ABLETON Live20周年おめでとうございます! 僕はヒップホップからこの世界に入ったこともあって、アナログ・ターンテーブルやサンプラーのみで作るなど、ありものでどこまで挑戦できるかというルーツなので、あえてLiveのみで制作することが多いです。ここ最近は、Live内で好きなデバイスWavetableとHybrid Reverbを使ってディープなシンセ・サウンドを作るのがお気に入りです。
ミニマルなサイン・ベース&徐々に変化するアルペジオの制作
Live 10から実装されたシンセ・インストゥルメントWavetableには驚きました。左上にある小さな矢印ボタンをクリックすると、デバイスの画面が上へと大幅に拡張されます。2系統のオシレーター、エンベロープ、LFOの波形が視覚化されるので作りたい音をイメージしやすく、モジュレーション・マトリクスとMIDIで直観的に設定してランダムに再生してくれる優れものです。Live 11からはMPEにも対応しました。名前の通り100種類を超えるウェーブテーブルが、複雑で美しいサウンドを生み出します。豊富なプリセットを自分好みにカスタマイズするも良し、一からじっくり作り込むも良しで、かなり幅の広い音が鳴らせます。
まずはシンプルでミニマルなサイン・ベースの作り方を紹介します。タイトなサウンドにしたいので、オシレーターはOsc 1のみを使い、カテゴリーはBasics→Sub2を選択。オシレーター内右端の波形ポジションのフェーダーは控えめで10%ほどにします。その下のアンプ・エンベロープのリリースは300ms以下が良いでしょう。
続いて、左端にあるSUBセクションをオン。Octaveを−1、Toneは20%ほどにすることで、低域が少し前に出てきます。フィルター・セクションの回路はMS2を選び、Driveを5dBほど上げて音に厚みを出します。最後に、モジュレーション・マトリックスでOsc 1 Pos(オシレーター・ポジション)をターゲットに、Ampを−10、Randを10ほどに設定。シンプルで落ち着きがあり、中高域のアタック・ノイズが微妙に変化するサイン・ベースが作れるでしょう。
次に、進化し続けるアフロ・ハウスでも欠かせない“徐々に変化するアルペジオ”も作ってみましょう。WavetableのほかにChordやArpeggiatorをまとめたMIDIエフェクト・ラックを作り、基本的なアルペジオのフレーズを再生しながらWavetableの波形ポジションやエフェクト、エンベロープの調整を追い込みます。ウェーブテーブルはOsc 1をFormant→Voice Harmonics、Osc 2をHarmonics→Sines 1に設定。ここでもポイントはモジュレーション・マトリクスで、フィルター・セクションや波形ポジションに動きを付けたり、LFOを複雑に設定することもできます。
2基のLFOは、テンポ同期やフェード設定も可能です。さらに2種類のフィルター周波数とDriveやSUBセクション、EchoとReverbのDry/Wetをオートメーションで展開にあわせて作り込むと、深さや広がりが表現できますね。ここで作った2つのフレーズは、前回同様Dazzle DrumsのSoundCloudにアップしたので、ぜひヘッドフォンなどでチェックしてみてください。
コンボリューション&アルゴリズムのHybrid Reverbで独創的な音作り
曲作りにおいて空間処理は大切なもの。プリプロでもミックス・ダウンにおいても上下左右や奥行きなど、どこに音を配置するかでだいぶ印象が変わってきます。Live 11から加わって特にうれしかったのが、Hybrid Reverb。これは、コンボリューション・リバーブとアルゴリズム・リバーブという2種類のリバーブが組み合わさって1つになったものです。コンボリューションIR(インパルス・レスポンス)は、リアルな響きから実際には出せないような響きまで235種類を用意。アルゴリズムは5種類あり、ディレイやディケイ、フィルターを調整してさまざまな残響を作り出していきます。
2つのリバーブは個別に調整でき、単体で適用することも、両方を直列または並列で組み合わせることも可能です。組み合わせる場合には、出力の混ざり具合を調整することもできます。残響が無限に続くFreeze機能なども使えば、よりアグレッシブに作り込めますね。リバーブ処理の前後には欠かせないEQや180Hz以下をモノラルにするMono機能、ビンテージ・デジタル・リバーブがエミュレートできるVintage機能も搭載。プリセットもカテゴリー別にたくさん用意されているので、まずはプリセットで音の変化を楽しんでみてはいかがでしょうか。単なるリバーブとは違う独創的な音色作りにインスパイアされ、新たなアレンジがどんどん生まれそうです。さらに、オーディオ・ファイルを取り込んでインパルス・レスポンスを再現することも可能。IRをキャプチャーできるMax for LiveデバイスIR Measurement Deviceと併せてハードウェア・リバーブの音響を再現してみたら、さらに可能性が広がりそうです。
このHybrid Reverbを使ったフレーズ内でのサウンドの変化を2パターンでSoundCloudにアップしました。プリセットのSlap Lo Fiを使った“African Bars”とプリセットFilter Wavesを使った“Chord”です。スクリーン・ショットで設定を紹介しますので、参考にしてみてください。
アップデートされたReduxでビンテージのひずみ感を施す
1990年代からAKAI PROFESSIONALのビンテージ・サンプラーを使い始めた僕にとって、ビット数とサンプル・レートをあえて落としたサウンドはなじみ深いです。そこでLive 11でアップデートされたエフェクトReduxを使います。今回は、ノイズとランダム性を生むJitterやダウン・サンプリング前後にかけられるFilter、波形を変化させるShapeを新たに搭載。Dry/Wetの追加もうれしいですね。先述のHybrid Reverbのサンプル・フレーズ“Chord”にはReduxのプリセットVintage Samplerを挿していますので、こちらも確認してみてください。僕の場合、多用し過ぎないように気を付けていて、極端にしてアクセントとして使うか、反対にビートなどにわずかにうっすらとビンテージのひずみの質感だけ乗せるかで使うことが多いですね。
Live 11へアップデートすることで、楽しみながら少しでも次のクリエイトにつながるように願っています。今回はこのような機会をありがとうございました!
Kei Sugano
【Profile】Nagiとの2人組ユニットDazzle Drums。それぞれが1990年代からDJ活動を開始し、ハウス・ミュージックを軸に幅広い選曲で新譜を織り交ぜプレイする。2005年より現在まで、King Street Sounds、BBE Musicなど数多くの海外レーベルからリリースを重ねる。2016年より海外でも積極的にDJツアーを行う。レギュラーDJはBlock Party、Music Of Many Colours、Worldwide FM、The Cabinn FM。
【Recent work】
『Night Jungle』
Dazzle Drums
(Green Parrot Recording)
ABLETON Live
LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境