中土智博のプライベート・スタジオ 〜Private Studio 2021

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アニメ/ゲームを多数手掛ける作家が求めた
“一手間かけられる”自宅での制作環境

 栗林みな実、乃木坂46、中森明菜、緒方恵美、立花理香などへの楽曲提供のほか、『あんさんぶるスターズ!』『アイドリッシュセブン』などのアニメ/ゲーム音楽も手掛ける作編曲家、中土智博。1年ほど前に自宅を新築したのに合わせ、ブース併設のスタジオを構えた。閑静な住宅街でもギターのアンプ録音が可能だというこのスタジオを訪れ、作家としてのこだわりを聞いてみた。

Text:iori matsumoto Photo:Takashi Yashima

 

自宅新築だからできた音場の確保
スタジオに合わせてアンプ・ヘッドを新調

 中土のスタジオは7.5畳のコントロール・ルームと2.1畳のブースで構成されている。スタジオを設けたきっかけはさまざまだが、仕事を通じて親交の深いエンジニア、ニラジ・カジャンチ氏のスタジオであるNK SOUND TOKYOの影響を受けたと語る。

 

 「どうせ家を造るなら、音漏れの無い、ミックスまでできる環境が欲しいなぁと。ニラジ氏に相談して、彼のスタジオを手掛けたアコースティックエンジニアリングさんを紹介してもらいました。彼のスタジオを見てしまうと、自分のスペースも欲しいなぁって思ってしまうんですよね(笑)。作業するときのクリエイティビティに影響するから。前の家でもカラー調整できるLEDライトを入れたりしてみたんですが、どうもそういうことでないなと(笑)。クロスの色とか質感とかも含め、もう少しちゃんと造ってみたいと思ったんです」

 

 自宅の新築時であるからこそ、スタジオに合わせた調整を建物のレベルで行えたと中土は続ける。

 

 「このスタジオの面積に対して、普通の住宅の天井高だと、定在波の影響が大きくなるそうです。それを避けるために、天井高がある程度欲しい。床面を下げるため、基礎の立ち上がりをギリギリまで下げてもらって、コンクリートを打ってもらいました。家と同時だからできることでした。床の仕上げはフローリング“風”のタイル。所属事務所APDREAMのスタジオが改修時にタイルにしたのですが、低音が締まって聴こえたし、機材の重量も考慮して選択しました」

 

 スタジオ完成とともに増えた機材は、MESA/BOOGIEのギター・アンプ・ヘッドとのこと。もともとR&B系グループ、Remark Spiritsのサウンド・プロデューサーとして世に出た中土だが、ルーツはギターにあるという。

 

 「ブースとの間の壁にスピコン端子を入れて、キャビと接続できるようにしています。ギターを録るときに、LEDのノイズが乗るんです。以前はゲーミング・キーボードを使っていたのですが、これもLEDがノイズ元になるのでやめました。室内照明も、調光器でノイズが一番減るポイントにマーキングしてあります。スタジオ用電源としてノイズ・カット・トランスを入れていますが、アンプはわざと雑電で鳴らす方がいい場合も多いですね。前の家でもアッテネーターを入れてキャビを鳴らしたりしていたんですが、部屋がそもそもギターのために造られていないから、変な付帯音が生じたりするし、かといって吸音し過ぎると暗い音で面白くないし。そういうこともあって、ギターが録れるスタジオを造りたかったというのもありました」

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約2畳のブースには、MESA/BOOGIEとDIEZELのキャビネットを常設。キュー・ボックスはBEHRINGER PowerPlay P16-Mで、ライン出力し、ヘッドフォン・アンプのORB Jade Casaを使うことでモニタリング・ノイズの低減を図っているそう

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ギター・アンプ・ヘッドは、上がVOX AC30 Hand-Wired Head、下がDIEZEL Hagen。ペダルは手前左から右にMAXON OD808(オーバードライブ)、SUHR Koji Comp(コンプ)、SONIC RESEARCH ST-300(チューナー)、ISP TECHNOLOGIES Deci-Mate(ノイズ・ゲート)、JIM DUNLOP FFM2(ファズ)。奥は、左の電源ディストリビューターVITAL AUDIO VA-08 MK-IIに続いてMXR M108S(グラフィックEQ)、XOTIC X-Blender(ミキサー)

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マイクは、左からAKG C451B、AUDIX I5、SHURE SM57、ROYER LABS R-10、NEUMANN M149、SENNHEISER MD421-II、E906

iMac Proを天地反転させてデスクにフィット
3台のMOOGを常時スタンバイ

 スタジオの正面に陣取るデスクはカスタム・メイドとのこと。「海外製の製品は、小柄な僕だとサイズが合わないんです。以前は自作したこともあったのですが、強度に不安があるし、低音の振動で鳴ってしまうので、スタジオに合わせて作ってもらいました」と中土。驚かされたのは、APPLE iMac Proを天地逆さにセッティングしていることだ。

 

 「デスクの角度に合わせるのに、どうしてもケーブルが邪魔になってしまうんです。調べたら、Macの標準の機能として画面を180度回転して使えるので、だったら逆さにしてしまえばいいと

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メイン・モニターはFOCAL Trio 6 BE、その内側にニアフィールドのGENELEC 8320Aを備えるデスク。APPLE iMac Proが天地逆さに設置されているのがポイントだ。手元の左側はショートカットなどをアサインできるELGATO Stream Deck。右側のAPPLE iPadではアクションカムの専用アプリを用いてブース内の映像をモニターする。キーボードはNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88

