Dirty Orange 〜三代目 J Soul BrothersやBADHOPのYZERRなどの作品を手掛けるビート・メイカー

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 今回登場するのは、音楽プロデューサー/ビート・メイカーのDirty Orangeだ。2014年に開催された『ASY “NO” リミックスコンテスト』で入賞したのをきっかけに、本格的に活動を開始。これまでに、EXILEやBADHOPのYZERRなどの楽曲を手掛けている。

Text:Susumu Nakagawa Photo:Chika Suzuki

Dirty Orange【Profile】新潟出身の音楽プロデューサー/ビート・メイカー。15歳のころにヒップホップやロック、EDMなどに影響を受け音楽制作を開始する。2015年にDigz, Inc. Groupと契約し、EXILEや三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE、JUJUなどの作品を手掛けている。

 Release 

『KICK&SLIDE』
三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE
(エイベックス)

一番直感的に操作できたDAWがABLETON Liveでした

ビート・メイキングを始めたきっかけ

 学生のころにエレキギターにハマり、ジョン・フルシアンテやエイフェックス・ツイン、スクリレックスという音楽歴を経てDAWを始めました。新潟から上京したのは2013年で、当時は22歳くらい。同郷であるCreepy NutsのDJ松永と仲が良く、彼の影響も大きかったと思います。

現在の制作環境

 コンピューターはAPPLE Mac Mini。オーディオ・インターフェースは今年からPRISM SOUND Lyra 1を使っていて、それまではRME Fireface 800でしたが長く使ってきたので買い換えました。自分の周りでPRISM SOUNDのオーディオ・インターフェースを使っている人が増えてきていて、評判も良かったので自分も使ってみようと思ったんです。実際、Fireface 800と聴き比べると音の密度が高く、情報量が全然違いました。マイクはSHURE SM58があり、ほぼ使わないのですが、たまにシェイカーなどを録音するときに使用しています。MIDIコントローラーはデスク・スペースの都合上、コンパクトで便利なNEKTAR TECHNOLOGY Impact GX49を3〜4年くらい使っていますね。理想を言うならば、88鍵のモデルも欲しいところです。

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今年購入したというUSBオーディオ・インターフェース、PRISM SOUND Lyra 1。「音の密度や解像度がとても高いです」と絶賛している

使用DAW

 22歳くらいからDAWを始めたので、もう9年くらいずっとABLETON Liveを使っています。それまではフリーのDAWソフトで遊び半分にやっていた程度でしたが、本格的にビート・メイキングしようと思って選んだのがLiveでした。APPLE LogicやPRESONUS Studio Oneと比べてみたのですが、Liveが直感的に操作できて一番良かったです。きっかけは、スクリレックスが使っているということを知ったから。スクリレックスの楽曲は今でも好きで、いろいろと曲作りの参考にしています。近年もコラボなどで曲を発表し続けていますが、毎回、彼自身とコラボ相手のサウンドがバランス良く入っているのが“いいな”と思いますね。

ギターについて

 自分が弾ける楽器はギターしかないので、バッキングなどのリズム・ギターは自分で弾くことが多いです。WebサービスのSpliceにはハイクオリティなギター・サンプルがあるので、積極的に取り入れるようにしています。

モニター環境

 モニター・スピーカーは一応YAMAHA MSP5 Studioを置いてはいるのですが、メインでは使っておらず……普段はヘッドフォンのAKG K240 MKIIで作業しています。“スピーカーの鳴りを確認したいな”というときは、スタジオに行って聴くことが多いですね。もう5〜6年はK240 MKIIを使っていて、耳がこれに慣れ過ぎているんだと思います。ちなみにK240 MKIIは低域があまり出ないタイプなので、知らず知らずのうちに低域を上げてしまいがち。だから、曲ができた後でMSP5 Studioでチェックしたり、ミックス・エンジニアの方に任せたりしていますね。ただ、部屋鳴りに影響されないという点においては、ヘッドフォンで作業する上での最大のメリットかなとも思います。

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普段からモニタリングで使用しているというヘッドフォンのAKG K240 MKII(写真手前)と、サブ機のSHURE SRH1540(同奥)

“グルーブ良いな”という曲をLiveに取り込み、その波形に合わせてドラムを配置します

楽曲のインスピレーション

 リファレンス曲がある場合、そればかり意識しちゃうとそのままそっくりの曲になることが多いので、似たような曲を幾つか探し、それらに似た曲に寄せることは多いです。別の曲のテイストを入れてみたり、独自にちょっと発展させてみたり、全く違う音楽ジャンルからアレンジを持ってきたりして差別化させることも大切だと考えています。

ドラム/ベースに使用するソフト音源

 ドラムは、Spliceから各パーツごとに素材をダウンロードすることが多いです。ソフト・サンプラーに入れて使うこともあり、どのサンプルが一番曲に合うのかを判断したいときに便利ですね。ソフト・サンプラーは、Live付属のDrum RackやSimpler、Samplerをよく使います。シンセ・ベースにはXFER RECORDS SerumやNATIVE INSTRUMENTS Massiveを立ち上げますね。一方、エレキベースにはSPECTRASONICS TrilianやIK MULTIMEDIA Modo Bassが中心。低域を重視するときはTrilianで、ライブ感が欲しいときはModo Bassを選ぶという感じです。

