a2c(MintJam)のプライベート・スタジオ 〜Private Studio 2021

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ギターとベースのアンプ録りが可能な
宅録の限界に挑み続けるサウンド・ラボ

 ボーカルTERRAとギターa2c(アツシ)による音楽ユニットMintJam。その熱くて切ないロック・サウンドを手掛ける中心人物がa2cだ。MintJamの作品はレコーディングからマスタリングまでの大半が、彼の拠点MellowJamStudioで行われている。そのほかアニメにかかわる楽曲も作られているこのスタジオをのぞいていこう。

Text:Yuki Nashimoto Photo:Takashi Yashima

 

4発のギター・キャビネット2台には
8つの異なるユニットを搭載

 ここへa2cが拠点を移したのは約6年前。以前は防音施工されているマンションを借りていたのだが、より広い空間を求めて一軒家に移ったそう。玄関から入ってすぐ右、約10畳の部屋に制作空間が設けられている。「この部屋は元から二重サッシだったんですよ」とa2cが教えてくれた。

 

 「前の住人がピアノの先生で、この部屋にグランド・ピアノを置いていたそうです。隣の家との距離もあるおかげで、ギターとベース・アンプが鳴らせています。電源は200Vを引き込んでいて、ダウン・トランスで変圧しているんです」

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メタル・ラックで組まれたメイン・デスク。DAWはAPPLE Logic Pro Xで、コントローラーのAVID Artist Transport、Artist Mix、Artist Controlを駆使してミックスを行っている。メインのモニター・スピーカーはYAMAHA MSP7 StudioとHS8S(サブウーファー)の2.1ch仕様。上部にはMSP5 StudioとAVANTONE Active Mixcubesもチェック用として設置されており、いずれもSONARWORKS Reference 4でキャリブレーションしている。MIDIキーボードはNEKTAR TECHNOLOGY Impact GX61

  部屋が広くなり機材が増えたと言うa2c。スタジオの顔とも言えるギター・アンプのDIEZEL Herbertもここへ来てから導入したそうだ。その下に2台スタックしてあるキャビネットBLACKSTAR HT Metal 412AとSeries One 412Bは、それぞれ4つのスピーカー・ユニットを格納可能。それぞれ異なるユニットを付け変えたとa2cは語る。

 

 「異なるスピーカー・ユニットを搭載することで、マイキングによってさまざまなサウンドに対応できるキャビネットにしているんです。上のHT Metal 412Aがリード、下のSeries One 412Bがバッキング用で、どのパートも2~3本のマイクを立てて収音しています。使用するマイクはSHURE SM57とそのUMBRELLA COMPANY Transless Mod、RODE NT5。SM57は初めてコンボ・アンプのMARSHALL JCM2000 DSL 201を使ってマイク録りをしたころからの愛用品です。NT5は初めて買ったコンデンサー・マイクなんですよ。高域が奇麗に録れる良いマイクだと思います」

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右側にスタックされているのは、上からアンプ・ヘッドDIEZEL Herbert、キャビネットのBLACKSTAR HT Metal 412A、Series One 412B。左側上部にはライブで使っているアンプ・シミュレーターのFRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe-FX UltraとKEMPER Kemper Profiler Rack、パワー・アンプのVHT 2502が置かれている。その下のラックにはCUSTOM AUDIO AMPLIFIERS 3+ SE Tube Preamp、VHT Valvulator GP3、Classic Power Amplifierを格納。クリーン~クランチ・トーンとリードの音色は、これらラック・タイプのプリアンプとパワー・アンプの組み合わせで作ることが多いとa2cは話す

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上段は左からAUDIO-TECHNICA AT5040、BLUE MICROPHONES Blueberry、HEIL SOUND PR 30、SHURE SM57、SM57(Umbrella Company Transless Mod)。a2cはコンデンサー・マイクAT5040の濃厚な中域を高く評価し、アコースティック・ギターやコーラスなどの生音に使っている。下段は左からRODE NT5、AKG C451B、D112、AUDIX I5、CM3、SENNHEISER MD421-II、E906

 ギターとベースのアンプを録音するときは、リアンプで音決めすることがほとんどだという。どのようなアウトボードを使ってレコーディングしているのか尋ねた。

 

