単体でも複数使いでもOK! イマジネーションを形にするABLETON Live付属デバイス|解説:熊木幸丸

単体でも複数使いでもOK! イマジネーションを形にするABLETON Live付属デバイス|解説:熊木幸丸

 皆様こんにちは。“世界中の毎日を踊らせる”をテーマに活動しているLucky Kilimanjaroでボーカルとコンポーザーをやっています、熊木幸丸(くまきゆきまる)です。私は小さい頃、ブロックのおもちゃで遊ぶのがはちゃめちゃに好きだったんですよ。試行錯誤して手足が動くロボットを作ったりなんかして楽しかったなー。ABLETON Liveってそういう“もしかしてこんなこと……できるんじゃない?”的なイマジネーションに付いてきてくれるというか、ガンガン引っ張ってくれるDAWだと思います。私の考えるLiveの魅力を伝えていきますので、よろしくお願いします!

回路を選択できるAuto Filter、独特の揺れ感はEchoで付加

 まずは私がLucky Kilimanjaroの制作で頻繁に使うエフェクト・デバイスを紹介します。一番使っているのはAuto Filterです。音にキャラクターを付けていく方向でも、オートメーションで動かしてエフェクティブに演出する場面でも足を向けて寝られないくらい使っています。

筆者が最もよく使うABLETON Live付属デバイスAuto Filter。赤枠の項目ではフィルターの回路タイプを5種類から選択でき、筆者はラダー回路のPRDモードやサレンキー回路のMS2モードを多用している

筆者が最もよく使うABLETON Live付属デバイスAuto Filter。赤枠の項目ではフィルターの回路タイプを5種類から選択でき、筆者はラダー回路のPRDモードやサレンキー回路のMS2モードを多用している

 フィルターの回路タイプが選べて、滑らかに太く使いたいときはPRDモード(ラダー回路)、過激に使いたいときはMS2モード(KORG MS-20などで使われるサレンキー回路)を選ぶことが多いです。異なるカラーでフィルターをかけられて重宝しています。DriveやLFOが付いており、かゆいところに手が届きつつ、すべての作業を小さい画面内で処理できるのは最高です。Lucky Kilimanjaroの最近の楽曲ではほぼすべてに挿しています。

 ディレイを挿すときにはEchoがファースト・チョイスで、そのまま完成までいくことも多々あります。アルバム『TOUGH PLAY』収録の「週休8日」で冒頭から鳴るパーカッション・サウンドは、パーカッション・ループをSimplerでスライスしてたたき、Echoを使って独特の揺れ感を出しました。

「週休8日」のパーカッション・サウンドはサンプラー・デバイスのSimplerとEchoの組み合わせで音作り。独特の揺れ感を出している

「週休8日」のパーカッション・サウンドはサンプラー・デバイスのSimplerとEchoの組み合わせで音作り。独特の揺れ感を出している

 操作性も非常に良く、フィルター/モジュレーション/ダッキングなどサササっと設定できます。ボーカルにしっかりディレイをかけたいとき、ドライ音にウェット音がかぶり、リズムや音のクリアさが失われるのが嫌なときはダッキングやフィルターを使い、ボーカルとディレイが共存できるよう調整。Reverbのパラメーターでディレイ⇄リバーブをシームレスに切り替えられるので、オートメーションを描いてエフェクティブに変化させることもできます。

 ハードウェア・コントローラーABLETON Push 2でEchoを立ち上げた際の画面もよくできていて、ちょうどつまみでいじりたいパラメーターがトップにアサインされているため、効果的なディレイをすぐに作ることができます。オートメーションの入力も遊んでいるような感覚で進めることが可能です。

筆者は専用コントローラーのABLETON Push 2を使用。ディスプレイには選択中のデバイスに合わせた表示がされる。写真はEchoを選択中のもので、カーブがグラフィックで表示されるほか、上部のノブにはそれぞれパラメーターが自動的にアサインされている

筆者は専用コントローラーのABLETON Push 2を使用。ディスプレイには選択中のデバイスに合わせた表示がされる。写真はEchoを選択中のもので、カーブがグラフィックで表示されるほか、上部のノブにはそれぞれパラメーターが自動的にアサインされている

“なんとなくコンプ”を避けてクリエイティブな作業に注力

 同じくよく使用するのが空間系のHybrid Reverb。複数のリバーブをミックスできるのですが、特にAlgorithmリバーブのシンセライクなリバーブ・サウンドが好きです。PrismタイプのリバーブはシンセのARPや、リズムのあるものにかけると生き生きとしたサウンドになります。「ファジーサマー」ではギターのアルペジオにShimmerをかけてシンセ・パッドのようなサウンドに仕上げました。

「ファジーサマー」ではギターのアルペジオにリバーブ・デバイスのHybrid Reverbを適用し、シンセ・パッドのようなサウンドに仕上げている

「ファジーサマー」ではギターのアルペジオにリバーブ・デバイスのHybrid Reverbを適用し、シンセ・パッドのようなサウンドに仕上げている

 こちらもPush 2との連携が素晴らしく、各パラメーターへのアクセスがとても容易にでき、柔軟なハードウェア・リバーブに様変わりします(ユーザー・インターフェースも非常にかわいくて良いです)。

