Studio Oneは付属エフェクトが充実! 使い方の基本とTipsを紹介|解説:山路洸至(the engy)

Studio Oneは付属エフェクトが充実! 使い方の基本とTipsを紹介|解説:山路洸至(the engy)

 こんにちは。バンドthe engyでボーカルとトラック・メイクを担当している山路洸至です。今回は、僕が制作でよく使うPRESONUS Studio Oneの純正プラグイン・エフェクトについて書きたいと思います。Studio Oneの付属エフェクトは種類が豊富で、サウンド・メイク〜ミキシングに役立つものがそろっています。その中から幾つかをピックアップし、使用方法とともに紹介しましょう。

全トラックに薄くリバーブをかける意味

 Studio One上にプラグイン・エフェクトを立ち上げる方法は、好きなものをブラウザーから選び、トラックにドラッグ&ドロップするだけです。とても手軽に立ち上げられるので、気になったものはどんどん追加してみるといいでしょう。ドラッグ&ドロップしたエフェクトはインサート・スロットに表示され、複数ある場合はドラッグ&ドロップで並べ替えることが可能。例えば、EQ→コンプというルーティングを瞬時にコンプ→EQへ変更できます。

Studio Oneでは、さまざまな操作がドラッグ&ドロップで行える。画面は、ブラウザーからトラックにプラグイン・エフェクトをドラッグ&ドロップして、立ち上げているところ。インサート・スロット(黄枠)に複数のエフェクトがある場合は、それらの順番(ルーティング)をドラッグ&ドロップで変更し、かかり具合を調整することが可能だ

Studio Oneでは、さまざまな操作がドラッグ&ドロップで行える。画面は、ブラウザーからトラックにプラグイン・エフェクトをドラッグ&ドロップして、立ち上げているところ。インサート・スロット(黄枠)に複数のエフェクトがある場合は、それらの順番(ルーティング)をドラッグ&ドロップで変更し、かかり具合を調整することが可能だ

 付属エフェクトの中で僕がよく使うのは、例えばRoom Reverb。ルーム感(部屋で楽器を鳴らしたときの響き)の再現がとても自然で、素晴らしいのです。使い方は、ミキサーの右クリック・メニューからFXチャンネルを作成し、そこに立ち上げてセンド&リターンでかけることがほとんど。こうすれば、各楽器のトラックにその都度インサートする手間が省けるし、プラグイン1つで複数のトラックにリバーブをかけられるので効率的です。

画面右に見えるプラグインがRoom Reverb(Professional版/Artist版に付属)。筆者はこれをFXチャンネル(赤枠)に立ち上げ、トラックのセンド・スライダーを上げて原音を送る、という使い方をすることが多い。リバーブ音のボリュームは、FXチャンネルのフェーダーで調整可能(黄枠)。かなり絞って、部屋鳴りのように自然な響きを加えるのがミックスの下ごしらえだ

画面右に見えるプラグインがRoom Reverb(Professional版/Artist版に付属)。筆者はこれをFXチャンネル(赤枠)に立ち上げ、トラックのセンド・スライダーを上げて原音を送る、という使い方をすることが多い。リバーブ音のボリュームは、FXチャンネルのフェーダーで調整可能(黄枠)。かなり絞って、部屋鳴りのように自然な響きを加えるのがミックスの下ごしらえだ

 トラックのセンド欄にエフェクトをドラッグ&ドロップすると、そのエフェクトと同じ名称のFXチャンネルが自動的に立ち上がります。またFXチャンネルではなく、ミキサーの右クリック・メニューから作成できる“バスチャンネル”にエフェクトを立ち上げ、センド&リターンでかけることも可能です。

残響の長さの調整はDampnessが便利

 さて、Room Reverbを使うときは、まず画面右上RoomセクションのSize(部屋の大きさ)、Width(部屋の幅)、Height(部屋の高さ)の各ノブを調整。画面左上には、響きの長さを調整するLengthノブがありますが、個人的には左下CharacterセクションのDampnessノブを使う方が細かく調整しやすいと思っています。