 「バッキングのギターはRUPERT NEVE DESIGNS RNDIとAPI 512Cの組み合わせでライン録りします。API 512Cに搭載されているDIではなく、あえてRNDIを使っていることがポイントで、周波数帯域がワイドに録れるんですよ。ベースのライン録りはギターと同じ512CとRNDIの組み合わせに加え、AVALON DESIGN V5を使った音も一緒に録っています。V5はトーン・ノブで積極的に音作りできるのが良いですよね。いつも設定を“2”にしてドンシャリ気味にしていますが、バイパスにすれば素直な音でも録れるんですよ。V5はギターとベース用の逆DIとしても使っているんです。ほかにもSHADOW HILLS Mono GamaやRUPERT NEVE DESIGNS 511、AMS NEVE 1073LBといったAPI 500互換モジュールのプリアンプを活用することもありますね」

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デスク左側に設置されたアウトボード群の上部。左上のAPI 6-Slot LunchboxにはコンプのSSL 611DYNがセットされている。その下にはRUPERT NEVE DESIGNS RNDI、API 512C、AVALON DESIGN V5がケース内に集結。このケースに入った機材がギター/ベース・レコーディングの要となっている。右側にはTK AUDIO TK-Lizer(TONEFLAKE Custom)、RUPERT NEVE DESIGNS Portico II Master Buss Processor、AVALON DESIGN VT-747SP、AVALON DESIGN AD2055が確認できる

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左上からFURMAN AR-1215 J、PETERSON Strobo Rack Pro、CHANDLER LIMITED LTD-2、TUBE-TECH LCA 2B、DRAWMER 1960。1960が初めて購入したアウトボードで、今もリード・ギター用のDIとして活躍している。その下のSM PROAUDIO JuiceRack8には、左からSHADOW HILLS Mono Gama、API 512C、EARTHWORKS 521 ZDT、RUPERT NEVE DESIGNS 511、AMS NEVE 1073LB、SSL 611EQ、TK AUDIO BC501を格納。最下部にはAPI 8200Aがラッキングされている。右側のラックにはFURMAN AR-1215、AMS NEVE 8816 Summing Mixer、APOGEE Symphony I/O、ANTELOPE AUDIO Isochrone Trinity、Symphony I/O、TUBE-TECH SSA 2Bがスタンバイ

実機の音をよく知っておけば
良いサウンドを作る道筋が描ける

 MellowJamStudioのシステムは、APOGEE Symphony I/O×2台とAPPLE Logic Pro Xが中枢を担っている。ほとんどのアウトボードは、常時APOGEE Symphony I/Oとルーティングされているという。

 

 「レコーディングやコンピューター内部で完結する作業はSymphony I/O1台でまかない、ミックスやマスタリングでアウトボードを使うときに2台目を起動させ、入出力を拡張しているんです。アウトボードはAPPLE Logic Pro XのI/Oユーティリティというプラグインを使って、プラグイン・エフェクトのように扱っています。エフェクト音のブレンド量を調節できるドライ/ウェットやM/S機能が便利です」

 

 Symphony I/O×2台分のアナログ入出力数は26イン/46アウト。出力端子のほとんどはTUBE-TECH SSA 2B、API 8200A、AMS NEVE 8816 Summing Mixerという3種類のサミング・アンプ/ミキサーにつながれている。このサミングのプロセスは、a2cが手掛けるプロダクションにおいて欠かせない。

 

 「基本的に全トラックをサミング・アンプ/ミキサーに通しているんですよ。トラック間の風通しが良くなり、開放的な音像に仕上がるんです。SSA2Bは真空管の機材らしく、音像が広がってハイファイになる印象。8200Aは中域に張りがあって、ドラムのバスに通すと弾むようなトーンになってくれます。8816 Summing Mixerは濃密で骨太なトーンを持ちつつ、豊富な機能を搭載しているのが魅力的ですね。モニター・コントローラーとしても使っていますし、ステレオ感をコントロールできるStereo Width機能も重宝しています。インサート入力やステレオ・ミニ入力など、豊富な入力手段が用意されているのも便利なんです」

 

 アマチュア時代から宅録の限界に挑み続けてきたというa2c。今もそのスタンスは変わらないという。宅録をたしなむギタリストに向けて、音質向上のヒントをもらった。

 

 「ギター・アンプでもアウトボードでも、実機の音をできるだけたくさん知ることですね。アナログ機材の利点や持ち味を知ることで、デジタル上で良いサウンドを作る道筋を描きやすくなります。例えばギターをアンプ・シミュレーターでしか録音したことがないなら、リハーサル・スタジオのアンプにSM57を1本立ててレコーディングしてみてください。いろいろな発見があるはずです。その体験の積み重ねが確かな力になっていくと思います」

