プロデュース作品で活躍したエフェクト&Live 11ユーザー必見の新規Pack 〜VaVaが使うLive【第3回】

プロデュース作品で活躍したエフェクト&Live 11ユーザー必見の新規Pack 〜VaVaが使うLive【第3回】

 サンレコ読者の皆様、こんにちは。音楽レーベルSummit、そしてCreativeDrugStore所属のプロデューサー/ラッパーのVaVaと申します。ついに3カ月の連載が今号で幕を閉じるということで……。1、2回目を読んでくれていた方々、サンレコの皆様、本当にありがとうございます。というわけで、今回は自分がプロデュースしたトラックのプロジェクトを参考にしつつ、諸々解析していきたいと思います。

ドラム・ループ集に収録のエフェクトでトラックのグルーブをけん引

 kZm「Yuki Nakajo」のプロジェクトは、ガイド・チャンネルを除いて26trで、かなり音数が少ないビートです。kZmのボーカルのメロの良さを引き立たせるために、音を追加しては消してを繰り返しました。あと、サンプルを探しやすいようにGuitarのオーディオ・ファイル名には“kZm”と入れています。

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筆者がプロデュースしたkZm「Yuki Nakajo」のプロジェクト・データ。1tr目のガイドを除き全26trで構成される。ピンク色のトラックがkZmのボーカル・トラックで、下部の青いトラックにギターやドラム、SEなどの楽器類が並んでいる

 続いて紹介するのは、BIMと僕がラップをし、僕がプロデュースをした「Fruit Juice」のプロジェクト。基本的にサンプリング・ベースでの制作なので見応えのあるMIDIアートなどはありませんが(アニメ『ODD TAXI』の劇伴などはMIDIでも頑張りました!)。メインのサンプル、それを補う対旋律の役割のMIDIとサンプルのトラック、SE、ボーカル・トラック、ドラムなど合計70tr未満。バック・トラックだけだと21trです。「Yuki Nakajo」よりは多いですが、僕のプロジェクトでは少ない部類ですね。どんどん音数の美学を追求していきたいです。

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筆者プロデュース作品「Fruit Juice」のプロジェクト画面。上から、メインのサンプル(白)、それを補う対旋律の役割のMIDIとサンプルのトラック(青)、SE系(グレー)、サビのボーカル・トラック(赤)が並ぶ

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プロジェクト下部には、BIMのボーカル・トラック(水色)、VaVaのボーカル・トラック(緑)、ドラム(黒)が並び、合計70tr弱で構成されている

 2つのプロジェクトではSample Magic Beat Selection Processing RackとAuto Filterを主に利用しました。前者はトラックのグルーブをけん引するチャンネルで使います。正直“これ一つで間に合うのでは!?”というくらい信頼して、この時期はどのプロジェクトでも使っていました。Kick BoosterとSaturatorは実験的にトライできるのでお薦めです。

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「Yuki Nakajo」「Fruit Juice」などで使われたSample Magic Beat Selection Processing Rack。ドラム・ループ集のBeat Selection by Sample Magicに収録されたエフェクト・ラックの一つで、8種類のパラメーターを装備している

 Auto Filterはとてもシンプルな作りながらずっと使える、例えるなら実家のようなフィルターです(笑)。盛り上がる前のポイントで押さえておきたいフレーズがあるとよく使います。

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Auto Filterは、典型的なアナログ・フィルターをエミュレートしたLive内蔵デバイス

制作時間の8割はサンプル探し。楽曲を波形で分析するのがお勧め

 連載にあたって自分の制作スタイルを振り返ったのですが、時間で考えるとサンプル探しが8割、構築が2割。トラック提供したBIM「Bonita」は10分、僕の「現実 Feelin’ on my mind」は映像を含め30分で制作しましたが、サンプルに出会うのにかなり時間を使ったので、限りなく燃費が悪いです(笑)。

 

 僕の場合、制作においてはさまざまな音楽を吸収した上で、自分に合った制作スタイルや築き上げたいサウンドの研究をすることが何より大事だと思っています。こんな僕でも人から良いと言っていただけるトラックが作れるのは、分かりやすいユーザー・インターフェース、のどから手が出るような機能をどんどん追加してくれるABLETON様様であることは間違いありません。ほかのDAWはあまり使ったことは無いですが、これから始める方には全力でLiveをお薦めしたいです。あと、“こんなトラック絶対に作れない(泣)”と思ったときは、一度その楽曲データをLiveのプロジェクトに入れ、波形から分析すると理屈が分かったりするのでめちゃくちゃお勧めです。

