約10年の時を経て復活したAVIDのオーディオインターフェースMBOX Studio。和楽器バンドのギタリストでもありメイン・コンポーザーでもある町屋に試していただいた。普段の制作からPro Tools|HDXシステムを使用している町屋にとってMBOX Studioはどのように映っただろうか。
MBOX Studioは表現したいサウンドをすぐ形にできる優れた制作ツール
─ 町屋さんは普段Pro Tools|HDXを使っていらっしゃいますが、今回MBOX Studioを試用されていかがでしたか?
町屋 ギターが挿せる入力端子やリアンプ用の出力端子がフロントに配置されていたり、ギターチューナーまで搭載していたりするので、オーディオ編集をメインで制作するギタリストに向いている機材だなという印象を持ちました。また、一般的にMIDIの打ち込みにはキーボードコントローラーを使いますが、僕はピアノロール画面でマウスとショートカットキーで打ち込んでしまうので、手元に置きたいのはキーボードよりもモニターコントローラーなんですね。そういった点からも、僕にとってMBOX Studioは相性がいい機材だと思いました。
─ MBOX Studioにはモニターコントローラー機能も搭載しています。
町屋 そうなんですよね。普段から2組のスピーカーを使ってモニターしているのでMBOX Studioの2系統の出力は重宝します。外部のモニターコントローラーを使うとどうしてもその機材を通った音質になってしまいますが、MBOX Studioならその心配もなく良い音のままモニターできますね。
─ MBOX Studioの出音はいかがでしょうか。
町屋 どのレンジも出過ぎていることがなく、情報量も充実している感じがします。オーディオインターフェースの中には、作り込みすぎて特定の帯域が出過ぎているタイプもありますが、MBOX Studioはそういったことはないです。
─ さきほどMBOX Studioはギタリスト向きだとおっしゃっていましたが、ギターレコーディングの際の使い勝手はいかがでしたか?
町屋 フロントの入力端子は、ギターを挿すと自動でHi-Zに切り替わりますし、さらに細かくインピーダンスを変更できるのは非常に便利ですね。僕はAVIDのアンプ・シミュレーターEleven MK IIをかなり使っているんですが、最終的な音の仕上がりをイメージする際にも入力段はとても重要です。インピーダンスを細かく設定できるのは、狙ったトーンを作る上で大きなアドバンテージになると思います。
─ ギター関連ではリアンプ機能も注目点です。
町屋 Hi-Z OUT TO AMP端子は逆DIを使わなくてもリアンプできてかなりうれしいですね。ギターの生音をラインで録音しておくことは、レコーディング後にリアンプして細かく音を作り込むことはもちろん、リミックスや別のバージョンを制作するケースにおいてもとても有効だと思うんです。MBOX Studioを使えばギターの生音を良い音質で残せるので、リアンプをする上でこれ以上使いやすいオーディオインターフェースはないと思います。
これらの端子はフロントに、必要なボタンやノブは分かりやすくトップに配置されていて視認性も良く使いやすい印象です。
─ トップパネル中央の4つのユーザーアクションボタンは自由に機能を割り当てることができます。
町屋 ユーザーアクションボタンには、各パートや楽器ごとの設定を素早く変更できるようユーザープリセットを割り当ててみました。設定で使用したMBOX Controlソフトウェアも非常に使いやすいですね。トークバックや出力のルーティンなど、これまでスタジオレベルのミキサーを使ったことがない人でも分かりやすい設計になっていて、これを使いこなせばMBOX Studioの豊富な機能をフルに活用することができますね。
─ Bluetoothオーディオ入出力についてはどのように評価されていますか?