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エレキベース専用のソフト音源、IK MULTIMEDIA Modo Bass。ライブ感のあるサウンドが欲しいときによく使うそうで、CPU負荷が軽いのもポイントだと語る

上モノに使用するソフト音源

 アコギはNATIVE INSTRUMENTS Session Guitaristを試すことがあります。イメージに合えば使いますが、合わなければSpliceで探すか、アコギ・プレイヤーにお願いしますね。ピアノはSPECTRASONICS Keyscape。RHODESの音はお気に入りです。シンセは最近ARTURIA Pigments 3を使っています。汎用性の高い音色が詰まったプリセットが多く、即戦力になりやすいという印象です。シンセ・パッド系だと、SPECTRASONICS Omnisphere 2ですね。ちなみにシンセの音作りは、YouTubeのチュートリアル動画で勉強しています。そのほかストリングスやブラスには、NATIVE INSTRUMENTS Session StringsやSession Horns。後者にはサチュレーションで音に厚みや迫力を演出します。

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お気に入りソフト・シンセの一つ、ARTURIA Pigments 3。汎用性の高いプリセットが多く収録されているため、即戦力になるという

グルーブの秘けつ

 ドラムでは、キックとシンバルが一緒に鳴るとピーク・ランプが付いてしまうときがあるので、シンバルを気持ち後ろにずらしたり、ほかにもスネアとクラップをずらしたりといったことをしています。また、Live内蔵のスウィング機能はあえて使わないようにしていますね。自分の場合、“グルーブ良いな”という曲を見つけたらLiveに取り込み、その曲のドラム波形のタイミングに合わせて、スネアやキックのサンプルを視覚的に合わせていくという作業をやっています。あとはドラム・パターンをボイス・パーカッションで再現し、録音してLive上でそのタイミングに合うようにキックやスネアのサンプルを置いていくということもやりますね。結果、自分が思った通りのグルーブ感に近付けることができるのでお勧めです!

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OEKSOUND Soothe2はピーク成分を抑えるためのダイナミックEQプラグイン。「ボーカルやギターなどで“この音痛いな”というのを抑えるためによく使っています。あとベースの低域が暴れてるときも、Soothe2で抑えるといい感じになります」と話す

コンペに受かる曲を作る秘けつ

 一概には言えないのですが、まずはアーティストが自分の曲で歌っている景色を想像できるかどうかが大事だと思うんです。また、これまでアーティストがやってきたことに寄せ過ぎず、またオーダー通りにし過ぎず、トレンド感や自分のやりたいサウンドをプラスしたり、こうやったら面白いんじゃない?っていう提案を曲の中でやったりするのもいいと思います。

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GOODHERTZ Lossyは、音をローファイにしたいときに便利なマルチプラグイン。Dirty Orangeいわく「パラメーターのLOSSYを上げると、レコードみたいに音が揺れるんです。フィルターやリバーブも付いているし、操作も分かりやすい。音を汚したいときは、まずこれを試します」とのこと

ビート・メイキングで気をつけていること

 マスターにプラグインを挿し過ぎないこと。周りに言うと驚かれるのですが、マスターにはリミッターのFABFILTER Pro-L2しか挿していません。マスターで凝ったことをしていると、パラで書き出したときに音の印象がガラッと変わっちゃうんですよ。音圧を上げるため、最低限のプラグインを使うように意識しています。

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マスターに挿すというリミッター・プラグイン、FABFILTER Pro-L2

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EQプラグインのPLUGIN ALLIANCE Maag Audio EQ4もお気に入り。全体的な音作りをしたいときに便利だそう

Dirty Orangeを形成する3枚

『カーテンズ』
ジョン・フルシアンテ
(SPACE SHOWER MUSIC)

 「自分のギター・ヒーローです。レッド・ホット・チリ・ペッパーズ時代とは違う一面やアイディアが詰め込まれたアコースティックな作品。ギターに関しては彼が正義です」

 

『TMGE 106』
Thee Michelle Gun Elephant
(日本コロムビア/TRIAD)

 「人生で一番デカい音楽的衝動に駆られた日本のロック・バンドです。ミッシェル・ガン・エレファントが居なければ、自分は今日まで音楽を続けていないですね」

 

『OUTLET BLUES』
NORIKIYO
(Exit Tunes)

 「地元に居たころ、お世話になった人から“このアルバムのビート、ヤバいから”と言われて聴きました。BACHLOGICさんに影響を受けた人は多く、自分もその一人です」

Dirty OrangeのNo.1プロデューサー:カシミア・キャット

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 ヒップホップ/R&Bからフューチャー・ベースまで幅広く手掛ける、ノルウェー出身のDJ/音楽プロデューサーです。近年で最も影響を受けています。彼のメロディ・センスとノスタルジックな雰囲気、楽曲のアイディアは唯一無二。一時期、彼のサウンドをずっと研究していました。楽曲提供という観点からも、第一線で活躍しているので尊敬しています。そんな彼のお薦めアルバムは『9』。豪華な客演陣に埋もれないサウンドと、良い意味で期待を裏切る楽曲展開が最高です。