Studio One付属のプラグイン&サンプル縛りで楽曲「フロイデ」をリメイクしてみた!|解説:笹川真生

Studio One付属のプラグイン&サンプル縛りで楽曲「フロイデ」をリメイクしてみた!|解説:笹川真生

 こんにちは。シンガー・ソングライター/作編曲家の笹川真生と申します。私が担当しているPRESONUS Studio One連載は、今回で最後です。連載を始めてから“Studio Oneを購入しました!”という声を幾つかいただきまして、うれしい限りです。最終回、お付き合いください!

“もっと早くに知っておけばよかった”と思える品質のドラム・サンプル

 今回は、記事のために曲を用意しました。2017年にボーカロイド楽曲としてリリースした「フロイデ」を簡単にリメイクしたものです。この連載で紹介してきた機能をフィーチャーし、ボーカルとエレガット・ギター以外のすべてをStudio One(以下S1)付属のプラグイン/サンプルのみで構成しました。それらを曲の中でどのように使用しているか、私なりにサウンド・メイク的な視点から解説できればと思います。

 まずはドラムの音色から。Impact XTというドラム・サンプラーにS1付属のサンプルを読み込ませて使用しています。このImpact XTは過不足の無いシンプルなサンプラーで、よく使っているのですが、今回の曲を制作するにあたって付属のサンプルを一通り聴いてみたところ、さまざまなジャンルの高品質なサウンドが収録されており、“もっと早くから目を通しておくべきだった……”と思わされました。

S1のProfessional版/Artist版に付属するドラム・サンプラー、Impact XT。プリセットのドラム・キットをロードして、すぐにビートを制作できる

S1のProfessional版/Artist版に付属するドラム・サンプラー、Impact XT。プリセットのドラム・キットをロードして、すぐにビートを制作できる

 また、リズムへレイヤーするように鳴らしているノイズ的な音にも、付属サンプルを使用。MIDI鍵盤を適当にたたいて合わせるだけで、良い感じになったと思います。フィルイン的に入る生ドラムっぽい音(00:15辺り)もS1付属。これらを少しぐちゃっと聴こえるようにして、エフェクティブに鳴らしています。

 次にベース。メインとサブで音源を分けました。メインにはマルチ音源のPresence XT、サブにはシンセのMai Taiを使用。少し軽やかさを残したかったので、重過ぎない印象の音をプリセットから選んでいます。また、両方共キックをトリガーとするサイド・チェイン・コンプをかけていて、S1付属のCompressorが活躍。コンプもいろいろなプラグインを所有していますが、ことサイド・チェインに関してはCompressorが個人的にちょうどよくかかってくれるので、その際に毎回と言っていいほどお世話になっています。しっかり深くかかりながらも、どこかシルキーな印象を与えてくれるところが好みです。

クイック・アルペジオ用の機能を搭載〜ノートFXでアレンジを簡単にリッチに

 続いては、ずっと鳴っているエレピ。Presence XTを3つ使用していて、それぞれに別々のプリセットをロードしています。S1付属のプラグイン・エフェクトがあらかじめ挿さったプリセットもあり、なかなか過激かつ即戦力的な音が多くてお薦めです。また、スコアエディター(譜面モード)を使った時短テクもポイント。鍵盤楽器などの白玉コードを“ぽろろん”と鳴らしたいとき、各ノートを少しずつズラして打ち込むという方法が考えられますが、 スコアエディターの演奏記号“アルペジオ”を音符に付与すると、それだけで“ぽろろん”と鳴ります。アレンジ序盤で、まだコードを変える可能性があるタイミングなど、ノートをズラすのが面倒な場合に重宝しています。

Professional版の機能、スコアエディターの演奏記号欄にある“アルペジオ”(赤枠)を選択し、ペン・ツールで音符に付けると、“ぽろろん”というクイック・アルペジオが瞬時に出来上がる。“アルペジオアップ”や“アルペジオダウン”などのモードも用意されている

Professional版の機能、スコアエディターの演奏記号欄にある“アルペジオ”(赤枠)を選択し、ペン・ツールで音符に付けると、“ぽろろん”というクイック・アルペジオが瞬時に出来上がる。“アルペジオアップ”や“アルペジオダウン”などのモードも用意されている

 サビの高音域で鳴っているリードには、Mojitoを使用しました(00:49辺り〜)。前回触れた通り、Mojitoの音には不思議な浮遊感があってやはり良いです。ベロシティ感度も素晴らしく、音の強弱などについて精査の余地を与えてくれる素敵なモノフォニック・シンセです。

MojitoはProfessional版/Artist版に標準搭載されている減算合成方式のモノフォニック・シンセ。筆者のお気に入りで、本稿の題材曲ではサビに含まれるリードで使用。どこか浮遊感のある音色がキャラクターだ

MojitoはProfessional版/Artist版に標準搭載されている減算合成方式のモノフォニック・シンセ。筆者のお気に入りで、本稿の題材曲ではサビに含まれるリードで使用。どこか浮遊感のある音色がキャラクターだ

