BLACK LION AUDIO B173 MKII / B12A MKⅢ レビュー:NEVE 1073とAPI 312Aオマージュのプリアンプ/DI

BLACK LION AUDIO B173 MKII / B12A MKⅢ レビュー:NEVE 1073とAPI 312Aオマージュのプリアンプ/DI

 “オーディオ・モディファイケーションのキング”と評されるシカゴ発のプロ・オーディオ・ブランドBLACK LION AUDIOから、NEVE 1073オマージュのB173 MKII、API 312AオマージュのB12A MKIIIという2機種のDI/プリアンプが届いた。早速スタジオで使ってみよう。

中域にコシがあり輪郭のはっきりした音。倍音も豊かなB173 MKII

 B173 MKIIとB12A MKIIIは、いずれも端正なブラック・パネル。1Uのハーフ・ラック・サイズで、B173 MKIIが1.4kg、B12A MKIIIは1.55kg(共に筆者実測値)だ。同梱の電源アダプターは、アメリカのGLOBTEK Class 2 Transformer(100V AC-24V AC/416mA)が採用されており、小型なので持ち運びも楽である。

 フロント・パネルを見ると、B173 MKIIは左から電源スイッチ、ステップ付きの入力ゲイン・ノブ、48Vファンタム電源スイッチ、ソースの位相を反転させるフェイズ・スイッチ、可変式の出力レベル・ノブ、Hi-ZスイッチにHi-Z入力端子(フォーン)。入力ゲイン・ノブは12dBから始まり、一段目は8dB、以降は5dBずつステップ式で上がる(実測値)。

B173 MKIIの入力ゲイン・ノブ

B173 MKIIの入力ゲイン・ノブ。12dBから始まり、最大70dBの増幅が行える

 B12A MKIIIは、左から電源スイッチ、48Vファンタム電源スイッチ、フェイズ・スイッチ、ゲインを18dB減衰させるPADスイッチ、ゲイン・ノブ、Hi-ZスイッチにHi-Z入力端子(フォーン)というシンプルな構成。ゲイン・ノブはAPIと同様の連続可変式で、最大+70dBのゲインを持っている。

 両機のノブや、スイッチ類のトルク感は若干軽めながらもスムーズで心地良く、電源などのオン/オフを表示するLEDは明るく視認性が高い。リア・パネルの構成は両機種共に同様で、左から出力(TRSフォーン)、マイク入力(XLR)、グランド・ポイントを装備。出力端子にTRSフォーンが採用されておりXLRではないところを見ると、プロ・スタジオというよりコンシューマーの使用を前提にしているのかもしれない。

B173 MKIIとB12A MKⅢのリア・パネルには、入力端子(XLR)、出力端子(TRSフォーン)、GNDポイントを装備

B173 MKIIとB12A MKⅢのリア・パネルには、入力端子(XLR)、出力端子(TRSフォーン)、GNDポイントを装備

パンチの効いたクリーン・サウンド。オケ中で存在感あるB12A MKII

 さて、そのサウンドである。B173 MKIIはその名の通りNEVEの名機1073のオマージュで、メーカーによると“1073スタイルのブリティッシュ・サウンドをポータブルに提供”とのこと。ここでは筆者所有のAMS NEVE 1073LBと比較していく。ボーカルは、低域が魅力でおなじみのラブ・ソングの王様にご協力願った。B173 MKIIを通した声は、中域にコシのある音で、しっかりと口元の輪郭を浮かび上がらせつつ、吐息の繊細さも表現し、近接効果を最小限に抑えていた。ただ、高域は1073のようなシルキーな音調ではなく、若干派手めな印象。恐らくこれは、内蔵のCINEMAG製トランスの音調と思われる。

 次にドラムでチェック。正面1mほどの距離、高さ50cmほどの位置にNEUMANNのマイクM149 Tubeをセットして試した。12dBから始まる入力ゲインのためM149 Tubeのような出力の大きいマイクでもヘッド・ルームに余裕がある。入力ゲインを徐々に上げると独特のひずみが生まれる。それは、どっしりと倍音豊かなひずみだ。この音調は似ていないが、基本は1073を意識した音作りだと感じた。可変式レベル・ノブのおかげで出力ゲインも簡単に、最適な操作が可能である。

