第3回は、STEINBERG Cubase Pro 12を使ったミックスについて解説していきます。ミックスとは、作編曲で制作したそれぞれのパートの音を調整し混ぜて、2ミックスとして書き出すまでの作業です。エンジニアの方にミックスをしてもらう予定がなく、自分で楽曲を完成させて投稿したい場合は、作編曲だけではなくミックスについても知っておいた方が、曲の完成度を上げることにつながります。私は普段、楽曲の作編曲からミックスやマスタリングまでのすべての工程を、Cubase Pro 12で行っています。
トラックを整理すると音のイメージがつかみやすくなる
作編曲をした段階では各トラックがバラバラになっているので、まずはこれらを整理していきましょう。近い音色、音域、役割のトラックや、同時に処理をしたいトラックを“グループチャンネル”にまとめていきます。はじめにこの準備を行っておくことで、後の作業がスムーズになるのでお勧めです。
グループチャンネルは、画面上部のメニュー・バーから、“プロジェクト→トラックを追加→グループ”を選択して作成します。グループチャンネルを作成したら、トラックを振り分けましょう。F3キーを押してMixConsoleを開き、画面上部の“ROUTING”の2段目をクリックして、デフォルトの“StereoOut”から“グループチャンネル”を選択し直します。
インストゥルメント・トラック、オーディオ・トラック、サンプラー・トラックなど、さまざまなトラックをこのグループチャンネルでまとめることが可能です。グループチャンネル自体をほかのグループチャンネルに入れることもできるので、使い方によってはミックスの効率がかなり良くなるかと思いますし、音の配置のイメージもつかみやすくなります。
私の場合は同じフレーズを違う音色で鳴らして重ねることが多いので、そのようなトラックをグループチャンネルにまとめています。ほかには、“帯域ごとにまとめる”ということもよくあり、例えば、キックとベースは“低音域”、ギターとピアノは“中音域”、装飾で鳴らすような高い音のシンセやストリングスは“高音域”としてまとめることが多いです。また、ハイハットやスネア、ループ素材などのリズム・トラックをまとめることも多くあります。
グループチャンネルごとにトラックの音量バランスをとる
トラックの整理が済んだら、各トラックの音量バランスを調整します。後ほどエフェクトをかけるので、ここでは大体調整できれば大丈夫です。トラック数が多いと難しくなるため、まずはグループチャンネルをソロ状態にしてその中で個別の音のバランスをとり、その後グループチャンネル同士で音量の調整を行うと、すべてのトラックを同時に調整するよりも簡単にバランスが取れます。
音量バランスを決めたら、各トラックのパンを調整しましょう。私はメイン・ボーカルや、キック、ベースなどの低音域のパートは真ん中、アルペジオやコード、リード・フレーズなど、鳴りっぱなしの音は基本的に真ん中より少しずらすか、極端に左右のどちらかに振るようにしています。これは私の好みなのですが、音が良く分離し、非常に聴きやすいミックスになります。真ん中付近にボーカルや楽器のソロ・パートなど、曲中で特に重要なパートが入る場合は、ほかのパートは邪魔にならないように左右に寄せています。
付属のEQやコンプなどを活用して音の質感を調整する
音量とパンの調整が終わったら、エフェクトで音の質感を決めていきます。エフェクトのかけ方は“インサートでかける方法”と、“センド・リターンでかける方法”の2つがありますが、私は前者の“インサートでかける方法”しか行いません。理由は、プラグインのパラメーターを調整するだけでよいので楽なのと、トラックごとにプラグインのパラメーターを細かく調整したいからです。
また、私はいつも“EQで不要な帯域を削る→コンプレッサーで音を整える→EQで再調整する→リバーブなどの空間系エフェクトをかける”という順番で処理をしています。これは、ボーカルやドラム、ベース、ギター、ピアノ、シンセなど、すべてのパートにおいて同様です。
今回はシンセを例に、Cubase付属のプラグインを使って説明していきます。まずは不要な低域を削るために、StudioEQをインサートします。これはベースやキックなどの低音パート以外のほとんどにおいて行う処理です。音がすっきりするので、全体で鳴らしたときに聴きやすくなりますし、後ほどインサートするコンプレッサーのかかりを良くすることができます。StudioEQは視覚的に音の帯域をとらえやすく、どこを調整したのかが分かりやすいので、EQを使うのに慣れていない方はまずこちらを使用するのがお勧めです。
続いて、Vintage Compressorをインサートします。これは、INPUT、OUTPUT、MIXノブが付いているのが特徴のコンプレッサーです。先にアタックとリリースとレシオを決めてから“INPUT”を調整し、最後に“MIX”でかかり具合を細かく調整すると丁寧に処理をすることができます。設定値に関してはさまざまな意見がありますが、聴きながら自分が心地良いと感じる値に調整していくのが一番です。
コンプレッサーをかけたら、再度StudioEQで調整します。アナログ系のコンプレッサーは倍音が強調されたり中音域が少し盛り上がることが多いので、この調整が必要です。
調整後はRoomWorksをかけて一連の作業は完了。RoomWorksは音が自然で操作も非常に行いやすいリバーブです。
ここまで音の質感の調整について解説しましたが、“必要以上にエフェクトをかけない”ということも重要です。初心者の頃はやりがちかと思うのですが、既に音が整っている状態で余計にEQやコンプレッサーをかけてしまうと音が劣化してしまうので、実際にかけてみて“やっぱり要らないかも”と感じたら無くした方がよいでしょう。私はいかにエフェクトを減らせるかを常に考えてミックスをしています。
次回は、ボーカルのエディットや細かいミックスの工程について、さらにミックスのチェックやマスタリング方法まで解説していきたいと思います。
柊マグネタイト
【Profile】VOCALOIDやCeVIOなどの歌声合成ソフトを使用した楽曲を制作するクリエイター。2020年9月に「或世界消失」を動画サイトに初投稿し、活動を開始。『The VOCALOID Collection -2020 Winter-』にて発表した「終焉逃避行」で、ルーキーランキング1位に入賞。多くのアーティストやバーチャル・シンガーへの楽曲提供も行う。代表作は「マーシャル・マキシマイザー」。
【Recent work】
『ユニ』
柊マグネタイト
製品情報
STEINBERG Cubase
LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 12:13,200円前後|Cubase Artist 12:35,200円前後|Cubase Pro 12:62,700円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降
▪Windows:Windows 10 Ver.21H2以降(64ビット)
▪共通:INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー、8GBのRAM、35GB以上のディスク空き容量、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)