ZENTAのプライベート・スタジオ 〜Private Studio 2021

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API 1608コンソールでのドラム録りに対応
昼夜を問わず爆音を響かせるロック・キングダム

 ギタリスト/作曲家のZENTA。Jポップを制作する事務所の所属作曲家としてキャリアをスタート。後に独立し、ロック・ギターを軸にゲームのBGMや主題歌、アニメの劇伴、CMなどを手掛けるほか、メジャー・アーティストへ楽曲提供も行っている。そんな彼の活動拠点は、一軒家の1階に構えた商業スタジオさながらのプライベート・スペースだ。

Text:Yuki Nashimoto Photo:Takashi Yashima

 

スケルトンで45畳の工場跡を改築
夜でもドラム可の高い防音性を確保

 ZENTAのスタジオ……その名もZENTA STUDIOができたのは2014年。作曲家として所属していた事務所から独立した当初は、賃貸物件に制作環境を構えていたそう。

 

 「昔は6畳の部屋に3畳の防音室をDIYで造って、蒸し風呂のような状態でギターを録音していたこともありました。宅録にありがちだと思いますが、アコースティック・ギターを録音していると外の音が入ってくることも少なくありませんでしたね。こういった不便なことから解放されたくて、一軒家を購入して制作に集中できるスタジオを造ろうと思ったんです。物件を探していたところ見付かったのが、スケルトンで45畳ほどある工場跡でした。そこを購入し、1階をスタジオ、2階を住居スペースとして改築したんです

 

 1階のスタジオは、アコースティックエンジニアリングに設計および施工を依頼した。

 

 「デザイン性に優れたスタジオを造りたいと思っていたので、内装が奇麗な印象を持っていたアコースティックエンジニアリングに頼みました。部屋鳴りに関しては熟知しているプロにお任せして、とにかく時間帯を問わず爆音を鳴らせるブースが欲しいと注文しました。なのでこのスタジオは、深夜にドラムをたたいたりベース・アンプを鳴らしても大丈夫なんです。壁紙一つ取っても奇麗に張られていて、丁寧な仕事に満足しています。小さなことですが、一軒家なので機材を車に積み込むのが楽になりましたね」

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アナログ機材に囲まれたコントロール・ルーム内のメイン・デスク。STEINBERG CubaseとRME Fireface 802を中心に組まれたシステムとなっており、ディスプレイの横にモニター・スピーカーYAHAMA NS-10M Studioが設置されている。MIDIキーボードはNEKTAR TECHNOLOGY Impact LX49+

 コントロール・ルームに鎮座するのは、アナログ・コンソールのAPI 1608。購入した経緯を尋ねた。

 

 「1年前くらいにデモ機として使われていたものが安く販売されていたので、買ってしまいました。“お買い得”に弱くて、価格が安かったりポイントが多く付く機材を見付けるとつい買っちゃうんですよね。コンソールを導入した一番の目的は、ドラムの録り音の向上です。狙い通り海外のバンドのようなファットなサウンドで録ることができたので、本当に買って良かったと思っています

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200Vで動作させているアナログ・コンソールのAPI 1608。API 500互換モジュールのスロットには左からAPI 550A、560、SHADOW HILLS Mono Gama、API 527、529がインストールされている。最後にスロットを埋めたのはバス・コンプの529で、ドラムのオーバーヘッドに使うことが多いという

 さらにアナログ・コンソールのオーナーならではの、マニアックな気付きや苦労話も話してくれた。

 

 「買う前は電気代が高くなることを少し恐れていたのですが、電源を入れるのはレコーディング時だけなので、思っていたほど高くはなりませんでした。あと、よく電源で音が変わると言いますが、実際にコンソールを使って本当だと分かりましたね。1608はAPI 500互換のモジュール用のスロットが用意されているので、単体の電源ユニットと比較してみたところ、1608に挿して使う方が圧倒的に太いサウンドが出たんです……と、良いことばかりあるかのように話しましたが、メインテナンスは大変です。手軽に発送できないので自宅に業者を呼ばないといけませんし、修理費もかかります。でも最高ですよ、コンソール」

