ジョン・マッケンタイアのプライベート・スタジオ|Private Studio 2023

ジョン・マッケンタイアのプライベート・スタジオ|Private Studio 2023

トータスやザ・シー・アンド・ケイクのドラマーとしての活動だけでなく、プロデューサー、エンジニアでもあるジョン・マッケンタイア。本誌2001年1月号のプライベート・スタジオ特集に登場したのを覚えている読者も多いのではないだろうか。現在はシカゴから移住したポートランドに、自身のスタジオ、Soma Electronic Music Studiosを構えている。

予測不能さが好みのEMS VCS3

 マッケンタイアが生まれ故郷であるポートランドに移り住んだのは、2019年の夏だったそう。

 「シカゴを離れてからほかの地域にも何度か引っ越したけど、家族もいるし素晴らしい街でもあるから、ここに戻ってくるのが理にかなっていると思ってね。スタジオはそんなに広くなくて、リビング・ルームくらいかな(笑)。ガレージにドラム・ブースがあって、ドラムもレコーディングできるようになっているよ」

デスク周り。モニター・スピーカーはHEDD AUDIO Type 30でデスクの中央にMIDIキーボードのARTURIA KeyStep Pro、左にリズム・マシンのELEKTRON Analog Rytm MKII、右にはドラム・シンセのSyntaktを置いている。デスクのラックにはコンプなどのエフェクトのほか、左手前にBLACK CORPORATION Xerxes MK2、中央手前にDeckard's Dream MK2といったシンセや、右奥にはボコーダーのEMS Vocoder System 2000を配置している

デスク周り。モニター・スピーカーはHEDD AUDIO Type 30でデスクの中央にMIDIキーボードのARTURIA KeyStep Pro、左にリズム・マシンのELEKTRON Analog Rytm MKII、右にはドラム・シンセのSyntaktを置いている。デスクのラックにはコンプなどのエフェクトのほか、左手前にBLACK CORPORATION Xerxes MK2、中央手前にDeckard's Dream MK2といったシンセや、右奥にはボコーダーのEMS Vocoder System 2000を配置している

ガレージにあるドラムのレコーディング・ブース。スネアにSHURE SM57とGEFELL M294、ハイハットにAKG C451(アダプターのA51を装着)、トップにSCHOEPS CMC6×2といったマイクを立てているのが見える

ガレージにあるドラムのレコーディング・ブース。スネアにSHURE SM57とGEFELL M294、ハイハットにAKG C451(アダプターのA51を装着)、トップにSCHOEPS CMC6×2といったマイクを立てているのが見える

 最新作『Sons Of』は、ザ・シー・アンド・ケイクのサム・プレコップとの共作。ライブ録音を素材に、ポストプロダクション作業はこちらで行ったという。

 「ここにあるシンセを重ねたりはしていないよ。シンセの要素は、すべてサムが用意してくれたからね。僕の方ではELEKTRON Analog Rytm MKIIなどを使用してパーカッションを重ねたり、エディットやミックス、マスタリングをしたんだ。ライブではAnalog Rytm MKIIとNORD Nord Drum 3Pも使ってライブ・ドラミングも行っているよ」

 生楽器を使用せず、ハードウェアのエレクトロニクスを主体とする理由は何なのだろうか。

 「ハードウェアを使う方が、限られた方法の中で解決しなければならないから、やれることが無限にあるよりもクリエイティブなんだ。僕たちがすみかとしたい音の世界にたどり着いたんだと思う。あらゆる方法で限りない結果を出せる今の時代だからこそ、“意図”が最も重要なんだ」

 Soma Electronic Music Studiosにも、新旧さまざまなハードウェア・シンセがセットされている。

 「EMS VCS3は約30年前、最初に買ったシンセで、予測不能なところが好きなんだ。説明が難しいけれど、すごくオーガニックに感じられるというか、機材全体がちゃんと活用されるためにできている気がする。音も大好きで、テクスチャーとして用いているよ。最近よく使っているのは、2月に手に入れたMOOG Matriarch。セミモジュラー・シンセだからパッチングできるところが気に入っている。ボイス構造が柔軟で、ポリシンセにもなるし、オシレーターを重ねたモノシンセにもなるんだ。もちろんみんなが大好きな、素晴らしいMOOGのラダー・フィルターも搭載されているよ」

マッケンタイアが初めて買ったシンセというEMS VCS3

マッケンタイアが初めて買ったシンセというEMS VCS3

SEQUENTIAL Prophet-10はマッケンタイアが絶賛するシンセ。その下の鍵盤だけ見えているのはMOOG Subsequent 37 CV

SEQUENTIAL Prophet-10はマッケンタイアが絶賛するシンセ。その下の鍵盤だけ見えているのはMOOG Subsequent 37 CV

右側のモジュラー・シンセ・ラックの手前にはKORG MiniKorg-700Sを用意。奥のラック上段には、CMS 2607、その下にシーケンサーのSND SAM-16 Sequential Analogue Memoryをセッティングする。その下のGENTLE ELECTRIC Model 101はピッチをCVに変化するコンバーター