 DIとしてHi-Z入力でラインのエレキベースを聴くと、しっかりした低域で引き締まった音像。オケの中での存在感がはっきりとして、とてもコントロールしやすい。ちょっと派手めな中高域のおかげで、指やピックが弦にこすれる細かなニュアンスもしっかりと表現してくれた。ちなみにHi-Z入力モードになると、入力ゲイン・ノブのコントロールは効かなくなり、レベル調整は出力レベル・ノブのみで行うことになる。

 B12A MKIIIはAPI 312Aのオマージュで、メーカーによると“アメリカン・スタイルのサウンドをポータブルに提供”とのこと。ここでは筆者所有のオリジナルのAPI 312モジュールとスタジオに導入しているAPI Legacy AXSコンソールのモジュールと比較。ボーカルは抜けの良い音で、若干ながら線の細い印象だが、低域には適度な量感があり、オケの中での存在感もバッチリだ。これはHi-Z入力でDIとして使ったベースの音質でも同様。ただ、高域の音の出方が派手なのか、弦と指がこすれる音やフレットにこすれる音が前に出て目立ち、スラップ奏法ではかなりピーキーになった。ちなみに、B12A MKIIIのHi-Z入力モードではB173 MKIIとは異なりゲイン・ノブの操作が可能である。ドラムにおいては、B173 MKIIのように入力ゲインを積極的に上げてひずみのあるサウンドを作るより、ひずむ直前の最適なゲインで使うことで、パンチの効いたクラシック・アメリカン・ロックな音が得られた。残念なのは出力レベル・ノブが無いため、DAWへの送り込みレベルはコンソールなどで操作を要する。

 B12A MKIIIは全体的には“カチッ”とまとまっており、クリーンできらめきのある“APIっぽい”音だ。しかしビンテージの312と比較すると、少し高域に落ち着き感が少なく感じられた。どちらかと言うとLegacy AXSコンソールの音に近い。両機に感じる中域から高域にかけての特徴的な音調は、恐らくCINEMAG製のトランスによるものと推測できる。例えるならば、シェルビングで自然に高域を持ち上げていると言うよりも、幅の広いQで5〜8kHz辺りをブーストした感じだ。両機ともとても扱いやすくSN比が良く、ハイレゾ・レコーディングにも問題無く使えて、非常にコスト・パフォーマンスに優れていると感じる。NEVEとAPIそれぞれの音のイメージをうまく表現しつつ、BLACK LION AUDIOならではのチューニングを施しており、操作面でもB173 MKIIには1073のようなステップ付きの入力ゲイン・ノブを、B12A MKIIIには312A同様に連続可変のゲイン・ノブとPADスイッチを装備。これはリプロダクトとは異なり、まさに“オマージュ”という表現がピッタリだ。NEVEやAPIのように所有欲を満たすとは言えないものの、録音入門者からハイアマチュアの要望に十分応えると思う。

 

山内"Dr."隆義
【Profile】井上鑑氏や本間昭光氏、服部隆之氏らがプロデュース/編曲する作品に従事し、長きにわたりJポップを支えるレコーディング・エンジニア。近年はその経験を生かした80’sサウンドに傾倒中。

 

BLACK LION AUDIO B173 MKII / B12A MKⅢ

オープン・プライス

(市場予想価格:B173 MKII/60,500円前後、B12A MKIII/50,600円前後)

BLACK LION AUDIO B173 MKII / B12A MKⅢ

SPECIFICATIONS
●B173 MKII
▪重量:1.4kg(実測値)

●B12A MKⅢ
▪パッド:−18dB ▪重量:1.55kg(実測値)

●B173 MKII / B12A MKⅢ共通
▪プリアンプ・タイプ:ソリッド・ステート ▪チャンネル数:1 ▪ゲイン:70dB ▪ファンタム電源:搭載 ▪位相反転:搭載 ▪アナログ入力:2(XLR、フォーン) ▪アナログ出力:1(TRSフォーン) ▪ラック・マウント:ハーフ・ラック ▪電源:24V ACアダプター(同梱) ▪外形寸法:241.3(W)×44.45(H)×165.1(D)mm

製品情報