西村サトシが使うCubase Pro 10.5 第4回〜トラックファイル機能を使ったライブ用プロジェクト作成方法

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 皆さんこんにちは。エレクトロニカ・ユニット木箱でプログラミング/ギターを担当している西村サトシです。いよいよSTEINBERG Cubase Pro 10.5についての僕の連載は、最終回となりました。今回は、先月紹介したグループチャンネルトラックや、これから紹介するトラックファイル機能を使った僕なりの“ライブ用プロジェクト作成術”について話してみたいと思います。

演奏曲のステム・データを
フォルダートラックでまとめる

 10年前はライブ時にラップトップを持ち込み、そこから流れるオケに合わせて演奏するバンドなんてほとんど居なかったと思いますが、最近ではそれも当たり前の光景となりました。オケを再生するたびにプロジェクトを立ち上げてもいいのですが、プラグインをたくさん使用している場合などは非常に時間がかかってしまうことがあります。

 

 僕の場合は、後述するCubaseの“トラックファイル”機能を使ってクリック音と演奏曲のステム・データを書き出し、第1回で紹介した“フォルダートラック”機能を使って曲ごとにまとめ、プロジェクト上で管理しています。2ミックスではなくステム・データにした理由は、ライブ会場の音響に合わせて毎回ミックスを微調整できるから。また、何らかのトラブルで自分が演奏する予定だったパートの音が出なくなったときでも、そのパートのステム・データがあればすぐに対処できるからです。

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木箱のライブ時に使用されているプロジェクト画面。上からクリック音専用のグループチャンネルトラック、“sub Master”と名付けられたステム・データ用のグループチャンネルトラック、そして各楽曲ごとのフォルダートラックが並んでいる

 下準備として、各演奏曲をまとめて管理するプロジェクトのテンプレートを作りましょう。僕の場合、ライブ時はクリック音とオケをモノラルでモニタリングするので、まずはこの設定を行います。

 

 新規プロジェクトを立ち上げたら、メニュー・バーから“スタジオ→オーディオコネクション”とクリック。出力タブにある“バスを追加”ボタンを押して、オーディオI/OのMonitor Outをモニタリング用チャンネルとして追加します。

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“オーディオコネクション”ウインドウでは、入出力の設定をすることが可能。ここでは出力タブにある“バスを追加”ボタンを押して、オーディオI/OのMonitor Outをモニタリング用チャンネルとして追加する

 次にクリック音専用のグループチャンネルトラックを作成。プロジェクト画面左端のInspectorタブにある“e”ボタンを押し、“チャンネル設定の編集”ダイアログを開きましょう。Sendsタブにて先ほど追加したMonitor Outを有効にしたら、“Pre/Postフェーダー”ボタンを押し、チャンネル設定ウインドウから“Preフェーダーへ移動”を選択。ボリューム・フェーダーを下げ、クリック音がメイン・アウトから鳴らないようにしておきます。

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“チャンネル設定の編集”ダイアログの右端にあるSendsタブ。“Pre/Postフェーダー”ボタン(黄枠)を押すと、チャンネル設定ウインドウが出現する

 続いて、曲のステム・データをまとめるための“sub Master”と名付けたグループチャンネルトラックを作成し、“チャンネル設定の編集”ダイアログからMonitor Outへセンド。チャンネル設定は“Postフェーダー”にしておきます。以上でライブ用プロジェクトのテンプレートが完成しました。ここでは、“LiveTemp”と名前を付けて保存します。

 

チャンネル設定をまるごと保存可能な
トラックファイル機能

 ここからは、このテンプレートに曲のクリック音とステム・データを読み込み、それぞれ設定していきしょう。まずはグループチャンネルトラックを作成してステム・データをまとめます。出力先は、先ほど“sub Master”と名付けたグループチャンネルトラックを選択します。

 

 クリック音は冒頭で作成したクリック音専用のグループチャンネルトラックへアサインし、ここでオーディオI/OのMonitor Outからクリック音とすべてのステム・データが出力されているか、確認してみてください。あとは、各グループチャンネルトラックのセンド・レベルで出力のミックス・バランスを調整すればOK。これで1曲分のライブ用プロジェクトの完成です。

