Studio One純正プラグインのフェイバリットを実際に活用した曲と一緒に紹介|解説:笹川真生

Studio One純正プラグインのフェイバリットを実際に活用した曲と一緒に紹介|解説:笹川真生

 こんにちは。作編曲家/シンガー・ソングライターの笹川真生です。今回は、PRESONUS Studio One(以下S1)の純正プラグインのうち、私が好きなものとその使い方を紹介したいと思います。お付き合いください。

ピークの抑制から積極的な処理まで汎用性の高いBitcrusherのひずみ

 S1の純正プラグインで真っ先に思い付くのはBitcrusherです。もはや自身の血肉になっていると言っても過言ではなく、恐らくほぼすべての楽曲で使っています。音のビット数を下げて質感を変えるエフェクトらしいのですが、難しいことはさておき、ざっくりと“音を破壊したりするもの”と解釈しています。ただ、実際には幅広い用途に使える優秀なプラグインなので、私なりの使い方を紹介します。

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ドラムに挿したBitcrusher。筆者は、画面左Wreck(=破壊)セクションのBit DepthとColor(=色付け)セクションのOverdriveの2つで音作りすることが多い。ピーキーな部分を和らげるためだったり、音の質感を大胆に変える用途だったり、さまざまな使い道がある

 例えば、何かの素材のハイ成分がジャリジャリし過ぎている場合。EQやディエッサーで調整しないと耳に痛かったりするけど、そうするとちょっと狙いと違うかな……?という沼に陥ってしまうことが個人的にはあります。こういうときにBitcrusherを使うと、気になる部分を良いあんばいにまとめられるのです。

 “ビットを下げる”という言葉の通り、ちょっとチープだったりレトロだったりする音を作れるのはもちろんなのですが、私はオーバードライブ的に使用することが多いです。リズム・セクションにうっすらかけたり、局所的にめちゃくちゃなひずみを与えてみたり、ピアノやアコギをぐちゃぐちゃにしてみたり、FX的なサウンドの質感を大胆に変えてみたり……何かとひずませたいときにBitcrusherから試してみることが多いです。

 設定については、オーバードライブ的な扱い方をする場合、Downsample(サンプリング・レートを下げるノブ)はデフォルトのままいじらず、Bit Depth(ビット・レートを調整するノブ)とOverdrive(ひずみノブ)のバランスで音を作っていくと、個人的には良い結果になりやすいです。特にキックのロー成分にかけたときのひずみ感がたまらなくブーミーで大好きです。アナログライクなサチュレーションとは趣が違い、無機質なようでどこかリアリティがあるので、“特別ローファイな質感にしたい”とかでなければ何にでも合いそうな気がします。

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画面内のグラフィックでは、セッティングによる入力信号のひずみ方がイメージ化される。また、WreckとColorの各セクション下部にはモード切り替えのボタンが用意されているので、それぞれのキャラクターを試してみよう

 徐々に音が壊れていくようなアレンジにも必ずと言っていいほど使っていて、 Bit DepthとOverdriveにオートメーションを描くことで手軽に理想へ近付けられます。設定によっては、効果が浅いところと深いところで音量差が大きくなり過ぎるためボリューム・オートメーションを描かなくてはなりませんが、振れ幅が大きいということは、それだけクリエイティブな行為に生かせることでもあると思います。

 また、このたぐいのエフェクトはかけ過ぎるとステレオ感が薄れたり、定位がぼやけてしまったりすることが多々あったのですが、Bitcrusherはステレオ素材であっても空間をしっかりと保ちつつ“破壊”してくれます。FX的なサウンドに活用しているのも、この特性があってこそだと感じます。

 Bitcrusherを使った過去の作品を以下に例示しておきますので、よかったらチェックしてみてください。

伶「エンカウント feat. 笹川真生」(2021年)

 エレピ全般に薄っすらと、ビットを下げるアプローチで使っています。

笹川真生「産声」(2020年)

 楽曲の1分13秒辺りからサビまでのすべての楽器に、それぞれ違ったアプローチで少しずつかけています。

mao sasagawa「クラスで一番人気のあの子は校舎の裏で人を殺した」(2018年)

 全編にわたって、ボーカルを含む全パートに挿しています。

過激なディストーションが欲しいならRedlightDistがお薦め!