右側のモジュラー・シンセ・ラックの手前にはKORG MiniKorg-700Sを用意。奥のラック上段には、CMS 2607、その下にシーケンサーのSND SAM-16 Sequential Analogue Memoryをセッティングする。その下のGENTLE ELECTRIC Model 101はピッチをCVに変化するコンバーター

奥にあるのがARP 2600(CMSによるモディファイ済み)で、その手前にMOOG Matriarchを配置

奥にあるのがARP 2600(CMSによるモディファイ済み)で、その手前にMOOG Matriarchを配置

上から、アナログ・モノシンセのSTUDIO ELECTRONICS ATC-1、ビンテージ・サンプラーのAKAI PROFESSIONAL S612、音源モジュールのJOMOX Airbass、電源ユニット、MIDIインターフェースのMOTU MIDI Express XT。S612は最近導入したそうで、マッケンタイアは「良い意味で粗雑さがありクランチーだね。サンプルのスタート/エンド・ポイント用スライダーが付いていて、リバースもできる。クリエイティブなポテンシャルを秘めているから、最適な使い道を突き止めようとしているしているところさ」

上から、アナログ・モノシンセのSTUDIO ELECTRONICS ATC-1、ビンテージ・サンプラーのAKAI PROFESSIONAL S612、音源モジュールのJOMOX Airbass、電源ユニット、MIDIインターフェースのMOTU MIDI Express XT。S612は最近導入したそうで、マッケンタイアは「良い意味で粗雑さがありクランチーだね。サンプルのスタート/エンド・ポイント用スライダーが付いていて、リバースもできる。クリエイティブなポテンシャルを秘めているから、最適な使い道を突き止めようとしているしているところさ」

左からOXFORD Oscar、EDP Wasp。Waspはフィルターが特徴的で、リード・シンセに向いているとのこと

左からOXFORD Oscar、EDP Wasp。Waspはフィルターが特徴的で、リード・シンセに向いているとのこと

より良いスタジオにすることを常に考えている

 エンジニアでもあるマッケンタイアが使用するDAWは、AVID Pro Tools。ミックスは、ハードウェア・インサートを使い、主にアウトボードで行っているという。

 「TEGELER AUDIO MANUFAKTURというドイツのメーカーの製品が気に入っている。コンプのSchwerkraftmaschineは、Vari-MuやVCAなどコンプのモードを切り替えられるんだ。リバーブのRaumzeitmaschineも良い。ただアウトボードは徐々に減らして効率化したいとは思っていて。昔はいろいろな種類を持っていることに意味があったけど、今はどの機材も音が良いから、数を持っておきたいという気持ちが無くなってきている。パッチ・ベイも、どうしたら取り除けるかを考えているところなんだ。すべてをダイレクトにパッチさせたくて、10chの小さなミキサーを持っているから、そちらを使うかもしれないね」

アウトボード・ラックには上から、コンプのSSL The Bus+、チャンネル・ストリップの500 Series Six Channel。API500互換モジュール・ラックのPURPLE AUDIO Sweet Ten Rackには左から、リミッターのMXR Mini-Limiter×2、STANDARD AUDIO Level-Or×2、エフェクト接続用モジュールのRADIAL EXTC 500×2、EQのPOPE AUDIO BAX 2020×2をセット。その下には、コンプのTEGELER AUDIO MANUFAKTUR Schwerkraftmaschineで、最下段にあるのはEQのAUDIOSCAPE EQP-A×2

アウトボード・ラックには上から、コンプのSSL The Bus+、チャンネル・ストリップの500 Series Six Channel。API500互換モジュール・ラックのPURPLE AUDIO Sweet Ten Rackには左から、リミッターのMXR Mini-Limiter×2、STANDARD AUDIO Level-Or×2、エフェクト接続用モジュールのRADIAL EXTC 500×2、EQのPOPE AUDIO BAX 2020×2をセット。その下には、コンプのTEGELER AUDIO MANUFAKTUR Schwerkraftmaschineで、最下段にあるのはEQのAUDIOSCAPE EQP-A×2

 オーディオ・インターフェースとしてメインで使うのは、BURL AUDIO B80 Mothership。ミックスの最終段階においても、アナログへのこだわりがあるようだ。