Hybrid Reverbを立ち上げている際のPush 2の表示。セクションやリバーブ・タイプがアイコンで表示され、視覚的にも楽しめる

Hybrid Reverbを立ち上げている際のPush 2の表示。セクションやリバーブ・タイプがアイコンで表示され、視覚的にも楽しめる

 Max For LiveのVolume Compensatorは、エフェクトではありませんが必須アイテムです。私は昔からプラシーボが効きやすいのか、コンプやサチュレーターを挿したら“なんかトラックが良い感じになった気がしてしまう”人間です。

筆者はエフェクトの効果を確認するためのMax for LiveデバイスVolume Compensatorを多用。効果を確認したいデバイス(ここでは画面中央のDrum Buss)の前にSenderモード(赤枠)、後ろにReceiverモード(黄枠)でVolume Compensatorを挿すことにより、同じボリュームでエフェクトの効果を確認することができる

筆者はエフェクトの効果を確認するためのMax for LiveデバイスVolume Compensatorを多用。効果を確認したいデバイス(ここでは画面中央のDrum Buss)の前にSenderモード(赤枠)、後ろにReceiverモード(黄枠)でVolume Compensatorを挿すことにより、同じボリュームでエフェクトの効果を確認することができる

 このデバイスは2つ挿してSenderとReceiverに分け、その間にプラグインを挟むことでプラグインによって生じたゲインの上昇を埋めてくれる、いわゆるゲイン・マッチのデバイス。“コンプでなんか良い感じになった気がする”現象に対して“ただ音量が上がっただけじゃない?”と喝を入れてくれる、禅のようなデバイスです。“なんとなくコンプ”や“なんとなくサチュレーター”を避け、ほかのクリエイティブな作業に注力できます。

複数のデバイスを組み合わせてワークフローを効率化

 Liveでは単体デバイスだけでなく、ブロック遊びをするかのように複数のデバイスを組み合わせることで、独自のエフェクトを作ったり、既存のエフェクト・デバイスに機能を追加してワークフローを効率化させることも可能です。デバイスのカスタマイズ性が自分の性分に合っているなと感じています。

 ここからは、私が自作して使っているデバイスの紹介です。まずはUtilityとShaperを組み合わせたDuckerというデバイス。UtilityのGainがShaperに合わせて動くようにマッピングしているので、ダッキングができます。サード・パーティ製プラグインでも同様のことができるのですが、新規ウィンドウを開かずデバイス・ラック内で完結できるのが非常に便利で、CPU負荷も低いです。また、ワンノブでダッキングの深さを調整できるようにマクロ・コントロールを設定しています。

筆者の自作デバイスDucker。UtilityとShaperを組み合わせ、UtilityのGainがShaperで生成した波形に合わせて動くようにマッピングすることで、ダッキング効果を生み出すことができる

筆者の自作デバイスDucker。UtilityとShaperを組み合わせ、UtilityのGainがShaperで生成した波形に合わせて動くようにマッピングすることで、ダッキング効果を生み出すことができる

 ShaperにはJitterというパラメーターがあり、Shaperの動きにランダム性を足せるので、画一的なダッキングだけでなく少し揺れがあるものも作れます。『TOUGH PLAY』収録の「足りない夜にまかせて」で使っているベースやパッドなど、Lucky Kilimanjaroの楽曲でも数多く使用しているデバイスです。

 また、UtilityのマッピングをAuto FilterのFrequencyに変えればShaperの動きに合わせてフィルターを動かしたり、Ampに変えれば、ひずみ量を動的に変化させることが可能です。

Auto FilterとUtilityを組み合わせることで音量とドライブが少し上がるように調整。ハイパス・フィルターで低域を絞っても音が大きく残る仕組みを作ることができ、オートメーションを描く作業も軽減される

Auto FilterとUtilityを組み合わせることで音量とドライブが少し上がるように調整。ハイパス・フィルターで低域を絞っても音が大きく残る仕組みを作ることができ、オートメーションを描く作業も軽減される

 先述のAuto FilterもUtilityと組み合わせていて、フィルターを絞ると音量とドライブが自動で少し上がるようにマクロ・コントロールで調整したものを使用しています。こうすることでHPFで低域を絞っても音が大きく残るので、フィルター・サウンドが太く聴こえるのです。本来は3つオートメーションを描かなくてはいけないところが1つで済むので、非常に効率が良く助かっています。

 いかがでしたでしょうか。単体でもとても魅力的なLiveの付属デバイスですが、複数デバイスの組み合わせによって、より自分の発想に近いデバイスを作り上げることができます。ぜひ皆さんもクリエイティブなサウンド作りを楽しんでください!

 

熊木幸丸

【Profile】同じ大学の軽音サークルで出会った6人で結成したLucky Kilimanjaroのボーカル/コンポーザー。2022年3月に3rdフル・アルバム『TOUGH PLAY』を発売し、6月にはバンド史上最大動員の全国ツアー『Lucky Kilimanjaro presents.TOUR “TOUGH PLAY”』のファイナルをパシフィコ横浜で開催。7月13日「ファジーサマー」を発売、9月11日より全国ツアー『Lucky Kilimanjaro presents. TOUR ”YAMAODORI 2022”』を開催中。

【Recent work】

『ファジーサマー』
Lucky Kilimanjaro
(ドリーミュージック)

 

ABLETON Live

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LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13〜12、INTEL Core I5以上またはAPPLE M1プロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境

製品情報