大阪を拠点に活動する3人組ジャンルレス・ユニット変態紳士クラブのプロデューサー、GeG。彼のスタジオは、4階建てのビルをまるごと増改築して造られたという物件の1階部分と3階部分にあたる。そこには制作時の手間を省くための工夫や、海外でのスタジオ体験を元にした“GeGらしさ”が詰まった空間が広がっていた。
好きなシンセをいつでも演奏/録音できる環境
「1階は主にレコーディングとミックス作業を担うG.B.'s Studio、3階はGeG個人の制作やミックス、バンド・セッションを行うGLABとして機能しています」と語るGeG。以前は東京にもスタジオを造ったことがあるという彼に、今回大阪にスタジオを設けた理由を伺った。
「実は変態紳士クラブがメジャー・デビューしたとき、一度東京にスタジオを造ろうとはしました。ただ、完成前に大雨が降って浸水したのでそのスタジオを手放したんです。東京には縁がなかったのだと思って大阪に帰ったのですが、やっぱりスタジオが欲しいなとあきらめきれず……そこで今度は大阪で物件を探したところこのビルを見つけ、全フロア改装したんです。地元が大阪なので落ち着くし、リモート作業も増えたので、今では東京に居なくてもすべての作業をこのスタジオで完結できるんです」
GeGのこだわりが色濃く反映されているというGLABは、約30畳の広さ。20台以上のシンセ群をはじめ、ギター、ベース、電子ドラムが一つの円を描くように並べられている。すべての信号は、MIDIインターフェースICONNECTIVITY MioXLやADコンバーターのRME M-32 AD Pro、またはRME Fireface UFX+を通り、メイン・デスク上にあるオーディオ・インターフェースRME MADIFace XTへ集約されている。これらは使用目的に合わせてRME TotalMix FXで自由にルーティングしているそうだ。
「大切なシンセたちに加えて、ギター、ベース、それに電子ドラムまですべてパラで録音できる環境にしています。また、シンセと電子ドラムはオーディオとMIDIの両方を送れるようになっているんです。最近、G.B.'s BANDというバンドをプロデュースしていて、ここで彼らとセッションしたり、ライブ・アレンジをしたりもしています」
GLABにあるAPPLE Mac Studioには、3種類のDAWをインストールしているという。
「IMAGE-LINE FL StudioはメインのDAW。あと、最近はAVID Pro Toolsを使っていて、外部のプロデューサーやエンジニアとセッション・データをそのままやりとりできるので便利なんです。3つめのDAWはSTEINBERG Cubase。オーディオ・クオンタイズ機能がどのDAWよりも優秀なので、これだけのために使用しています。ミュージシャンから送られてきたオーディオ・ファイルをそのまま流し込み、クオンタイズ設定を適用するだけという使い方です」
ビル全体が揺れるくらいの爆音で作業する
GLAB内でもう一つ目に飛び込んできたのは、メイン・デスク両サイドに鎮座する3ウェイ・モニターNEUMANN KH 420 G+サブウーファーのNEUMANN KH 870 Gだ。
「取り寄せできる全ブランドのスピーカーをここで聴き比べ、その中で勝ち抜いたのがこのスピーカーたち。初めて鳴らしたときに“バランスがめちゃくちゃいい”と感じたんです。ニアフィールド用のモニター・スピーカーも置いていますが、基本的にはKH 420 GとKH 870 Gでしかモニターしません。ビル全体が揺れるくらいの爆音で制作するのが、テンション上がって最高なんです(笑)」
以前訪れたアメリカとジャマイカのスタジオ体験に強く影響を受けたと話すGeG。そこで最も衝撃を受けたのがスピーカーだったと続ける。
「とにかく、どのスタジオも音がデカい! 特にアメリカで感じたのは、日本と比べて低域の聴こえ方が速いということ。それを日本でも再現したくて日々試行錯誤しています。最近は峰電さんなどに協力してもらい、理想の音に近づいていますね。ATCはアメリカのスタジオでよく見かけていたので、憧れのスピーカーの一つだったんです」
1階のG.B.'s Studioでは、ラージ・モニターとしてATC SCM100A Proを、サブウーファーにはATC SCM 0.1/12Proを設置する。
「もちろんいろいろ試した中での選択というのもありますが、完全に憧れで導入したところが大きいです。ただ、SCM100A ProとSCM 0.1/12Proを同時に鳴らしたときのサウンドは、ほかのスタジオでは味わえない唯一無二の素晴らしさがあるので、ぜひ聴きにきてほしいですね! ビルの1階から最上階まで揺らせるパワーがあります(笑)」
G.B.'s Studioのコンソールには、32chモデルのSOLID STATE LOGIC Originを用意している。
「DAWを中心としたワークフローの中で、アナログ・サミングとして簡単に使えるのが最高です。アナログとデジタルにおける制作環境のいいとこ取りができます」
変態紳士クラブの活動初期から、GeGは“海外にも通用する音”を掲げてきたが、今回のスタジオができたことでさらに一歩近づいたのではないだろうか。
「今年は制作環境が整ったので、来年は勝負の一年にしたいと思います。新しいアルバムを現在制作中なので、みんな期待してくださいね!」
