自作プリセットやテンポ・チェンジなどStudio Oneの便利な基本機能をおさらい!|解説:A-bee

自作プリセットやテンポ・チェンジなどStudio Oneの便利な基本機能をおさらい!|解説:A-bee

 作編曲家のA-bee(アービー)です。アーティストやアイドルへの楽曲提供から劇伴制作まで、幅広く活動しています。今回も、愛用のPRESONUS Studio One(以下S1)について私なりのTipsを紹介していきます。

音源やエフェクトのセッティングをプリセット化するための諸機能

 作曲のスピードを上げるために、私はユーザー・プリセットを活用しています。ソフト音源のプリセットをエディットした音だけでなく、併用しているプラグイン・エフェクトも含め“この音はほかの曲でも使える”と感じたらユーザー・プリセットとして保存します。例えばS1付属のシンセMai Taiの場合は、プリセットをエディットして自分好みに作り込み、画面左上のメモ・アイコンから“プリセットを保存…”を選んで、名称を記入すればセーブ完了。ミキサーのチャンネルにインサートしたエフェクト込みで保存したければ“インストゥルメント+FXプリセットを保存…”を選びましょう。名付け方は人それぞれでよいと思いますが、私の場合は“A-Bass”や“A-Lead”など自分が分かりやすい名前にしています。

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S1の付属音源では、メモ・アイコン(赤枠左肩)をクリックするとユーザー・プリセットのプルダウン・メニューが現れる。最上部の“プリセットを保存…”を選べば音源内の音色のみ、その下の“インストゥルメント+FXプリセットを保存”ならプラグイン・エフェクト込みでユーザー・プリセット化可能だ

 プラグイン・エフェクトのお気に入り設定&組み合わせはFXチェーン(=エフェクトの連なり)として保存/呼び出し可能です。私はサード・パーティ製のエフェクトもたくさん使っていて、目的のものを探すのに時間を要することがあるため、例えばいろいろなメーカーのお気に入りコンプを一度に呼び出せるようなFXチェーンを組んでいます。やり方は、好きなコンプを全部インサート・スロットに立ち上げて、FXチェーン化するというもの。ロードするとすべてが同時に立ち上がるので、曲に合うものをチョイスしやすいです。このようにエフェクトの種類でFXチェーンを組んでもよいですし、ボーカルやドラム、マスターといったソース別に作っておくのも手。ミックスをスムーズに進めることができます。

 

 FXチェーンの組み方は、複数のエフェクトを挿した状態でインサート・スロット上部の▼アイコンをクリックし、メニュー下部の“FXチェーンを保存…”を選択。名前を付ければ保存できます。呼び出し方も簡単で、▼アイコンのメニューにリストアップされたものから選択するか、ブラウズ>エフェクト・カテゴリー上部のFXチェーン・メニューよりインサート・スロットにドラッグ&ドロップするだけです。

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“インサート”という表示の右にある▼アイコンをクリックすると(黄枠)、FXチェーンの選択欄が出現する

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ソング画面右のブラウズからもFXチェーンの読み出しが可能。エフェクト・カテゴリーのFXチェーン・メニューから選んで、インサート・スロットにドラッグ&ドロップするだけだ

サイド・チェインの設定法Console Shaperで温かみを付与

 クラブ・ミュージックなどでよく使われる手法にサイド・チェイン・コンプがあります。いわゆるダッキング効果を生むもので、キックが鳴るタイミングでベースなどの音量を下げることができますが、それが独特のうねり=グルーブを作り出すのは有名な話。私の場合はコンプのスレッショルドをしっかりめに下げてレシオを高い数値にし、つぶし気味に設定してからアタック・タイムを最短に固定しつつリリース・タイムを動かして調整します。うねりの波の幅が心地良く聴こえるところを狙うわけですね。本稿でスクリーン・ショットを公開しているDiAN「銀河系夜八時」ではベースだけにサイド・チェイン・コンプを用いていますが、ドラム以外の全トラックをバス・チャンネルにまとめてエグめにかけても、クラブ・ミュージック的なサウンドに近付きます(4つ打ちの音楽などで使われる手法です)。うねりを生み出すギミックとしてだけでなく音の“すみ分け”にも効果的で、サビなどで音数が増えてキックが埋もれたら、ベースや上モノに薄くかけるだけでもキックが前に出てくると思います。

 

 S1でのサイド・チェイン・ルーティングをおさらいしておきましょう。まずは、キックの発音タイミングでダッキングしたいトラック(ここではベース)にS1のCompressorを挿し、プラグイン画面上部の“サイドチェーン”にチェックを入れます。

