スピーディなトラック・メイクに欠かせないABLETON Live付属デバイスの活用テクニック|解説:Mimi Del Ray

スピーディなトラック・メイクに欠かせないABLETON Live付属デバイスの活用テクニック|解説:Mimi Del Ray

 起きたてのまま、まずスピーカー、オーディオ・インターフェース、MIDIキーボード、パソコンのスイッチをオン、かわいい機材たち、おはようございます。今日はどんな気分?と自分に問いかけながらLiveを立ち上げます。私はLiveのアレンジメントビューが大好きです。言葉では伝えられない心模様とアレンジメントビューはいつもリンクしていて、鏡みたいなものです。初めて買ったDAWソフト、長年一緒に戦ってきた相棒について語れる日が来るなんて光栄です!

ビルドアップ用Packを駆使した原形をとどめないキックの音作り

 化粧下地が良くないと上に塗るファンデーションが乗らないように、やはり何事も基本的なベースが大事です。パン/音の定位、ボリューム、それに伴うオートメーションなど、Liveはベースを整えやすく、上にいろいろ重ねて散らかったとしても直しやすい。直感的であり、視覚的にも音を操りやすいです。私にはLive付属のUtility(ボリュームを描く)、パン、EQ(ある程度音の位置を決める)、Auto Filter(縦方向の音の距離感を調整し、任意の場所を探る)は欠かせなく、どんなに興奮して頭の中を流れる音を打ち込んでいる最中でも必ずトラックにインサートし、最終的な理想の音をイメージしながら最初の段階で調整します。

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音の距離感を調整するために使うAuto Filterや音量のオートメーションを描くUtilityは筆者の制作に欠かせないLive付属デバイスとなっている

 自分自身を音で変換するときに、ビートから訴えるか、メロディやコードから奏でるか。後者の場合、必ずGrand Pianoを立ち上げます。

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メロディやコードから制作をスタートする際に必ず立ち上げるピアノのソフト音源、Grand Piano。Live 11 Standard、Suiteに付属し、Live 11では新たに120種類のMIDIクリップが追加された

 そこからUtility、Compressor、Reverbなどでキャラを決めていくのですが、たくさんピアノのソフト音源がある中で、LiveのGrand Pianoは数本レイヤーしてもCPUの負荷を感じないし、クリアでピアノのキャラクターも直感的に変えやすく、イメージを音にする工程には欠かせません。頭の中から流れ出る旋律が指に落ち、フィットし、うまく表現させてくれるというような感覚になる、レペゼン・グランド・ピアノ様!という感じです。

 美しいメロディ・ラインができたら、太いROLAND TR-808系キックでどぎついビートを打ち込もう、という流れになることが多いのですが、その際、Build and DropというPackがスタメンになりつつあります。EDMなどのダンス・ミュージックでビルドアップさせるときにかなり使いやすく、私はキックの整形手術を行う感覚で使っています。

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ビルドアップなどに適したサウンドとプリセットが収録されたPackのBuild and Drop(赤枠)。筆者はROLAND TR-808系キックの後段にBuild and DropのプリセットであるBuild & BreakとGrain Delayをインサートしてキックの音色を変化させていく

 Filter Cutoff、Dirt Phaseを全開にすると、なんだかROLAND TB-303の音色を思い出させるようなアシッドな感じに変形させられるので、とっても気持ち良いです。Voco Crushを調整すると、インダストリアルな感じや混とんとした退廃的なゴッサム・シティ感みたいなところにたどり着けます。さらにBeat Repeatのオートメーションを細かく描いたりすると、元のキックの音からは想像が付かないようなかなりトリッピーな物体に変換されていきます。どのパラメーターもいじればいじるほどいろいろな顔を見られるのです。隠し味にもなれば、曲のエッジを立たせたり立体性を出すことも可能だし、自分が予想できない音になる楽しみもあってドキドキさせられます。ここにさらにGrain Delayを足したらもう酸にまみれた脳内伝達物質の完成です。

スピーディなMIDI→オーディオ変換とスムーズなオートメーション編集

 制作中はいつもサーフィンの波の中に居るような感覚で、かなりハイスピードでサーフボードから落ちないように、頭の中に流れる音を逃さないように全集中で波乗りしている感じなのですが、そのときもLiveはとても賢いです。主にベース、キックなどのドラム隊、その上に乗るストリングスなどはオーディオに変えて編集したくなるので、それらのMIDIトラックの下にオーディオ・トラックを作成。オーディオ・トラックの入力チャンネルとして先ほどのMIDIトラックを選択し、録音ボタンを押して再生すると一発で落とし込めます。

