アニメ/ゲームを多数手掛ける作家が求めた
“一手間かけられる”自宅での制作環境
栗林みな実、乃木坂46、中森明菜、緒方恵美、立花理香などへの楽曲提供のほか、『あんさんぶるスターズ!』『アイドリッシュセブン』などのアニメ/ゲーム音楽も手掛ける作編曲家、中土智博。1年ほど前に自宅を新築したのに合わせ、ブース併設のスタジオを構えた。閑静な住宅街でもギターのアンプ録音が可能だというこのスタジオを訪れ、作家としてのこだわりを聞いてみた。
Text:iori matsumoto Photo:Takashi Yashima
自宅新築だからできた音場の確保
スタジオに合わせてアンプ・ヘッドを新調
中土のスタジオは7.5畳のコントロール・ルームと2.1畳のブースで構成されている。スタジオを設けたきっかけはさまざまだが、仕事を通じて親交の深いエンジニア、ニラジ・カジャンチ氏のスタジオであるNK SOUND TOKYOの影響を受けたと語る。
「どうせ家を造るなら、音漏れの無い、ミックスまでできる環境が欲しいなぁと。ニラジ氏に相談して、彼のスタジオを手掛けたアコースティックエンジニアリングさんを紹介してもらいました。彼のスタジオを見てしまうと、自分のスペースも欲しいなぁって思ってしまうんですよね(笑)。作業するときのクリエイティビティに影響するから。前の家でもカラー調整できるLEDライトを入れたりしてみたんですが、どうもそういうことでないなと(笑)。クロスの色とか質感とかも含め、もう少しちゃんと造ってみたいと思ったんです」
自宅の新築時であるからこそ、スタジオに合わせた調整を建物のレベルで行えたと中土は続ける。
「このスタジオの面積に対して、普通の住宅の天井高だと、定在波の影響が大きくなるそうです。それを避けるために、天井高がある程度欲しい。床面を下げるため、基礎の立ち上がりをギリギリまで下げてもらって、コンクリートを打ってもらいました。家と同時だからできることでした。床の仕上げはフローリング“風”のタイル。所属事務所APDREAMのスタジオが改修時にタイルにしたのですが、低音が締まって聴こえたし、機材の重量も考慮して選択しました」
スタジオ完成とともに増えた機材は、MESA/BOOGIEのギター・アンプ・ヘッドとのこと。もともとR&B系グループ、Remark Spiritsのサウンド・プロデューサーとして世に出た中土だが、ルーツはギターにあるという。
「ブースとの間の壁にスピコン端子を入れて、キャビと接続できるようにしています。ギターを録るときに、LEDのノイズが乗るんです。以前はゲーミング・キーボードを使っていたのですが、これもLEDがノイズ元になるのでやめました。室内照明も、調光器でノイズが一番減るポイントにマーキングしてあります。スタジオ用電源としてノイズ・カット・トランスを入れていますが、アンプはわざと雑電で鳴らす方がいい場合も多いですね。前の家でもアッテネーターを入れてキャビを鳴らしたりしていたんですが、部屋がそもそもギターのために造られていないから、変な付帯音が生じたりするし、かといって吸音し過ぎると暗い音で面白くないし。そういうこともあって、ギターが録れるスタジオを造りたかったというのもありました」
iMac Proを天地反転させてデスクにフィット
3台のMOOGを常時スタンバイ
スタジオの正面に陣取るデスクはカスタム・メイドとのこと。「海外製の製品は、小柄な僕だとサイズが合わないんです。以前は自作したこともあったのですが、強度に不安があるし、低音の振動で鳴ってしまうので、スタジオに合わせて作ってもらいました」と中土。驚かされたのは、APPLE iMac Proを天地逆さにセッティングしていることだ。
「デスクの角度に合わせるのに、どうしてもケーブルが邪魔になってしまうんです。調べたら、Macの標準の機能として画面を180度回転して使えるので、だったら逆さにしてしまえばいいと」
デスク左側にはプリアンプとEQ、右にはコンプレッサーを主に設置。これらに混じって、ROLANDの音源モジュール、Integra-7もマウントされている。
「意外と使う機会が多いですね。特に和楽器は、デフォルメされた音に自分たちが慣れていることもあって、生よりもハマることがあります。普段はしまってあるKORG Kronosとかも、モデリングのエレピが良くて、たまに使います」
ハードウェアで気になるのは、MOOGのシンセ群。モノフォニック機ばかりが3台も用意されている。
「ベース・シンセにはMOOGかなと思って最初にLittle Phattyを買って、より太い音が欲しくてサブオシレーターが付いたSub 37を追加しました。でも、ちょっと優等生だなと感じていたところ、佐藤純之介さんから勧められてAluminium Minimoog Voyagerを追加購入したんです。Model Dと違ってベンド・レンジが変えられるので、トラック制作には重宝しています。こうしたシンセは、普段はサブインプット用A/Dとして使っているFOCUSRITE Scarett Octo PreからAPOGEE Symphony I/O MKIIにADAT経由で入力していて、レコーディングする際にはアウトボードを通してSynphony I/Oに直結するようにしています」
中土のような作曲家に、テンポやキーの変更が求められることが多い昨今だが、彼は「イン・ザ・ボックスで完結するのは嫌なんです。一手間かけたい」と笑う。
「コロナ禍で外のスタジオに行けないことも多いですが、こういう環境があることで、モチベーションとクオリティが上がるのであればいい。日々の作業がルーティーンになってしまいがちな中でも、自分でワイアリングをやり直したりする中で、新しい発想が生まれることもあると思いますから」
Equipment
[DAW System]
Computer:APPLE iMac Pro
DAW:AVID Pro Tools Ultimate、ABLETON Live
Audio I/O:APOGEE Symphony I/O MKII
Controller:NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88、ELGATO Stream Deck、IK MULTIMEDIA IRig Pads
AD/DA Converter:FOCUSRITE Scarlett Octo Pre
DSP:UNIVERSAL AUDIO UAD-2 Satellite
[Recording & Monitoring]
Monitor Speaker:FOCAL Trio 6 BE、GENELEC 8320A
Headphone:SONY MDR-CD900ST
Monitor Controller:SHADOW HILLS Oculus Wireless
Microphone:AKG C451B、AUDIX I5、NEUMANN M149、SENNHEISER E906、MD421-II、SHURE SM57、ROYER LABS R-10
[Outboard & Effects]
Mic Preamp:AMEK System 9098 DMA、BAE AUDIO 312、RUPERT NEVE DESIGNS 511、517、MAAG AUDIO Pre Q4
Compressor:UNIVERSAL AUDIO 1176AE、UREI 1178
EQ:RUPERT NEVE DESIGNS 551
Pedal Effects:ELECTRO-HARMONIX Deluxe Memory Man、JIM DUNLOP FFM2、MAXON OD808、MXR M108S、STRYMON Big Sky、SUHR Koji Comp、etc.
Other:UNIVERSAL AUDIO OX
[Instruments]
Synthesizer:MOOG Aluminium Minimoog Voyager、Sub 37、Slim Phatty、BEHRINGER Deepmind 16D、ROLAND Integra-7
Guitar:SUHR Standard Plus、PAUL REED SMITH 513、etc.
Bass:YAMAHA BB
中土智博
【BIO】Remark Spiritsのサウンド・プロデューサーを経て、作編曲家として活動中。栗林みな実、乃木坂46、中森明菜、緒方恵美、立花理香などへの楽曲提供のほか、『あんさんぶるスターズ!』『アイドリッシュセブン』などのゲーム音楽も手掛ける。APDREAM所属
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