今回登場するのは、DJとして世界規模の大型フェスから国内外のクラブ/ライブ・ハウスまで広く飛び回り、クリエイター/リミキサーとしてもダンス・ミュージックを中心に手腕を振るうKSUKE。2019年からはマキシマム ザ ホルモンの公式フランチャイズ・バンド=コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)のDJ、DANGER×DEER名義でも活躍している。今回はそんな多忙な彼のスタジオにて、音楽制作のこだわりや制作ツールなどについてインタビューを行った。
Text:Susumu Nakagawa Photo:AmonRyu
KSUKE【Profile】DJ/作編曲家/リミキサー。コロナナモレモモ(マキシマム ザ ホルモン2号店)のメンバーDANGER×DEERとしても活動する。数多くの著名アーティストへのリミックス楽曲の提供をはじめ、楽曲プロデュースやアレンジ、CM音楽の制作など幅広く手掛けている。
Release
Spotifyプレイリスト『#KSUKESOUND』
KSUKE
FOCAL Shape 50は小音量でもローエンドからハイエンドまでフラットに聴こえます
DAW
メイン・マシンはAPPLE MacBook Proで、DAWはABLETON Live 11を使っています。Liveを使いはじめたのは、当時コライトしていた周りのクリエイターたちがLiveユーザーだったから。DAWが共通だとプロジェクト・ファイルごとやり取りできたり、複数のエフェクトや音源をひとまとめにする“Rack”という機能を共有できたりするのでとても便利なんです。あと、Liveはアレンジメントビューでほとんどの作業が完結できるのも良いですね。Webにはチュートリアル動画がたくさんアップされているので、ビギナーにとってもとっつきやすいDAWだと思います。
コントローラーとオーディオ・インターフェース
Liveで打ち込む際に重宝するのが、専用コントローラーのPush 2です。Liveと一緒に入手したのですが、楽曲のコード進行を決めたり、ドロップで用いるボーカル・チョップを作ったりする際に多用しています。ビジュアルも好きですし、直感的にLiveを操作できるのでゲットして良かったと思いますね。コントローラーでは、ほかにもNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S49とKomplete Kontrol M32を持っています。Komplete Kontrol S49は使用するソフト音源の音色配列やキー・スイッチを鍵盤上で色分けしてくれる機能がありがたいです。Komplete Kontrol M32は、主に移動中や宿泊先で、というふうに使い分けています。オーディオ・インターフェースは、UNIVERSAL AUDIO Arrowです。このスタジオでは仮歌など簡単なレコーディングを中心に行っているので、Arrowで十分だと思っています。実際、高音質で温かみのあるサウンドがするので満足していますね。
モニター環境
スタジオは大音量で作業できる環境です。モニター・スピーカーはFOCAL Shape 50で、ビート・メイキングからミックスまでこれだけで完結しています。音量を小さくしても、ローエンドからハイエンドまでフラットにモニタリングできるところが気に入っているんです。最終チェックはAPPLE iPhoneやMacBook Proのスピーカーのほか、AirPods ProやBEATS BY DR.DRE Beats Flexなどのイアフォンで、できるだけリスナーに近い環境で行うようにしています。あとはクラブで実際に曲の音鳴りを確認することも多いです。
ビート・メイキングの手順
リミックスとオリジナル曲では作り方が変わってきますが、オリジナル曲のときは大体ビートかコード進行から作ることが多いです。もしくはドロップで登場するリード・シンセのような、一番目立つパートから作ることもありますね。それらをまず完成させてから、そのほかの音をどんどん足していくというような流れです。またコード進行から始めるときは、簡単なドラム・サンプルを鳴らしながらよく作業します。コードが決まったら、そのコードを鳴らしたいシンセの音色に変えて、メインとなるリフやメロディも考えます。そこからあとはベースや上モノ、FXなどをひたすら重ねていくのみ。ビートも含めてある程度完成したと思ったら、今度はそれを基本に、AメロやBメロなどへと展開させていくのです。いろいろレイヤーした音を抜き差ししてアレンジを作るようなイメージですね。