Live 11で追加されたPackと汎用性の高いオーケストラ音源

 ここからはLive11で新たに追加されたPackを紹介していきます。まずはMood Reel。深みがある音を導入したいときに使えます。僕はゲーム音楽がとても好きなので、そういう音を作ってみたいですね。収録されているFloor Boards of Nostalgiaは奇麗な広がりのある音で、つまみをいじれば、さまざまな場面で活躍しそうです。

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新規追加されたPackのMood Reel。収録された中での筆者のお気に入りは、Floor Boards of Nostalgia

 ボーカル・スライスに特化したVoice Boxは、よくボーカルをチョップする僕には画期的でした。簡単なループを組んでこれで遊んでいると時間が溶けそうです(笑)。

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ボーカル・スライスに特化したPack、Voice Box収録のサンプル“Maike Impro Amin”をSimplerに入れて使用

 ドローン・サウンドが好きな人にお薦めのPackが、Drone Lab。深くて広がりのあるドープなサウンドがすぐ再生されます。個人的には、これでRoland JonesやDJスクリューのようなビートをいつか作ってみたいです。というか必ず作ります。

 

 SPITFIRE AUDIOとの共同開発のPackも3製品追加されました。Upright Pianoはめちゃくちゃ良い音のピアノ音源です。共鳴音も自然で、SPITFIRE AUDIOのこだわりを感じます。タブでIntimate、Balanced、Bright、Hall、Padから音の広がりを簡単に切り替えられるので汎用性が高く便利。とりあえず主旋律を弾きたい場合にもお勧めですし、ユーザー・インターフェースがシンプルで扱いやすいです。

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SPITFIRE AUDIOとABLETONの共同制作によるピアノ音源、Upright Piano。画面左には、音の広がりが異なる5種類のマクロ・バリエーションが登録されている。また、リスト上のNewボタン(赤枠)を押すことで、自分の好みに合わせたパラメーターが登録できる

 ストリングス音源String Quartetは、“無料で良いんですか!?”というクオリティ。Short All-in-oneを弾いたときに“SPITFIRE AUDIO万歳!”と思いました。技法は4種類で、やわらかいサウンドのSul Tasto、歯切れ良く弦を指で弾くPizzicato、バンド系の楽器でもおなじみのStaccato、弦の上で弓を跳ねさせるように弾くSpiccatoを、マクロで切り替えられます。Detacheやglissandoなどに近いパラメーターを最初から作ることも可能なので、かなり自由度が高いと思います。

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SPITFIRE AUDIOとの共同開発のストリングス音源、String Quartetには、Sul Tasto/Staccato/Spiccato/Pizzicatoの4種類の奏法があらかじめマクロに登録されている

 ブラス音源のBrass Quartetは、先述の2製品と同様に普遍的でどのプロジェクトにも合いそうです。技法はSoft、Staccato、Stacaatissimoから選べます。この手の製品はダウンロードの待ち時間で音源を聴いてワクワクする時間がとても好きなのですが(ゲームを買って帰る途中に説明書を読む感覚)、ABLETONのSoundcloudにアップされているBrass Quartet - Artemisを聴いてカーディナル・オフィシャル「Dangerous ft.Akon」のリミックスを作りたくなりました(笑)。

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ブラス音源Brass QuartetもSPITFIRE AUDIOとの共同制作によるPack。ベロシティ感度やアタック、リリースなど8種類のパラメーターを搭載し、マクロにはSoft/Staccato/Staccatissimoをプリセットとして用意

 オーケストラ音源はとてもち密なので、なんか違うな……と思うものが少なくなかったり、再現度が高いものは高価だったりしますが、Live用に追加されるオーケストラ音源のPackは総じてめちゃくちゃクオリティが高いなぁと実感しました。

 

 というわけで、あこがれて読んでいたサンレコで3回にわたりLiveのTips紹介を書かせていただいたVaVaでありました。皆さまのお役に立てたかは分かりませんが、これからも日々精進していきます。サンレコ、そしてABLETON Live、僕の人生を変えてくれてありがとう! しかし、大事なのはこれからである……(先輩の言葉をお借りします)。

 

VaVa

【Profile】SUMMIT所属のビート・メイカー/プロデューサー/ラッパー。BIM、KID FRESINO、kZmなどのヒップホップ・アーティストをはじめ、平井堅やサニーデイ・サービス、AI、木村カエラらのリミックスやプロデュースを手掛ける。今年に入って『Triforce feat. Yo-Sea, OMSB』やBIMとの共作『Fruit Juice』などのリリースを続け、7月には最新シングル『Minecraft』を発表。アニメ『オッドタクシー』では、劇伴音楽をPUNPEE、OMSBと共に担当した。

【Recent work】

『Minecraft』
VaVa

(SUMMIT)

 

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