Creepy Nuts『アンサンブル・プレイ』インタビュー【後編】〜引き算と足し算をしつつ奇麗に整理されたR-指定のラップ

Creepy Nuts  『アンサンブル・プレイ』インタビュー【後編】〜引き算と足し算をしつつ奇麗に整理されたR-指定のラップ

ラッパーのR-指定(写真左)とDJ松永(同右)によるCreepy Nutsのアルバム『アンサンブル・プレイ』を紐解くインタビュー。後編では、DJ松永から見てラップが印象的な楽曲と、R-指定によるラップ手法の解説などを中心にお届けしよう。

Text:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara

舞台設定、場面転換、章の切り替えを音で表現

フィクションの楽曲を作るとなると、どのようなことを重視して作るのでしょうか?

R-指定 フィクションとなった始まりは、松永さんのトラックありきちゃうかな。松永さんのトラックが前作を経てまた作り出すとなったときに、よりキャッチーで展開が付いていて、送られてきた時点でめちゃめちゃストーリーがあったんですよ。だからそれに寄り添って書いていくうちに物語みたいな方向に行って、最終的にフィクションで行けるやんって。松永さんの話、俺の話は前作でやって、そこまで大幅に見える景色というのは変わっていないけど、スキルや自分たちの腕は去年よりさらに上がってる。そうなったら、自分らがやっていない方向で音楽を作られへんもんやろか、みたいなところを今回は大切にしたのはありますね。

 

松永さんが展開を作り込んでいるからこそ生まれた作品なのですね。

R-指定 2人ともロジカルと感覚で作る両側面を持ってるんですけど、どちらかというと今回は松永さんの方がよりロジカルに作って、俺の方が感覚に寄った感じがあります。松永さんのビート自体にストーリーがあるから、俺のリリックも“俺は大阪から来て今は東京に住んでる30歳のラッパーで、今こんなことを思っている、そんなやつが違う人の視点で書いてみました”なんて説明はなしで、そのまま曲の世界に入れる。松永さんが舞台設定、場面転換、章の切り替えみたいなのを全部音で表現してるおかげやろうなと思いますね。

 

松永さんがトラック制作時に思い描いたストーリーとR-指定さんの書いたリリックにギャップなどはありましたか?

DJ松永 キャッチボールのときに相手を驚かせたい気持ちがお互いにあるから、自分のトラックやアレンジではそうしたいという気持ちはあるんですけど、やっぱりRからラップが乗って返ってくると“おぉ、こう乗せるんだ”という驚きの方が大きいかもしれないです。毎回想像を上回ったものが返ってきて、ハッとさせられることが多いです。

Creepy Nuts DJ松永

引き算、足し算の両方をしつつ奇麗に整理

松永さんから見て、今回の作品の中で特にラップが印象的だった楽曲はありますか?

DJ松永 「dawn」かなあ。アルバムの中で一番クラブ・ミュージック的で、ワンループでの展開しかないし、とにかく一定のグルーブで気持ちよさを楽しんでもらおうと思って作った曲です。普通こういう曲でラップの展開や声色を変えると情報過多になっちゃうと思ってそれを避けたかったんですけど、結構ラップが細かく展開するし声色も変えつつ、4つ打ちのワンループのグルーブは保っていて、それが両立できることにびっくりしました。今回のアルバムを通して引き算をめっちゃしようとお互いに話してたんですけど、「dawn」は引き算、足し算の両方をしつつすごく奇麗に整理されていて、手数が多いのに聴く側にそれを感じさせない。聴く側を疲れさせない情報量と錯覚させるみたいな。

R-指定 ラップに関しても整理しているというか、もともと俺らの曲は過去、現在、未来を行き来したり朝、昼、晩になったりとか、一曲の中で視点が変わることが多かったんです。でも「dawn」は夜明けの一瞬の時間帯のことしか描いていないし、「パッと咲いて散って灰に」も勝負が付く一瞬に揺れ動く感情みたいなことをバーッと描いていたりとか、場面を絞るという意味での引き算もしています。あとはフロウの展開が1番、2番で基本的には同じというところでも引き算がありますね。

 

「dawn」はサビの語尾に続く“ルール”“宇宙”“自由”“憂鬱”のスムーズさや、“顕(あらわ)になる輪郭”からずっと踏み続けているところもすごいですよね。

R-指定 特に同じグルーブにするにあたって、逆によりいろいろなフロウで展開していくよりも、同じグルーブだからこそ倍の韻を踏まなあかんというか。出てしまった“顕になる輪郭”という言葉で最後まで行こうみたいな。そういうのはありますね。その中で、同じ韻なんやけど、だからと言って全部“aaaiauinau”という音を文字的に分解して踏んでいけばいいわけではなく、そこにちょいちょい足したり、響きは全く一緒だけど踏み外したりしながら、大方の枠は保ちながらちょいちょい変わっていくみたいな。“身体から飛び立ち”の“身体から”は“顕になる輪郭”の“顕になる”と音が一緒なんですけど、“輪郭”と“飛び立ち”が全然踏んでいないけど、言い方で同じ場所に落とすみたいなのはしていますね。でもこれもやっぱり結局口に出して気持ち良いかどうかですね。最後まで同じグルーブやねんけど、途中でどうずらせば気持ち良いのか、逆にどうそろえれば気持ち良いのかというのは口に出しながらじゃないとできないですね。

