今回登場するのは、『リッジレーサーシリーズ』や『鉄拳シリーズ』などのゲーム音楽を手掛けたクリエイター/DJのTAKU INOUE。映画『Diner ダイナー』の主題歌DAOKO × MIYAVI「千客万来」のアレンジをはじめ、Eve、ナナヲアカリなどへの楽曲提供やリミックスなども行っている。最近では、自身の名義初となるEP『ALIENS EP』をリリースして話題を呼ぶ彼に、音楽制作のこだわりを伺ってみよう。
Text:Susumu Nakagawa Photo:Chika Suzuki
TAKU INOUE【Profile】東京に拠点を置くコンポーザー/音楽クリエイター/DJ。2009年にバンダイナムコゲームスに入社。2021年にはVIA/トイズファクトリーよりメジャー・デビューし、同年12月に初のEP『ALIENS EP』をリリース。DAOKOやEve、星街すいせい、ナナヲアカリなどの楽曲も数多く手掛ける。
Release
『ALIENS EP』
TAKU INOUE
(トイズファクトリー)
小型スピーカーでサブベースの輪郭が見えたらOK
DAWの使い分け
コンピューターはAPPLE MacBook Proで、DAWは長年ABLETON Liveを使っています。手足のように使い慣れているので、もう手放せません(笑)。最近コンピング機能が追加されたのがうれしいニュースでしたね。作曲からミックスまですべてLiveで完結しています。どちらかというとLiveはパツパツなサウンドになる傾向があると感じるので、特にダンス・ミュージックの制作に向いていると思いますね。一方、自分はAVID Pro Toolsも使用しており、こちらは主に仮歌やアコギなどのレコーディング時に活躍しています。レイテンシーをほとんど感じないし、音質も良いです。
スタジオの制作環境
オーディオI/OはMOTU 828Xで、マイクプリの音が気に入っています。アコギなどの楽器が、自分好みのキラキラしたサウンドで録れるんです。出力先にはモニター・コントローラーのDANGEROUS MUSIC Sourceを通しているのですが、音が高解像度になるためミックス時の判断がしやすくなりましたし、リスニング時も心地良い音で聴けるようになりました。MIDIコントローラーには、KORG MicroKey Airをメインとし、KORG NanoKey Studioをサブとして使っています。そのほかスタジオには、RHODES MKI Suitcase SeventyThreeのほか、DJパフォーマンスの練習用として、DJシステムPIONEER DJ XDJ-RXも設置していますね。
お気に入りのマイク
カリフォルニアに本社を置くMICPARTSというブランドが手掛けるコンデンサー・マイク、T-12 Microphone Kitを愛用しています。面白いのが、T-12 Microphone Kitは自分で組み立てる“マイク・キット”ということ。その音は本番用としてもめちゃくちゃ使えるんです! キラキラしているのに耳に痛くなく、リバーブ成分までしっかりとキャプチャーしてくれるサウンドですね。お薦めします。
モニター環境
モニター・スピーカーは、パワード・タイプのYAMAHA MSP5 Studio。もう長い間使用しています。YAMAHA NS-10Mよりも低域が出るし、プライベート・スタジオのような小部屋でもバランス良く鳴らせると思ったので購入したんです。モニタリング用のヘッドフォンは、先日までULTRASONE Signature Studioを使っていましたが、最近同ブランドのSignature Masterを手に入れました。高解像度かつ高域がキラキラ聴こえるところが好きです。Signature Masterは、Signature Studioよりもさらにクリアに聴こえますね。制作時、8割はヘッドフォンでモニタリングしており、時々MSP5 Studioと小型スピーカーのSONY SRS-Z1PCを切り替えてバランスを取っています。SRS-Z1PCは中域〜高域の再生に特化していますが、これで“サブベースの輪郭が見えたらOK”というように、サブベースの確認にも使っています。
完成した曲は一度寝かせることで新たな修正点が見えてくる
ビート・メイキングの手順
一番聴かせたいところから手を付けます。歌モノならサビ、インスト曲ならドロップ部分ということです。これらのアレンジとミックスが9割くらい完成し、“これはイケる”と確信したら、AメロやBメロなどの制作に取りかかるようにしています。要領が良いかは分かりませんが、これが自分なりのやり方です。
