ABLETON Liveでの制作に欠かせないタイムワープ&Drum Rack活用術|解説:Kei Sugano(Dazzle Drums)

ABLETON Liveでの制作に欠かせないタイムワープ&Drum Rack活用術 解説:Kei Sugano(Dazzle Drums)

 僕が初めて触れたのはABLETON Live 6。大切な作曲家の先輩からプレゼントしていただきました。去年Live 11にアップデートしてからは、より一層Liveに日々向き合っています。まさかこの僕がサンレコの連載を担当するなんて、プロ・エンジニアの方々に囲まれると恐縮ですが、ハウス・ミュージックの作曲をする目線での解釈や基本的なTips、あらためて気付いたアップデートによる変更点など、全3回の連載をチェックしていただけたらうれしいです。

タイムワープの鍵となるモード選択とマーカー設定

 リアルタイムで思い付いた通りにサクサクと作業を進められるLiveとの出会いは、本当に衝撃的でした。特にDJでは、いかに他人と違うプレイをするかが大切で、そのために既存の曲を編集したり、リミックスしたりすることがあるので、オーディオ・テンポを自由自在に変更できるタイムワープ機能は非常に重宝しています。もちろん、既存曲を使用する際には権利関係を理解し、原曲のアーティストを尊重してクリエイトするのがベターです。テンポを変えオーディオを編集した場合でも、リズムやパーカッションはBeatsモード、ボーカルやベースなどはTonesモード、複雑なオーディオ・ファイルはComplexモードと、用途に合ったモード選択をするとスムーズに鳴ります。Beatsモードでは、トランジェントループモードをオフにし、トランジェントエンベローブの設定値を小さくしていくと、ゲート効果が得られ、よりタイトなサウンドにできます。

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オーディオ素材のテンポをBPMに追従させるワープ機能には、リズムが主要な素材に効果的なBeats、ピッチ構造を持つ素材に効果的なTones、曲全体に効果的なComplexなど複数のストレッチ・モードが用意されている

 その基準となるワープマーカーのポイント設定は、曲のグルーブを左右する非常に重要なところ。キックのタイミングに合わせるか、スネアのタイミングに合わせるかは、原曲のグルーブにとってどちらを優先する方がよいかを考えて判断します。これは自分が打ち込みをするときの感覚に近いですね。オーディオ・ファイルを張り付けた時点である程度Live側でも自動調整してくれますが、僕の場合、ここはひたすらポイントごとに耳で合わせていきます。

Drum Rackを活用するための再生モード&チェーン・リスト

 サンプリング・カルチャーと打ち込み音楽からこの世界に入った僕にとって、Drum Rackのワークフローは親しみやすいものの一つです。キーが割り振られた各パッドに好きなオーディオ・ファイルを配置して、Live内蔵サンプラーのSimplerやSamplerで鳴らすことはもちろん、シンセサイザーのインストゥルメントであるOperatorやWavetableのサウンドを並べることもできるので、ざらついたビンテージ・サンプルと無機質なシンセ・パーカッションを組み合わせたレイヤー・サウンドを作ることもできます。

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Drum Rackには、単音のサンプルだけでなく、OperatorやWavetableといったLive付属シンセ・インストゥルメントを組み込むこともできる

 パッドにインストールしたSimplerへは、単音のサンプルのみならずループ・サンプルも配置してみましょう。Simpler内のワンショット再生モードでは、ノートの長さにかかわらずループが最後まで再生されるトリガー・モードも備わっています。ワープ機能をオンにすることで再生速度がプロジェクトのテンポに合うので、Drum Rackで打ち込んだシーケンス上に、ラフにループ・サンプルをレイヤーすることも可能です。ループ・ポイントを任意の場所に設定して、ループの一部をアクセントとしてドラム・フィルのように鳴らしてもよいですね。

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ワンショット再生モードでは、2種類の再生方法から選択可能(赤枠)。一度発音するとノートの長さにかかわらずサンプルを最後まで再生するTRIGGERと、ノートの長さに合わせてサンプルが再生されるGATEが用意されている

