EXPRESSIVE E Imagine レビュー:物理モデリング方式のシンセ・エンジンを2基搭載したソフト音源

EXPRESSIVE E Imagine レビュー:物理モデリング方式のシンセ・エンジンを2基搭載したソフト音源

 EXPRESSIVE Eと言えば、ToucheやTouche SEなどのフィジカル・コントローラーが思い浮かびます。そんなEXPRESSIVE Eの最新作は、物理モデリングを得意とするメーカーAPPLIED ACOUSTICS SYSTEMS(AAS)とコラボしたソフト・シンセ、Imagineです。

過去に類を見ないモダンな音色

 Imagineは多くのシンセで用いられる減算合成方式ではなく、物理モデリング方式を採用していることが特徴の一つです。音源部はAASとのコラボにより実現したそう。筆者は同社の物理モデリング・シンセがお気に入りなので、縁を感じてうれしいです。

 

 まずはざっくりとした仕様から眺めてみましょう。Imagineには2つの物理モデリング・シンセが搭載されています。シンセの後段にはエフェクトもあり、複雑にモジュレーションをかけることも可能です。また作成した音色をメモリーすることもできます。ポリ数は最大8。CPUパワーを必要とする物理モデリング・シンセにしては、なかなか頑張った数値だと思います。

 

 プリセットを見てみると、Bass/Keys/Mallets/Soundscapesといった一般的なジャンルが網羅されています。音色に関しては代表的なシンセ・パッチ系もある一方で、聴いたことの無いような新しい音が満載です。これは“Imagineは昔のシンセを模倣するのではなく、モダンなシンセを目指します”という意思表明のように感じられます。筆者が過去に触った物理モデリング系ソフトと一線を画す仕上がりで、とりわけ表現力が高いと感じました。そのモダンな音色だけではなく、2つのシンセが同時に使えることでモーフィングがやりやすかったりするところや、モジュレーションを使ったときの時間軸での音質変化の細かさもポイントです。

音の組み合わせなどを選択。多彩なモジュレーションで音作り可能

 音色を作成するにあたり、まずはcategoriesから2つの音源素材の組み合わせを選択します。音源素材はskin(皮)、string(弦)、bar(木片)、tube(管)の4つです。同じ素材同士を選ぶこともできるので、組み合わせは全部で10通り。ここでは“string(弦)+tube(管)”を選択してみましょう。

 

 次に、選んだ組み合わせに合った楽器をinstrumentsから選択します。これはそれぞれに約10種類程度用意されています。ここでは名前から音が想像しやすい“Banjopipe”を選択してみましょう。たしかにバンジョーのような、弦が円筒形の管に張られたような、そんな音に聴こえます。

 

 最後はcategoriesとinstrumentsで選んだ素材をどうやって鳴らすかをexcitatorsから選びます。選択肢はマレット/ノイズ/シーケンスの3つです。マレットは木槌、シーケンスは簡単なフレーズ再生機になっています。ノイズは、例えるならノイズをスピーカーから再生して“string(弦)とtube(管)で構成されたオブジェ”にぶつけた際の反響音といったイメージです。ともあれ、ここではマレットを選択してみましょう。

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categoriesから音源素材の組み合わせを、instrumentsからカテゴリーに合った楽器を選択。excitatorsから音の鳴らし方を選べる

 以上の過程を経て、“string(弦)とtube(管)が合体したバンジョーパイプのような音が出る楽器”を、木槌でたたいて音を出せるようになりました。ここまでが第一段階です。お気付きになった方も居ると思いますが、物理モデリングというのは、空想上のありえない音でも現実に作って聴くことができてしまうというのが面白さの一つなのですね。

 

 それでは第二段階に進みましょう。パネルに表示されたパラメーターで、先ほど作成した音色をさらに追い込んでいきます。音の明るさや木槌でたたく位置、さらにADSRのエンベロープ・ジェネレーターなどを調整することが可能です。また、画面最下部のタブからエフェクトのページに切り替えると、フリケンシー・シフターやEQ、リバーブなどのエフェクトが調整可能です。フィルターやリング・モジュレーターなど11種類のうち2種類を呼び出して使えるEXPRESSIVE FXというラックも用意されています。

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エフェクトを調整可能なウィンドウ。左上部はビブラート/フリケンシー・シフター。右上部はEQとコンプレッサー。中央はユーザーが11種類のうち2種類のエフェクトを選択可能なラックになっている。左下部はステレオ・ディレイ、右下部はプレート・リバーブだ

 そして、エフェクトのページ下部のモジュレーション・システムがなかなか重要です。まず、ソースは基本的にマルチエンベロープ・ジェネレーターになります。9種類のカテゴリーの中にそれぞれ約10種類の波形があり、ワンショットやループなども選択可能。波形を自分で作って10種類目のカテゴリーとして保存することもできます。そしてデスティネーションはパネルのパラメーターほぼ全部。つまりこのモジュレーション機能をうまく使うことで、2つのシンセをリンクさせたり交互にしたり、有機的な音作りが可能になるというわけです。パラメーターは直接MIDIコントローラーで操作することもできるので、同社のTouchéなどと組み合わせると面白いパフォーマンスに活用できること間違い無いでしょう。

 

 率直な話、素材を組み合わせる段階ではあまりに単純過ぎると思いましたが、モジュレーションにハマったころには“これはすごい!”と思えるようになりました。シンセはやはりモジュレーション次第ですね。何しろ音が良く独特の質感なので、音数少なめの音楽で使うとハマるでしょう。サウンド・スケープに代表される音作りを生業にされている方は要チェックですし、世界に一つだけのオリジナル楽器をフィジカル・コントローラーで操るなんてのもイケてますね。

 

H2
【Profile】音楽家/テクニカル・ライター。劇伴、CM、サントラ、ゲーム音楽などの制作に携わる。宅録、シンセ、コンピューターに草創期から接し、蓄積した知識を武器に執筆活動も行っている。

 

EXPRESSIVE E Imagine

オープン・プライス

(市場予想価格:19,250円前後)

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REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降(64ビット)
▪Windows:Windows 10(64ビット)
▪共通項目:INTEL Core I5-7400またはAMD Ryzen 5 2600以上のCPU、AU/VST/VST3対応のホスト・アプリケーション

製品情報

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www.snrec.jp