こんにちは、今回も僕なりのLive使用法をゆるーく書いていこうと思ったんだけど、もうすぐ登場するLive 11はMIDIクリップエディタ周辺が大幅に進化し、β版の段階から“今回のアップグレード最高!”な状態。そんなわけで、Live 11推しの内容になってしまうかも。すみません(笑)。
MIDIノートやオートメーションが
タブで切り替え可能に
まずは前回も好評だった“ココが使いやすい!(MIDIクリップエディタ編)”をLive 10と共通なものから挙げておこう。
●選択したMIDIデータは“↑↓←→”キーで移動できる
上下左右キーを使ってMIDIノートを移動でき、Shift+上下キーで1オクターブ移動できる。さらにcommand(WindowsではCtrl)+上下のドラッグで、ベロシティの変更も可能。
●ストレッチ・エリアを活用
ここは、オーディオクリップではWarpマーカーを頻繁に扱うエリアだが、MIDIクリップでも範囲の選択やエディットなど便利に使える。クリックするとおなじみのWarpマーカーも出現し、タイムを伸縮させたりもできる。
●command/Ctrl+1〜5を使いこなそう
MIDIクリップエディタに限らず、各ウィンドウの右下にあるグリッドサイズの変更はすべてこのショートカット・キーで行う。1、2がサイズ変更、3で三連符になる(覚えやすいね)。4でグリッド自体のオン/オフを切り替え。5は“固定”⇄“拡大率に応じて変更”だけど、僕はこれだけ使用率が低い。
●option/Alt+1、2、3でエディット画面の切り替え
これはLive 11の新機能。エディット画面の右側がMIDIノート、オートメーション、MPEのそれぞれをタブで切り替えられるようになり、全体的な表示も大胆に変わった(こんなに変わったのはLive史上初)。Live 10の画面と比較すると分かりやすいが、クリップやループのオン/オフ、長さなどの部分が左側に移動。ラウンチモード、フォローアクションに関するものは、タイトルバーの▶を押すことで表示される。
Live 11 からはMPEに対応
2種のベロシティ・ランダマイズを搭載
Live 11のアップデートで話題のMPE。僕自身、Live 11を使うまでは“MPEって何?”という状態だったから、ここで分かりやすく説明しよう。MIDIノート(鍵盤を押したという情報)にはベロシティも一緒に記録されている。MPEはこの“一緒に記録される”部分が大幅に拡張され、ベロシティ以外にピッチ・ベンドやアフタータッチ、スライドなどの情報も一つのノート情報の中に含められるようになったのだ。
ではMPEで何ができるか? 例えば、1つのコードを押したら、その音が途切れないように別のコードに移行したり(各ノートに個別にピッチ・ベンドを書く)、特定の音色だけプレッシャーやスライドを使って変化をさせたりとか、いろいろ可能性が広がる。MPE対応コントローラーはROLI Seaboard RISEが代表的だが、ABLETON Push 2もSetup画面でPolyにすればパッドごとでアフタータッチに対応できる。MPEのエディット画面自体も大変使いやすく、MPE専用コントローラー無しでも、マウスなどでデータを書き込んでいけばMPEによる音色(音程)のプログラミングを楽しめるので、オートメーション感覚でぜひトライしてみてほしい。
また、Live 11ではベロシティのランダマイズ機能とプロバビリティ(Probability)機能が追加された。ベロシティのランダマイズは実質2種類ある。1つはノートを選択して“Randomize”を押すと、その範囲でベロシティがランダムな値になる、既存データをエディットする機能。もう1つは各ノートのベロシティの線をcommand/Ctrl+上下ドラッグすると、個別に範囲を指定でき、再生ごとにベロシティが変わる動的なランダム機能だ。お勧めの使い分けは、まず前者を駆使しつつパターンを作る。それをループ再生し続けたときに、“あれ、この音だけリピート感強めだな”と思った部分に後者のノートごとのランダム範囲を加える、というのが効果的だ。
次に、プロバビリティについて。これは名前の通り、その音を発音するかしないかの確率を設定できる。ベロシティのランダム機能と混同するかもしれないが、こちらは“鳴らすか鳴らさないか”の確率だから、鳴らないときは本当に鳴らなくなる。音響系やアンビエントなど、時間を広くとるような感覚の音楽で、“時折思い出したように鳴る”みたいな雰囲気を出すときに便利に使える。でも、普通のドラム・パターンの打ち込みにも使ってみると面白かった。例えば、4小節に1回くらい来るスネアのフィルや1拍目すぐ後の16分裏のハイハットなど、普段は要らないけどたまに来てほしいような音のプロバビリティをいじると、同じパターンを繰り返しても飽きずに聴けて楽しい。
スケール機能を活用して
指定したスケールの音だけ表示
最後にスケール(Scale)機能について。これはMIDIクリップエディタ内でキーとスケールを指定するものだ。エディタウィンドウにはScaleボタンが2つある。キー設定のところのScaleボタンは、エディタ上にスケール音を色付きにしてくれる(通常は黒鍵を黒めの色彩で表示)。Push 2のScale表示にもここのパラメーターが反映される。次にFoldボタン隣のScaleボタンも押すと、スケールの音“だけ”が表示される。このとき、スケール外のノート・データは色が付かない状態でポツンと置かれる。画面で見ると仲間外れ感がすごい(笑)。
僕を含めアレンジャーやプレイヤーにとって、流れている音楽がどんなキーとスケールで鳴っているかを把握する力、つまり耳コピーの能力は必須だ。しかし、それができないからと言って音楽ができないわけじゃない。感性で素晴らしい音楽を作るアーティストもこの数十年ですごく増えた。そういう人にとって、スケール機能はとても便利だと思う。また、Push 2のIn Key表示(スケールの音のみ表示される状態)には“どこを押してもスケールの音”で好き勝手に連打する楽しさがあり、それに近いものをこのエディタでも享受できる。“なんかこう、どわぁぁーっと上がっていくフレーズにしたい!”なんてときにドローモードでパッと描けるのはなかなか楽しい。これは音感のある人でもぜひ遊んでみてほしい。というわけで、Live 11の話が多くなったが、それだけMIDIクリップエディタが大きくアップデートされたのだと思う。正式リリースが待ち遠しい。
草間 敬
【Profile】25年以上に渡り、作編曲やエンジニアとして数多くのアルバム制作に参加。豊富な知識と経験による独自の手法は、ミュージシャン達からの信頼も厚い。近年はライブオペレーション活動も多く手がけ、AA=、SEKAI NO OWARIなどのライヴでマニピュレートを担当。現在は今井慎太郎とのユニット=mode-rateで精力的に作品をリリースしつつ、金子ノブアキらとRED ORCAの活動を繰り広げている。
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