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メイン・デスク上部。上からEMAGIC Unitor8、MT4、CLASSIC PRO PDM/LS、TC ELECTRONIC PowerCore FireWire、PowerCore X8が並ぶ。PowerCore用プラグインのMD3 Stereo Mastering はマスタリングに欠かせない存在で、10年近く使用し続けているとa2cは語る

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キャビネットのCREWS MANIAC SOUND SP-212と、HARTKE Hydrive 115。Hydrive 115の上にはベース用ヘッド・アンプのMARKBASS Little Mark Rocker 500が設置されている

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手前には使用頻度の高いGIBSON Les PaulとFENDER Stratocasterが。奥にはa2cモデルのT’S GUITARS Arc-SP “Crying Moon”とArc-SP “Prometheus”、その右にはBAKER GUITARS B1がつるしてある

Close up
オートキャンプでも音楽制作が可能に

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 近年ソロ・キャンプにはまっているa2c。旅先の車内でも音楽制作ができるようにと、ミニマルなシステムも用意している。スピーカーはIK MULTIMEDIA ILoud Micro Monitorで、MIDIキーボードはM-AUDIO Keystation Mini 32

 

Equipment

[DAW System]
Computer:
APPLE Mac Pro
DAW:APPLE Logic Pro X
Audio I/O:APOGEE Symphony I/O
Controller:AVID Artist Transport、Artist Mix、Artist Control、NEKTAR TECHNOLOGY Impact GX61、M-AUDIO Keystation Mini 32
Clock Generator:ANTELOPE AUDIO Isochrone Trinity
DSP:TC ELECTRONIC PowerCore FireWire、PowerCore X8

[Recording & Monitoring]
Mixer:TUBE-TECH SSA 2B、API 8200A、AMS NEVE 8816 Summing Mixer
Monitor Speaker:YAMAHA MSP7 Studio、MSP5 Studio、HS8S、AVANTONE Active Mixcubes、IK MULTIMEDIA ILoud Micro Monitor
Headphone:SONY MDR-CD900ST、MDR-7506、ULTRASONE Performance 860
Monitor Controller:TC ELECTRONIC BMC-2
Microphone:AUDIO-TECHNICA AT5040、BLUE MICROPHONES Blueberry、HEIL SOUND PR 30、SHURE SM57、SM57(UMBRELLA COMPANY Transless Mod)、RODE NT5、AKG C451B、D112、AUDIX I5、CM3、SENNHEISER MD421-II、E906

[Outboard & Effects]
Mic Preamp:SHADOW HILLS Mono Gama、API 512C、EARTHWORKS 521 ZDT、RUPERT NEVE DESIGNS 511、AMS NEVE 1073LB
Compressor:TK AUDIO BC501、CHANDLER LIMITED LTD-2、RUPERT NEVE DESIGNS Portico II Master Buss Processor、SSL 611DYN、TUBE-TECH LCA 2B、AVALON DESIGN VT-747SP
EQ:AVALON DESIGN AD2055、SSL 611EQ、TK AUDIO TK-Lizer(TONEFLAKE Custom)
Amp Simulator:FRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe-FX Ultra、KEMPER Kemper Profiler Rack
Pedal Effects:PROVIDENCE VLC-1 Velvet Comp、EMPRESS EFFECTS ParaEQ、IBANEZ TS9 Tubescreamer、etc.
Channel Strip:DRAWMER 1960
DI:AVALON DESIGN V5、RUPERT NEVE DESIGNS RNDI

[Instruments]
Guitar:GIBSON Les Paul、FENDER Stratocaster、T’S GUITARS Arc-SP “Crying Moon”、Arc-SP “Prometheus”、BAKER GUITARS B1、etc.
Bass:T'S GUITARS Omni Bass 5/24
Other:JERRY JONES Supreme Electric Sitar

 

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a2c(MintJam)

【BIO】音楽ユニットMintJamのギタリスト。アーティストとしての活動と並行し、シンガーへの楽曲提供や、アニメの劇伴、ゲーム音楽などの制作も行う。出世作とも言えるfripSide「only my railgun」のギターはライン録りで、OVERLOUD TH1が使用されている

Recent Work

Starting Over - EP

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  • MintJam
  • J-Pop
  • ¥917

 

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