全世界で3,000以上のスタジオにおいてコンソールが採用されているSOLID STATE LOGIC(以下SSL)。長くサンレコを購読いただいている読者の方はもちろん、さまざまなメーカーからSSLの名が付いたプラグインが発売されていることもあり、若いDAWユーザーにもおなじみのメーカーと言えるだろう。約40年にわたりSSLが音楽制作の現場で支持されてきた理由とは何だったのか。その歴史から紐解きつつ、現行のSSLラインナップまで受け継がれるその魅力に迫っていこう。
Photo:Hiroki Obara(ORIGIN、XL-Desk)
マーケットやユーザーの声を形に
イギリスのオックスフォード州にSSLが設立されたのは1969年。創業者のコリン・サンダース氏は、レコーディング・スタジオで働く技術者で、最初の製品はパイプ・オルガン用のコントロール・システムだった。1974年には、運営する自社スタジオ用の16chコンソールを設計。このコンソールのうわさが次第に広まっていき、1976年にさまざまなユーザーの声を取り入れたSL4000Aを発表した。世界中の音楽スタジオで定番となったインライン・コンソールの始まりである。
インライン・コンソールとは?
1本のチャンネル・モジュール内に、録音系の信号とモニター用の信号を別々に操作するラージ/スモール2つのフェーダーを搭載するコンソール。省スペース化が実現し、操作性や応用性が向上した
1978年にはSL4000Bが、続く1980年にはSL4000Eが登場する。エンジニアからキャリアをスタートし、1981年にSSL入社後、製品開発を長く務めたクリス・ジェンキンス氏が「製品だけでなく、会社の姿勢も気に入っていた。エンジニアたちの要求をよく聞いてくれたよ。サンダースが現場の意見を取り入れてできたのがEシリーズなんだ」(サウンド&レコーディング・マガジン 1989年2月号より)と語っているように、マーケットやユーザーの声を技術者たちが形にしていくというのがSSLの本質であった。
卓上のスイッチのみでパッチングが可能になったこと、そしてコンピューター技術によるフェーダー・オートメーションやトータル・リコールが搭載されるなど、優れたワークフローを持つEシリーズは世界中で大ヒットとなる。
1987年に後継機のSL4000Gが発表し、1993年にはG+シリーズが登場。エンジニアのクリス・ロード=アルジ氏は「SL4000Gは僕が求めていた卓。考えていることとやりたいことがつながるような設計になっているんだ」(2009年12月号より)と、その操作性を絶賛している。
サウンド面においても評価は高かった。エンジニアの吉田保氏は、EシリーズのEQについて「EQがノブを回せば回しただけ効くのに感心させられた。エンジニアにとっては音作りに打って付けのEQであった」(2007年8月号より)と評価。また、サウンドをよりパワフルにするマスター・バス・コンプをGシリーズから搭載し、ミックスに重宝される機能となる。
全チャンネルにダイナミクスを搭載したコンソールも当時としては珍しかった。どんな声や楽器、ジャンルにも対応できるオールマイティな仕様で、原音の良さを最大限に生かすことができるそのサウンドを世界中が求め、あらゆるスタジオへとSSLコンソールが広まっていったのだ。
音に全く色付けをしないスーパー・アナログ
この思想はさらに突き詰められ、1994年にSL9000Jがスーパー・アナログ・コンソールと銘打って発表された。前述のジェンキンス氏は、スーパー・アナログ回路について「肝心なのは音に全く色付けをしないということ。コンソールというものは本来そういうことをすべきでは無いと思っている」(2002年5月号より)と答えている。レコードからCDへと記録メディアが更新された時代にあって、制作サイドが求めていたのはよりスピード感のあるハイファイなサウンドだ。SSLコンソールは新たな環境に適応し、さらなる進化を遂げることとなるのであった。
録音現場でDAWが標準となりつつあった2004年には、24chアナログ・コンソールでありながらDAWコントローラー機能を備えたAWS 900が登場。SSLコンソールとして初めてダイレクト・アウトが搭載され、フェーダーを通さずヘッド・アンプから直接オーディオI/Oへ送出できるようになる。当時、自身のスタジオに導入したエンジニアのZAK氏は「録りからミックスまでAWS 900だけでいけと言われればいけると思います」(2004年11月号)と、その優れた音質や機能性を称えた。