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S1付属のCompressor。画面上部の“サイドチェーン”をオンにすることで、キー・インがアクティブになる

 次にキック・チャンネルのセンド欄“+”アイコンをクリックして“サイドチェーン”にカーソルを合わせると“SC–Bass 01–インサート・1-Compressor”という表示が出ますので、選択すれば完了。ソングを再生したらキックのタイミングでベースがコンプレッションされるので、先述の方法で調整します。

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ミキサー・チャンネルのセンド・スロットにある“+”アイコンをクリックし、プルダウン・メニュー内の“サイドチェーン”にカーソルを合わせると、ソング内にあるキー・インが一覧できる。画面は、ベースに挿したCompressorのキー・インを選択しているところ

 エフェクト関連の話題として、バスとマスターで使えるアナログ卓のシミュレーターConsole Shaperを紹介します。実は筆者、本稿執筆を機に初めて触りました。アナログ再現系はWAVESのテープ・シミュレーターJ37で間に合っていたのですが、サンレコ編集部の方から勧められ試してみたところ好感触だったのです。ノブが3つだけのシンプルな設計で、音はアナログ的な温かさや若干のひずみがとても気持ち良い。デジタルの冷たい質感を和らげたいときに有用だと思います。

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バスおよびマスターで使用できるアナログ卓のシミュレーター、Console Shaper。ひずみやノイズ、クロストーク(チャンネル間で起こる微弱な信号の漏れ。実機の卓に見られる現象)が再現されている。画面右上の“パススルー”がオンのときはバス/マスターに入力された各チャンネルの信号に直接かかり、オフの際にはサミングの結果に対してかかる。オン/オフで音色が変化するため、曲にマッチする方を選んでみよう

 「銀河系夜八時」ではドラム+ベースのバスに使用していて、NoiseとCrosstalkをオフにしつつDriveを持ち上げただけでリズムにパンチが効いて格好良くなりました。Driveを上げ過ぎるとひずみが増え、音が汚くなってしまうので、薄くかけてナチュラルなドライブを感じられる程度がよいと思います。

オートメーションを描く要領でテンポの変更が可能

 最近使い始めた中で気に入っているものには、S1バージョン5で刷新された“テンポ・チェンジ”も挙げられます。以前も一つのソングで途中からテンポ(BPM)を変えることはできましたが、徐々に変更するのが不可能で、だんだんとゆっくりになるよう聴かせたい場合などに手間がかかっていました。しかしバージョン5からはオートメーションを描く要領でテンポ・チェンジできるようになり、とても楽に。歌モノの曲ではあまり使いませんが、劇伴のオーケストラ打ち込みでは抑揚を付けるためにテンポ・チェンジを活用するので役立っています。

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ソング画面上部のテンポ・トラックを開くと、オートメーションを描くようにして楽曲のテンポを自在に変化させることができる

 テンポのトラックは、ソング画面上部の時計アイコンをクリックすれば出現します。表示されている横線が現在のテンポなので、変更したい場所で上げ下げしてみましょう。

 

 筆者の連載は今回で最後。これまでに紹介した中で、1つでも参考になる情報があればうれしく思います。私はDAWでの音楽制作を独学してきたので、最終的に良い作品さえ作れれば手法は問わなくてよいと思っています。皆様も試行錯誤を重ねて自由に独自の音楽を作ってください。私も日々、成長していこうと思っています。お付き合いいただきありがとうございました。編集部の皆様にも、本当に感謝しております。

 

A-bee

【Profile】2007年にアルバム『FLYING-GO-ROUND』でアーティスト・デビューし、これまでに6枚のアルバムを発表。作編曲家としては嵐やHey! Say! JUMP、A.B.C-Z、東方神起、森山直太朗、BLACKPINKらに携わり、SK-IIやコカ・コーラ、パンテーンなどのCM音楽も手掛けてきた。現在、静電場朔やimmiとユニットDiANで活動。11月17日にカワムラユキを共同プロデューサーに迎えたDiAN『銀河系夜八時』をリリース。

【Recent work】

『銀河系夜八時』
DiAN
(U/M/A/A)

 

PRESONUS Studio One

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LINE UP
Studio One 5 Professional日本語版:42,800円前後|Studio One 5 Professionalクロスグレード日本語版:32,000円前後|Studio One 5 Artist日本語版:10,600円前後|Studio One Prime:無償
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAPPLE Silicon(M1チップ)
▪Windows:Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPI推奨)

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