきます。

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筆者の作業デスク周り。打ち込み用のマスター・キーボードには、ワークステーション・シンセのROLAND Fantom- G7を用いている

 コンペは“時間との戦い”。DPを立ち上げてすぐに作業に取りかかれるようテンプレートを組んでいます。

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筆者の作業テンプレート画面。ボーカル、ピアノ、ベース、シンセ×3tr、ドラムの、楽曲構成に最低限必要となるMIDIトラックを用意し、すぐに制作に取りかかれるようにしている。制作する楽曲のジャンルや使用プラグイン、音色によって適宜トラックを追加する

 MIDI打ち込みでは必ず重ね録りをするので、オーバーダブは常時オンです。これをつい忘れてしまうと、前に録ったデータが消えてしまいます。

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再生ボタン右下にある、オーバーダブ・モードのオン/オフ切り替えボタン。オフのままリアルタイム録音をすると、重ねて打ち込む際に元のMIDIデータを上書きしてしまうので注意しよう

 また、オートスクロールも常時オンにしています。これは、再生時に移動するカウンターに合わせて自動で画面スクロールしてくれる機能です。

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オートスクロールをオンにすることで、再生カウンターが画面外へと進んでしまう際に、画面表示がスクロールし再生されている部分へ切り替わる

 バッファーサイズはMIDI打ち込みやオーディオ録音時は128、各種エディットやミックス時は最大の2048に設定。バッファーサイズを低く設定すると、録音時のレイテンシーが小さくなるので、音ズレが生じることなくレコーディングできますが、当然CPU負荷が高くなります。そのままの状態で各種エディットやミックスをすると、かなり重くなってしまうので、負荷を下げるために必ずバッファーサイズを上げています。

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DPはコントロールパネル上でバッファーサイズを変更できる。16〜2048までの8段階から選択。筆者は作業内容によって切り替え、エディットやミックスをスムーズに行えるようにしている

 キーボードでコードとメロディを打ち込んだら、クオンタイズをかけて奇麗に整理。生音感が欲しいバラード系の楽曲でない限り、ほとんどのトラックやデータにクオンタイズをかけます。またメロディ・ラインのベロシティは、一定値でそろえています。

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メニュー・バーのリージョン→“ベロシティを変更”からベロシティを設定可能。筆者は、歌メロについてはベロシティを一定値にそろえている。手癖の抑揚を抑えて均一にすることで、仮歌歌手への誤った意図の伝達を防ぐためだ

 ただ、最近はラップ入りの楽曲を制作することも増えているので、ラップ・ラインを打ち込むときは、ライムを強調したり、フローを表現できるようにベロシティはあえて奇麗に整えないようにしています。これを整えてしまうとお経っぽくなってしまうので、本当に注意が必要です。メロディやラップで使用しているソフト音源は、DP内蔵シンセ・プラグインのPolySynth。オケに埋もれない音色でありながらも、長時間聴いていてもキンキンとしないのが特徴です。

ドラム・タブでリズムを作る。チャンクはアイディアの保存に活用

 メロディとコード・メイクとの同時進行で、リズム・メイクもしていきます。そこで活用するのがドラム・タブ。1つのトラック内でキック/スネア/ハイハットなど、さらに細分化できるので、MIDIトラックが増えずに済みますし、書き出しのときにとても楽になります。ドラム・タブを活用することで、リズム・メイクがより感覚的、視覚的に容易にできるようになったと感じています。タブ内でベロシティなどのエディットもでき、リズムのすべてを一括管理できるので、ぜひ活用してみてください。

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ウィンドウ選択タブからドラム・タブを選択しドラムを打ち込む。1つのMIDIトラックに複数パートを一括でまとめることができ、個別に再生することも可能。D♭1にKick、E2にSnareなど各MIDIノートにドラム・パートがアサインされている(赤枠)

 MIDIでの打ち込み時に最近特に活用しているのがチャンク機能です。DAWソフトの中でもDPだけが搭載する機能で、簡単に説明すると“いつでもアイディアを保存しておけるクリエイティブ・ポケット”という感じでしょうか。プロジェクトの進行中、“全く違うジャンルのメロディを思いついてしまった。今すぐ打ち込んでMIDIデータで保存しておきたいけれど、新しくプロジェクト・ファイルを立ち上げるのは面倒……”という際に、データとしてアイディアを保存し別ファイルに移っても取り出すことができます。作曲メインでDPを使用される方に強くお勧めしたい方法です。

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シーケンス上でMIDIデータを範囲選択(赤枠)し、画面左にあるチャンクウィンドウにドラッグ&ドロップするとチャンクとして保存できる。プロジェクト・ファイルが変わってもチャンクからデータを呼び出せるので、筆者は作曲時のアイディア保存用途として主に使っている

 さて、打ち込みの工程が終わったところで、次は仮歌歌手へのラフ・ミックス音源の提出です。打ち込みと同時にプラグイン上で音作りをある程度仕上げておきます。フックとなる音色のトラックにも、この段階でMIDIインサートでコンプなどをかけ、パンを振って整えておきます。最後にマスターフェーダー・トラックでレベル調整をして、シーケンス上で書き出したい部分を範囲選択しバウンスします。

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水色に変わっているのが選択した部分。書き出したい曲の部分、トラックをバウンスして2ミックスのオーディオ・トラックとして書き出す

 以上が、仮歌歌手へのデータ納品までの作業ルーティンでした。次回はDPでのボーカル・エディットについて、解説していきたいと思います。また来月お会いしましょう!

 

大橋莉子

【Profile】作詞家/作編曲家。幼少期より母親の影響でクラシック・ピアノやソルフェージュ、音楽理論を学ぶ。高校在学中に音楽作家として作詞、作曲、編曲を本格的に始める。現在に至るまで乃木坂46、HKT48、モーニング娘。'18など、さまざまなアーティスト、アイドル、声優に楽曲提供を行う。また、2020年には国民的アニメ『プリキュア』シリーズのエンディング曲に抜擢されるなど、第一線で活躍している。

【Recent Work】

『Perfect Love』
VECTALL
(blowout Entertainment)

 

MOTU Digital Performer

オープン・プライス

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LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)

製品情報