インスピレーション
新しく手に入れたソフト音源やテクニックなどから、インスピレーションを得ることが多いです。自分は“すぐに試してみたい派”なので、これらをヒントにして曲を作ることがあります。
曲の本質的な部分だけで格好良いかどうかが大切だと思う
ビート・メイキングのこだわり
アレンジにおいては“引き算の美学”を大事にしています。音数が多いと“何を聴かせたいのか”が分かりづらくなりますし、近年は音数の少ないアレンジが主流になっていますからね。それ以外では、プラグイン・エフェクトにあまり頼り過ぎないようにしています。最近は挿すだけで音圧を出せたり、簡単に格好良いサウンドにできたりするものがたくさん世に出ていますが、自分は基本的にLive 11に付属するプラグイン・エフェクトでできるだけ曲作りするように心掛けているんです。理由は、ビートやコード進行などの本質的な部分だけで、格好良い曲になるかどうかが大切だと思うから。便利なエフェクトに頼り過ぎてしまうと、この部分が見えづらくなるんです。
ドラム/ベースに使用する音源と音作り
ドラムには、基本的にサンプル素材を用います。CymaticsといったWebサイトから購入したものや、自作のオリジナル・サンプルを使っているんです。また、ドラムにLive 11の付属エフェクト、Shifterで音のニュアンスを変化させることもありますね。キックやスネアは、それぞれにレイヤーしたサンプルを抜き差しして展開を作ることもあります。ベースは、ROLAND TR-808系キック・ベースからサブベースまでXFER RECORDS Serumで鳴らしています。Serumは圧倒的に音作りがしやすいんです。あとはLive 11に付属するWavetableもよく使用していますね。
上モノに使用するソフト音源
コードを考えるときはTOONTRACK EZ Keys。音楽ジャンルごとに専用MIDIパックがリリースされているのですが、これが結構使えます。シンセはSerumかREFX Nexusで、Nexusはシンセ・パッドやプラックに用いることが多いです。 あと、ボーカル系のサウンドが欲しいときはOUTPUT Exhaleがよいですね。ストリングスはSPITFIRE AUDIO BBC Symphony Orchestra。音が良いので最高です。無償で利用できるLabsシリーズもあるので、ビギナーにもお勧めですね。
お気に入りプラグイン
最近重宝しているのは、パラメトリックEQとエンハンサーを組み合わせたプラグイン、WAVESFACTORY Spectre。ドラムやボーカル、シンセなどのパートに挿し、もの足りないと感じる帯域を明りょうにしたいときに用います。使いやすいし、スタイリッシュなデザインもすごく好きです。
読者へのメッセージ
世間ではよく“まねしてはいけない”と言いますが、自分はそう思いません。実際にライブやDJプレイを通して現場の空気を肌で感じ、好きなアーティストの音やテクニックをどんどん吸収して自身のものに昇華してほしいなと思います。それを繰り返していくことが、いずれはあなた自身のオリジナリティにつながっていくと思うからです。
KSUKEを形成する3枚
『PLAYER』
CAPSULE
(Contemode)
「電子音楽の素晴らしさに気付かせてくれた名盤。今聴いても色あせず、エレクトロの沼に浸かりはじめた当時を思い出します。中田ヤスタカさんには感謝です」
『ファーマシー』
ギャランティス
(ワーナーミュージック・ジャパン)
「ザ・多幸感! そんな作品ですが、哀愁感やポップス色も強い。メロディはシンプルなのに、フェスでは盛り上がる曲ばかり。その素晴らしいアレンジは参考になります」
『スクリレックス・アンド・ディプロ・プレゼント・ジャック U』
ジャック U、スクリレックス、ディプロ
(ワーナーミュージック・ジャパン)
「これまで聴いたことのないサウンドやグルーブ感、すべてに衝撃を受けました。格好良ければ何でもあり!?と、僕のEDMの固定概念を打ち壊してくれたアルバムです」