ABLETON Live付属デバイスを駆使した低域調整と単調なミックスからの脱出|解説:Mimi Del Ray

ABLETON Liveの空間作りや調律用ツールを駆使した各トラックが粒立つミックス・テクニック|解説:Mimi Del Ray

 2ミックスはマスタリングでバンっと!音圧上げたいです! ROLAND TR-808系のベースはさらに太く、ハットはもっと散らせたい! シンセ・リードはもっとツヤのある感じに仕上げられるかな! でも、2ミックスでできることは限られていると私は思っています。なので詰めよう、どんどん詰めよう! 理想の音になるためにさらに細かくミキシング。お気に入りの甘いお菓子をキーボードの横に置くのを忘れないで。音の銀河鉄道へさぁ乗車。

低域がモタつくキックはコンプやColor Limiterで処理

 まずアスリートみたいにストレッチして、耳をつかんでグルグルし、自分自身がフレッシュな状態を作っていきます。作曲家はアスリートに近い部分があって、作っている曲が見えなくなったり、分からなくなってきたらジムに行って体の器官をリスタート。耳も体も筋トレです。

 そしてまた何度もトラックをプレイバック。その際すべての気になる問題点をメモしていきます。“23小節目のパーカッションの音がトゲトゲしすぎ!”とか。自分自身を信じ過ぎずに、直感で感じる音のデタラメと脳で考えて分かる音の良しあしをすべて書き出します。プレイバックし終わるころに“あれ、ディレイのフィードバックが短すぎるところはどこだっけな”“ピアノの音がこもってモクモクしてたな”“500Hzをちょっと削りたいと思ってたけど、どこ!?”とならないように。

 第2回で書いたことをベースにさらにプレイバックを続け、音を粒立たせることを意識。音が毛玉のように絡まり合ってしまったときはまず低域を見直します。EQなどを使って音の帯域を調整したら、音の立ち上がり(アタック)や消え際(リリース)などのトランジェントを際立たせていきます。例えばキックの低域がモタついてゆるい!締まりが甘い!というときは、EQを立ち上げてキックのローエンドを確認。次にGlue Compressorを立ち上げ、EQをオンにします。フィルター・タイプはバンドパスを選び、周波数をそのキックのローエンドの帯域に合わせます。そして、スレッショルドを下げながらアタック、リリースなども任意の場所に合わせ、キックのエリアを確保。さらに高域用にCompressorを立ち上げ、同様にEQをオンにしたら周波数をキックの高域部分に合わせます。レシオは無限大がいいですね。そこからスレッショルド、アタックなどを聴きながら任意の場所に合わせます。さらに必要であればColor Limiterをインサート。Colorパラメーターの値を音が深く美しい場所に滞在できるように設定していきます。

キックの帯域をタイトにしたいときはGlue Compressorの出番(画面左)。EQのフィルター・タイプはバンドパスを選択(赤枠)してキックのローエンド辺りに周波数を合わせ、スレッショルド、アタック、リリースを調整して追い込んでいく。またCompressor(画面右)も立ち上げて、やはりEQはバンドパスを選び、キックのハイエンドに合わせていく。このときRatioは無限大(inf:1)にしてスレッショルドやアタックを設定していくのがポイント(黄枠)

キックの帯域をタイトにしたいときはGlue Compressorの出番(画面左)。EQのフィルター・タイプはバンドパスを選択(赤枠)してキックのローエンド辺りに周波数を合わせ、スレッショルド、アタック、リリースを調整して追い込んでいく。またCompressor(画面右)も立ち上げて、やはりEQはバンドパスを選び、キックのハイエンドに合わせていく。このときRatioは無限大(inf:1)にしてスレッショルドやアタックを設定していくのがポイント(黄枠)

Color Limiterはハードウェア・リミッターのざらついた音質に着想を得たというリミッター。Colorというパラメーター(青枠)で音色を調整していく

Color Limiterはハードウェア・リミッターのざらついた音質に着想を得たというリミッター。Colorというパラメーター(青枠)で音色を調整していく

Envelope FollowerとEQ Eightのサイド・チェイン技

 キックに空気を注入し、軽さと重さを同時に出したいときはVocoderも使えます。周波数帯域数は4に設定し、Dry/Wetを細かく調整(このTipsはもちろんキック以外でも有効です)。このような細かい編集はあとで全体に影響していくので、ソロと全体で確認を繰り返します。

キックに軽さと重さの両方を加えたいときにはVocoderも有効。4バンドの設定でDry/Wetのバランスを調整していく

キックに軽さと重さの両方を加えたいときにはVocoderも有効。4バンドの設定でDry/Wetのバランスを調整していく

 このキックの音を理想に近付ける段階でベースとの絡みが気になるときには、Envelope Followerをサイド・チェインで使用する方法が便利です。まずEnvelope Followerをキックのトラックに、そしてEQ Eightをベースのトラックにインサートします。EQ EightのAdapt.Qはオフにして、周波数をキックと絡まり合っている部分に合わせます。

