「ABLETON Live 11」製品レビュー:オーディオやMIDI編集機能が大きく進化したDAWソフトウェア最新版

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 ベルリンを拠点とするABLETONが開発したDAW=Liveは2001年に登場して以来、今では幅広い音楽ジャンルのアーティストに愛用されています。2021年上旬、このLiveがアップデートしてLive 11になります。これまでLiveはアップデートの間隔が長かったため、3年前にLive 10をレビューしたときは、“今後じっくり進化するだろう”と書いたものの、予想を見事に外してしまいました。手元にはベータ版Live 11 Suiteがありますので、早速チェックしてみましょう。なお、これは開発途中のバージョンなので、製品版では一部機能が変更になる可能性があります。

各トラックにはCPU負荷を表すメーターを採用
演奏テイクを編集/選別できるコンピング機能

 Live 11はMac/Windowsで動作するDAW。搭載する機能や、付属するインストゥルメント、オーディオ/MIDIエフェクト/サウンド・ライブラリーの数によって、Intro/Standard/Suiteの3つのエディションに分かれています。

 

 Liveのインターフェースは、“クリップ”と呼ばれるオーディオ・サンプルやMIDIシーケンスを含んだボックスを、左から右に流れるタイムラインに並べて曲の構成を組むアレンジメントビューと、各トラックごとのスロットに縦に並べて再生するセッションビューの2画面構成です。

 

 Live最大の特徴と言えるのはこのセッションビューで、任意のクリップを再生していくことによって、時間軸を気にすることなく自由にオーディオ・サンプルやシーケンスを再生可能です。これは作曲のアイデアをスケッチしたり、音作りの実験や、ライブでの即興パフォーマンスをする上で重宝する機能だと言えます。

 

 ちなみにLiveは全体的に直線や丸などを用いたシンプルなデザインなので、実際のスタジオ機器の外観を模したDAWやプラグインに慣れた方にとっては、ややとっつきづらい印象があるかもしれません。しかし、実際に使ってみると視認性に優れていて、操作もドラッグ&ドロップを中心とした分かりやすいものになっています。

 

 Live 11の操作画面を見てみると、ところどころ新しくなった印象を持ちました。特にミキサーセクションでは、各チャンネル最下部にそれぞれのCPU負荷を表すメーターを表示できて新鮮です。これで、最もCPUを使用しているトラックを一目で特定できます。

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セッションビューのミキサーセクションでは、各チャンネルの最下部にトラックのCPU負荷を表すメーターを採用。どのトラックが、どの程度CPUに負荷をかけているのかを一目で判断できる

 Live 11の新機能で一番目を引きそうなのは、MIDIやオーディオにおける複数の演奏テイクを編集/選別できる“コンピング”機能。この機能は以前から追加要望の声が多く、Liveでボーカルや楽器を録音するユーザーなど、これを待ち望んでいた方も多いことでしょう。オーディオやMIDIの演奏テイクを録りためて、後から良い部分同士をつなぎ合わせることができます。

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複数の演奏テイクを編集/選別できるコンピング機能。アレンジメントビュー右側にあるトラック名を右クリックして“テイクレーンを表示”を選択すると、レコーディングした複数のテイクをテイクレーンとして展開することが可能。テイクレーンで良いテイク部分のみをドラッグするだけで、任意のテイク同士を簡単につなぎ合わせられる

 コンピングするには、アレンジメントビューの指定範囲で複数テイクを録音後、トラック名を右クリックして“テイクレーンを表示”を選択し、録音したテイクの使いたい部分をドラッグするだけ。テイクごとの試聴も容易に行えるので、この簡単な操作性は“さすがABLETON!”と言えるでしょう。このコンピング機能ではテイク同士を細かく切り刻むようなエディットもできるので、テイクをつなぎ合わせる本来の用途以外にも面白い使い方ができそうです。

 

付属インストゥルメントがMPEに対応
ピアノ・ロールを任意のスケールのみ表示可能

 Live 11は、MIDIの新しい規格であるMPE(MIDI Polyphonic Expression)に対応。MPE対応MIDIコントローラーを使えば、コードを弾いたときにノートごとにピッチやモジュレーションなどのパラメーターを別々に制御することができます。Liveの付属デバイスでMPEに対応するのは、インストゥルメントのWavetableのほか、Sampler、MIDIエフェクトのArpeggiatorです。もちろん、MPE対応サード・パーティー製プラグインも使えます。

 

 筆者はMPE自体は知っていたものの、実際に使うのは初めて。Wavetableではシンセ・パッドの音色を鳴らしながら、コードを構成するノートごとにフィルターの開き具合を調整して揺らしたり、各ノートにピッチ・ベンドをかけてコードの構成音を変えたりと、シンセサイザーの新たな表現が可能です。最近のMIDIコントローラーはMPE対応の製品が増えてきたので、思わず筆者も一台欲しくなりました。

 

 これに伴い、Live 11ではMIDI関連の編集機能もアップデート。ピッチ/スライド/プレッシャーなどMPEに関するパラメーターを調節する“エクスプレッションビュー”や、ピアノロールを任意のスケールのみ表示させることができる“スケール・モード”が追加されています。

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画面下段には、エクスプレッションビューを新たに採用。Slide/Pressure/Velocity/R.Velocityといった、MPEで使用するパラメーターを調節できる。画面上部に見えるピアノロールでは、スケールを指定することでそのスケールに該当するノートのみを表示させることが可能

