「TONELUX JC37」製品レビュー:1958年発売のSONY C-37Aを現代向けに洗練させた真空管マイク

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 API 500互換モジュールなどを手掛け、“Tilt”なるEQ回路の開発でも知られるTONELUX。かつてAPIでエンジニアを務めたポール・ウォルフ氏が2005年に立ち上げたカリフォルニアのブランドです。そのTONELUXより、真空管コンデンサー・マイクのJC37が発売されました。

C-37Aと同じビンテージ真空管6AU6を搭載
パワー・サプライは2chでペア使用にも対応

 JC37は、外観と製品名から察しがつく通り、1958年に発売された初の日本製真空管マイク=SONY C-37Aの音響特性をモデルにしつつ、現代の音楽制作に向けて設計された一本。37mm径シングル・ダイアフラムやC-37Aと同じビンテージ真空管6AU6、出力トランスなどから構成されています。開発にはエンジニア/プロデューサーのジョー・チッカレリ氏が参加し、C-37Aを複数所有しているLAの伝説的スタジオSunset Soundにてリスニング・テストを実施するなど、相当に力の入ったマイクであることが分かります。

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SONY C-37Aを思わせるシャーシには、37mm径ダイアフラムや出力トランスが備わっている

 製品を箱から出してみると、マイク本体とパワー・サプライ、電源ケーブルがサイズ370(W)×240(H)×220(D)mmほどのハード・ケースに収納されており、保管や持ち運びに重宝しそう。また、このケースのおかげで内箱などは無く、後述するテストの準備や片付けも素早く行えました。小さなことかもしれませんが、現場においてはポイントが高いです。

 

 マイク本体は小ぶりでホルダーと一体になっており、マイク・ケーブルがじかに出ています。その長さは3m。良いあんばいです。指向性はカーディオイドのみ。ルックスは先ほど触れた通りC-37Aをほうふつさせるもので、レトロ感を演出しています。

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C-37Aと同じく一体型のホルダーを備え、マイク・ケーブルも本体からじかに出ている

 パワー・サプライもC-37Aのものと同程度の大きさですが、入出力を2系統備えています。ペアで使う際にも1台のパワー・サプライから電源を賄えるので、安心感がありますね。さらに、2本目のマイクはパワー・サプライのコストがかからない価格で購入できるそうです。

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JC37に電源を供給するパワー・サプライ・ユニット

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パワー・サプライのリア・パネル。マイク・インとマイク・アウト(共にXLR)が2つずつ備えられ、ステレオ/デュアル・チャンネルでのマイキングにも対応する。電源電圧は、端子の右側にあるスイッチで115V/230Vを切り替え可能

中域が色濃くも粒立ちが良くモダンな音
サチュレーションや高域のロールオフも特徴

 それでは実際に音をチェックしていきましょう。エンジニア山本創氏のスタジオにて、堀内孝平氏(99RadioService)にアコースティック・ギターと歌を演奏してもらい、NEUMANN U47系のマイクおよびTELEFUNKEN Ela M 251系のマイク(共に現行品)と比較してみました。

 

 まずはアコギを録音。一聴してJC37の特徴を知ることができました。ビンテージ感のある色濃い中域を持ちながらも粒立ちが良く、しっかりまとまったサウンド。中域がよく聴こえる分、重心が上がらず腰の据わった音がして、心地良く聴くことができました。粒立ちに関してはジャリジャリとした質感ではなく、木目が細かくて上品な印象。ネオ・ビンテージとでも言えば良いでしょうか、中域に独自のキャラクターがありつつも現代的な音質です。またフィンガリングのニュアンスもきちんと録れていたので、解像度も十分に高いと思われます。

 

 ほかの2本に比べるとピークが中域寄りのため、最初はレンジが狭く聴こえましたが、古めかしさやチープな感じはありません。低域はものすごく下まで伸びている気はしないものの、おいしい部分をとらえているので潤いが感じられます。

 

 次は、アコギの録り音に合わせて歌をレコーディングしました。少しリバーブをかけたところ、Ela M 251系のマイクが最もリバーブ乗りが良く、音像の大きさもEla M 251系やU47系に軍配が上がる印象。ですがJC37の音には握りこぶしのような力強さがあり、メイン・ボーカル一発でパンチを出したいときなどに活躍しそうです。また、ゲインがやや低めなのでノイズが大きくなりやすく、繊細でブレッシーな声が欲しいとき、または多くの声を重ねたいときにはほかの2本に分があるかもしれません。面白かったのは、出力トランスの特性なのか、JC37で録った声だけは張ったときに自然とコンプがかかったようになり、心地良いサチュレーションを得られました。

 

 続いて歌とアコギの録り音をミックスしてみたところ、JC37で録ったアコギはどのマイクの歌にもうまくハマりました。ほかの2本……特にEla M 251系で録ったアコギは、歌に合わせると高域を削りたくなりましたが、JC37は上の方が自然にロールオフしているかのようで、歌の居場所を確保しやすい印象。ハイカットの必要が無いのは大変素晴らしいことです。またEla M 251系のアコギにJC37の歌を混ぜると、アコギの大きい音像の中に歌がスッポリとハマり、これも良いコンビネーションでした。

 

 試しにJC37でエレキギターを録ってみたところ、音色によっては低域を削った方がよいときもありましたが、やはりおいしい中域が拾えました。とは言え、SHURE SM57と比較してみるとダイナミック・マイクのような粗さは無く、ウェットで情報量の多い音質なので、あらためて真空管マイクだということを実感しました。最後にアンビエンス・マイクとして設置し、ハンド・クラップも録音。音やせすることなく録れたので、ドラムやパーカッションのオフマイクでも活躍してくれそうです。

 

 JC37は“これにしか無いサウンド”を持っていながらも、今日のレコーディングに違和感なく使える質感です。特にバンド・サウンドやローファイ志向の楽曲には抜群にハマるでしょう。個性的かつ魅力にあふれた一本なので、ぜひ一度体験していただきたいです。筆者も欲しいマイクが増えました。

 

福田聡

【Profile】フリーで活動するレコーディング・エンジニア。ファンクやヒップホップといったグルーブを重視したサウンドを得意とし、ENDRECHERIやSANABAGUN.、EMILANDなどの昨日を手掛ける。

 

TONELUX JC37

オープン・プライス

(市場予想価格:315,000円前後)

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SPECIFICATIONS
▪形式:コンデンサー ▪真空管:6AU6 ▪指向性:単一 ▪周波数特性:30Hz〜20kHz ▪出力感度:2mV/Pa ▪SN比:68dB ▪出力インピーダンス:200Ω ▪最大SPL:140dB ▪外径寸法:50(φ)×180(L)mm ▪重量:421g(マイク・ケーブルを除く)

 

TONELUX JC37 製品情報

h-resolution.com

 

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