ABLETON Liveの開発者の一人でもあり、モノレイクとしても知られるロバート・ヘンケ。僕はハウス・ミュージックDJですが、彼が2001年にリリースした「Remotable」には、今でも興奮します。ミニマル・テクノでありながら時間軸に沿ってどこか人間的な響きを聴かせてくれるのです。彼がライブ・パフォーマンスで必要としたことから開発し、惜しみ無く技術やアイディアをシェアしてきたLiveは、今や多くの人が愛用するDAWとなりました。
グラニュラー合成技術でメロディを複製しながら変化
ロバートが提供しているMax for LiveデバイスのGranulator IIは、グラニュラー合成技術を使用したサンプラー・インストゥルメント。ドロップしたオーディオ・ファイルのサウンドの一部をループ・クロスフェードさせながら、ランダムに再生していく仕組みです。
まず、元となるフレーズをGranulator IIに取り込みます。そしてFilePosでループ位置をずらしながら再生していくと、予想外で複雑な音が連続して鳴るのです。ランダムで鳴らしたものを別チャンネルでオーディオ録音し、元のフレーズとバランスを取ってレイヤーさせたり、波形のアタック部分を前後にスクロールさせると、また違ったメロディ・ラインが浮かんでくるでしょう。再生幅はGrain、ランダム・ポジションはSprayで調整。さらにViewモードをFilterにすると現れるAmp EnvelopeやPitch、FMを細かく追い込むことで、別次元の空間処理が可能になります。オーディオ・ファイルの切り張りとは異なる空間アレンジになる上に、素早く処理できるのがありがたいです。今回、Granulator IIを使ったフレーズをDazzle DrumsのSoundcloudにアップしました。15秒後から処理後の音が反映されているので、ぜひその効果を確かめてみてください。
また、ABLETON公式YouTubeチャンネルには、ロバートがコップをたたく音からリッチでワイドなパッドを作り出す動画もあるので、こちらもぜひご覧ください。
ハウス・ミュージックやテクノなど、ミニマルなフレーズをゆるやかに変化させながら高揚感を作り出すジャンルでは、Granulator IIでのアレンジを曲中のアクセントにしたり、もとから入っている音でテクスチャー・サウンドを作ることでなじませたりするのも一つのアイディア。シンプルで音数の少ないフレーズを元にすることで、空間にすき間もできます。特にクラブなどで大音量で流す楽曲を作る場合、メリハリやダイナミクスがあって“映える音”を作ることにもつながるかと思います。
創作意欲や新たなフレーズが湧く2基のピッチ・シフト・ディレイ
同じくロバート制作のMax for Liveデバイスで、Live 11の新機能として追加されたPitchLoop89は、初期のデジタル・エフェクトPUBLISON DHM 89にインスパイアされたピッチ・シフト・ディレイ。往年のデジタル・サウンドらしさがありつつも、現代向けにアップデートされています。
2系統の独立したピッチシフト・ディレイによって、空間処理を行うのですが、ここではリズムに特化してタムなどのパーカッション・サウンドへわずかに適用させるパターンを紹介します。まず耳でポイントを探り、Positionでディレイ・タイムを設定しましょう。L/Rの間にあるボタンでリンクを解除すると左右別の設定ができるので、RのみRamdomを0.70にしてSegmentを10%に設定。フィルターでLowやHighをカットしてなじませます。ドラムの展開に合わせてDry/Wetを0〜20%に、ブレイク前後などでは大胆に50〜100%に設定すると、反復しながらも独特な揺れが得られて躍動感が出てきますね。ここで説明しているリズム・パートもSoundcloudにアップしました。7秒後から処理後の音を反映させています。
さらにPitchやMode、LFO、Vibrato、ホールド・ボタン(∞マーク)で調整を追い込むと、拍単位でのディレイでは生まれない、独立したチャンネルが響き合う予想外の空間処理が可能になります。一つの音から創作意欲や新たなフレーズがどんどん湧き出てきそうです。ロバートの言う通り、時間の間隔を空けていろいろ触れていると毎回違う音が鳴るので、ハードウェアのような質感を得られるのではないのでしょうか。
Live付属デバイスを活用して箱鳴りの良い超低域処理を施す
ここからは、ハウス・ミュージックなどで重要になる低音の処理をする際のLive付属デバイスを使ったTipsを紹介します。まずはミックス・ダウンに欠かせないEQ処理。ジャンルや音の好みにもよりますが、クラブなどでの箱鳴りやアタック音の伸びを考え、超低域はキックとベースのどちらかに絞り、選ばなかった方は中低域で鳴らすように思い切ってすみ分けるとよいでしょう。ここではEQ Eightを使用し、出力スペクトル(周波数の可視化)を見つつヘッドフォンでチェックしながら、50〜70Hz以下の超低域は48dB/Octのローカットで基本的にばっさりカットします。
100~250Hz辺りの中低域もキックとベースがぶつからないようにカットして調整していくとスッキリまとまります。選ぶ音色の帯域によっても変わるので、いまだに何が正解が分からないほど、奥深い世界です。
Live Suiteで使えるDrum Bussは、コンプとサチュレーター、トランジェンド・コントロールがまとまったアナログ・スタイルのドラム・プロセッサー。僕はドラム・バスなどを前に出してファットにしたいときに使います。左列のDriveセクションではディストーション・タイプを選択。元の音をあまり変えないようにSoftで30%ほどに設定し、Dry/Wetは70%くらい、コンプはオフにすることが多いです。主に太いキックを好むので低域を増強するBoomセクションはあまり使いませんが、ヘッドフォン・ボタンで超低域のみの試聴ができるので、超低域が足りないと思ったらFreqを調整、逆にもたついていると思ったらDecay量を減らすか、元のキック音に戻って処理します。中高域処理のCrunchは、キックやベースの単音をアグレッシブに鳴らしたいときに使用。超低域とのすみ分けの確認もでき、キーに合わせたプリセットも豊富なので参考になりますね。
ロバートとチームのおかげでここまで発展したLive。バージョン11になってからますます使い勝手の良いツールになりました。思いがけない発想やアレンジが生まれるので、コロナ禍の巣ごもりを生かしてぜひトライしてみてください。
Kei Sugano
【Profile】Nagiとの2人組ユニットDazzle Drums。それぞれが1990年代からDJ活動を開始し、ハウス・ミュージックを軸に幅広い選曲で新譜を織り交ぜプレイする。2005年より現在まで、King Street Sounds、BBE Musicなど数多くの海外レーベルからリリースを重ねる。2016年より海外でも積極的にDJツアーを行う。レギュラーDJはBlock Party、Music Of Many Colours、Worldwide FM、The Cabinn FM。
【Recent work】
『Night Jungle』
Dazzle Drums
(Green Parrot Recording)
ABLETON Live
LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境