 楽曲内の全トラックをRoom Reverbにセンドすると、それぞれの音色がなじみやすくなる印象です。その際は響きをやや長めに設定し、FXチャンネルのフェーダーをリバーブがほとんど感じられなくなるまで下げる。これの狙いは“ごく薄っすらとかけて、部屋(スタジオ)で鳴らしたような響きを加えるため”です。と言うのも、スタジオでの制作に慣れている僕のようなバンド・ミュージシャンには、完全なドライ音というのはしょぼく感じられてしまうからです。それを防ぐためにも、曲作りの初期段階から、全トラックに薄くリバーブをかけておくのです。Room Reverbは、原音(元の音)への色付けがほとんど無いので、このようなかけ方をしたいときにマッチします。

 他方、ソフト・シンセにRoom Reverbをかけたいときはバスチャンネルに立ち上げ、シンセ・トラックの出力を直接、バスチャンネルへアサインします。ソフト・シンセに部屋鳴りのような空気感がプラスされ、音が少しだけ遠くなるのですが、これによりギターやベースなどの演奏となじみが良くなるのです。

ソフト・シンセを実演奏となじみ良く聴かせたいときに、Room Reverbを使うことがある。その場合はセンド&リターンではなく、シンセ・チャンネルの出力を“メイン”から“バス”(Room Reverbを立ち上げたバスチャンネル)に変えて、直接送り込む。センド&リターンでかけるよりも“ある空間でシンセが響いている感じ”を表現しやすいと思うからだ。また、インサートでかけないのは、複数の音をRoom Reverbのバスチャンネルに送るため。幾つかの音を同じ世界観にまとめたい場合、バスチャンネル内にすべての要素を存在させることで、イメージに近づけやすくなる

ソフト・シンセを実演奏となじみ良く聴かせたいときに、Room Reverbを使うことがある。その場合はセンド&リターンではなく、シンセ・チャンネルの出力を“メイン”から“バス”(Room Reverbを立ち上げたバスチャンネル)に変えて、直接送り込む。センド&リターンでかけるよりも“ある空間でシンセが響いている感じ”を表現しやすいと思うからだ。また、インサートでかけないのは、複数の音をRoom Reverbのバスチャンネルに送るため。幾つかの音を同じ世界観にまとめたい場合、バスチャンネル内にすべての要素を存在させることで、イメージに近づけやすくなる

インサートとセンド&リターンの使い分け方

 Room Reverbとよく一緒に使うのがBeat Delay。ステレオの広がりを作ることもできるので便利です。

Beat Delayは、Studio Oneの全グレードに付属するディレイ。ソングのテンポに同期したディレイが得られる。画面中央はピンポン・ディレイのセクションで、ステレオ感の広い音像を作ることも可能

Beat Delayは、Studio Oneの全グレードに付属するディレイ。ソングのテンポに同期したディレイが得られる。画面中央はピンポン・ディレイのセクションで、ステレオ感の広い音像を作ることも可能

 僕はこのBeat Delayで、複雑なディレイのグルーブを作ることがあります。やり方は、Beat Delayを2つのFXチャンネルに挿し、片方のパンをLch、もう片方のパンをRchへ振って、前者のディレイ・タイムを短め、後者を長めに設定するというもの。同じような効果を1つのプラグインで得られるGroove Delayというのも標準装備されているので、ケースバイケースでいろいろと楽しめると思います。

ディレイ、ステップ・シーケンサー、フィルター、カットオフにかかるLFOを組み合わせたGroove Delay(Professional版に付属)。原音に別のリズムを与えるようなエフェクトで、例えばスネアのワンショットをリズム・ループのようにすることも可能

ディレイ、ステップ・シーケンサー、フィルター、カットオフにかかるLFOを組み合わせたGroove Delay(Professional版に付属)。原音に別のリズムを与えるようなエフェクトで、例えばスネアのワンショットをリズム・ループのようにすることも可能

 Compressorもよく使うプラグイン。プリセットのMiscからPumpを選び、キックをサイド・チェイン入力して、ベースやパッドをダッキングする用途がメインです。

CompressorはProfessional版とArtist版に付属。画面のセッティングはプリセット“Pump”で、筆者がサイド・チェイン・コンプによく使うものだ。キックをトリガーにするサイド・チェイン・コンプは、ダンサブルなグルーブ作りからミックスでの細かいバランス調整まで、さまざまな場面で使える

CompressorはProfessional版とArtist版に付属。画面のセッティングはプリセット“Pump”で、筆者がサイド・チェイン・コンプによく使うものだ。キックをトリガーにするサイド・チェイン・コンプは、ダンサブルなグルーブ作りからミックスでの細かいバランス調整まで、さまざまな場面で使える

