芸人&プロデューサーとしての両脚を支える配信対応スペース
芸人としてはもちろん、音楽プロデューサーとしても活躍する古坂大魔王。2016年にピコ太郎「PPAP」が世界を席巻したことは広く知られるところだが、そこで使われたROLAND TR-808のサウンドに着目した音楽通も多かった。そんな古坂がプライベート・スタジオ=STUDIO PIKOを自宅に構えたのは1年前のこと。音楽制作と配信の両方に対応したスペースとなっている。
Text:iori matsumoto Photo:Hiroki Obara
PAスピーカーを爆音で鳴らせるブース
「25年くらい前、AIWAのコンポと、ROLANDのサンプラーMS-1、MC-505をつないで、MDに落として、コントに使う音を作り始めたんですよ。コント・ビデオでは権利関係でフリー音源しか使えないから、みんなありものしか使っていない中で、自分の曲を使えたらと思って。最初のスタジオはワンルームで、パソコンとEMAGIC LogicとWAVESプラグインを中心に、シンセを並べて。でも歌がうるさいと言われて引っ越しを繰り返すうちに、これは家を建てるところから始めないとダメだなと思うようになりました」
そう述懐する古坂。このプライベート・スタジオについては、「2019年の4月から計画を始めたので、コロナ禍で造ったと誤解されたくはないですね」と言い、こう続ける。
「スタジオとして防音施工をする前に、家が防音であれば最強じゃないかと考えていました。だからマンションじゃなくて、小さくてもいいから遮音性に定評あるハウス・メーカーの家に、スタジオを造ったら無敵じゃないかと。スタジオ部分はアコースティックエンジニアリングに依頼しました。ブースはドラムもたたけるくらいの遮音性能で、ライブ・ハウス並みの音が出せます。大型PAスピーカーを持ち込んで爆音で鳴らしてみましたが、戸外への音漏れは大丈夫でした」
ソフトに移行しつつ“三種の神器”もあり
配信も視野に入れたこのSTUDIO PIKOだが、まずは音楽制作に関することから聞いてみよう。
「鼻歌をiPhoneで録ったものを元に、YouTubeで最新の曲をチェックして方向性を探ります。そこからまずキックを決める。NATIVE INSTRUMENTS Battery 4かLogic ProのUltrabeatが多いです。APPLE Logic Proに、Apple Loopsを並べたり、打ち込んだりして、まず8小節のサビを作る。そこからミュートで抜き差しを考えながら、イントロ/Aメロ/Bメロ〜といった展開を考えていきます」
スタジオにはROLAND TR-808、TR-909、TB-303といういわゆる“テクノ三種の神器”がそろっているが、現在はソフト音源がメインだという。
「今はROLANDのサービス、Roland Cloudのソフト・シンセを主に使っています。でも実機を持っているというテンションの上がり方はすごい。今はみんなコスパに走っているけれど、コスパだけで考えたら、APPLE iPhoneだけでできた曲がもっと世界的にヒットを連発しているはず。僕にとってはコスパの反対が見た目で、見た目は大事なんです」
制作で特徴的なのは、マスタリング的な処理をしながら打ち込みをしていくことだ。
「ドラムなどのパート単位でWAVES V-Comp、Renaissance Compressor、L3 Multimaximizerを順にインサートして、完成形を見ながら大きな音で制作することで、余計な音を入れなくてもいいようにしたいんです。でも内部処理に限界を感じ始めて、今年SSL Fusionを導入しました。これはメタクソバケモノですね。DRIVEをちょっと上げて、トランスを入れて、WIDTHとSPACEを調整する。Kポップはみんなこれを通しているんじゃないか?と思うような音にできます」
若手芸人に配信で食べられる形を“提示”したい
6畳ほどのコントロール・ルームと対照的に、先述のブースはその2倍強ほどの広いスペースとなっている。
「レコーディングも考慮していますが、今の時代は生配信ができなかったら意味が無い。目標は、ここでの単独お笑い配信ライブなんです。中央に立っていればプロジェクターから僕を抜けてスクリーンに投影されるので、単独ライブはできる。いろいろテストしていますが、既存の双方向プラットフォームだと視聴人数も限られるし、拍手が聴こえないから、自分がつまらない(笑)。まだ視聴者のマインド・インフラが整っていないんじゃないかと思います。そこの問題をクリアすれば、ここで演奏したり漫才をしたりしたら食べていける……今のところは全く無理だし、僕の年齢でそれをやっていくのは難しいかもしれないけれど、この形で若手の人がやったら相当いけるというものを提示してみたいんです」
そう語る古坂は、ピコ太郎の活躍を見れば分かるように、新しいメディアでの表現の方法を常に模索し続けている。2022年は活動30周年を迎え、お笑いはもちろん音楽プロジェクトも多数準備中とのことだ。
「まだボーカル1人だけとかが多いのでLogic Proで録っていますが、人数が大きくなってもいいように、AVID Pro Tools|HDXも用意してあります。BLACK MAGIC DESIGNの映像機器があったり、配信システムがあったり、覚えなきゃいけないことが多くて大変です(笑)」
Equipment
DAW System
Computer:APPLE iMac Pro
DAW:APPLE Logic Pro、AVID Pro Tools|HDX
Audio I/O:AVID Pro Tools|MTRX Studio
Controller:AVID Pro Tools|S1、Pro Tools|Control
Outboard & Effects
Mic Preamp:AMS NEVE 1073DPD
Compressor:WARM AUDIO WA-2A、TUBE-TECH CL 1B
Others:SSL Fusion
Recording & Monitoring
Mixer/MTR:ZOOM LiveTrak L-20、L-12
Monitor Speaker:GENELEC S360、BOSE RMU208、TASCAM VL-S3BT Miku
Microphone:NEUMANN U87AI、MXL V69、RODE NT2、NT2000
Headphone:SONY MDR-M1ST
Monitor Controller:GRACE DESIGN M905
Cue System:BEHRINGER Powerplay P16
Instruments
Keyboard & Synthesizer:YAMAHA Reface CS、CASIO SA-46、ROLAND TB-303
Rhythm Machine:ROLAND TR-808、TR-909
古坂大魔王
底ぬけAIR-LINEでデビュー。現在は芸人としてバラエティ番組への出演をはじめ、さまざまなアーティストとのコラボや楽曲制作を行う音楽プロデューサーとしても活躍。シンガー・ソングライターピコ太郎のプロデューサーとして「PPAP」を世界的ブレイクへ導く。2003年以降、テクノ・ユニットNO BOTTOM!の活動に専念した時期もあり。
Recent Work
【重大発表】古坂・ピコによる一大プロジェクト始動!!