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コンソールの左側の機材群。上からVINTECH AUDIO 473、EMPIRICAL LABS Distressor EL8-X、DBX 160Xが2台ずつと、UREI 1176LN(Rev. H)、AMEK 9098DMA、RUPERT NEVE DESIGNS 5024、ROLAND SDE-2500、LINE 6 Echo Pro、PROCO R2DUがマウントされている。手前に置かれているのはBEHRINGER Powerplay P16-MとGRACE DESIGN M905

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コンソールの右サイドにはKORG Pitch-Black Pro、BEHRINGER Powerplay P16-I、FURMAN M-8X、ROLAND GI-20、RME Fireface 802×2、M905がラッキングされている

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コンソールの下にはサブウーファーのYAMAHA HS8Sが仕込まれている。「YAHAMA NS-10M Studioはサブウーファーと組み合わせてこそ本領発揮する」とZENTAは語る

コンソールを買う人生か
コンソールを買わない人生か

 1608に備わっているAPI500互換モジュール用のスロットには、EQのAPI 550Aと560、コンプの527、529を格納している。APIのモジュールでそろえている中、唯一SHADOW HILL Mono Gamaだけは他社製のモジュールだ。1608導入前から使ってきたプリアンプだと話す。

 

 「Mono Gamaはひずんだギター・サウンドによく合うし、ベースも太く録れるんです。3種類のトランスを切り替えられるのが面白いですよね。この間はエレキギターのラインはDiscreteというトランス、アンプからのひずんだ音はNickelを使いました」

 

 1608の左隣に2基マウントされているVINTECH AUDIO 473も長年制作を共にしてきた愛機だ。

 

 「473は芯のあるファットなサウンドが気に入っています。1608を導入する前はギターやベース、ドラムと、何にでも使っていましたね。VINTECH AUDIOの製品は本体とは別にパワー・サプライが用意されているのですが、その仕様も好きでして。僕は、電源ボックスが本体とは別に用意されている機材のサウンドを気に入る傾向にあるんです。そういえばこの間、同じく電源ボックスが別のCHANDLER LIMITED TG2を使ったときも、良い音だなと思いました」

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ブースにはギター・アンプ・キャビネットが勢ぞろい。古いMARSHALLなど大音量のアンプをROYER LABSのリボン・マイクで収音する際には、収納用の袋をマイクにかぶせつつウィンド・スクリーンも立てることで、リボンの故障を防止しているそうだ

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コントロール・ルームの奥にそびえ立つ、アンプ・ヘッド・タワー。よく使うのがALBIT A1で、ラウド・ロックにはDIEZEL VH4が活躍するそうだ

 レコーディング機材だけではなく、ギターをはじめペダル・エフェクトも多く所有する彼が、これほどまでに機材を集める背景には熱い哲学があった。

 

 「可能であれば欲しい機材は買えるように頑張るべきだと思っています。APIコンソールを購入するときに考えたのが“コンソールを買った人生にするか、買わなかった人生にするのか”ということ。人間は必ず寿命を迎えるじゃないですか? 僕はコンソールを買わずに死ねないと思ったんですよ。コンソールに限った話じゃないですけど、やりたいことはしっかりやって人生を謳歌したいと思っています。楽しいことを体験できるチャンスはつかんでいきたいですよ」

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上段左からAKG C414 XL II×2とC414 XLS×2、C451B×2、D112、D112 MKII、SHURE Beta 52A、SM7B、Beta 58A、SM57、SM57(Umbrella Company Transless Mod)、SENNHEISER MD421-II×2。下段はTELEFUNKEN TF51、TONEFLAKE T47、ROYER LABS R-10×2、R-121、NEUMANN KM 184、JOSEPHSON ENGINEERING E22S、AUDIO-TECHNICA ATM25、LEWITT DTP 340 TT×4

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ロビー。天井上(写真右)に設置してある四角い箱はエアコンで、ダクト・ホースからブースへ冷気を送っている。ブース内でエアコンの音が響かないようにする施策だ