 「B80 MothershipでDA変換した後、すべてのステムをトランスフォーマー(変圧器)に直接通している。こうすることでコンソールのサウンドを出すことができるんだ。トランスフォーマーはたくさんの種類を持っているけど、特にTRIAD MAGNETICS HS-66が一番多い。どんなソースにも活用できるよ。それからサミング・ミキサーのBURL AUDIO B32 Vancouverですべてを2ミックスにまとめている。Pro Toolsのミックス・バスで、プラグインを使ったデジタル・プロセッシングも多少行っているかな」

奥のラックの一番下にオーディオAD/DAコンバーターのBURL AUDIO B80 Mothershipを、その上にサミング・ミキサーのB32 Vancouverを組み込んでいる。手前に立てかけてあるのは、10chアナログ・ミキサーのAUDIO DEVELOPMENT AD146

奥のラックの一番下にオーディオAD/DAコンバーターのBURL AUDIO B80 Mothershipを、その上にサミング・ミキサーのB32 Vancouverを組み込んでいる。手前に立てかけてあるのは、10chアナログ・ミキサーのAUDIO DEVELOPMENT AD146

 続いてスタジオのモニター環境について。モニター・スピーカーは、HEDD AUDIO Type 30をセッティングしている。

 「ずっとADAM AUDIOのスピーカーだったけれど、創業者がHEDD AUDIOを設立するとともに移行したんだ。長年使っていたスピーカーの新バージョンというような製品で、とても満足している。あとはキャリブレーション・ソフトのSONARWORKS SoundID Referenceを使っているおかげで、音の精度が格段に上がったよ」

 現在もミキシングを手掛けている作品があるほか、「まだかなり初期の段階だけど、トータスの新しいアルバムにも取り組み始めたんだ」と語るマッケンタイア。ここで生まれた作品が、これからも世界中のリスナーを魅了していくだろう。

 「より良いスタジオ環境にするにはどうすればいいか、常に考えているよ。常にね! 少なくとも今は、どんどん小さくしていくことができているからいいんだ。以前は、“もっと機材を手に入れたい!”と思うばかりだったけどね(笑)」

Equipment

 DAW System 
DAW:AVID Pro Tools|HD
Audio I/O:BURL AUDIO B80 Mothership(BDA4 DAC Daughter Card追加済み)、ANTELOPE AUDIO Orion 32 HD
AD/DA Converter:BURL AUDIO B2 Bomber ADC

 Outboard & Effects 
Mic Preamp:JOHN HARDY M-1
Compressor/Limiter:ITA LA-1B、TEGELER AUDIO MANUFAKTUR Schwerkraftmaschine、UREI 1176LN Rev.F、他

EQ:AUDIOSCAPE EQP-A、POPE AUDIO BAX 2020
Delay:KLEMT Echolette II、MULTIVOX MX-312、他
Reverb:SOUND WORKSHOP 262、TEGELER AUDIO MANUFAKTUR Raumzeitmaschine

Pitch Shifter:EVENTIDE H3000S
Filter:SND FB-14S

 Recording & Monitoring 
Mixer:BURL AUDIO B32 Vancouver
Monitor Speaker:HEDD AUDIO Type 30
Calibration Software:SONARWORKS SoundID Reference
Headphone:SENNHEISER HD 650

 Instruments 
Keyboard & Synthesizer:ARP 2600、BLACK CORPORATION Deckard's Dream MK2、EMS VCS3、The Cricklewood、ELEKTRON Syntakt、SidStation、EDP Wasp、GENTLE ELECTRIC 101、ROLAND SH-101、KORG MS-20、MOOG MemoryMoog、Matriarch、Minimoog Model D、SEQUENTIAL Prophet-10、SIMMONS SDS7、他
Sequencer:SND SAM-16 Sequential Analogue Memory
Rhythm Machine:ELEKTRON Analog Rytm MK II
Sampler:AKAI S612(モディファイ済み)

 

ジョン・マッケンタイア

ジョン・マッケンタイア
トータスやザ・シー・アンド・ケイクのドラマーとしての活動だけでなく、プロデューサー、エンジニアでもあるジョン・マッケンタイア。本誌2001年1月号のプライベート・スタジオ特集に登場したのを覚えている読者も多いのではないだろうか。現在はシカゴから移住したポートランドに、自身のスタジオ、Soma Electronic Music Studiosを構えている。

次に欲しい機材は…?

 実は数日前にバス・コンプのSSL The Bus+を手に入れたばかりでね。パラメーターがとても充実していて、サウンド・カラー・モードを3種類から選択できたりと、バス・プロセッサーだけれどユニークな機能が多数搭載されているよ。2ミックスのミックス・バスや、マスタリングで使うのにすごく便利そうだと思って導入したんだ。ドラム・バスのパラレル・コンプとしても試してみたいかな。

 Recent Work 

『Sons Of』
サム・プレコップ・アンド・ジョン・マッケンタイア
(HEADZ)

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