リモート参加者を孤立させない配慮をしたマイク
パナソニックから、新たな1.9GHz帯デジタルワイヤレスマイクシステムが発売された。グースネックマイク+送信機、バウンダリーマイク、Dante対応受信機などから構成させるこれらの新製品は、現在増えつつあるリアル参加者とリモート参加者が混在する会議や講義を想定したものだという。
コロナ禍によって急速に日本でもリモート会議/講義が普及し、会議室とリモートをつないだハイブリッドな会議/講義も増えてきた。こうしたハイブリッド会議/講義では、どうしてもリアル会場の声がオンライン参加者に伝わりにくく、リモート参加者との間に心理的な距離が生まれてしまうということもしばしばある。パナソニックではそうした問題に対して、一人一人に、あるいは机1つごとにマイクを置いて、広い部屋でも全体をカバーできるよう、新製品を開発した。
今回の新製品群でメインとなるのは、卓上型ワイヤレス送信機WX-ST600(90,000円)とこれと組み合わせるグースネックマイクロホンWM-KG645(34,000円)、そして正面から約120°をカバーするバウンダリー型のワイヤレスマイクWX-ST700(102,000円)だ。
WX-ST600とWX-ST700はサイズとデザインが共通。エルゴノミックなボディの手前側には、マイクの通話ON/OFFを行うトークスイッチが設けられている。クリック感の無い静電容量式にしたのは、ヘッドフォンでモニターしているリモート参加者の耳元でクリックノイズが鳴らないようにする配慮だ。
また、静電容量スイッチの上には、4段階のLEDレベルメーターが設けられている。話者に声の音量を提示することで、ネットの向こう側に居るリモート参加者に対して伝わっていることを視覚的に表示するための機能だ。
さらに上部には3つLEDランプを搭載。中央はトークの状態、右側はバッテリー残量、左は後述のUSB充電のステータスを示している。全体的にスタイリッシュなデザインであるにもかかわらず、使用者にステータスを明示しているのが、WX-ST600/700に共通した仕様と言えるだろう。ちなみにWX-ST600は一般的な3ピンXLR接続で、マイクの長さや指向性、デザインなどに応じて、他社のマイクとも組み合わせても使用できる。
充電器のリモート管理に対応
充電器WX-SZ600(165,000円)は非接触型で、WX-ST200などのハンドヘルド、グースネック送信機、バウンダリーが最大4つ同時に充電できる。WX-ST600はグースネックマイクを外さずに上に乗せて充電することも可能だ。ネットワークを介した充電管理にも対応し、専用の運用支援ソフトから充電状態が確認できる。
ちなみにWX-ST600/700はフル充電で13時間の連続使用が可能。電池の容量が大きい分、充電時間は10時間と長めだが、使用しない夜間に充電しておけば運用面の問題はない。電池は単3×2本なので、アルカリ電池での運用も可能。またUSB-Cを介しての給電や充電も可能となっている。
ユニークなところでは、既発のハンドヘルド型と同様に、外部音声入力端子を備えているところ。例えば発表/プレゼンでスライドにつけた音声をリモートにも飛ばしたいといったニーズにも適応できる。
最大96個のマイクに対応するマルチセッション
実際にワイヤレスマイク・システムを設備に納入するインストーラー/インゲグレーターからパナソニックが意見を聞いたところ、数十人規模で開催される会議や講義も多いということが分かった。従来のパナソニックの1.9GHzデジタルワイヤレスマイクシステムは16chまで扱えたが、それ以上の規模のニーズがあるということだ。
パナソニックではそれを解決するために、マルチセッション機能を新たに搭載した。想定される会議/講義では、参加者数分マイクを用意しても、その参加者が同時にしゃべるケースは多くない。このマルチセッション機能では、1つの受信チャンネルに対して複数のマイクをアサイン。同一チャンネルでの優先順位を設定することで、受信機のチャンネル数に対して6倍の本数のマイクを設置できるようになった。
極端に言えば、先生1人+生徒23人の個々にすべてマイクを置いても、4ch受信機があれば運用できる。マイクはたくさん置きたいがローコストに抑えたいというニーズに叶うと言えるだろう。
このマルチセッション機能で有用なのが、WT-ST600/700が対応する先優先/後優先の設定。先優先にすればもともと話している話者のマイクが、後優先にしておけば後から話した人が優先される。
なお、既存のパナソニック製1.9GHzデジタルワイヤレスマイクシステムも、アップデートでマルチセッション機能に対応する。ハンドヘルド型やピンマイクは先優先固定ではあるが、これらは司会者や議長が使用することを考えると、一般参加者の使用するグースネックやバウンダリーが後優先になっていればよいだろう。
Dante対応受信機でシステム構築
96ものマイクを扱えるこの新ワイヤレスシステム、座席固定の会議室や教室はもちろんのこと、ワイヤレスの強みを生かしたフレキシブルな運用が可能な点も特徴と言えるだろう。
特に、サイズや席数がフレキシブルな会議室に需要があるとパナソニックでは見ている。可動壁を備えたA/B/Cの3室を自由につなげ、A+BとCの2室、あるいはA+B+Cの1室で利用可能なような施設だ。
そこで、今回の新しいワイヤレスシステムではDante対応のレシーバーを用意。全室の集中システムにDanteで全マイクの信号を送り、デジタルミキサーで出力のゾーンを制御する。設定をプリセット化しておけば、部屋のレイアウト変更に応じたマイクと出力の組み合わせを誰でも簡単に呼び出すことが可能となる。
インプット側=マイク側の準備は、このパナソニックの新ワイヤレスシステムでできる。一方、こうした出力のゾーン設定や管理はどうするべきだろうか? 実はRAMSAからWR-DX200というデジタルプロセッサー/ミキサーも同タイミングでリリース。1Uサイズの本体と組み合わせて、物理フェーダーやアサイナブルスイッチを備えており、照明のオン/オフやスクリーンの上げ下げといった周辺機器の連動操作も実現できる(iPadからの操作にも対応)。
相手に伝わっている「安心感」を提供する
近年、会議室用の収音システムとしては、天井に埋め込むシーリングマイクが増えてきた。マイクの存在を意識させることなく使えるというのが、その利点の一つだ。
今回発表されたパナソニックのワイヤレスシステムは、ある意味ではそれと逆のアプローチを採っている。会議の参加者はどこに向かって話せば、ネットの向こう側に居る相手に伝わるのか? そして今話していることは相手に伝わっているのかを、実際のマイクとその機能で話者に伝える。参加者にとって、自分が話している内容が確実に相手に伝わっているという安心感までも提供しようという姿勢の現れではないだろうか。