 デスク左側にはプリアンプとEQ、右にはコンプレッサーを主に設置。これらに混じって、ROLANDの音源モジュール、Integra-7もマウントされている。

 

 「意外と使う機会が多いですね。特に和楽器は、デフォルメされた音に自分たちが慣れていることもあって、生よりもハマることがあります。普段はしまってあるKORG Kronosとかも、モデリングのエレピが良くて、たまに使います」

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デスク左手側のラック。SHADOW HILLS Oculus Wireless(モニター・コントローラー)の本体とXLRパッチ・ベイに続いて、AMEK System 9098 DMA、RUPERT NEVE DESIGNS R8に収められたAPI 500互換モジュール群。左からRUPERT NEVE DESIGNS 511(プリアンプ)、551(EQ)、517(プリアンプ+コンプ)、API 550A(EQ)、MAAG AUDIO Pre Q4(プリアンプ+EQ)、API 312のノックダウン・モデルBAE AUDIO 312(プリアンプ)

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右側のラックには、電源ディストリビューターのほか、ROLANDの音源モジュールIntegra-7、コンプレッサーのUREI 1178、UNIVERSAL AUDIO 1176AEがインストールされている

 ハードウェアで気になるのは、MOOGのシンセ群。モノフォニック機ばかりが3台も用意されている。

 

 「ベース・シンセにはMOOGかなと思って最初にLittle Phattyを買って、より太い音が欲しくてサブオシレーターが付いたSub 37を追加しました。でも、ちょっと優等生だなと感じていたところ、佐藤純之介さんから勧められてAluminium Minimoog Voyagerを追加購入したんです。Model Dと違ってベンド・レンジが変えられるので、トラック制作には重宝しています。こうしたシンセは、普段はサブインプット用A/Dとして使っているFOCUSRITE Scarett Octo PreからAPOGEE Symphony I/O MKIIにADAT経由で入力していて、レコーディングする際にはアウトボードを通してSynphony I/Oに直結するようにしています」

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シンセなどが収められたスティール・ラック。上からMOOG Aluminium Minimoog Voyager、その下がMOOG Sub 37とBEHRINGER Deepmind 12D。下段はMESA/BOOGIE Rectifire Solo Head、MOOG Slim Phatty、UNIVERSAL AUDIO OX

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デスク右に置かれたオーディオI/OはAPOGEE Symphony I/O MKII(左)。続くFOCUSRITE Scarlett Octo PreはSymphony I/O MKIIとADAT接続し、シンセなどを常時接続しておくためのサブ入力としての役割を果たす。その右はキュー・システムのBEHRINGER PowerPlay P16-IとIK MULTIMEDIA IRig Pads

 中土のような作曲家に、テンポやキーの変更が求められることが多い昨今だが、彼は「イン・ザ・ボックスで完結するのは嫌なんです。一手間かけたい」と笑う。

 

 「コロナ禍で外のスタジオに行けないことも多いですが、こういう環境があることで、モチベーションとクオリティが上がるのであればいい。日々の作業がルーティーンになってしまいがちな中でも、自分でワイアリングをやり直したりする中で、新しい発想が生まれることもあると思いますから」

 

Equipment

[DAW System]
Computer:
APPLE iMac Pro
DAW:AVID Pro Tools Ultimate、ABLETON Live
Audio I/O:APOGEE Symphony I/O MKII
Controller:NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S88、ELGATO Stream Deck、IK MULTIMEDIA IRig Pads
AD/DA Converter:FOCUSRITE Scarlett Octo Pre
DSP:UNIVERSAL AUDIO UAD-2 Satellite

[Recording & Monitoring]
Monitor Speaker:FOCAL Trio 6 BE、GENELEC 8320A
Headphone:SONY MDR-CD900ST
Monitor Controller:SHADOW HILLS Oculus Wireless
Microphone:AKG C451B、AUDIX I5、NEUMANN M149、SENNHEISER E906、MD421-II、SHURE SM57、ROYER LABS R-10

[Outboard & Effects]
Mic Preamp:AMEK System 9098 DMA、BAE AUDIO 312、RUPERT NEVE DESIGNS 511、517、MAAG AUDIO Pre Q4
Compressor:UNIVERSAL AUDIO 1176AE、UREI 1178
EQ:RUPERT NEVE DESIGNS 551
Pedal Effects:ELECTRO-HARMONIX Deluxe Memory Man、JIM DUNLOP FFM2、MAXON OD808、MXR M108S、STRYMON Big Sky、SUHR Koji Comp、etc.
Other:UNIVERSAL AUDIO OX

[Instruments]
Synthesizer:MOOG Aluminium Minimoog Voyager、Sub 37、Slim Phatty、BEHRINGER Deepmind 16D、ROLAND Integra-7
Guitar:SUHR Standard Plus、PAUL REED SMITH 513、etc.
Bass:YAMAHA BB

 

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中土智博

【BIO】Remark Spiritsのサウンド・プロデューサーを経て、作編曲家として活動中。栗林みな実、乃木坂46、中森明菜、緒方恵美、立花理香などへの楽曲提供のほか、『あんさんぶるスターズ!』『アイドリッシュセブン』などのゲーム音楽も手掛ける。APDREAM所属

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