町屋 Bluetoothでオーディオ出力できるのはすごく良いですね。最近のリスナー環境はストリーミングサービスが中心になってきているので、スタジオにおいてもストリーミング環境のミックスバランスに対応できるか今後求められてくると思います。そういう意味でもBluetooth オーディオ出力は有効な機能ですね。
Bluetoothオーディオ入力については、スタジオのスピーカーでスマートフォンの音楽をリファレンスするときに使えそうですし、そのほかの使い方としては、スマートフォンの音声を録音してサンプル素材としてストックするときにも有効かなと思います。ライン入力で録音すれば済むことかもしれませんが、クリエイティブはフラッシュアイデアをすぐ形にすることが大事だと思うんです。思いついた時にぱぱっと録れるような選択肢は多い方がいいので。
─ フラッシュアイデアをすぐ形にするという考えは、サードパーティ製を極力使わずにPro Toolsで完結させる町屋さんの作曲スタイルに通じるものがありますね。
町屋 そうですね。スピードが遅いとクリエイティブを欠くことって結構ある気がするので、初めはいったん付属音源のAIR Xpand!2で打ち込んで、必要であればサードパーティ製を使うことにしています。
MBOX Studioをスーツケースに入れて世界中を飛び回りたい
─ MBOX Studioはどのように活用できそうですか?
町屋 MBOX Studioは、視認性と操作性を担保しつつも据え置き型を想定して、このサイズ感になっていると思うんですが、15インチ程度のノートパソコンとケーブルをまとめたとしても飛行機の機内に持ち込めるスーツケースに全部収まってしまうと思うんですね。MBOX Studioがあれば、DIもリアンプもモニターコントローラーも要らないので、持ち運ぶ機材の数を極限まで減らすことができるわけじゃないですか。だからフリーのクリエイターやエンジニアが、スーツケースに機材一式詰め込んで想像力だけで世界を歩けるぐらいのすごいアイテムなんじゃないかなと思います。
─ 確かにもっとコンパクトなオーディオインターフェースならたくさんありますが、必要になる機材をそろえたら結構な量になるかもしれません。
町屋 最近、旅先の環境にインスピレーションを受けて音楽を作りたいなって考えるんですけど、そんなときでも最低限の音楽制作環境は整えたい。でもコンパクトさ重視のオーディオインターフェースだとちょっと心許ないわけなんですよ。だからMBOX Studioは僕にとって一番勝手がいいと思いますね。
─ HDXシステムをモバイル機材として持ち運ぶわけにはいきませんからね(笑)
町屋 実は一時期、HDXシステムをラックマウントして持ち歩いたことがあるんですけど、ちょっとしんどかったですね、さすがに(笑)。僕みたいにいろんなところで作業したいけれども一定のクオリティはちゃんと担保したいというフリーの作曲家、編曲家、エンジニアにはMBOX Studioはすごく重宝するのではないでしょうか。
町屋(和楽器バンド)
【Profile】9月13日生まれ、北海道出身。幼少期よりギターをはじめ、インディーズでバンド活動を行う傍ら、ギタリストとして投稿した動画サイトでは圧倒的な人気を誇り、さまざまなアーティストのツアーやセッションに参加するなど多方面で活躍。アーティストへの楽曲提供も行う。和楽器バンドではギタリストとしてのみならず、数多くの楽曲で作詞作曲を手掛け、サウンド・プロデュースやアレンジ・ディレクション、サイド・ボーカルも務める。ステージ上で見せるギターの超絶プレイも人気が高い。
【Recent work】
『ボカロ三昧2』
和楽器バンド
(ユニバーサル)
製品情報
AVID MBOX Studio 116,600円
パーソナル・スタジオでプロフェッショナルなレコーディングを実現する24ビット/192kHz対応USBオーディオ・インターフェース。
4つのプリアンプやプレミアム・コンバーター、2ペアのスピーカー切り替えやトークバック、2系統のヘッドフォンアウトを含むモニター・セクション、Bluetoothステレオ入出力、ギターチューナー、アサイナブル・ボタンなど、総計21イン/22アウトを備え、パーソナル・スタジオで求められる機能を統合している。
DAWソフトPro Tools Studio年間サブスクリプション(Pro Tools Inner Circle等追加ソフト/サービスも含む)に加え、BABY AUDIO.、PLUGIN-ALLIANCE(BRAINWORX)、GAUGEのプラグインやBPM Createのループ素材などを集めたバンドルMBOX Ignition Packが付属する。
Pro Toolsはもちろん、APPLE Logic ProやABLETON Liveなど一般的なDAWソフトでも使用可能。YouTubeや音楽ストリーミング・サービスの再生、ループバックを用いたライブ配信、Web会議などにも活用できる。