a子 〜君島大空やVaundyから熱い支持を集めるシンガー・ソングライター

a子 〜君島大空やVaundyから熱い支持を集めるシンガー・ソングライター

今回登場するのは、君島大空やVaundyなどの若手アーティストたちから支持を集めるシンガー・ソングライターのa子。ドリーム・ポップやニュー・ウェーブ、ジャズ、インディ・ロックなどを独自にブレンドし、ポップスへと昇華したEP『ANTIBLUE』が話題となっている。ここではその音作りはもちろん、a子がリーダーを務めるクリエイティブ・チーム、londogのスタジオ環境などについても伺った。

Text:Susumu Nakagawa Photo:AmonRyu

a子【Profile】兵庫県出身のシンガー・ソングライター。音楽制作/ミュージック・ビデオなどを手掛けるクリエイティブ・チーム、londogのリーダー兼ミックス・エンジニアを務める。ドリーム・ポップやインディ・ロック、ニュー・ウェーブなどをポップスに昇華した音楽性で若い世代から注目を集めている。

 Release 

『ANTI BLUE』
a子
(ウルトラ・ヴァイヴ)

チームで借りたテナント・ビルの一室を音楽制作スタジオとして使用

londogとは

 londogは今年で結成3年目。a子というアーティスト・プロジェクトの楽曲制作やミュージック・ビデオなどの制作を行うチームのことです。2017年に兵庫から上京したとき私はバンドを組みたいと思っていたのでジャズ・バーに通っていたんですが、そこで出会った友人を通じてキーボーディスト/作編曲家の中村エイジさん、ギタリストの齊藤真純君と白川詢君、ベーシストの臼井岳君、ドラマーの竹村仁君らと出会うことになり、バンドを結成したんです。それからミュージック・ビデオを撮りたくなったので、スタイリストの吉田祐旗君とUpperCrustに所属するヘアメイク・アーティストの荻田夏子さんを仲間に誘い、現在の形態になりました。最初のころはチーム名がまだ無かったんですが、皆の一体感を高めたくなったのである時期からlondogという名前を付けたんです。

取材の応援に駆けつけたlondogのメンバー。左から臼井岳、齊藤真純、中村エイジが並ぶ

取材の応援に駆けつけたlondogのメンバー。左から臼井岳、齊藤真純、中村エイジが並ぶ

スタジオの制作環境

 川崎市にあるテナント・ビルの一室をチームで借り、そこをスタジオとしています。線路沿いの物件なので24時間音出しOK、ドラムもたたけて最高です。コンピューターはAPPLE MacBook Proで、DAWはLogic Pro X。Logic Pro Xは、海外のトラップ・ミュージック系のビート・メイカーがよく使っているので導入したんです。

川崎市にあるテナント・ビルの一室に、a子率いるクリエイティブ・チームlondogのスタジオはある

川崎市にあるテナント・ビルの一室に、a子率いるクリエイティブ・チームlondogのスタジオはある。線路沿いの物件ということもあり、24時間ドラムもたたける環境だ。写真左端には、アナログ・シンセのMOOG Sub 37とギター・アンプのFENDER '65 Deluxe Reverbの姿が見える

オーディオ・インターフェースとマイク

 オーディオ・インターフェースはRME Fireface UCです。もともとRME Babyface Proを使っていて音質が衝撃的に良かったので、今度はより入出力数の多いFireface UCを選びました。Fireface UCの音質はきらびやかなので、ギターの音では輪郭がはっきりしますね。初めて購入したマイクは、大好きなビリたん(ビリー・アイリッシュ)が以前使用していたというAUDIO-TECHNICA AT2020。最近はAKG P420をボーカル録りで使っています。以前エンジニアの佐々木(優)さんにコンデンサーからダイナミック、リボン・タイプまで、本当にいろいろなマイクを試させてもらったことがあるのですが、そのときに自分の声にはP420が一番合うと思いましたね。ちなみにアコギ録りには、ELECTRO-VOICE RE20を使っています。今欲しいのはNEUMANNのビンテージ・マイク。調べたら140万くらいしました……(笑)。

ラックには、オーディオ・インターフェースのRME Fireface UCを格納

ラックには、オーディオ・インターフェースのRME Fireface UCを格納

a子お気に入りのコンデンサー・マイク、AKG P420

a子お気に入りのコンデンサー・マイク、AKG P420

モニター環境

 モニター・スピーカーはSONY SMS-2P。友人から譲ってもらったのですが、低域がしっかり聴こえるので満足しています。次はADAM AUDIO A7Xが欲しいですね。モニタリング用のヘッドフォンは、TECHNICSのEAH-T700です。最終的なミックス作業で用います。それまではコンビニで購入した800円くらいのもので聴いていたのですが、さすがに“よく聴こえない”と思ったので秋葉原にあるe☆イヤホンへ、より良いヘッドフォンを探しに行きました(笑)。予算としては10万円以上のものを購入しようと決めていて、12種類くらい試した中で一番自分の曲のだめなところが見つかるヘッドフォンを選んだんです。それがEAH-T700でしたね。

デスク周り。スピーカーはSONY SMS-2Pで、コンピューターはAPPLE MacBook Pro、その左側にはサンプラーのROLAND SP-404、右側にはARTURIAのハイブリッド・シンセMicroFreakがスタンバイ