 個人的に好きなのは、ノートの発音率をコントロールする“プロバビリティ”機能。例えばドラムを打ち込む際、キックやスネアなどビートの主要な部分の発音率は高い確率、ハイハットやパーカッションは低い確率にすることにより、同じMIDIパターンの再生を繰り返しても、同一のドラム・パターンにはなりません。このプロバビリティ機能、最近のプラグインなどにも搭載されていますが、DAW自体に搭載されると使い勝手は飛躍的に向上します。単調なループ感を減らしたいときに、強力な武器となるでしょう。

 

 また、外部からの音声入力信号のテンポにLiveのテンポを自動的に同機させる“テンポフォロワー”も気になる機能の一つ。オーディオI/OにDJミックスなどの音源を入力し、画面左上にある“Follow”ボタンをオンにすると、自動的にLiveがテンポを検出して合わせます。これはDJや生演奏とのセッションに使いたくなる楽しい機能です。

 

コンボリューションとアルゴリズミックを備える
オーディオ・エフェクトHybrid Reverbが付属

 次はLive 11で新規追加されるオーディオ・エフェクトを見てみましょう。まずは、コンボリューションとアルゴリズミックの両方を持つリバーブのHybrid Reverb(Suiteに付属)。IRデータで実際の空間をリアルに再現したり、物理的に不可能な残響音を表現したり、その両者をミックスすることもできます。中でも内蔵アルゴリズムの一つである“Shimmer”は秀逸で、音源にキラキラしたリバーブを加えることが可能。このHybrid Reverbはさまざまなリバーブが作れるので、従来からLiveに付属するReverbがアップグレードしたものと言えそうです。

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コンボリューション・リバーブとアルゴリズミック・リバーブの両方を備えるオーディオ・エフェクト、Hybrid Reverb。好みのIRとアルゴリズムを併用でき、別画面ではEQ設定も行える

 またSpectral Resonator(Suiteに付属)は、入力音を周波数ごとに細かく分割して処理するフーリエ変換によって、全く違うサウンドに変えるオーディオ・エフェクト。ピッチ・シフトにも似たエフェクトで、音程を変化させるだけでなく、音自体を引き延ばすこともできます。

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Spectral Resonatorは、入力音を分解したり、引き伸ばしたりして全く違う響きに変える。外部MIDIノートを入力することで、ボコーダーのような使い方もできる

 これと似たような仕組みのエフェクトがSpectral Time(Suiteに付属)。こちらはディレイ音をフーリエ変換することにより、奇麗なエコー・サウンドから変態的なテクスチャーまで生み出せます。両者とも、原音をとどめないくらい大胆かつ複雑に音を変化させるため、パッド・シンセや、サウンドスケープのような音色を作るときに役立つでしょう。

 

 従来のLive付属オーディオ・エフェクトも幾つかアップデートされています。ひずみ系エフェクトの定番であるビット・クラッシャーのReduxは、これまでパラメーターが少ないシンプルな仕様でしたが、Live 11ではフィルターなどを組み合わせて、より追い込んだ音作りができるようになりました。

 

 さらにこれまでのChorusやPhaser、Flangerエフェクトは一新してPhaser-Flanger、Chorus-Ensembleに生まれ変わりました。それぞれ3つのモードでエフェクトのキャラクターを選択でき、音作りの幅も広がって音質も向上。これまでこうしたエフェクトはサード・パーティ製のプラグインに頼っていましたが、これからはその必要も無さそうです。

 

ピアノ/弦/ブラスから電子音まで
バランス良く収録されたサウンド・ライブラリー

 今回のベータ版には未収録ですが、Live 11には新たなサウンド・ライブラリーやエフェクトが、アドオンの“Pack”という形で追加されます。特にサウンド・ライブラリーには、ピアノ/ストリングス/ブラスといった生楽器から、エクスペリメンタルな電子音までバランス良く収録される予定で、Liveのインストゥルメントと組み合わせれば、さらに幅広いジャンルの制作に対応できるでしょう。

 

 ほかにもLiveを用いてライブ・パフォーマンスする方にはおなじみのRackとフォローアクション機能もより充実。Rackは、複数のインストゥルメントやオーディオ・エフェクトをグループ化して、まとめて操作することに特化した機能ですが、Live 11ではそのツマミが最大16個まで増やせ、ランダマイズまで行えるようになりました。また、それらの値を記録するための“スナップショット”機能も搭載し、値の記録/リコールが可能に。

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複数のインストゥルメントやエフェクトをグループ化するRack機能。画面左がInstrument Rackで、同右がDrum Rackとなっている。Live 11ではコントロールできるツマミが最大16個に増え、ランダマイズやスナップショットなどの機能が搭載された

 さらに、セッションビュー上でクリップ再生のシーケンスを組む“フォローアクション”機能はシーンごとにも適用できるようになったので、筆者もライブでLive 11を使うのが楽しみです。

 

 さて、ここまでLive 11を見てきましたが、コンピング機能の搭載といったユーザーからの要望に応えながらも、MPEへの対応、MIDI編集機能の強化など、筆者的にはLive 10のときに比べて“攻めのアップデート”という印象でワクワクしました。Live 11は既存ユーザーだけでなく、Live未体験のユーザーにもお薦め。バンドでのボーカル/楽器のレコーディングから、ポップスなどアレンジが肝となる音楽ジャンルの制作まで使えます。これは製品版のリリースが待ち遠しくなりますね。

 

KOYAS

【Profile】ABLETON認定トレーナー。自身のアーティスト活動のほか、音楽レーベルpsymaticsの運営、Liveユーザー・グループAbleton Meetup Tokyoの発起人としてイベントの企画も行っている。

 

ABLETON Live 11

Live 11 Intro:9,819円、Live 11 Standard:44,364円、Live 11 Suite:73,455円(いずれもダウンロード版)

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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境

 

ABLETON Live 11 製品情報

www.ableton.com

 

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