Equipment:GLAB
DAW System
Computer:APPLE Mac Pro、Mac Studio、MacBook Air、他
DAW:ABLETON Live、AVID Pro Tools、IMAGE-LINE FL Studio
AD/DA Converter:DIRECTOUT TECHNOLOGIES Andiamo 2.XT、RME M-32 AD Pro
Audio I/O:AMS NEVE 88M、RME Fireface UFX+、MADIFace XT、ROLAND Octa-Capture
Interface:ICONNECTIVITY MioXL
Controller:NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol A61
Recording & Monitoring
Monitor Speaker:ATC SCM20A Pro MK2、FOSTEX CW250A、IK MULTIMEDIA ILoud MTM、NEUMANN KH 420 G、 KH 870 G、他
Outboard & Effects
Pedal Effects:MOOG MF-102 Ring Modulator、MF-104M Analog Delay、TC ELECTRONIC June-60、ND-1 Nova Delay、NR-1 Nova Reverb、他
DI:AKIMA&NEOS Multi Tube Direct Injector Dual
Amp Simulator:FRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe-FX III
Instruments
Keyboard:RHODES MKI Suitcase SeventyThree
Synthesizer:ACCESS Virus TI2 Desktop、CASIO CZ-3000、CZ-5000、OBERHEIM OB-X8、OB-XA、MOOG One 16Voice、ROLAND Fantom-X7、Juno-60、Jupiter-80、SEQUENTIAL Pro 3、Prophet Rev2、Take 5、KORG CX-3、Minilogue XD Module、Polysix、MOOG Little Phatty Stage II、Minimoog Model D、Minimoog Voyager Electric Blue Edition、Sub 37、WALDORF Quantum
Sequencer:OBERHEIM DSX
Rhythm Machine:OBERHEIM DX
Guitar:FENDER Stratocaster、JACKSON Stars、他
Equipment:G.B.'s Studio
DAW System
Computer:APPLE Mac Pro
DAW:AVID Pro Tools
Audio I/O:AVID Pro Tools|MTRX
AD/DA Converter:DIRECTOUT TECHNOLOGIES Andiamo 2.XT
Recording & Monitoring
Mixer:SOLID STATE LOGIC Origin、Six
Monitor Speaker:ATC SCM100ASL Pro、ATC SCM 0.1/12Pro、FOCAL Solo6 Be
Headphone:SONY MDR-CD900ST
Microphone:NEUMANN U 67、PELUSO 22 47、SONY C-800G、WARM AUDIO WA-8000、他
Outboard & Effects
Mic Preamp:AMS NEVE 1073DPA、AVALON DESIGN VT-737SP、SUMMIT AUDIO TPA-200B、他
Compressor:DBX 162SL、DBX 160SL、EMPIRICAL LABS Distressor EL8-X、RETRO INSTRUMENTS Retro 176、UREI 1176LN
EQ:PULTEC EQP-1A
Instruments
Keyboard:CASIO Casiotone MT-800
GeG(変態紳士クラブ)
関西出身の音楽プロデューサー。現在までにプロデュースした楽曲の総ストーリミング数は、6億回を超える。変態紳士クラブのプロデューサーとしての活動だけにとどまらず、自身が代表を務める音楽制作事務所Goosebumps Musicを発足するなど、その活動範囲は多岐に渡る。
次に欲しい機材は…?
欲しい機材……というより、今はアースを埋め込みたい。そして、究極のMIDIシステムが欲しいですね。目標としては、最終的にはメイン・デスクに座ったままで、スタジオ内にあるすべてのハードウェア・シンセのパラメーターをコントロールして音色調整などができたらいいなとたくらんでいます。そういうシステムを構築できる方、セットアップするがの好きっていう方がいたら、いつでも連絡してください!
Recent Work
『舌打』
変態紳士クラブ
(トイズファクトリー)