今回はMax for Liveについて書くことにしたが、3回の連載で一番悩んだ。Max関連ってどうしてもユルさがなくなっちゃうんだよね。でも多くの人にMax for Liveの楽しさを知ってもらいたくて頑張りました。最後まで読んでね!
世界中で開発された集合知を提供
“新しいプラグイン”のように付き合う
Live 11で追加されたデバイス(プラグイン)を並べると、その多くがMax for Live(以下M4L)のもの。せっかくなので、あらためて“M4Lとは何か?”を説明しよう。
CYCLING '74 Maxというアプリがある。音声やマルチメディアに特化したプログラミング環境、つまり“音源&エフェクト・ツクール”みたいなものだ。で、M4LはMaxで作ったものをLiveのプラグインとして使えるようにする技術のことである。
Live 10 SuiteからはMaxのアプリがLiveに内包されているので、M4Lデバイスを使うためにMaxをインストールする必要も無い。ABLETONが多大なリソースを割いた甲斐あって、処理の重さや、動作の安定性の心配も全く無い。
今回追加されたM4Lデバイスは、世界中のプログラマーが開発し、従来はPackでの提供やネット販売されていたものも多い。こんな集合知を全Suiteユーザーに提供してくれる環境は、Liveの唯一無二の特色。M4L未体験の人も“新しいプラグインだ!”という感じで普通に付き合う方が良い。参考までに“これは絶対使うべき!”というものを紹介しよう。
LFO、Shaper
オートメーションできるパラメーターを勝手に揺らすもの。Mapボタンで簡単にアサインできて本当に便利。“マッピングしてほかのデバイスのパラメーターを操作する”系のM4Lは数多く、一ジャンルを形成している。
MIDI Monitor
入力されたMIDIデータを確認できるMIDIプラグイン。最新版ではコード・ネームも表示。後述するMIDI関連のM4Lデバイスを動作チェックしたいときにも必須だ。
オリジナルのMaxデバイス制作
Live Suiteユーザーは初期投資ゼロ
“自分でもMaxでオリジナルのデバイスを作ってみたい”という人に向けて、良い機会だからここでM4Lの作り方のポイントを紹介しよう。最近はYouTubeなどでMaxのビギナー向け解説は散見されるので(僕も何個かアップしてます)、ここではM4Lに特化。ほかではあまり見ない話を重点的に書こう。
まずはMaxについて。Live内蔵MaxとCYCLING '74 Maxの違いは幾つかあるが、M4Lを作り始める上で不便を感じるような差異はほぼ無い。本家Maxの購入は、その違いに気付いてからでも全然遅くない(たまにアップグレード・セールもしているし)。というわけで、Live Suiteユーザーは初期投資ゼロでM4Lプログラミングを始められる。
次に“何を作ればよいの?”と思うかもしれない。特に必要なものが無かったり、ネット上で目的のM4Lデバイスが見付かったりする。Liveには元から素晴らしいデバイスがいろいろあるし、それらをマクロで組み合わせたりしたら無敵だ。“今さら自分がM4Lで何かを作っても、自己満足にしかならないんじゃないか?”と思うのは当然かもしれない。しかし、これは“言葉を覚え始めた人がいきなり小説を完成できるわけがない”のと同じ。最初は簡単なデバイスを作り、次第に言葉を理解すれば、“こういうのを作ったら良いな!”と自然に思い付く。
良い例が僕の作ったMIDI CCデータを送るだけのMIDIプラグインだ。超シンプルでニッチなものだが、通常のMIDIクリップエンベロープからだけでなく、オートメーションにも書き込めるようになるので、意外と役立っている。こんな感じですぐに自作できるのは実用的だし、とても楽しい。僕は日常的にMaxプログラミングをするわけじゃないけど、“こういうものを作りたい!”と始まると曲作りよりも楽しくなっちゃったりする。コロナ禍の自宅待機時は延々いじっていた(笑)。
Maxプログラミングは実験の繰り返し
ヘルプやリファレンスを活用しよう
この先は、実際にMaxを使ってM4Lを作るときの重要なポイントを幾つか書いておこう。
出力されるデータをチェックしよう
Maxプログラミングは、“これをこうしたらどうなる?”という実験の繰り返し。どのモードでもパッチは常に動いているので最高に便利だ。“このオブジェクトはどんなデータを出している?”と思ったら、データが見られるmessageオブジェクトをつないだり、printオブジェクトをつないでMaxコンソールに表示させて確認しよう。僕は、素早くデータを見たいときはmessageオブジェクト、時系列も確認したいときはMaxコンソールで見る。オーディオはscope~で見ると分かりやすい。
MIDIプログラムから入ろう
最初に作るのにお薦めのM4Lデバイスは、MIDIデータを処理するもの。先述のようなMIDI CCデータの処理や、ノート・データをいじって音程変更もできる。そして、MIDIデータ自体が0~127の整数だけを扱うことが多いので、プログラムの取り回しが楽なのだ。ああデジタルってとっつきやすい。梯さん&デイブさん、ありがとう!と30年近くたっても思う(笑)。
ヘルプとリファレンスを活用しよう
Maxはヘルプ、リファレンス共にすごく詳しい。またヘルプ自体がMaxのパッチ・ファイルだから、実際に試したり、コピペして自分のファイルで使うことも可能だ。英語だが、難解な文章ではないので頑張って読もう(僕は和訳を見る暇があればダメ元でパッチ作りを進める派)。
パッチ・ファイルは別画面で開くことも可能
M4Lデバイスは縦169ピクセルに収める必要がある。もっと広い領域が欲しいときはカプセル化したパッチを別ウィンドウで開くようなデバイスを作れば良い。Maxで作ったパッチ・ファイルをM4Lに流用するときにも便利だ。
Liveを使うと“こんなことができるんだ!”とワクワクする瞬間がよくあると連載の初回に書いたが、M4Lも同じ。特にLiveの操作体系を自由にいじれるLOMなど、本当に可能性が詰まっている。自由度が高く、とても楽しいのでトライしてみよう。
というわけで、僕の回はこれで終わり。この連載が奥深いLiveの世界を知る一助になれば幸いです。
草間 敬
【Profile】25年以上に渡り、作編曲やエンジニアとして数多くのアルバム制作に参加。豊富な知識と経験による独自の手法は、ミュージシャン達からの信頼も厚い。近年はライブオペレーション活動も多く手がけ、AA=、SEKAI NO OWARIなどのライヴでマニピュレートを担当。現在は今井慎太郎とのユニット=mode-rateで精力的に作品をリリースしつつ、金子ノブアキらとRED ORCAの活動を繰り広げている。
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