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OSCに対応するサラウンド/イマーシブ編集ソフト「FLUX:: Spat Revolution Ultimate」レビュー

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 FLUX:: Spat Revolution Ultimate(以下Spat)は、オブジェクト・ベースのサラウンド/イマーシブ編集ソフト。“雲の上”のようなソフトでしたが、今回のレビューを機に勉強したので参考になれば幸いです。

A-Format入力トランスコーダーを備え、さまざまなAmbisonicsマイクに対応

 SpatはMac/Windows対応で、AAX Native/AU/VSTに準拠。入出力チャンネル数に制限は無く、OSC(Open Sound Control)を使ってDAW上でも立ち上げられますが、スタンドアローンでも使用可能です。対応サンプリング・レートは最高384kHzとなっています。

 

 僕はDolby Atmosの仕事において、1次Ambisonicsマイクで録った音を7.1.4chや9.1.4chに変換してミックスしたいと思っており、Spatではそれが実現可能です。今回はフルート奏者である大塚茜さんのコンサートで収録した素材を用い、9.1.4chでミックスしてみましょう。

 

 編成はフルート、チェンバロ、ストリングス・クインテット。1次Ambisonicsマイクは、ステージにRODE NT-SF1、三点吊りにSENNHEISER Ambeo VR Mic、客席にSOUNDFIELD SPS200を使用。どれもセンター軸にあります。Spatは“Input Transcoder”というA-Format入力トランスコーダーを備えており、これらのマイクのプリセットがすべて用意されているため非常にうれしいです。

 

 まず、AVID Pro Tools上でSend/Returnプラグインを用いてSpatに信号を送ります。Spat上で9.1.4chの仮想空間Roomを作成し、A-Formatのオブジェクトを3つ配置。Room画面中央には仮想空間が広がり、リスニング・ポイントやオブジェクトがグラフィックで表示されるため、直感的に扱えます。

 

 Room画面左端には入力ソースやマスターのトラックが表示され、それぞれミュートやソロ、ボリューム設定が行えます。同画面下段では、選択したオブジェクトの位置や広がりのほか、EQやリバーブなどの調整が可能です。なお、Roomには23種類のリバーブ・プリセットが用意されているのもうれしいですね。

 

 セットアップ画面に切り替えると、信号の流れは上から下へと見やすく、ドラッグ&ドロップで直感的にルーティングできます。3本のマイクのバランスを取ったら、マスターである“Master Transcoder”に送ればOK。アウトプットにはバイノーラルも準備します。Spatではチャンネル・ベース、バイノーラルや3次までのAmbisonicsも同時出力することができるので便利です。

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セットアップ画面。信号の流れは上から下へ流れ、ドラッグ&ドロップで直感的にルーティングが可能だ。若干コツが要るので、確実に接続したい場合は各モジュールを選択し、画面右端にある“ACTIONS...”セクションから“Connect Selected”をクリックすると確実に行える

 Spatでは5.1chのRoom、M/SのRoomなど、幾つでも作成可能。サラウンド出力をモノラルの個別出力に変換して戻すこともできます。これなら5.1chのサラウンド・フェーダーが作れない無印のPro ToolsでもDolby Atmosミックスにトライできるでしょう。なおPro Tools|Ultimateなら7.1.2chのベッドとQuad(4chサラウンド)のAUXを使えば、合計2本(14ch)のフェーダーで信号を戻すことができ、とてもシンプルです。ここまでいろいろと時間を費やしましたが、うまく音が出た瞬間、思わずガッツ・ポーズでした。

SOFA関数のインポートも可能なHRTF(頭部伝達関数)ライブラリーを用意

 次は生配信を想定したテストを行います。Dolby Atmosを使った生配信においては5.1.4chが採用されることが多く、1次Ambisonicsマイクで録った音をリアルタイムかつ、低遅延で5.1.4chに変換しながら使用したいということを考えていました。しかし既存のプラグインを使用すると、5.1chや7.1.2chまでが限界。さらにAAX Native処理なので、どんなに頑張っても1,000サンプルほど遅れてしまいます。ステージより離れた場所にあるオーディエンス用マイクの場合は多少遅れてもさほど問題にはなりませんが、楽器用オンマイクの場合、ほかのマイクとの整合性が取れません。

 

 この問題も、Spatを使えば解決するのです。テストではAPPLE MacBook ProにSpatをインストールし、Dante対応PCIeカードのFOCUSRITE RedNet PCIeRとオーディオI/OのAVID Pro Tools|MTRXをDanteで接続。すると、RedNet PCIeRの遅延は入出力でわずか3msに。SpatのCPU負荷を別のコンピューターで処理することで、ブロック・サイズは16サンプルまで可能。これで生配信でも使えるでしょう。

 

 Spatを触れば触るほど、このソフトの面白さが分かります。例えばオブジェクトをスピーカーの奥に定位させたり、頭の後ろ側に定位させたりと、バイノーラルでのパンニングは聴覚的にも分かりやすく、生配信においては演者のイアフォン・モニターとしても使えるかもしれません。AVID Venue|S6LやDIGICO SDシリーズなど、デジタル・コンソール用のプリセットが用意されているのはそこが理由でしょう。SOFA関数のインポートも可能で、複数のHRTF(頭部伝達関数)ライブラリーも用意されています。

 

 Spatがあれば、無印のPro ToolsでもDolby Atmosのミックスが行えたり、物理的に7.1chのサラウンド・システムが組めない5.1chのモニター環境でも7.1chの仮想空間を作ることで対応できたり、Dolby Atmosのスピーカー配置からAuro-3Dやソニーの360 Reality Audioへシミュレートできたりと、無限の可能性が広がります。

 

 ちなみに、Spatの機能が幾つか制限されたエントリー・グレードとして、Spat Revolution Essential(47,300円)もありますので、サラウンド/イマーシブ編集に興味のある方は、まずこちらから始めてみるのもよいでしょう。

 

古賀健一
【Profile】レコーディング・エンジニア。青葉台スタジオに入社後、独立する。2014年Xylomania Studioを設立し、2020年Dolby Atmos対応スタジオに改修。ステレオからイマーシブまで手掛けている。

 

FLUX:: Spat Revolution Ultimate

219,780円

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REQUIREMENTS
▪Mac:OS X 10.11(El Capitan)〜11(Big Sur)、64ビット、INTELチップ、AAX Native/AU/VST対応のホスト・アプリケーション
▪Windows:Windows7〜10(64ビット)、AAX Native/VST対応のホスト・アプリケーション
▪共通項目:スタンドアローンで動作(プラグインでDAWと接続)、iLokアカウント

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