 サイド・チェイン・コンプレッションの際は、Compressorをトラックにインサートして使うことがほとんどです。エフェクトは、トラックにインサートして使うのと、センド&リターンで使うのとでは、かかり方に差があるように感じます。インサートの場合、僕はエフェクトのバランス・ノブ(ドライ/ウェットのノブですね)で効果の深さを調整するのですが、センド&リターンよりも原音に及ぼす影響が強いように感じます。なので、原音を過激に変化させたい場合はインサート、原音へ微妙にエフェクトをかけたい場合はセンド&リターンという具合に、かけ方を分けています。

アンプ・シミュレーターを意外な楽器に使用

 さて最後に、近頃発見した面白いエフェクトの使い方を1つ。それは、アンプ・シミュレーターのAmpireをドラムにかけるという手法です。

Ampireは、ギター/ベース用アンプ・シミュレーター&エフェクト。Professional版では全機能を扱え、Artist版では一部の機能を使用できる。筆者はドラムに使ったこともあり、予想外にかっこいいサウンドが得られた。ケミカル・ブラザーズやマウス・オン・マーズは、かつてドラム素材を実機のギター・アンプに通して音作りしていたそうで、それをDAW上で再現するような手法だ

Ampireは、ギター/ベース用アンプ・シミュレーター&エフェクト。Professional版では全機能を扱え、Artist版では一部の機能を使用できる。筆者はドラムに使ったこともあり、予想外にかっこいいサウンドが得られた。ケミカル・ブラザーズやマウス・オン・マーズは、かつてドラム素材を実機のギター・アンプに通して音作りしていたそうで、それをDAW上で再現するような手法だ

 Ampireは、さまざまなアンプやペダル・エフェクトを収録していて、デモの制作に便利。しかもStudio Oneでは、あるトラックのインサート・スロットから別のトラックのスロットにエフェクトをドラッグ&ドロップすると、設定もろともコピーすることが可能です。というわけで、複数のギターやベースにAmpireをコピーしていたところ、間違ってドラム・トラックにコピーしてしまいました……が、アタック感がつぶれずハリのあるひずみが加わって、予想外にかっこいいドラム・サウンドに! 僕はギターを分厚くしたい場合、付属のBitcrusherでひずませることがあるのですが、“この楽器にはこのエフェクト”という先入観を取り払うと、意外にも良い結果が得られたりします。

Professional版とArtist版に付属するBitcrusher。オールド・サンプラーにサンプリングしたような粗い質感が得られる。設定によっては原音の周波数特性が大きく変わるため、筆者のようにギターの音を分厚くしたいときにも有用

Professional版とArtist版に付属するBitcrusher。オールド・サンプラーにサンプリングしたような粗い質感が得られる。設定によっては原音の周波数特性が大きく変わるため、筆者のようにギターの音を分厚くしたいときにも有用

 Studio Oneにはトラック・インサートやセンド&リターン、ドラッグ&ドロップでのルーティング変更、付属のSplitterを使ったマルチバンド処理など、エフェクトのかけ方が何通りかあります。なので、同じエフェクトでも違うかけ方をすれば印象が変わることも。どの方法も非常に簡単なので、作業する手を止めず試行錯誤することが可能です。ギターやベースの録り音に物足りなさを感じたら、目に入ったプラグインをどんどんドラッグ&ドロップして、いろんなものを試していただきたいと思います。

 

山路洸至

【Profile】ソウル・ミュージック、インディー・ロック、ダンス・ミュージックなどを独自のサウンドに昇華する4人組のバンド、the engy(ジ・エンギー)のボーカル/ギター/キーボーディスト。トラック・メイカーとしての楽曲制作も行っており、エレクトロニクスや音響機器への関心も高い。the engyは2019年にビクターからメジャー・デビュー。Apple Music“今週のNEW ARTIST”やSpotifyの国内外オフィシャル・プレイリストに選出されるなど、評価を高めている。

【Recent work】

『Sugar & Cigarettes』
the engy
(ビクター)

 

PRESONUS Studio One

Studio One 6

LINE UP
Studio One 6 Professional 日本語版:53,900円前後|Studio One 6 Professional クロスグレード日本語版:40,700円前後|Studio One 6 Artist 日本語版:14,300円前後
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAPPLE Silicon(M1/M2チップ)
▪Windows:Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPI推奨)、タッチ操作にはマルチタッチに対応したディスプレイが必要

製品情報