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草間 敬が使うLive 〜第1回:“使いやすさ”を感じさせるアレンジビューとショートカット・キー

ABLETONのDAW「Live」の使い方を草間 敬が解説する

 今号から3回ほど本連載を担当させていただくことになったのだが、編集部からは“草間さんなりのLiveの使い方を書いてください”と言われた。そんなわけで、通り一遍なソフト紹介記事ではなく、僕なりにLiveの魅力を書いていこうかと思っている。どうぞよろしく。

制作過程で思考の流れを妨げない
ライブ使用も安心の安定性の高さ

 僕が初めてLiveを使ったのは20年近く前のLive 1。ABLETONのスタッフに聞いた話では、当時は数千セット売れたらしいが、今や全世界のLiveユーザーの総人口は数百万人で、2021年初頭にはLive 11が登場する(現在ベータ版を提供中)。いや随分と成長したもんだなあと思う。発売当初のLiveは“オーディオのテンポ・ピッチの自由度の高さ”が一番の魅力だった。しかし、ほかのDAWも進化した今、Liveの良さは? と質問されたら、僕はまず“ 使いやすさ”を挙げる。

 

 例えば、Liveは“リズムを打ち込む”“ソフト・シンセを弾いて形にしていく”“ 録った音をすぐサンプラーに取り込んで使う”などなど、イマドキの音楽を作る過程で思考の流れを妨げない環境を考え抜いているソフトだと思う。また、使いやすさは年々進化している。その進化によってショートカット・キーが大幅に変わることもあるが、使い慣れてみると確かに便利と感心し、気付くと前のバージョンには戻れなくなっている。

 

 また、安定性が高いというのも僕の好みだ、ってみんなそうか(笑)。ライブでLiveを(名前が紛らわしいよね)使って7年以上経つが、本番でLiveが原因のトラブルは一度も無い。CPU負荷を下げるようにセットを組む、ケーブルの断線などハードウェア関連の事故が起きないように検証するといった準備はもちろん必要。だが、それらの万全の体制を組んだ状態での安定性はほかのDAWよりも高いと実感している。

複数テイクからOKテイクを作り出す
コンピング機能を新たに実装

 ここまで僕が思うLiveの良さを書いてきたが、今回は前者の“使いやすさ”をもうちょっと掘り下げてみたい。僕が“使いやすい”と思うLiveの特色を徒然なるままに書いてみよう。

 

●アレンジメントビューがすごく便利
 “Liveと言えばセッションビュー!”とよく言われるが、実はアレンジメントビューも素晴らしく使いやすい(僕は95%くらいアレンジメントビューを使う)。特にLive 10以降オートメーション関連の操作性は、数あるDAWの中でもトップ・レベルになったと思う。また、Live 11へのアップデートで話題の機能がコンピング。1つのトラック内(MIDIトラックも対応)に複数テイクを持たせ、それらから取捨選択ができる。複数トラックを同時編集できるマルチトラックエディットも実装される。

Live 11では、複数テイクから完成テイクを作り出すコンピング機能を実装。実際にレコーディングで使ってみると、各テイクをつなぎ合わせる作業はもちろん、“今のテイクは良かったからキープしておいて、もう一回やってみよう!”という“とりあえずキープする”機能としても大変使いやすい(今までは別途新規トラックを作って保存していた)。空のレーンも作れるので、そこに別の演奏をコピー&ペーストしたり、リバースを作って差し替えたり、空白を作ることも可能。今まで1つのトラック上で行っていた作業を、複数のまな板(レーン)を使って作業できるようになったというと伝わるだろうか

Live 11では、複数テイクから完成テイクを作り出すコンピング機能を実装。実際にレコーディングで使ってみると、各テイクをつなぎ合わせる作業はもちろん、“今のテイクは良かったからキープしておいて、もう一回やってみよう!”という“とりあえずキープする”機能としても大変使いやすい(今までは別途新規トラックを作って保存していた)。空のレーンも作れるので、そこに別の演奏をコピー&ペーストしたり、リバースを作って差し替えたり、空白を作ることも可能。今まで1つのトラック上で行っていた作業を、複数のまな板(レーン)を使って作業できるようになったというと伝わるだろうか