同時期、SSLではピーター・ガブリエルがオーナーになった。彼が目指したのは、ミュージシャン/クリエイター向けのラインナップ。プロユース機材のクオリティを一般ユーザーへ届けたのがXLogic Alphaシリーズだ。現代まで継承されるラインナップは、この時期から始まっていた。
SSLは“成功の象徴”
2000年代後半からは、VHD回路を搭載したDualityなどのスタジオ・コンソールを発表しながらも、DAWにより特化した16chアナログ・コンソールMatrix、オーディオI/OとDAWコントローラーを兼ね備えたNucleusなど、プライベート・スタジオでの使用を見据えた製品も多数登場する。
そして2019年、スタジオ・コンソールのORIGINをリリース。SSLコンソールらしい外観、Eシリーズを受け継ぐEQ、PureDriveマイクプリなど、これまで培ってきた技術を下敷きとする一方、今のスタジオ環境に適したワークフローを有する新たなフラッグシップ・コンソールとして誕生した。アナログ・ミキサーのSiX/BiG SiXなどにも技術が共有され、個人でもさらに身近なものとして、SSLクオリティを獲得できるようになったのだ。
その時代のユーザーの声に、常に寄り添いながら新しい製品を開発してきたSSL。その理念が、これからも音楽制作者たちを支えていくことは間違いないだろう。最後に、グラミー多数受賞の世界的エンジニア、デヴィッド・ペンサド氏による2006年7月号掲載の言葉を引用する。
「アナログのSSLコンソールで作業するのが大好きで、その理由の1つは、大物エンジニアの気分を味わわせてくれるからなんだ! SSLは成功の象徴。このコンソールの前に座っていると、世界を征服できるっていう自信が湧いてくるんだ」
SSL ORIGIN〜新世代のハイブリッド・スタジオ・インライン・コンソール
レガシーを受け継ぐSSLラインナップ
SSL 2 - USBオーディオ・インターフェイス
2イン/2アウトの小型オーディオ・インターフェイス。入力チャンネルに搭載された4Kスイッチを押すとSL4000シリーズをオマージュしたアナログ・サウンドを加えられる。
※2イン/4アウトのSSL 2+(オープン・プライス:市場予想価格46,750円前後)も発売
UF8 - DAWコントローラー
8chのDAWコントローラー。あらゆるDAWソフトに対応し、3つのソフトを同時にコントロールできる。スタジオ・コンソールを踏襲する100mmフェーダーなどにより、直感的な操作を可能とする。
UC1 - プラグイン・コントローラー
SSLのプラグイン、SSL Native Channel Strip 2とBus Compressor 2を手元で操作できるコントローラー。SSLコンソールが持つ直感的なワークフローをプラグイン上で実現できる。
Fusion - アナログ・プロセッサー
2Uサイズの完全アナログ・アウトボード。新たに設計されたVINTAGE DRIVE、VIOLET EQなど5つのアナログ・ツールを搭載する。歴代コンソールの技術を受け継ぎながらも、全く新しいSSLアナログ・サウンドを生み出している。
SiX - アナログ・ミキサー
2系統のSuperAnalogue™マイクプリ、最大12chのライン入力をサミングできるアナログ・ミキサー。G-SERIES BUS COMPも搭載されており、 その性能はスタジオ・コンソールと同等のものだ。
BiG SiX - USBオーディオ・インターフェイス内蔵アナログ・ミキサー
SiXのチャンネル数を増やし、さらに16イン/16アウトのオーディオI/Oを内蔵したアナログ・ミキサー。SuperAnalogue™マイクプリを搭載するモノ・チャンネルのEQが3バンドになるなど、大幅に機能が拡張された。
XL-Desk - 24chアナログ・コンソール
DAWワークフローを必要としないエンジニアのために設計された。スタジオ・コンソールDualityで評価を受けたVHDマイクプリや、API 500互換モジュールのSSL 500シリーズ用のスロットを用意。往年のSSLサウンドを好みで組み合わせることができる。