今回登場するのは、メイリンのソロ・プロジェクト=ZOMBIE-CHANG。電子音を多用した、ジャンルにとらわれない音楽性が特徴だ。FUJI ROCK FESTIVALやフランスの音楽フェスLa Magnifique Societyにも出演し、中毒性の高い独自の世界観でオーディエンスを魅了している。今回は最新アルバム『STRESS de STRESS』の制作や、曲作りへのこだわり、制作ツールなどについてインタビューを行った。
Interview:Susumu Nakagawa Text:Yuki Komukai Photo:Naoki Usuda
【Profile】モデルや女優としても活動するメイリンの音楽プロジェクト。楽曲制作からミュージック・ビデオのプロデュース、アート・ワーク、グッズの制作までを自身で手掛けている。2022年5月に通算5作目となるアルバム『STRESS de STRESS』をリリースした。
Release
『STRESS de STRESS』
ZOMBIE-CHANG
(Roman Label / BAYON PRODUCTION)
吸音材により小音量でもモニタリングしやすくなりました
スタジオの環境へのこだわり
このスタジオで音楽制作をするようになって、半年くらい経ちました。壁に吸音材を敷き詰めたことで、一つ一つの音が鮮明に聴こえるようになったと思います。音を必要以上に大きくしなくてもモニタリングしやすくなりました。特に音が反響するスピーカーの周りや天井に、質の良いものを使うようにしています。こうやって実際にやってみると、以前はあまり良い環境じゃなかったんだな……というのが分かりますね。
DAW
メイン・マシンはAPPLE MacBook Proで、DAWはABLETON Live 11です。Liveは周りの友人が使っていたのと、操作が簡単と聞いて使いはじめました。5〜6年は使っていると思います。DAWを初めて触ったのは高校生くらいのころで、当時はAPPLE Logic Proを使っていました。音楽はもちろん、コンピューターをいじるのが本当に好きだったんです。
オーディオ・インターフェース
昨年にAPOGEE Duet 3を購入しました。このオーディオ・インターフェースを選んだのは“硬めの音が良いな”と思ったからです。丸みがある音だと聴き取りづらいというか、硬い音の方が低域などが聴こえやすいと感じます。
モニター・スピーカー
ヘッドフォンで作業をすることが多く、モニター・スピーカーはもらったものを使っていましたが、最近長時間作業することが増えてきたんです。ヘッドフォンをして長時間の作業をしたくないなと思って、GENELEC M030を導入しました。これまでは自分の耳がつぶれていたんじゃないか……?と思うほどはっきり音をモニタリングできるようになりました。
モニター・ヘッドフォン
作曲をするときはモニター・スピーカーを使いますが、音を整えるときはヘッドフォンを用います。長時間作業を行うときは、SENNHEISER HD 400 Pro。フィット感が良いので疲れにくいんです。違うヘッドフォンでも聴いてみようという意図でBEYERDYNAMIC DT 990 Proも使います。こちらは低域が聴き取りやすいです。
最終チェックの方法
基本的にはスピーカーと2台のヘッドフォンを使い分けながらモニタリングしていますが、最終チェックはAPPLE iPhoneやMacBook Proのスピーカーで聴いたり、SONOSのBluetoothスピーカーで確認します。この段階で“低域が何も聴こえない!”って絶望することもありますね。そういうときはコンプレッサーをかけたり、高域成分だけをレイヤーしたりして、低域に輪郭を付けます。
最新アルバムでは“臓器を動かしたい”と思いキックにこだわりました
ビート・メイキングの手順
昔はシンセをたくさん使うことが多かったのですが、ミックスが大変な上、高域が飽和してうるさい音に聴こえてしまうんです。最近は低域が好きなので、シンセは要らないんじゃないかとさえ思います。手順としては、キックとベースのサンプルをDAWに張り付けて、ビートを先に作っているんです。
最新アルバムのこだわり
『STRESS de STRESS』は、“聴く人の臓器を動かしたい!”と思って作りました。特にこだわったのはキックです。収録曲「Stress」は、キックを作るのに何日もかかりました。最初は曲自体が暴力的なハードコアでキックも硬い音色で、“臓器を動かそう”ではなく、“耳を壊そう”みたいな感じになってしまっていて。最終的に少し丸みを出して聴きやすくなるように調整しました。ほかの曲もそれぞれキックの硬さを変えています。ミックスはクラブで鳴らすことを想定して、低域がかなり強めになるようにしました。
好きなテンポ感
1年前くらいにハードコア・テクノ、ゴア・トランス系の音楽にハマったのもあって、テンポは130BPMだと遅くて、最低140BPM以上が踊れるなと思うようになったんです。最新作には140〜185BPMくらいまでの曲が収録されています。テンポが速いとキックやベースのリリースを切ってあげないとボワンボワンになってしまうので、タイトめにするように気を付けました。ベースはキックの後に少し鳴るくらいのものが好きです。キックをトリガーとしたサイド・チェイン・コンプをかけることもありますが、ボリューム・オートメーションを描く方がコントロールしやすいのでよくやります。
ドラム/ベース/上モノに使用する音源と音作り
ドラムの音源はROLAND TR-909の音がすごく好きで、TR-909のサンプル音源をよく使います。特にクローズド・ハイハットとオープン・ハイハットの音が好きです。もし商店街で鳴っていたら踊ってしまうくらい好きですね(笑)。キックの音源は集めたりもらったりしていて、モジュラー・シンセを持っている人の家で録音させてもらい、そのサンプルを加工して使うこともあります。ベースは、ARTURIA V Collectionの中で良いなと思った音源を書き出し、加工して使うことが多いです。特にサブベースが好きなのでよくいじっています。上モノもV Collectionを使っていて、特にMellotron Vの音が好きです。楽器屋でMELLOTRONのキーボードを試聴したときに欲しいなと思っていて、それがソフトにあったので使っています。基本的には上モノもオーディオに書き出し、DAW上でピッチを変えることが多いです。
お気に入りプラグイン
オート・パンのWAVES Brauer Motionは、音がどこにあるのかが視覚的に分かりやすくて気に入っています。ボーカルのサンプルに使ったりしますね。あとはWAVES OneKnob Filterがシンプルで本当に使いやすいので、最新アルバムでも多用しています。リバーブはVALHALLA DSP Valhalla VintageVerbを使うことが多いですね。
今後の展望
聴いて“楽しい!”って思える曲を作るのが理想です。メキシコ料理屋に行くと、突然にぎやかな演奏が始まったりするじゃないですか。そういう音楽を聴いたら悲しみも吹っ飛んでしまうと思うんです。その曲やアーティストのことを知らなくても、“楽しい!”って思えるような音楽を作りたいと思っています。
ZOMBIE-CHANGを形成する3枚
『すごく安い肉』(『BOY』収録)
neco眠る
(KONGARIONGAKU)
「neco眠るは、気を張らずに聴ける音楽で、元気になります! 聴いて楽しくなる音楽を作れるなんて最高です。タイトルもまたキュン」
『LIMPORTANCEDUVIDE』
JACQUES
(Recherche & Développement)
「フランスのシンガー・ソングライター、JACQUESのアルバム。以前からフランス語を勉強しているため、よくフランスのアーティストの音楽を聴いているんです」
『Allo, Allo, Monsieur L'ordinateur』(『Les Super Chansons De Dorothée』収録)
Dorothée
(AB Hit)
「こちらもフランスの楽曲で、可愛いポップ・ソングです。フランス語が分かりやすく、聴くと童心に帰ることができます」