鈴木雅之や福山雅治などを手掛けるエンジニアの山内"Dr."隆義氏。彼が絶対的な信頼を置くツールの中には、長年にわたってAMS NEVE製品が存在してきた。ここでは、山内氏に1073Nと1073SPXのテストを依頼。サウンドの特徴を尋ねつつ、AMS NEVEへの思いを語ってもらった。
Photo:Hiroki Obara
個体差が少なくステレオ・ペアでの位相が良い
エンジニアとして長きにわたり活躍する山内氏。初めてNEVEにあこがれを抱いたのはなんと中学生時代だという。
「エンジニアになりたいと思って買った『スタジオ プロ・テクニックのすべて』(CBS・ソニー)というレコードにNEVEのコンソールやモジュールが出ていたんです。NEVEはエンジニアとしての一つのステータスというところがあって、ずっとビンテージの1073を使っていました。でもコンディションにムラがあって、もっと良いものは無いかなと思っているときにAMS NEVE製品が出てきたんです。そこで、AMS NEVE 1073DPDをすぐに買いました。いろいろなメーカーが1073のリイシューを出していますが、一番音を分かっているであろう直系のメーカーが良いなと思ったんです」
氏は1073DPD導入時のインプレッションをこう続ける。
「ビンテージの1073とほぼ同等の操作感と音調でした。僕はオーケストラやストリングスなど一発勝負の録音が多いので、新しいモデルの方が動作が安定していますし、機械的なトラブルもほぼ無いので安心です。個体差が少ないのでステレオ・ペアで使うときも位相が良いですね」
現在山内氏はAMS NEVE 4081と1073LBを使用する。
「システムをコンパクトにするために4081を買いました。高域は1073とよく似ていますが、ボトムの張り出し具合がしっかりしている印象です。ただ、ボーカルはどうしても1073が良くて1073LBを導入しました。オケの中のポジションがしっかりするのでミックスの際にコントロールしやすく、特に鈴木雅之さんや福山雅治さんなど低音成分が多いシンガーの場合、1073LBを使うとピシっとうまくハマるんです」
シルキーな高域と粘りやコシのある中低域
続いて、1073Nと1073SPXのサウンドの印象を尋ねた。
「それぞれNEVEらしいシルキーさを持った音ですね。1073Nは、僕がイメージする1073の音がそのまま出ています。1073SPXは、アウトプット・ノブがあって使いやすいですね。特にNEVEはひずむ寸前のゲイン・レベルが最もパフォーマンスを発揮するので、ゲインをひずむ直前まで上げて、手元で出力を下げられるのはすごく大きな利点です」
加えて、両機のEQの性能についても優れていると話す。
「徐々にかかっていくのが自然で音楽的でした。高域はギター・アンプでいうプレゼンスをいじるような気持ちで、ちょっと倍音を増やしたいときにスッと上げる使い方ができますね」
最後に、AMS NEVE製品全体のサウンドの特徴と1073を使いこなすためのコツを伝授してもらった。
「シルキーな高域と粘りやコシのある中低域が、本当にNEVEの音だなと思います。音像全体を押し出すパワー感もありますね。個性が出るので、メインの歌やソロ楽器、ここぞ!という音にスポットで使うことで、その音が全面にしっかりと押し出されて最終的により良いミックスが可能になると思います。スタジオでたまに使う程度ではなく、自分の機材としてきちんとメインテナンスをして、“あんばい”を身体に入れることで使いこなせるようになると感じます。信頼性を含め所有する価値があり、所有欲をも満たしてくれるAMS NEVEだから、ぜひ買ってみてほしいと思いますね」
山内氏お薦めの1073 EQセッティング
山内"Dr."隆義
【Profile】井上鑑氏や本間昭光氏、服部隆之氏らがプロデュース/編曲する作品に従事し、長きにわたりJポップを支えるレコーディング・エンジニア。近年はその経験を生かした80’sサウンドに傾倒中