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ブース内のシンセ・コーナー。上段左からMOOG Sub Sequent 37、KORG MS-20 Mini、NORD Nord Lead 4R、DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet'08、OBERHEIM OB-3、KORG MicroKorg、WALDORF Streichfett、JOMOX XBass 09、ROLAND TR-8が並ぶ。後ろのスピーカーはGIBSON LP8CB-NA

Close up
整頓されたブースの裏側

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 ブースに設置された調音パネルは、裏側にスタンドを収納できるように作られている。「こういった収納スペースがないと、ブースにスタンドの森ができてしまうんですよ。だからDIYで作ったんです」とZENTA。

 

Equipment

[DAW System]
Computer:
Windows PC
DAW:STEINBERG Cubase
Audio I/O:RME Fireface 802
Controller:NEKTAR TECHNOLOGY Impact LX49+

[Recording & Monitoring]
Mixer:API 1608、MACKIE. ProFX12V2
Monitor Speaker:YAHAMA NS-10M Studio、HS8S
Headphone:SONY MDR-CD900ST
Monitor Controller:GRACE DESIGN M905
Microphone:AKG C414 XL II、C414 XLS、C415B、D12、D12 MKII、SHURE Beta 52A、SM7B、Beta 58A、SM57、SM57(Umbrella Company Transless Mod)、SENNHEISER MD421-II、TELEFUNKEN TF51、TONE FLAKE T47、ROYER LABS R-10、R-121、NEUMANN KM 184、JOSEPHSON ENGINEERING E22S、AUDIO-TECHNICA ATM25、LEWITT DTP 340 TT

[Outboard & Effects]
Mic Preamp:VINTECH AUDIO 473、AMEK 9098 DMA、RUPERT NEVE DESIGNS 5024
Compressor:EMPIRICAL LABS Distressor EL8-X、DBX 160X、UREI 1176LN(Rev.H)、API 525、529
EQ:API 550、560
Delay:ROLAND SDE-2500、Space Echo RE-101、LINE6 Echo Pro
Pedal Effects:BOSS Flanger BF-2、Digital Delay DD-6、Metal Zone MT-2、Distortion DS-1、Mega Distortion MD-2、Equalizer GE-7、Super Octave OC-3 、MAXON OD808、Stereo Chorus CS550、IBANEZ TS9 Tube Screamer、MXR M102 Dynacomp、M222 Talk Box、MC402 Boost Overdrive、DZUMA メタルしかできない、STRYMON BlueSky、LIMETONE AUDIO Focus、Focus-NX、DIGITECH Whammy5、GAMECHANGER|AUDIO Plasma Pedal、PROCO Rat2、JIM DUNLOP Fuzz Face JH-F1、LINE6 M9、DL4、MM4、MARSHALL The Guv’nor、BENSON Preamp Pedal、SOBBAT Drive Breaker DB-1、ARION Stereo Chorus、 FULLTONE Full Drive 2、Z-VEX EFFECTS Super Seek Wah、etc.
DI:AVALON DESIGN U5、RADIAL J48、TECH21 Sansamp Bass Driver DI

[Instruments]
Keyboard & Synthesizer:MOOG Sub Sequent 37、ROLAND MS-20 Mini、TR-8、NORD Lead 4R、DAVE SMITH INSTRUMENTS Prophet'08、OBERHEIM OB-3、KORG MicroKorg、Oasys、WALDORF Streichfett、JOMOX XBass 09
Guitar:T-BONEGUITARS Zentax、FENDER Stratocaster、Telecaster、GIBSON Les Paul、J-45、ZEMAITIS Black Pearl Heart、etc.
Bass:T-BONEGUITARS Crazy Horse
Drums:YAMAHA Stage Custom

 

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ZENTA

【BIO】ギタリスト/作曲家。アニメの劇判やゲームの主題歌などを中心に手掛けるほか、メジャー・アーティストへの楽曲提供も行なっている。ギタリストとしての参加作品も多数。

Recent Work

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TVアニメ『オルタンシア・サーガ』
2021年1月より放送開始

 

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