 似た使い方をしている純正プラグインにRedlightDistなるディストーションがあります。Bitcrusherのどこか耳当たりの良いサウンドとは違い、設定によっては耳に痛くなることもあるのですが、それもクリエイティブの幅ということで、より過激な効果が欲しい場合によく使用しています。mao sasagawa「ジュウロクグラム」(2017年)ではピアノにがっつりかけました。何となくギターのような音になっています。素敵。

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ディストーション・プラグインのRedlightDist。真空管やトランジスター、OPアンプのひずみを再現したアルゴリズムのほかファズなども含む。ロー/ハイパス・フィルターやStages(ひずませるポイントの数)といったパラメーターを組み合わせることで、多彩な音作りが可能だ

 最近はエンジニアの方と組んで音を作ることが増えたので、ミックスのアイディア的にBitcrusherやRedlightDistを使用する機会は減っているのですが、宅録ですべて済ませていたころにこういった優秀なプラグインが標準搭載されていたおかげで、何となく“自分の音”みたいなものの方向性を見付けるきっかけとなりました。この文章を書いていたら、もっともっと使おうという気持ちになってきましたし、愛着も湧いています。サチュレーションをかけることはあっても“グシャ〜”とさせることに何となく抵抗のある方が居らしたら、そういうアプローチも試してみてほしいです! 新しい扉が開けちゃうかも……。

純正のMIDIエフェクトが生み出す偶然性によるインスピレーション

 随分前から標準搭載されていたものの、最近になって活用し始めたのがノートFX。いわゆるMIDIエフェクトで、インストゥルメント・トラックに挿して使います。全4種類ですが、特に愛用しているのはArpeggiatorとRepeaterです。

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ノートFXは全4種類。Arpeggiator(アルペジエイター)、Chorder(コード・ジェネレーター)、Input Filter(設定したキー・レンジやベロシティ幅の信号のみを取り出すツール)、Repeater(リピーター)が用意されている

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インサートしたインストゥルメント・トラックのMIDIノートからアルペジオを生成するArpeggiator。オクターブ・レンジやリズム・パターン、スウィング、音価などを設定でき、内蔵のステップ・シーケンサーを組み合わせると複雑なパターンの作成にも対応する

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打ち込んだMIDIノートを指定のタイミングでリピートさせることができるRepeater。こちらもステップ・シーケンサーなどをエディットすることで、思いも寄らないパターンを生み出せる

 前者は名前の通りで、打ち込み済みのMIDIノートを元にアルペジオなどを作ってくれるもの。プリセットをエディットするなどして使ってもよいのですが、私は“インスピレーションを得るためのツール”としても活用しています。ピアノやストリングスなど、あまり偶然性を期待できない音源に使えば意識外のフレーズを引き出せるので、“アレンジに何かが足りないけど、それが何か分からない……”といった霧中の際には積極的に試しています。先日、自身の名義でリリースした「食虫植物」のアウトロでは、Arpeggiatorを使用してアルペジオをたくさん、それも素早く積み重ねることができました。

 Repeaterは、打ち込み済みのノートを指定のタイミングで繰り返しつつ、内蔵のステップ・シーケンサーでさまざまなパターンにエディットできるツール。こちらにもインスピレーションのお手伝いをしてもらっています。どちらのプラグインも“何となくの操作”でもばっちり格好良く仕上がるので、大変助かっています。いかなる場面でも、やりたいことに素早く応えてくれるような魅力がS1のあちこちに見られますね!

 

笹川真生

【Profile】シンガー・ソングライター。ボカロPとして音楽キャリアをスタートさせた後、2019年ごろより現在の活動スタイルへシフトし、作品を多数発表。叙情的なロック・サウンドが持ち味で、理芽や夏川椎菜などへの楽曲提供も行う。目下最新曲は、2021年に理芽へ提供した「食虫植物」のセルフ・カバー。3月11日(金)には渋谷のSpotify O-nestで自主企画『脈拍』を開催する予定。ウ山あまね、碧海祐人を招いての3マンとなる。

【Recent work】

『食虫植物』
笹川真生
(笹川真生)

 

PRESONUS Studio One

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LINE UP
Studio One 5 Professional日本語版:42,800円前後|Studio One 5 Professionalクロスグレード日本語版:32,000円前後|Studio One 5 Artist日本語版:10,600円前後|Studio One Prime:無償
※いずれもダウンロード版
※オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13以降(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAPPLE Silicon(M1チップ)
▪Windows:Windows 10(64ビット版)、INTEL Core I3プロセッサーまたはAMD A10プロセッサー以上
▪共通:4GB RAM(8GB以上推奨)、40GBハード・ドライブ・スペース、インターネット接続(インストールとアクティベーションに必要)、1,366×768pix以上の解像度のディスプレイ(高DPI推奨)

製品情報