FLUX:: Elixir Essential レビュー:イマーシブ・オーディオに対応する最大16chのトゥルー・ピーク・リミッター

FLUX:: Elixir Essential レビュー:イマーシブ・オーディオに対応する最大16chのトゥルー・ピーク・リミッター

 FLUX::のトゥルー・ピーク・リミッターElixir V3がElixir Essentialとなり、イマーシブ・オーディオに対応して進化を遂げたということです。早速その実力を確かめてみたいと思います。

“複数コンプがけ”を1台で賄える機能を搭載

 Elixir Essentialは最大16chに対応するトゥルー・ピーク・リミッターです。CDの時代にはほとんど耳にすることのなかったトゥルー・ピーク(以下TP)が注目されるようになったのは、さまざまな配信プラットフォームでラウドネス規定が導入されるようになってからではないでしょうか? 音の大きさを表すラウドネスとTPには100%の相関があるわけではないのですが、各配信プラットフォームのサイトでは必ずTPを−1dBまたは−2dBにするように書いてあります。サンプル・ピークが0dBFS以下であっても、配信時にはオーバーシュートしてひずんでしまうことがあるからです。マスター制作時には問題無かったのに、サブスクにアップした音源を聴いたらひずんでいる……ということが起きるのはそのためですね。この“ひずんでないのにひずんでるじゃん!”問題を解決する秘薬がElixir Essentialです。

 

 GUIはとてもシンプルで分かりやすい構成。最大16chに対応した大きなメーター部を挟んでINPUT/OUTPUTのスライダーを左右に配し、中央にはTHRESHOLDノブがあります。一般的なコンプやリミッターと同様に、基本的な操作はこの3つのノブで可能です。INPUT/OUTPUT、そしてゲイン・リダクションの各メーターの上部にはTPが表示されるようになっていて、スライダーを調整するときの目安になります。左下のITU-BS.1770-3スイッチは、ITU-R-BS.1770-3に準拠したアルゴリズムに切り替えるものです。

 

 THRESHOLDノブの下にはCH.LINK、STAGES、SPEEDの3つのノブがあります。CH.LINKは、各チャンネルのリンク度合いをパーセンテージで指定可能。さらに左のDynamicスイッチを押すと、信号のダイナミクスに応じてリンクの程度が変化します。個々のチャンネルが独立して動作することの多いイマーシブ・オーディオにおいて、とても有効な機能だと言えるでしょう。

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プラグイン画面下部にあるノブ。CH.LINKは、各チャンネルのリンク度合いをパーセンテージで指定。左横にあるDynamicスイッチを押すと、信号のダイナミクスに応じてリンクの程度が変化する。STAGESはリミッティングの工程を複数の段階で行うように設定する。SPEEDは、ゲイン・エンベロープ(アタック/リリース)など、細やかな調整ができる。Diff.は入力音と出力音の差(コンプレッションされた音)だけを聴くことができるスイッチ

 STAGESノブは、Elixir Essential最大の特徴と言えるノブです。通常コンプやリミッターを深くかけると、どうしても全体がグチャッとしてしまいます。そのつぶれた感じを減らすために、コンプやリミッターを複数台使って少しずつかけていくという技があります。STAGESは、まさにその“複数コンプがけ”を1台でやってくれる優れものです。しかも入力されるオーディオ素材に応じてアルゴリズムが変化するので、とても自然なリミッティングが可能になっています。

 

 SPEEDノブは、一般的なゲイン・エンベロープ(アタック/リリース)をいじるだけではなく、より細やかな調整を行います。実際に試してみたところ、50%よりも少ない値だとちょっと細かく動き過ぎる感じがして、逆に増やしていくとグチャッとした感じが増してきます。説明書にも書いてあるように、ほとんどの場合デフォルトの50%で良い感じになるでしょう。

 

 SPEEDノブの右隣のDiff.は、入力音と出力音の差(コンプレッションされた音)のみを聴くことができるスイッチ。リミッターの動作を確かめるときに便利です。

原曲のトランジェント感を保ちTPを押さえ込む

 実際に幾つかのソースで試してみました。第一印象は“音がほとんど変わらない”ということです。世の中には結構多くのトゥルー・ピーク・リミッターが存在します。しかし入れた途端に音が変わってしまうものも多く、良い方に変わればいいのですが、そうでない場合も結構あります。しかしElixir Essentialはそこそこリミッティングをしても、STAGES/SPEEDノブをうまく調整することで、元の音源の持つトランジェント感を保ったまま、TPをきっちり押さえ込むことができます。

 

 また、OUTPUTスライダーの下にあるMakeUpスイッチを押すことにより、THRESHOLDで設定したリダクション分をOUTPUTに上乗せしてくれる(OUTPUTゲイン・スライダーが0であれば、常にTPは0.0になります)ので、まずはTPを気にせずラウドネスの調整を行い、最後にOUTPUTスライダーでTPを決めるという使い方もできます。さらに、代表的な配信プラットフォームの推奨値が幾つかプリセットとして登録されているので、簡単にそのプラットフォームに適したマスターを作成することも可能です。

 

 Elixir Essentialは、2chの配信音源からいわゆる空間オーディオなどのイマーシブ音源において避けて通ることのできない“ラウドネスおよびトゥルー・ピークの問題”を、一気に解決してくれる“Elixir”(秘薬)として、必携のアイテムではないでしょうか。

 

浜田純伸
【Profile】久石譲、Sound Horizon、平原綾香、千住明などを手掛けてきたレコーディング・エンジニア。『千と千尋の神隠し』や『名探偵コナン』など、映画作品の録音にも携わる。

 

FLUX:: Elixir Essential

20,900円

FLUX:: Elixir Essential

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS10.12.6、AAX Native/AU/VST2に準拠
▪Windows:Windows 10(64ビット)、AAX Native/VST2に準拠
▪共通:iLokアカウント

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