パラレル・コンプでドラム・ループに躍動感とコシを加える!

パラレル・コンプでドラム・ループに躍動感とコシを加える!

サンレコのエンジニア・インタビューなどでも、たびたび登場する“パラレル・コンプ”なるテクニック。この特集では、エンジニアの福田聡氏がKeyco「Freedom Ride」で実践したパラレル・コンプを中心に解説。「特にドラムにはうってつけのソリューション」とのことなので、ぜひご自身の音作りに取り入れてみてください。

連動音源について:各ソースの処理後の音(=“原音+パラレル処理の音”の記載がある音例)は原音と聴感上の音量をそろえ、ビフォー/アフターの差異が分かりやすいようにしています。またパラレル処理のエフェクト音は、原音に対するバランスのまま書き出しています。

ドラム・ループへのパラレル・コンプを解説

 それでは実践です。まずはキックやスネア、ハイハット、パーカッションなどを含むドラム・ループへのパラレル・コンプから。あらかじめインサートのエフェクトで処理しておいたループですが、高域の躍動感や中低域の押し出しがもう少し欲しかったのでパラレル・コンプしました。

AVID BF76  Compressor |中~高域が立つ

 使ったのは2種類のコンプ。1つ目のAVID BF76にはPumpというプリセットがあり、2010年ごろにLAのクリエイターの方からそれを用いたパラレル・コンプを教えてもらって以来、愛用しています。レシオ12:1の設定ですが、ゲイン・リダクションは結果的に平均-1dBほどとなりました。

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かけると中~高域が立ってくるため、スネアや金物にもう一押し加えたいときに便利

 コンプには大抵、かけた後に目立って聴こえてくる周波数帯域があります。それがどこかはプラグインや機種によって異なるのですが、BF76の場合は中~高域なので、スネアのアタックやハイハットのプッシュ感、シンバルやタンバリンの躍動感を強めたいときに便利。また他社のUREI 1176系プラグインよりも倍音が控えめなので、バシャバシャし過ぎずにまとまりの良い音が得られます。

PLUGIN ALLIANCE Purple Audio MC77  Compressor |より高域が立つ

 ちなみに1176系では、PLUGIN ALLIANCE Purple Audio MC77を使うことも。BF76よりもう少し上の抜けが欲しいときに有用で、シンバルを品良く伸ばせたりします。

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パラレル・コンプでBF76と二者択一。愛用はプリセット“09DrumsParallelComp”。より高域が立ってくるので、シンバルの伸びなどを補強できる

SHEP 32264A  Compressor |中低域が立つ

 パラレル・コンプ2つ目はSHEP 32264A。NEVE系のアウトボード・コンプで、かけると中低域に押し出し感が出てきます。本稿で題材にしている曲では、キックのゴツゴツした部分を際立たせるのに使いました。UREI系コンプが高域方面を立たせる特性であるのに対し、NEVE系は全般的に下の方へ伸びていく感じなので、狙いに応じて使い分けるとよいでしょう。32264Aの設定は、レシオが最大値手前の4:1。アタック・タイムは3ms辺りで固定されていますが、リリース・タイムを最速にしています。ゲイン・リダクションは平均して-2dBほどとなりました。

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NEVE系のコンプは処理後に低い帯域が立つ傾向にある。なお、この写真は作業時の設定ではない

UNIVERSAL AUDIO Thermionic Culture Vulture  Distortion |中低~中高域にザラつきを付与

 これらのパラレル・コンプの後、ザラっとした質感を少しだけ加えたくなったので、パラレル・ディストーションを行いました。使用プラグインはUNIVERSAL AUDIO UADのThermionic Culture Vulture。中低~中高域にザラつきを与えるのが狙いです。ポイントは、AUXトラックでThermionic Culture Vultureの前段にロー&ハイカット・フィルターを入れたこと。ドラム・ループのように低域から高域まで広く含む素材は、音量の大きな帯域=低域からひずみ始めるため、中域以上がなかなかイメージ通りにひずまないんです。また、高域がひずむと耳障りになりがちなので、ひずませたい帯域がピンポイントに届くよう事前にフィルターをかけておくのが得策です。

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前段にロー&ハイカットを入れて、元のトラックの中低~中高域のみがひずむよう設定した

 以上のパラレル処理について元のループとのバランスを見てみると、BF76と32264Aのコンプ音はループの音量の2割ほどで、Thermionic Culture Vultureのひずみは1割にも満たないくらいでした。

UNIVERSAL AUDIO Chandler Limited Zener Limiter  Compressor |中域が立つ

 今回、題材曲のリリース版では使わなかったプラグイン・コンプを試してみたので、レポートしておきます。まずはUADのChandler Limited Zener Limiter。再現元のアウトボードはロックの王道コンプですが、今回はあえてエグめの設定でパラレル・コンプに使ってみました。中域のバイト感(かみつく感じ)がよく出てきますね。1176系と同様に“攻めの音作り”に有効だと思います。

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CHANDLER LIMITED TG12413 Zener Limiterを再現したプラグイン。中域のバイト感が魅力

KORNEFF AUDIO Talkback Limiter  Compressor |低めの帯域が立つ

 次にKORNEFF AUDIO Talkback Limiter。SSLコンソールのトークバック・マイクにかかるハードなコンプを再現した変わり種で、近ごろ気に入っています。コンプレッション後は“パコッ”とした音になりますが、1176系などよりは太い感じでコシもあるためお薦めです。がっつりかけて足す方が面白いコンプだと思います。

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SSL SL4000Eのトークバック・マイクに使われたコンプの再現。操作子が少なく直感的に使えるのも特徴

UNIVERSAL AUDIO DBX 160  Compressor |キックとスネアの両方にマッチ

 さて、ここまでドラム・ループへのパラレル処理を見てきましたが、キックやスネアといった単体のパーツに施す場合もあります。例えば打ち込みのキック。レンジ感が広くて良い感じだけれど、もう少しパンチが欲しいと思ったときにはパラレル・コンプの出番です。中低域にグングンくる“握り拳感”を加えたければ、NEVE系やFAIRCHILD系のコンプなどが便利でしょう。また、キックとスネアの両方に合うのがUADのDBX 160。COMPRESSIONノブを4~6といった高めの値にし、スレッショルドを低めにして音量を突っ込めば良い感じのアタックとグルーブが出せるはずです。

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単体のキックやスネアにパラレル・コンプを施す際、重宝しているプラグイン。音にパンチを与える

【特集】パラレル・コンプ、炸裂!

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解説:福田聡
【Profile】フリーランスのレコーディング/ミキシング・エンジニア。ファンクやR&Bといったグルーブ重視のサウンドを得意とし、堂本剛のプロジェクトENDRECHERIやK、オーサカ=モノレール、リベラル、WAY WAVE、Shunské G & The Peas、Keyco、マーサ・ハイらの作品を手掛ける。

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連動音源提供アーティスト:Keyco
【Profile】本特集の連動音源にもなった「Freedom Ride」は、シンガー・ソングライターKeycoの楽曲。ネオ・ソウルを軸にさまざまなフィールドで活躍する彼女は、2020年にメジャー・デビュー20周年の記念アルバム『あいいろ』をリリース。椎名純平、COMA-CHI & CHAN-MIKA、PUSHIMなど多彩なゲストを迎え、ソウル~R&B~ダンス・ミュージックを吸収した独自の世界を作り上げている。「Freedom Ride」は『あいいろ』の2曲目に収録。

編集部便り〜パラレル・コンプT、発売中!

サンレコ編集部プロデュース“パラレル・コンプTシャツ”

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