ドラム/ベースに使用する音源
ドラムの各パーツにはサンプル素材を使うことが多いです。またドラム・フィルは、生ドラムのサンプル素材を切り刻んで作っています。サンプル素材はソフト・サンプラーにアサインするのではなく、どちらかというとLiveのアレンジメントビューに直接張り付けて作業するようにしているんです。このやり方だとアタック/リリースの調整が視覚的に行えるため、分かりやすいと思うからです。ドラムのキックには、キック専用のソフト音源SONIC ACADEMY Kick 2も使います。エンベロープの処理が簡単にできるのでうれしいです。生ベースは自分で演奏したものを録音しており、シンセ・ベースはソフト・シンセXFER RECORDS Serumが一番のお気に入り。イメージに近いプリセットを選び、そこから音作りするのがいつものやり方です。
上モノに使用する音源
アコギやエレキギターは自分で弾くことが多いです。シンセはSerumのほかにも、LENNARDIGITAL Sylenth 1やREVEAL SOUND Spireを使います。ピアノはSPECTRASONICS Keyscapeと、ソフト音源のUVI PlugSound Proに収録されたピアノが気に入っていますね。サンプル素材を使うこともありますが、そのときはカットアップしていろいろ試し、面白いサウンドになるように心掛けているんです。
お気に入りのプラグイン・エフェクト
どのパートにもFABFILTER Pro-Q3を挿しています。よく使うのはマスキング機能。ボーカルやシンセなどの楽器にそれぞれインサートし、カブっている周波数帯域をアナライザーで確認しながら調整できるのがいいですね。最近導入したのはEVENTIDE SplitEQ。トランジェント成分とトーナル成分を自在にデザインできるので、ミックスの際に大活躍するプラグインの一つです。
音楽制作で気を付けていること
自分でミックスする場合、音像が平面的にならないように意識しています。上下/左右/奥行きで作られる空間をできるだけ広く使うのが大事ですね。もう一つは“クール・ダウンする期間を設ける”ということ。制作に日数をかけられる場合、自分は完成した曲を一度“寝かせる”ということをします。そうすることで、細かい修正点がよく見えるようになるから。これはミックスだけではなく、アレンジでも言えることでしょう。
最新EP『ALIENS EP』について
昨年7月に発売したシングル『3時12分』が収録されているので、これを中心に作り上げました。この曲のテーマは“クラブ賛歌”なので、EP全体ではクラブに行って帰ってくるまでのストーリーを表現したんです。なので、各曲の歌詞には“時刻”を入れてもらいました。サウンド面としては、自分はジャズが好きなので、ダンス・ミュージックを土台にジャズの要素を取り入れたアレンジになっています。自分らしい音楽が表現できたのではないかな、と感じていますね。サックスは、星野源さんのバンド・メンバーとしても活躍する武嶋聡さんに演奏してもらいました。EPはトータル13分くらいの長さですが、ストーリー性のあるコンセプチュアルな作品が作れたので満足しています。
今後の展望
まだ詳細は語れませんが、今年も面白いリリースを考えているのでワクワクしています。あとは自宅スタジオで作業することも多いので、レコーディング環境をもう少し整えたいですね。ちなみに今自分は30代後半なのですが、音楽をやるのに年齢は関係無いと思うんです。なので、もし年齢を気にして音楽活動をちゅうちょしている方が居るのであれば、自分を一つの例として、希望を持ってほしいと思いますね。
Taku Inoueを形成する3枚
『ビースティ・ボーイズ・アンソロジー〜サウンズ・オブ・サイエンス』
ビースティ・ボーイズ
(ユニバーサル)
「卓越したサンプリング使い×パンク・バンド的熱量がパックされた一枚。おちゃらけながらもしっかりキメる、というスタンスも含めて影響を受けています」
『TRUTH?』
SUGIZO
(ユニバーサル)
「まだバンド・キッズだった中学生のころに、このアルバムを聴いてダンス・ミュージックの沼に引きずり込まれました(笑)。リミックス盤も併せて必聴です!」
『マインド・ボケ』
ビビオ
(ビート)
「ノスタルジックな雰囲気と先進的な音楽性が同居する作品。サンプリング/生楽器/ボーカルのバランスが本当に絶妙です。自分が理想とする音楽でもあります」