AUSTRIAN AUDIO OC16 レビュー:独自カプセルを採用しつつ価格を抑えた単一指向性コンデンサー・マイク

AUSTRIAN AUDIO OC16 レビュー:独自カプセルを採用しつつ価格を抑えた単一指向性コンデンサー・マイク

 2017年、オーストリアのウィーンで元AKGの技術スタッフたちが中心となって設立したメーカー、AUSTRIAN AUDIO。設立の背景には、同年にAKGのウィーン工場が閉鎖されたという経緯があるようです。AUSTRIAN AUDIOからはAKGのマイクをほうふつさせる製品が発売されており、C414を思わせるものとしてOC18というコンデンサー・マイクがありますが、そのエントリー・タイプと言えそうなOC16が新しく登場しました。

CK12カプセルを踏襲した設計のCKR6

 OC16は単一指向性のラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイクです。外箱を開けると、運搬にも便利そうなしっかりとした作りの専用キャリー・ケースが姿を見せます。そのケースの中にはマイク本体に加え、ショック・マウント・サスペンション・ホルダーとシンプルなホルダー(マイク・クリップ)が同梱されており、シーンに応じてマイク・スタンドへの取り付け方を選べるようになっています。

“OC16標準モデル”として発売されているパッケージの内容。写真左から専用キャリー・ケース、OCH8マイク・クリップ、OC16本体、OCS6サスペンション

“OC16標準モデル”として発売されているパッケージの内容。写真左から専用キャリー・ケース、OCH8マイク・クリップ、OC16本体、OCS6サスペンション

 本体のコントロールは、フロントにハイパス・フィルターのスイッチ(40/160Hz)があるのみで、OC818やOC18といった上位機種にあるPADスイッチは省かれています。

 心臓部であるカプセルは、AKGのCK12を踏襲して設計されたCKR6。ウィーンでハンドメイドされているそうで、製品の価格を考えると驚きです。ちなみにCK12は、もともとAKG C12に備わっていたカプセルで、以降は初代のC414から現行版にまで採用されています。つまり約70年にわたって使われており、AKGラージ・ダイアフラム・コンデンサー・マイクの特徴的な音の要と言っても過言ではありません。

 CK12のリムは古いものだと真ちゅう製、その後はテフロン(プラスチック)製になりましたが、CKR6は素材を現代的にアップデートしセラミックを採用することで、温度や湿度の影響を低減しつつ品質を安定させることに成功しています。

CKR6カプセルは、リムにセラミックを採用することで環境からの影響を受けにくく、品質を維持しやすくなっている。またサスペンション構造でマウントし、タッチ・ノイズへの耐性を高めているのも特徴だ

CKR6カプセルは、リムにセラミックを採用することで環境からの影響を受けにくく、品質を維持しやすくなっている。またサスペンション構造でマウントし、タッチ・ノイズへの耐性を高めているのも特徴だ

 OC16のフロント・グリルをのぞき込むと、CKR6は3点のサスペンション構造になっていて、それによりタッチ・ノイズにも強くなっているそうです。感度は11mV/Paとやや低めですが、現代の一般的なマイクプリの性能からすると、宅録などでの使用を考えても特に問題はないでしょう。また最大SPLが148dBなので、ドラムやエレキギター、管楽器などの大音量ソースにも安心。マットなブラックのボディには高級感があり、重量は335gと程良い重みです。

特定の帯域を強調している印象が無く自然

 それでは実際に音を聴いてみましょう。自宅でNEVEのマイクプリ1073にOC16をつなぎ、まずはアコースティック・ギターを録音。DAWはAVID Pro Toolsです。第一印象としては周波数的なレンジ感が広く、クリーンでスムーズなキャラクターです。ローエンドまでしっかり拾っているものの、今回録る曲がローコードのストローク主体ということもあって低域がやや出すぎなので、OC16本体で160Hzのローカットを入れます。高域はきらびやかですが、特定の帯域が強調されているような印象は無く自然な質感で、派手めなオケの中でもきちんと存在感を出せそうです。

 続いて、ローカットをオフにして女性ボーカルを録ってみます。声ががっつりと前に出るというよりは、ナチュラルで大きな音像感です。近接マイクでも低域がブーミーにならず、低域から中域にかけては周波数的にフラットで、高域は明瞭。普段、歌録りの際はEQで高域を多少ブーストすることが多いのですが、その必要性を感じません。低域がしっかり出ているので存在感があり、解像度が高くニュアンスや細部まできちんと伝えてくれます。また、ダブルで録って左右にパンニングしたコーラスの広がりも奇麗です。

 次に、スタジオでドラムを録る機会があったので、SSLのコンソール4048G+にOC16を接続し、ライド・シンバルに立ててみます。低域がやや多く、音像が重くなりすぎている感じがあるので、OC16本体で40Hzのローカットを入れます。ライドのアタック感をしっかりと拾ってくれますが、トランジェントが鋭く出すぎたり、硬くて耳に痛かったりということはありません。余韻も奇麗で、ふわっと広がって伸びる感じです。タム類やトップに使うのも良さそうですし、スペックからして大音量ソースにも耐えるので、いつもキックやスネアに使っているマイクにブレンドするという使い方も面白そうです。

 最後にテナー・サックスへオンで立ててみます。ピーキーな感じが無く、歌のバッキングなどではそのままでちょうど良い印象。他方、ソロでは多少の物足りなさを感じたので、プラグインEQのオートメーションで1.5kHzを少し持ち上げると存在感が出ました。ナチュラルな音像で、ディテールまできちんと録れるのでストリングスなどにも合いそうです。

 リーズナブルな価格ながらも、重要なポイントをきちんと押さえたマイクという印象で、ソースを選ぶことなく使えるためコスト・パフォーマンスが高いといえるでしょう。クセが無く宅録でも扱いやすいため、最初のコンデンサー・マイクとしてはもちろんですが、スタジオでのプロ・ユースにも十分に耐えられるクオリティです。オールラウンダーなマイクとして、多くの人に試していただきたい製品です。

 

山崎寛晃
【Profile】HAL STUDIOを拠点とするエンジニア。Superfly、坂本真綾、Little Glee Monster、古内東子、ART-SCHOOL、SPANOVAなどを手掛け、曲想に合ったレコーディングに定評がある。

 

AUSTRIAN AUDIO OC16

オープン・プライス

(市場予想価格:51,700円前後)

AUSTRIAN AUDIO OC16

SPECIFICATIONS
▪形式:コンデンサー ▪ファンタム電源:48V(4mA以下、標準値2.2mA) ▪カプセル:CKR6シングル・セラミック・カプセル ▪指向性:単一指向 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪インピーダンス:275Ω ▪感度:11mV/Pa ▪最大SPL:148dB ▪ノイズ・レベル:14dB SPL(A-weighted) ▪外形寸法:66(W)×157(H)×34(D)mm ▪重量:335g

製品情報

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