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MixConsole画面。左からクリック音専用のグループチャンネルトラックと、“サブマスター”という名前のグループチャンネルトラックが並んでいる。クリック音と楽曲のステム・データのミックス・バランスは、それぞれのセンド・レベルで調節する。なお、クリック音専用のグループチャンネルトラックのボリューム・フェーダーが“−∞”となっているのは、クリック音がメイン・アウトから鳴らないようにするため

 最後にトラックファイル機能を使って書き出しましょう。この機能を使うと、トラックに含まれるオーディオやMIDI情報のほか、トラックの音量やルーティングなどのチャンネル設定、オートメション・トラックなどをまるごとXMLファイルで書き出すことができ、別プロジェクトで読み込んでもそのまま再現することが可能になります。これを曲ごとに作成しておけば、ライブのセットリストに合わせてプロジェクトへ読み込み、準備の手間を省くことが可能です。

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トラックファイル機能を使って書き出した場合、“Media”という名前のフォルダーとXMLファイルが生成される。“Media”フォルダーの中には、クリック音やステム・データがWAVファイル形式で格納されている

 トラックファイルの書き出し方法は簡単。クリック音/ステム・データ/ステム・データをまとめたグループチャンネルトラックを同時に選び、メニュー・バーから“ファイル→書き出し→選択されたトラック...”と進みます。“選択トラック書き出し”ダイアログが表示されるので、“メディアファイルをコピー”と“Cubase 10、Nuendo 10および旧バージョンとの互換性”を選択して“OK”ボタンを押せば完了です。この作業を、演奏曲ごとに行っていきましょう。

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“選択トラック書き出し”ダイアログでは、“メディアファイルをコピー”にを選択することによって、指定したトラックのオーディオ・データを書き出すことができる。これにより、オーディオ・データが紛失するなどのトラブルを防ぐことが可能だ

トラックファイルを更新して
ライブ用プロジェクトの準備時間を短縮

 次はテンプレートにトラックファイルを読み込む方法を説明しましょう。まずはメニュー・バーから“ファイル→新規プロジェクト”と選択して、“プロジェクトアシスタント”ダイアログ内にある“その他”のカテゴリーから、テンプレートの“LiveTemp”を選びます。

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“プロジェクトアシスタント”ダイアログには、“最近使用したプロジェクト”のほか、“レコーディング”“スコア作成”“プロダクション”“マスタリング”“その他”のカテゴリーが並んでおり、それぞれのカテゴリー名にちなんだテンプレートが用意されている。ここでは、“その他”のカテゴリーからテンプレートとして作成した“LiveTemp”を選択する

 トラックファイルの読み込み方ですが、“ファイル→読み込み→トラックファイル”と進み、任意の曲のトラックファイルを選択すると“読み込みオプション”ダイアログが開きます。“元トラック”セクションと“読み込まれるトラックデータ”セクションでは全項目にチェックを入れて、“イベントとパートの読み込み位置”セクションでは“絶対位置に読み込み”をクリック。“OK”ボタンを押すとトラックファイルが読み込まれ、クリック音、ステム・データ、ステム・データをまとめたグループチャンネルトラックが書き出し時の設定のままプロジェクトに再現されます。

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トラックファイルを読み込む際に表示される“読み込みオプション”ダイアログ。ここでは読み込むトラック・データや、読み込む際の細かいオプションを設定することができる

 先述したように、トラックファイルはトラックのチャンネル設定やルーティングなど、さまざまな設定を保存できるので、ライブのたびに微調整していくことが可能です。トラックファイルを更新して行く度に、ライブ用プロジェクトの準備にかかる手間が省けるのでぜひ試してみてください。

 

 というわけで全4回にわたって僕の記事を読んでいただいた皆さん、ありがとうございました。また、どこかでお会いしましょう!

 

西村サトシ

 札幌在住。2010年にエレクトロニカ・ユニット、木箱のプログラマー/ギタリストとしてビクターBabeStar Recordsからメジャー・デビューする。2012年には自主レーベルkitorina recordsを主宰。サウンド・エンジニアとしても活動し、サカナクションの作品などを手掛ける。また、木箱としてはアジアを中心とした海外ツアーのほか、国内ではプラネタリウムでのライブや、森の中でのキャンドル・ライブを行っている。

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