 シンセと言えば、あまり聴こえないかもしれませんが、サビで薄っすら鳴っている細かい動きのMai Taiには、以前ご紹介したノートFX(MIDIエフェクト)のArpeggiatorを使用しています。MIDIパターンは、エレピのものをコピペで流用しただけですが、ノートFXをかけて元のエレピにレイヤーするだけで良い感じにリッチに。“何となく空間が物足りないかもしれない……”というときに試してみるとよいと思います。今回の曲のように、割とごちゃごちゃしたアレンジでは新たに対旋律などを付けるより、それらしくなるかもしれません。

エグめの残響も得られるOpen Airとユニークなペダル系ファズBig Fuzz

 リバーブはすべてOpen Airを使用しています。S1には3種類のリバーブが付属しますが、中でもOpen Airはエゲつないかかり方にも対応するので好みです。個別に設定した複数のOpen Airにボーカルのバス・チャンネルをセンドしていて、オートメーションを使い効果がリアルタイムに切り替わるようにしています。エレガットについても、家庭の事情でライン録音したので、Open Airで少しだけルーム感をプラス。割と設定がシビアな部分ではありますが、操作に対して素直に反応してくれるので扱いやすいです。

インパルス・レスポンス(実空間の響きをサンプリングして作成したプロファイル)を読み込んで使用するコンボリューション・リバーブ、Open Air。プリセットされているインパルス・レスポンスのほか、市販のものなど、外部からの読み込みもサポートする。Professional版のみに付属

インパルス・レスポンス(実空間の響きをサンプリングして作成したプロファイル)を読み込んで使用するコンボリューション・リバーブ、Open Air。プリセットされているインパルス・レスポンスのほか、市販のものなど、外部からの読み込みもサポートする。Professional版のみに付属

 ちなみに、このエレガットは曲のキーよりも低い調性で弾いて録音し、ほかの楽器と合わせるときにピッチ・トランスポーズして、意図的に少しチープな音にしています。それをさらに1オクターブ上にトランスポーズし、サビでステレオの左右に薄っすらと置いています。曲によって合う/合わないがある手法ですが、独特のきらびやかさを得られるのでよく行っています。

 アウトロで鳴っている治安の悪いひずんだ音は、サビのボーカルをリバースさせてからBitcrusherとBeat Delayをかけたものです。オートメーションを使い、徐々にひずませていく処理をしています。また、低域と高域を極端にカットするPro EQ2もインサート。やはりオートメーションを使い、リズムに合わせてEQの効果をオン/オフし、動きのあるテクスチャーを作ってみました。そのほかペダル・モデリングPedalboardに収録のBig Fuzzというユニークなファズを薄っすらとかけています。エレガットにも挿していて、最後の最後にがっつりと使用。Big Fuzzは初めて使ったプラグインですが、お手軽にさまざまなソースに使えそうな感触がありました。

リバースさせたボーカルに設定したPro EQ2のオートメーション(赤枠)。バンドパス・フィルター的な設定をオン/オフし、うねりのあるテクスチャー・サウンドのように聴かせている。なお、Pro EQ2はProfessional版/Artist版に付属

リバースさせたボーカルに設定したPro EQ2のオートメーション(赤枠)。バンドパス・フィルター的な設定をオン/オフし、うねりのあるテクスチャー・サウンドのように聴かせている。なお、Pro EQ2はProfessional版/Artist版に付属

ギター用ペダルのエフェクト・ボードを再現したPedalboard。全グレードに付属するが、Professional版を除いてはアンプ・モデリングのAmpireに統合されている。今回筆者がリバース・ボーカルにかけたのは、ELECTRO-HARMONIX Big Muffを思わせるルックスのファズ、Big Fuzzだ

ギター用ペダルのエフェクト・ボードを再現したPedalboard。全グレードに付属するが、Professional版を除いてはアンプ・モデリングのAmpireに統合されている。今回筆者がリバース・ボーカルにかけたのは、ELECTRO-HARMONIX Big Muffを思わせるルックスのファズ、Big Fuzzだ

 さて、今回のようにソフト類をS1付属のもので完結させるというのは初めてだったのですが、想像以上に普段の自分の作り方に近いことができ、驚きました。2022年現在、誰もが音楽家になれる時代です。S1では何とDDPの書き出しも可能なので、CD用マスター・データの作成もお手の物。1人でどこまでも制作できてしまうプラットフォームです。連載を通して、私の音楽キャリアにずっと寄り添ってくれたS1の魅力を少しでもお伝えできていたら幸いです。

 

笹川真生

【Profile】シンガー・ソングライター。ボカロPとして音楽キャリアをスタートさせた後、2019年ごろより現在の活動スタイルへシフトし、作品を多数発表。叙情的なロック・サウンドが持ち味で、理芽や夏川椎菜などへの楽曲提供も行う。目下最新曲は、2021年に理芽へ提供した「食虫植物」のセルフ・カバー。

【Recent work】

『食虫植物』
笹川真生
(笹川真生)

 

PRESONUS Studio One

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LINE UP
Studio One 5 Professional日本語版:42,800円前後|Studio One 5 Professionalクロスグレード日本語版:32,000円前後|Studio One 5 Artist日本語版:10,600円前後|Studio One Prime:無償
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAPPLE Silicon(M1チップ)
▪Windows:Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPI推奨)

製品情報