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オーディオ・トラックを作成し、入力チャンネル(黄枠)をオーディオ化したいMIDIトラックに設定。アーム・ボタン(青枠)をオンにして録音を開始すると、MIDIトラックをオーディオ化することができる

 もちろん慣れもあると思うのですが、Liveはやはりオーディオの編集、取り扱いに優れていると思います。絶賛集中制作サーフィン中!のときに一手間二手間あるとせっかくの波を台無しにしてしまいますが、Liveは大事なピンポイントの部分を直感的に作業できます。

 オーディオに変換した後、曲に動きを出したいときにはよく一音一音をリバースさせます。その手順は、MIDIトラックをオーディオに変換→クリップを反転→アタックのフェードを描く(Live 11からはさらにオートメーションが描きやすくなり、気持ちが高まりました)→Gainを任意のボリュームになるよう調整→リバース感が奇麗に出るようにUtilityを使ってボリューム・オートメーションを描く。この一連のフロウがかなりスムーズにできることがお気に入りです。

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曲に動きを出したいときは、リバースを活用する筆者。オーディオ化したクリップの上で右クリック(Macではctrl+クリック)を押し、メニューから“クリップを反転”を選択するとリバース状態に。その後、Auto Filter内のAttack、Utility内のGainのオートメーションをそれぞれ描いていく

 さらに、海外の有名アーティストのアカペラのボーカル・データを使って曲を作ったりもするのですが、Warp機能を使ってボーカルをビートに合わせたり、自分の好きなタイミングに変えたりしやすいですし、ピッチのトランスポーズはオートメーションをクリップ内で描けるので重宝している機能です。加えて、Live 11で追加されたHybrid Reverbなどをかけると、さらに鋭いサウンドを作ることができると感じます。

Envelope Followerで音を散らして広がりを出す

 曲が平べったくならないためにはベースを整えながら作っていくことが大切で、いったんプレイバックすると足りない要素がどんどん見えてきます。リバーブやディレイ、フィルターやコーラスなどのモジュレーションを使って音の広がりを出していくことはもちろんですが、Live 11にアップデートしてからは、キックのサイド・チェインのようにモジュレーション系エフェクトを動かせるEnvelope Followerをよく使います。

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Live 11 Suiteで使用可能なMax for Liveのオーディオ・エフェクトEnvelope Follower。画面左に位置するMapボタン(赤枠)を押して、任意のパラメーターを選択することでマッピングが完了。選択したパラメーターの値に連続的な変化を与えることができる

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筆者が実際に使用しているEnvelope Follower(画像右)を含むエフェクト・チェインの一部。ここでは、Auto FilterのFilterセクションにあるFrequency(黄枠)をマッピングしている

 エフェクトの後段にEnvelope Followerを挿し、動かしたいパラメーターをマッピングして調整。その音が持つ周波数を空気に散らし、その散らされた部分を動かす感覚です。単にリバーブやディレイを使うよりも、左右の耳の三半規管を小さくも大きくもゆらゆらとふりこのように動かすことができるので、音をいろいろなところに飛び散らすことができます。

 というわけでここまで書かせていただきましたが、Live付属のデバイスには隠れた逸品や使い方がたくさん眠っていると思うので、私もこれからもLiveの中をdigっていこうと思っています。Liveは私たちを飽きさせないし、どんな表現も怖がらなくていいと思わせてくれる作曲ツールです。

 

Mimi Del Ray

【Profile】プロデュース/ソング・ライティング/トラック・メイキング/アレンジなどのミュージック・プロダクションはもちろんのこと、コンセプト立案からの制作やアーティスト・プロデュース、DJまで、あらゆる仕事をこなすマルチ音楽プロデューサー。ヒップホップを軸に、トラップやベース・ミュージックの要素も織り交ぜたスキルフルかつアンダーグラウンドなプレイスタイルは、国内外問わず多くの注目を集める。

【Recent work】

『HOTEL CLOUD』
DFT
(bpm tokyo / bpm plus asia)

 

ABLETON Live

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LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境

製品情報