競技としてのヒップホップを楽しんでいる

最後に、今回の『アンサンブル・プレイ』はお二人にとってどのような作品になりましたか? ここを経て挑戦したい表現方法などありましたら教えてください。

DJ松永 次何作るんだろうね、俺ら。前回も次何作るか想像ついてなかったもんな。

R-指定 確かになあ。こういうのを作るとは思ってなかったし。自分らにとってどういう作品かも、作り終わった今と、それを人に聴かれてからとライブでやってからと全部変わっていくから、後で分かるような気がするな。あのときのあのアルバムは俺らにとってどんな作品やったのかっていうのは後で答え合わせするような感じやと思いますね。

DJ松永 物作り的には、過去一未開の地に足を踏み込みました。最終アウトプットは絶対ヒップホップになるだろうなというところは自分を信じているところはあるし、長期的に一生曲を作っていこうとしている身としては、31、2歳で凝り固まってたらこの先どうするんだよっていう。この先も今やってきた年数の何倍もやっていくのに、このタイミングで自分の考えが凝り固まったり手癖だけで作っていると考えるとゾッとするから、とにかく自分が新鮮なもの、新しい表現や価値観とかに好奇心旺盛でありたいなとむちゃくちゃ思いますね。

 

そういう視点を持ち続けているからこそ常に新しくありつつも人の心に刺さるものが生まれるのだろうなと思います。

DJ松永 音楽を作っていていろいろな人と触れ合うと、こういう音楽が作りたいとか、その人のスタンダードとか表現の幅って、音楽を好きになった原体験の雷が落ちた瞬間の延長線上の場合がすごく多い。でも作り手としてその状態だけで作り続けていくのは楽しくないなと思います。やっぱ若い人ってどのジャンルも上手じゃないですか。先人たちが積み重ねてきた教科書がどんどん分厚くなっていくし、それが技術の進化によって簡単に手に取りやすい時代になっていく。でも、ヒップホップには歌謡曲と違ってどっちがうまいかっていう競技性もあって、競技としてのヒップホップを楽しんでいる側面もあるので、絶対にずっと勝ってたいなって思いますね。そのためには頭を柔らかくして、10代のめちゃくちゃいけてるラッパーに対してはすに構えるんじゃなくて真っ正面で好奇心旺盛に“めっちゃ格好良い!”と目をキラキラさせることがいかに重要かっていう。一方で“はいはい、これしかできないんですね”“前作と変わらないじゃん”とかめっちゃ上から目線の聴き方もするんですけどね(笑)。でもフラットに“ここすげえ”って思って聴いたり、めっちゃリスナー目線になったり、いろいろな聴き方を使い分けていることに最近気付きましたね。俺がフレッシュなものを作りたいというのはRと一緒に作っているところがデカいと思います。Rにラッパーとしての引き出しがめっちゃ多いから、トラックがマンネリ化するのは嫌だし、そこに刺激を受けていますね。

 

インタビュー前編はこちら(会員限定)

◎DJ松永のプライベート・スタジオをレポート!(会員限定)

◎D.O.I.が語るCreepy Nuts『アンサンブル・プレイ』ミックスの極意(会員限定)

Release

Creepy Nuts『アンサンブル・プレイ』通常盤
Creepy Nuts『アンサンブル・プレイ』ラジオ盤
Creepy Nuts『アンサンブル・プレイ』ライブBlu-ray盤
Creepy Nuts『アンサンブル・プレイ』Tシャツ盤
左から、通常盤、ラジオ盤、ライブBlu-ray盤、Tシャツ盤

『アンサンブル・プレイ』
Creepy Nuts
ソニー:AICL-4275(通常盤)、AICL-4274(ラジオ盤)、AICL-4272〜4273(ライブBlu-ray盤)、AICL-4270〜4271(Tシャツ盤)

Musician:R-指定(rap)、DJ松永(all)、高尾俊行(ds)、soki-木村創生(ds)、磯貝一樹(g、E.sitar)、大神田智彦(b)、真船勝博(b)、前田逸平(b)、西岡ヒデロー(tp)、宮内岳太郎(tb)、東條あづさ(tb)、栗原健(sax)、川口大輔(all、k)、村田泰子ストリングス(strings)、大樋祐大(p)
Producer:DJ松永、R-指定、川口大輔
Engineer:D.O.I.、高根晋作、川島尚己、神戸円、小坂剛正、村上宣之、公文英輔
Studio:E-NE、Sony Music Studios Tokyo、Daimonion Recordings、Endhits、SOKI、3rd Eye

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