 Drum Rackのチェーン・リスト内にある各サンプルの音量やセンド&リターンの調整を追い込むと、ミックス内でのグループ・チャンネルの鳴りがより映えます。各サンプルの出力チャンネルは個別に設定可能で、特定のサンプルのみをお気に入りのリターン・チャンネルへセンドすることもできます。

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チェーン・リスト内には、センド量の調整(緑枠)や音量調整(黄枠)、オーディオ出力先の設定(青枠)などの調整項目がパッドごとに用意されている

MIDIエフェクトやグルーヴ機能を使ったランダムで揺れのあるサウンド作り

 Drum Rackと一緒に機能させたいのは、ベロシティ設定やMIDIエフェクト、そしてMIDIクリップのグルーヴ設定です。これらを有効活用すると無機質な打ち込みのサウンドをランダムで揺れのあるサウンドにすることができます。グルーヴ・プリセットは、以前からLatin PercussionやSwing MPCシリーズなどを選ぶのがルーティーンでしたが、Live 11ではプリセットの種類が大幅に増加。制作において、その種類の多さにインスパイアされている部分は大きいです。中でも最近よく試しているのがJazz African Bongo 16th 115bpmで、6/8拍子など、アフリカン・パーカッションならではの複雑なグルーブ感が見事に表現されています。ここでも、反映したグルーブをそのまま使用するのではなく、それを元にしてグリッドを気にせず耳を頼りにMIDIノートを調整していきます。

 

 また、打ち込みのパーカッションでよく使うのが、MIDIエフェクトVelocityのランダム機能です。Live 11からはMIDIトラックにベロシティや発音確率のランダマイズ機能が追加されましたが、MIDIエフェクトのVelocityではドライブやコンプの設定もできるので、併用することでより効果的なサウンド・メイクが可能です。僕の場合、Drum Rackの前段に挿してパーカッション全体にかけるときには、ランダムの値は最大30程度とやや控えめに設定します。さらに、ドライブを上げてコンプを下げることで、前に出つつもまとまりのあるパーカッション・サウンドに仕上げることができるのです。

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筆者はMIDIエフェクトのVelocityを打ち込みのパーカッション・サウンドを入れたDrum Rack全体(赤枠)と個別のパッド(青枠)にそれぞれ適用し、ベロシティのランダマイズや、ドライブ、コンプの調整を行って揺れのあるサウンドに仕上げていく。全体はランダムの値を30程度、ドライブを上げてコンプを下げることで、前に出つつもまとまりのあるサウンドを目指すことができるという

 また、Drum Rackの各パッド内に挿して個々のサウンドに反映させることもできるので、こちらは大胆にランダムの値を50くらいに設定したり、設定しなかったりと、サウンドに合わせた調整をします。皆さんも、最終的にどんなバランスで個々の音を出力させたいかを考えながら、いろいろとトライしてみてください。

 

 Live 10から実装されたのが、MIDIのキャプチャ機能。画面上部のボタンを押すだけで、録音ボタンを押していなくても直前まで演奏していたMIDI情報が表示されます。ビートの打ち込みやキーボード演奏の際に、最初にインスパイアされた音の興奮のタッチを逃さない優れもの。もちろん練習を重ねたテイクは素晴らしいですが、僕としては意外とファースト・テイクが良い場合も多く、とてもうれしい機能です。

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Live画面上部にあるMIDIキャプチャ・ボタン(黄枠)を押すと、録音状態のオン/オフにかかわらず、その直前に演奏したMIDIデータをプロジェクト上に記録することができる

 まだまだ数少ない制作の手の内を見せるのは恥ずかしいですが、少しでも読者の方のスパイスになるならば幸いです。時間の許す限り、あなたなりのやり方を見つけてひたすらクリエイトしてみてはいかがでしょうか。

 

Kei Sugano

【Profile】Nagiとの2人組ユニットDazzle Drums。それぞれが90年代からDJ活動を開始し、ハウス・ミュージックを軸に幅広い選曲で新譜を織り交ぜプレイする。2005年より現在まで、King Street Sounds、BBE Musicなど数多くの海外レーベルからリリースを重ねる。2016年より海外でも積極的にDJツアーを行う。レギュラーDJはBlock Party、Music Of Many Colours、Worldwide FM、The Cabinn FM。

【Recent work】

『Night Jungle』
Dazzle Drums

(Green Parrot Recording)

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