デスク周り。スピーカーはSONY SMS-2Pで、コンピューターはAPPLE MacBook Pro、その左側にはサンプラーのROLAND SP-404、右側にはARTURIAのハイブリッド・シンセMicroFreakがスタンバイ

モニタリング・ヘッドフォンにはTECHNICS EAH-T700を使用

モニタリング・ヘッドフォンにはTECHNICS EAH-T700を使用

機材やプラグインにはお金を惜しまないこと。高価な製品にはそれなりの理由があるから

最新EPと曲作りの手順について

 これまでのシングルをまとめたもので、明るい曲やテンポの速い曲など、とにかくポップな曲を中心に選びました。まず私が曲のコンセプトや音選びを行い、私と中村さんでメロデイやコード、アレンジを煮詰めたデモをLogic Pro Xで作り、最後にグループのメンバーがそれらを生演奏するという流れで作っています。

ドラム/ベースに使用する音源やプラグイン

 ドラムは基本的に打ち込みで、XLN AUDIO Addictive Drums 2やソフト・サンプラーとしてNATIVE INSTRUMENTS Battery 4を使っています。Addictive Drums 2はCPU負荷が軽く、細かいパラメーターも装備しているので音作りしやすいですね。ドラムのサンプル素材は、仁君がたたいたものを使っています。彼のドラムはとても心地良くて好きなんです。ちなみにEP収録曲の「情緒」では生ドラムを録音したんですが、ミックスの難しさを実感しました。ベースは岳君が演奏したものにIK MULTIMEDIA Amplitubeを使って、ベース・アンプの音を再現しています。

上モノに使用する音源やプラグイン

 ギターは真純君と詢君が担当で、FENDER '65 Deluxe Reverbからライン・アウトした音とマイクで収音した音を混ぜているのですが、ラインだけだと空気感の無い音になるのでやはりマイクを立てて良かったと思っていますね。シンセ周りは中村さんに任せていて、NORD Nord Stage 2やSEQUENTIAL Prophet'08 PE、MOOG Sub 37などを所有しています。ソフト音源はSPECTRASONICS Keyscapeが好きで、よくXLN AUDIO RC-20 Retro Colorを併せているんです。RC-20 Retro Colorはモジュレーションのかかり具合が好みですね。

シンセのSEQUENTIAL Prophet'08 PE(写真上)と、NORD Nord Stage 2(同下)

シンセのSEQUENTIAL Prophet'08 PE(写真上)と、NORD Nord Stage 2(同下)

お気に入りのプラグイン・エフェクト

 リバーブはVALHALLA DSP Valhalla VintageVerb。上品な質感が何より良く、次に音色調整が簡単で、プリセットも豊富にそろっていて使いやすいです。コンプはWAVES CLA-76で……実機は使ったこと無いんですが、それっぽいアナログの質感が出せるので、ボーカルや上モノに重宝しています。あと、D16 GROUP Decimort 2も音を太くしたいときに多用しますね。

ミックスで気を付けていること

 ギターやベースはある程度音作りしてから録音しているので、Logic Pro X上では空間処理を中心に行います。ミックスでは、全体のバランスが低域により過ぎないようにすること、楽器同士がマスキングしないようにすること、ある程度音圧を稼ぐこと、細かいノイズを処理することを主に気を付けているんです。これらは大切なので、紙にメモしてトイレの壁に張り付けています(笑)。リファレンスにしているのは、私の好きなビリー・アイリッシュとかリル・ナズ・X、King Gnu、Vaundyなどです。アレンジでもそうなのですが、たくさん音楽を聴いて、それらの良いところ組み合わせて一つの曲を作っているようなイメージなんですよ。幕の内弁当みたいな(笑)。

同世代のクリエイターへのメッセージ

 私も音楽ストリーミング・サービスにおけるラウドネス標準化のことなど、マスタリングも含めてまだまだ勉強中なのですが、困ったことがあったらエンジニアに聞くのがお勧めです。また、機材やプラグインなどのツールは“自分のもの”となるまで使い倒しまくってください。そして機材やプラグインにはお金を惜しまないこと。高価な製品には、やはりそれなりの理由があると思いますから。

今後の展望

 『ANTI BLUE』は自分たちなりの宅録環境で精一杯やり切った作品です。ただ、もっと高いクオリティでやれるはずなので、より良いレコーディング環境で、できれば良いエンジニアさんをお招きして作品を作りたいなと思っています。現在アルバム制作を進めているので、ぜひ楽しみにしてください。

a子を形成する3枚

『勝訴ストリップ』
椎名林檎
(ユニバーサル)

 「以前から知ってはいたのですが、ちゃんと聴いたのは上京したとき。ものすごく食らいました……。いつか林檎さんの曲みたいなクオリティの音楽を作るのが夢です」

 

『ONCLE JAZZ』
メン・アイ・トラスト
(RETURN TO ANALOG)

 「ドリーム・ポップやインディ・ロックが大好きで、特にメン・アイ・トラストは最高! ボーカル、シンセ、ギター、ベースどれも心地良い。もちろん来日公演にも行きました」

 

『ホエン・ウィ・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥ・ウィ・ゴー?』
ビリー・アイリッシュ
(ユニバーサル)

 「めちゃくちゃ売れる前から大大大好きなアーティスト。歌い方に悩んでいたときに彼女のウィスパー・ボイスに出会い、これだ!と思って今の歌い方に至ります」

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