はじめまして。APAZZIと申します。ご縁があってDigital Performer(以下DP)連載を担当することになりました! 第1回は僕の簡単なDPとの出会いのお話と、普段DPで制作しているアイドル・ソングの基本的な編曲手順を紹介してみようと思います。よろしくお願いします!
マーカーで曲の構成を可視化
初めて僕が編曲に使ったシーケンス・ソフトは、スーパーファミコン用ゲーム・ソフト『音楽ツクールかなでーる』。それまでギター1本で曲作りしていた僕にとって、8音同時発音可能な最高のシーケンス・ソフトでした。編曲に触れたきっかけがゲーム・ソフトだったためか、専門学校在学中に出会ったDPにもまるでゲームで遊んでいるように取り組んでいたことを覚えています。同時発音数に際限が無かったことがあまりにも衝撃的で、“プロも使っているツールで胸を張って自作曲を聴かせられる。これで夢がかなうぞ!!”とワクワクしましたね。
それから月日は経ち、今ではさまざまな編曲の仕事にDPを用いています。今もあの頃灯ったワクワクの火はそのまま。読者の皆さんも同じような心のときめきを、DPとともに体験していただけたらうれしいです。
さて、皆さんご存じでしょうか。AKB48「君はメロディー」「久しぶりのリップグロス」、乃木坂46「今、話したい誰かがいる」「Sing Out!」などの作品は、すべてDPで編曲されています。作家仲間でもあり大先輩の野中“まさ”雄一さん、武藤星児さん、そして僕も、申し合わせたかのようにDPユーザーなんです。僕の中では、DPはアイドル・ソングと相性がいいんだろうと思っています。そこで、第1回は実際に行っているDPを使用した編曲手順を紹介していきます。編曲家には、高いクオリティとスピード感を同時に発揮できる時短テクニックが必要となります。今回の内容はすべて、時短の要素も踏まえたテクニックです。
まずは、作家の方から預ったデモ音源を聴きながらメロディの意図をくみ取り、ドラムやピアノの音色、要となる根っこのグルーブをどうするかなど、楽曲の出来上がりを想像します。アレンジの方向性が見えてきたら、デモ音源を最初から再生しながらAメロ、サビなどの構成部分にマーカーを打っていきます。転調するポイント、歌詞の印象的な部分などにもメモ代わりに打っておきましょう。曲の構成を可視化することで編曲のペース配分を逆算できるので、スタート〜ゴールまでの道のりに対する不確定要素が減って、立ち止まることなく目的に向かって集中することができます。
次に、コードをMIDIで打ち込んでいきます。歌のメロディを引き立たせるコードのボイシングを熟考して進めることが大事です。この作業は、彫刻を彫るためのアタリを付ける下書きの線のような役割。しっかり下地を作っておくことで、後の工程もイメージ通りに進められます。さらに、コードとは別のトラックを作成し、そこにデモの中の印象的なフレーズや、自分が瞬間的に思いついたフレーズも同様に打ち込んでいきましょう。
打ち込みに使う音色として、今回はDP購入時に付属する5GBのサンプル・ライブラリーMOTU Instruments SoundbankからConcert Grand Pianoを選択。ピアノでもシンセ系でも、とにかく気分がウキウキするものなら何でもいいです。たくさんの音色が用意されているので、自分の好みに合わせて選びましょう。
また、この作業をしている間、僕はできるだけ鍵盤から手を離さないようにしたいと考えています。操作のたびにいちいちコンピューターのキーボードに手を伸ばしていると時間がかかり、思考も遮られてしまいますよね。それを防ぐために、よく使うコンピューターのキーボード操作をフット・スイッチにすべて割り当てています。作業を時短したいという方にお勧めです!
サビをひたすらループして作り込む
下準備とも言える作業を終えた後は、サビに集中して取りかかりましょう。サビは楽曲が一番盛り上がる部分。頂上部分の景色が見えるまで先に登っておくことで、一合目から頂上、下山までのルート、つまりイントロ〜アウトロの完成形をざっくり浮き彫りにできます。本当に?と思われるかもしれませんが、やってみると分かるのでぜひ試してください!
サビの制作方法は、“サビをひたすらループしながら各パートを打ち込む“です。何度も繰り返し聴きながら、納得できるクオリティまで仕上げていきます。
最初はドラム。音色のサンプルをDP付属のサンプラー・プラグイン、Nanosamplerに取り込みます。ここで特に重要なパートが、キックとハイハット。グルーブの軸として楽曲の大黒柱となってくれる要素で、音色選びがとても大切です。キックの音色一つとっても音楽ジャンルによって合う、合わないがあったり、生音なのかリズム・マシンの音なのかという違いがあったりしますが、“体が勝手に動いちゃうかどうか”が一番の判断基準。クイズの答えを見つけるように、ゲーム感覚で楽しみながら行いましょう!
それからほかの楽器にパート分けをしていきます。各パートの音は、使用する音源に用意されているプリセットでもOK。よくやりがちなのは、パラメーターをガチャガチャいじっちゃったり、エフェクト・プラグインを足したりしすぎて、単に派手になってるだけの音を良い音だと勘違いしてしまうことです。音楽の気持ち良さを感じ取る本能むき出しの自分と、冷静な判断力を持つ自分の両方を意識しましょう。
ほかのパートを重ねていくと、当初は良かったドラムのグルーブ感がチグハグになってしまうケースもあります。潔く音色を差し替えるもよしですが、せっかく時間をかけて選んだ音色なので、Nanosamplerでエンベロープを調節してブラッシュアップするのもよしです。
大事なのはトライ・アンド・エラーを恐れないこと。繰り返しになりますが、しっかり足場を固めることで相性抜群の音色を瞬時に判断できるようになり、結果的に各パートを上手に重ねることができます。これも一種の時短テクニックではないでしょうか。
といったところで字数が尽きてしまいました。ありがとうございました!
APAZZI
【Profile】作詞/作曲/編曲家。乃木坂46、AKB48、私立恵比寿中学、DISH//、近田春夫などのJポップの楽曲制作および編曲、プロデュースなどを行い、オリコンCD売上ランキング編曲家部門において3年連続1位を記録。2017年、編曲を手掛けた乃木坂46「インフルエンサー」で日本レコード大賞の大賞受賞。2021年、共作曲・編曲を手掛けた乃木坂46「ごめんねFingers crossed」で同優秀作品賞受賞。コライトによる楽曲制作を主軸に、Akira Sunsetと作家ユニット「THE SIGNALIGHTS」としても活動中。
【Recent Work】
『久しぶりのリップグロス』
AKB48
(キングレコード)
MOTU Digital Performer
オープン・プライス
LINE UP
Digital Performer 11(通常版):60,500円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10(16ビット)
▪共通:INTEL Core I3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)