●フリーズしたクリップをオーディオ・トラックにドラッグ&ドロップするとオーディオのクリップに早変わり
 フリーズされているトラックのクリップをオーディオトラックにドラッグ&ドロップすると、一瞬でオーディオ・ファイルに変換できる。こうすれば次に書くSimplerにもすぐ読み込めるし、Liveはオーディオの自由度が高いからいろいろ楽しい。

フリーズ機能は、CPU 処理に負担がかかるトラックを、DAWの裏側でいったんオーディオ・ファイルにバウンスするもの。つまり、フリーズ時はユーザーの見えない場所にオーディオ・ファイルが存在するので、ABLETONはこのファイルを有効活用しようと思ったのだろう、フリーズトラック上のクリップをオーディオトラックに持っていくだけで即オーディオクリップになる。元のMIDIクリップを残したいときは、Option/Alt+ドラッグでコピーしよう

フリーズ機能は、CPU 処理に負担がかかるトラックを、DAWの裏側でいったんオーディオ・ファイルにバウンスするもの。つまり、フリーズ時はユーザーの見えない場所にオーディオ・ファイルが存在するので、ABLETONはこのファイルを有効活用しようと思ったのだろう、フリーズトラック上のクリップをオーディオトラックに持っていくだけで即オーディオクリップになる。元のMIDIクリップを残したいときは、Option/Alt+ドラッグでコピーしよう

●Simplerとのサンプル連携が秀逸過ぎる
 SimplerはLiveに標準搭載されたシンプルなサンプラー。セッション/アレンジメントビュー内のオーディオ・クリップをドラッグ&ドロップすればすぐMIDIデータで鳴らせて、しかもスライス機能まで付いている。個人的には、“Liveはオーディオの取り扱いに優れる”という評価は、Simplerが含まれて初めて完ぺきなものになるのでは?と思うほど重要な機能。 

Live付属のインストゥルメントSimpler。サンプラーというと、出来合いのサンプルを鳴らすものととらえる人もいるかもしれないが、もともとは自分で何か録音(サンプリング)し、それを素材として鳴らすものである。声ネタ、フィールド・レコーディングした素材、そのほか何でもSimplerに読み込んでスライスし、Live専用MIDIコントローラーのABLETON PushやMIDI鍵盤で鳴らしてみよう! Live Suiteには上位プラグインのSamplerも付属。Simplerよりモジュレーションが豊富なので、興味があればいじってみてほしい

Live付属のインストゥルメントSimpler。サンプラーというと、出来合いのサンプルを鳴らすものととらえる人もいるかもしれないが、もともとは自分で何か録音(サンプリング)し、それを素材として鳴らすものである。声ネタ、フィールド・レコーディングした素材、そのほか何でもSimplerに読み込んでスライスし、Live専用MIDIコントローラーのABLETON PushやMIDI鍵盤で鳴らしてみよう! Live Suiteには上位プラグインのSamplerも付属。Simplerよりモジュレーションが豊富なので、興味があればいじってみてほしい

●Undoすると、大抵の設定項目が元に戻る
 地味だけど、LiveでUndoをすると一度削除したプラグインも同じ設定でよみがえってくるなど、かなり使える仕様だ。

 

●0(ゼロ)キーを押すと大抵ミュート/ミュート解除
 トラック、オーディオ/MIDIクリップ、MIDIノート・データなど、音が出る(出すように指令する)多くの機能が、該当部分を選択して0キーを押すとミュート、もう一度押してミュート解除できるというのは一貫性があって良い。

 

●ダブル・クリックでパラメーターが大抵デフォルトの値に戻る
 “大抵”ばかりで申し訳ない(でもこの共通感が分かりやすいのよね)。これはLive10から実装された機能で、トラックのボリューム、パン、そのほか多くのパラメーター上でダブル・クリックすると、デフォルトの値に戻ってくれる。