キックのトラックにインサートして、ベースとのすみ分けに使うEnvelope Follower

キックのトラックにインサートして、ベースとのすみ分けに使うEnvelope Follower

キックとの絡みを調整するためにベースのトラックにインサートしたEQ Eight。キックとぶつかる帯域に周波数を設定。Adapt.Q(赤枠)はオフにする

キックとの絡みを調整するためにベースのトラックにインサートしたEQ Eight。キックとぶつかる帯域に周波数を設定。Adapt.Q(赤枠)はオフにする

 次にキックのトラックへ戻り、Envelope FollowerをベースのEQ EightのGainにマッピング。最小値を50%、最大値を0%と大小逆に設定します。これでキックが鳴るたびに、そこを邪魔するベースの帯域をカットして音の毛玉を取るのです。

キックのトラックにインサートしたEnvelope Followerで、ベースのトラックにインサートしたEQ Eightの2バンド目のゲインをマッピング(黄枠)。最小値を50%、最大値を0%に設定し、キックとぶつかる帯域のベースをカットする

キックのトラックにインサートしたEnvelope Followerで、ベースのトラックにインサートしたEQ Eightの2バンド目のゲインをマッピング(黄枠)。最小値を50%、最大値を0%に設定し、キックとぶつかる帯域のベースをカットする

 Envelope Followerは複数のパラメーターをマッピングできるので、ボーカルを際立たせたいときなど、さまざまな場面でとても使いやすく、コンプを使ったボリュームでのサイド・チェインとはまた違ったアプローチで音のもつれを解消していけるお気に入りのサイド・チェインのやり方です。

リズミカルでサイケデリックなLiveの付属ディレイ群

 プレイバックを続けていくと妙に単調に感じ、パーカッションやハットなど上モノのベロシティをランダムにしたり、パンを使ったり……いろいろ動きを出してみますが、それでもやはり退屈さを感じてしまうときがあります。そんなときに使えるのが、たくさんのフレーバーを持つLiveオリジナルのディレイです。単純なものだけでなく、偶発的かつ挑発的に、良い意味で期待を裏切ってくれる動きをするディレイがLiveにはたくさんあります。

 まずリターン・トラックを立ち上げGrain Dalay、Spectral Timeをインサート。ハットなどの上モノにかけて聴きながら、先ほどのリターン・トラックにEQをインサートし、既に組み立てた音のさらに奥の帯域に攻め込めるように調整します。Liveのディレイは“Flashy”かつリズミカルでサイケデリックな万華鏡のように音作りでき、退屈さから脱却できます。

Grain Delay(画面左)とSpectral Time(同右)。Grain Delayは入力信号を細かい粒状にして、その粒にディレイをかけるエフェクト。Spectral Timeは音をフリーズさせる機能とディレイを組み合わせたもので、いずれも予想外の斬新なサウンドを生み出せる

Grain Delay(画面左)とSpectral Time(同右)。Grain Delayは入力信号を細かい粒状にして、その粒にディレイをかけるエフェクト。Spectral Timeは音をフリーズさせる機能とディレイを組み合わせたもので、いずれも予想外の斬新なサウンドを生み出せる

 それでもまだエッジやトップ・エンドが足りなくてモヤモヤするときには、さらにリターン・トラックを立ち上げOverdriveをインサート。EQで高域を強調してから、Drive、Tone、Dry/Wetを100%に設定、任意のトラックにリターンします。これは主にクラップやスネアなどにとても有効です。新鮮な空気を注入できるので、ミキシングで疲れた自身の心と曲が生き返ります。

ひずみ系エフェクトの代表格であるOverdrive。エッジやトップエンドを際立たせたいときに有効なデバイス。特にクラップやスネアに効果的だ

ひずみ系エフェクトの代表格であるOverdrive。エッジやトップエンドを際立たせたいときに有効なデバイス。特にクラップやスネアに効果的だ

 3回にわたってトラック・メイキングやミキシングの基本的なこと、Liveで使えるTips&Trickをシェアしてきましたが、大事なのはどんどんBreak the ruleしてLiveの偶発性や特性を探り、新しい音や使い方との出会いを大切にすることだと思います。何も分からないころはA0、B1、F2など、どのキーがどの周波数か全部メモってパソコンに張りながら作業したり、どうしたら音は大きくなるのか!?と海外のチュートリアルや専門的な本を読みあさったり、スピーカーの前にティッシュを置いてその揺れ具合でサブベースの音を測ったり、かなり変人なことをしながらただただ音に執着する日々もありました(笑)。作ってみては、気に入らない!!と何度プロジェクト・ファイルをゴミ箱に入れたか分かりません。作曲やDAWソフトにおけるテクノロジーの進化はとても速いので、基本的なことはもちろん、新しいTipsに常に興味を持ち続け、これからもLiveと一緒にどんどんオリジナリティのある音作りを楽しんでいけたらなと思っております。読んでくださりありがとうございました!!

 

Mimi Del Ray

【Profile】プロデュース/ソング・ライティング/トラック・メイキング/アレンジなどのミュージック・プロダクションはもちろんのこと、コンセプト立案からの制作やアーティスト・プロデュース、DJまで、あらゆる仕事をこなすマルチ音楽プロデューサー。ヒップホップを軸に、トラップやベース・ミュージックの要素も織り交ぜたスキルフルかつアンダーグラウンドなプレイスタイルは、国内外問わず多くの注目を集める。

【Recent work】

『HOTEL CLOUD』
DFT
(bpm tokyo / bpm plus asia)

 

ABLETON Live

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LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境

製品情報