 

●マクロコントロールが快適
 インストゥルメントやエフェクトが増えてきたら、それらを選択してcommand(WindowsではCtrl)+Gを押すとAudio Effect Rackというハコに入る(インストゥルメントを含む場合Instrument Rackになる)。このハコはとても多機能で、内部で並列にエフェクトをかけたり、複数のパラメーターを同時に動かしたりできる。Live 11ではマクロが最大16個になり、各ノブの位置を記録できるスナップショット、そしてパラメーターをランダムな値にできるランダマイズ機能も追加された。

各Rack内にあるマクロコントロール用のノブ(赤枠)には、MIDIマッピング/コンピューター・キーボードのショートカット・マッピングが可能なものをすべてアサインでき、複数のパラメーターを同時に動かせる。例えば、“1つのノブを回すとEchoプラグインがオンになり、さらに回すとDry/Wetバランスが変化し、フィードバック量も増加。後段に挿さったリミッターでフィードバックによるクリップを控えつつ音量を上げる”なんてことができてしまう。各パラメーターの変化量はMapボタンを押すと一覧表示され、最大/最小値を含め、自由に設定可能だ。Live 11からは最大16 個までノブを増やせるが、この図では逆にノブを4個に減らしている

各Rack内にあるマクロコントロール用のノブ(赤枠)には、MIDIマッピング/コンピューター・キーボードのショートカット・マッピングが可能なものをすべてアサインでき、複数のパラメーターを同時に動かせる。例えば、“1つのノブを回すとEchoプラグインがオンになり、さらに回すとDry/Wetバランスが変化し、フィードバック量も増加。後段に挿さったリミッターでフィードバックによるクリップを控えつつ音量を上げる”なんてことができてしまう。各パラメーターの変化量はMapボタンを押すと一覧表示され、最大/最小値を含め、自由に設定可能だ。Live 11からは最大16個までノブを増やせるが、この図では逆にノブを4個に減らしている

●command(WindowsはCtrl)+Rでリネーム
 トラック名、クリップ、プラグイン・デバイスなど、名前を変更できる部分はすべて同じショートカット・キーだ。

 

●選択→Zで拡大し、Xで元に戻る
 アレンジメントビューで一部分だけ拡大して観察したいとき(例えばクリップ間にクロスフェードをかけるなど)に有効なショートカット・キー。何度も拡大しても倍率や表示個所が記録されているので、何回かXを押すと元の表示へ戻れる。

 

 最後の方はショートカット・キーの紹介コーナーのようになってしまったが、Liveは理解を深めるうちに“こんな便利な技ができるんだ!”という瞬間がとても多い。

 

 6年前に僕がAbleton 認定トレーナーになったとき、“ 認定されちゃったし、なんかやるかぁ〜!”とTwitterで“#Live 一口メモ”のハッシュタグでLiveのTipsや使いやすいポイントをツイートしていた。次第にほかの人たちが同ハッシュタグでツイートしてくれるようになり、現在はAbletonの日本公式アカウント(@AbletonJP)までも新機能紹介とともにツイートしているので、ぜひチェックしてLiveの使いやすさをどんどん知ってほしい。また、皆さんもLiveを使って“これは便利!”と思ったら、ぜひ書き込んでほしい(カブってもOK)。それを読んだ誰かも“うわ、これめっちゃ便利!”と思うに違いない。

 

草間 敬

【Profile】25年以上に渡り、作編曲やエンジニアとして数多くのアルバム制作に参加。豊富な知識と経験による独自の手法は、ミュージシャン達からの信頼も厚い。近年はライブオペレーション活動も多く手がけ、AA=、SEKAI NO OWARIなどのライヴでマニピュレートを担当。現在は今井慎太郎とのユニット=mode-rateで精力的に作品をリリースしつつ、金子ノブアキらとRED ORCAの活動を繰り広げている。

【Recent work】

Wild Tokyo

Wild Tokyo

  • RED ORCA
  • ロック
  • ¥1833

 

製品情報

www.ableton.com

 

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