西村サトシが使うCubase Pro 10.5 第2回〜Retrologue 2やStepFilterなどCubase付属プラグインを使った音作り

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 皆さんこんにちは。エレクトロニカ・ユニット木箱でプログラミング/ギターを担当している西村サトシです。前回は、STEINBERG Cubase Pro 10.5で複数のトラックを一括管理する方法や、フェードエディターを使った編集方法をご紹介しました。今回は、僕がよく使うCubase付属プラグインと、その活用方法をお話しします。

Retrologue 2のLFOを使って
モジュレーションを施す

 まずは、Cubase 6.5から搭載されたVSTインストゥルメントRetrologueのバージョン・アップ版=Retrologue 2について。Retrologue 2は、3つのオシレーター+サブオシレーターを搭載し、アナログ・シンセのような温かみのあるサウンドが特徴的です。画面が見やすくシンセサイズしやすいので、ビギナーの方にもお薦め。僕はよくシンセ・リードやパッドなどに用います。プリセットは700種類以上あるので、これらから楽曲やフレーズのアイディアを得たりするのもよいでしょう。もちろん最初からシンセサイズしたり、プリセットから発展させてオリジナルの音色を作るというのもいいと思います。

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Cubaseに付属するソフト・シンセ、Retrologue 2。3基のオシレーター、サブオシレーター、24種類のフィルター、4基のLFO、700種類以上のプリセットなどを内蔵している

 ここではRetrologue 2において、LFOを使った躍動感のあるシンセ・パッドの作り方をお話しします。このシンセは木箱の楽曲によく登場するのですが、今回はその中から「Nighty-night」のプロジェクトを例に進めていきましょう。

 

 この楽曲の冒頭やサビに登場するシンセのフレーズは、8小節間においてA2/D3/F#3/A3/E4は鳴らしっぱなしで、ルート音のみが変化していきます。ちなみにMIDIノートの編集は、プロジェクトウィンドウにあるMIDIトラックをダブル・クリックし、キーエディター画面を表示させることで可能です。

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木箱「Nighty-night」で登場するシンセ・パッドのMIDIノート。8小節間において、ルート音のみ2小節ごとに変化する(赤枠)

 Retrologue 2での音作りですが、OSC 1セクションにあるオシレーターでは、倍音を多く含むノコギリ波を選択。FILTERとAMPLIFIERセクションでのアタック/ディケイ/リリース・タイムは0ms、サステイン・レベルは100%に設定します。この状態で先ほどのフレーズを再生すると、平坦なノコギリ波の音が鳴ります。ここに、LFOでボリュームにモジュレーションをかけて動きを出していきましょう。LFOは音を出すためではなく、さまざまなパラメーターに変化を与えるためにあります。例えばLFOを使ってボリュームを小刻みに変化させると、トレモロのような効果を施すことが可能なのです。

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OSC 1セクションではノコギリ波を選択(青枠)。また、FILTERとAMPLIFIERセクションでのアタック/ディケイ/リリース・タイムは0ms、サステイン・レベルは100%に設定する(赤枠)。画面右下にはMODULATORSセクションがあり、LFOの設定などが可能だ(黄枠)

 LFOでモジュレーションをかける手順ですが、まずRetrologue 2の画面右側の中段にあるMODULATORSセクションからLFO1を選び、WAVEは矩形波を選択。SHAPEは5にすることによって、矩形波のハイ/ローにおける状態の比率(デューティ比)が50%になるため、純粋な矩形波が生成されます。これにより、モジュレーションのかかり具合がはっきりするのです。続いてSYNC MODEはBeat、FREQUENCYは1/8に設定。これでモジュレーションがプロジェクトのテンポに同期してかかるようになりました。

 

 次に、画面右下にあるMATRIXセクションでLFOとボリュームを関連付けさせましょう。SOURCEはLFO1、DESTINATIONはVolumeを選択し、あとはDEPTHでかかり具合を調整。スライダーを右に動かすほど、より変化が分かりやすくなります。これで先ほどのMIDIノートを再生すると、1/8拍子ごとにボリュームが変化するようになりました。

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MATRIXセクション。LFO1はボリュームに、LFO2はパンに関連付けられるよう設定

 同様に、今度はLFOを使ってパンにモジュレーションをかけてみましょう。ここではMODULATORSセクションにあるLFO2を使い、WAVEはサイン波、SYNC MODEはBeat、FREQUENCYは1/4に設定します。

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LFO2はサイン波を選び、FREQUENCYは1/4に設定する

 MATRIXセクションでは、先ほどと同じ要領でLFO2とパンを関連付けし、DEPTHでパンの振れ幅を調整。これで再生すると、4分音符ごとにパンが左右に振れ、より躍動感のあるシンセになります。

 

 最後にFILTERセクションで音色を調整しましょう。今回はSHAPEを−24dB/octのローパス・フィルターに、CUTOFFを10kHzに設定し、少しだけハイカットします。RESONANCEは3にして、キャラクターを付けました。

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FILTERセクション。SHAPEは−24dB/octのローパス・フィルターに、CUTOFFは10kHzに設定してハイカット処理を施す。右下にはディストーション・ノブを搭載し、その下にあるTYPEでは5種類のディストーションを選ぶことができる

 ほかにも、Retrologue 2はFILTERセクションで5種類のディストーションを付加できたり、画面上部にあるArpボタンを押せば32ステップのアルペジエイターが使えたり、FXボタンでフェイザー/ディレイ/リバーブ/EQなど最大6つのエフェクトを施せたりと、機能が満載です。ぜひ、皆さんも使ってみてください。

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画面右上には、Arpボタン(赤枠)やFXボタン(青枠)を搭載。Retrologue 2は、最大32ステップのアルペジエイターやディレイ、EQなどのエフェクトを搭載する

StepFilterで
ハイハットを生演奏らしく聴かせる

 次に紹介するのはStepFilter。僕がCubaseを使い始めたのは今から約20年前ですが、既にそのころから標準搭載されしていたプラグインです。StepFilterは、フィルター・カットオフ周波数とレゾナンスを16ステップのシーケンサーで制御し、さまざまなフィルター・パターンを作ることができます。

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Cubaseに付属するプラグイン、StepFilter。フィルター・カットオフ周波数とレゾナンスを16ステップのシーケンサーで制御し、さまざまなフィルター・パターンを作ることができる。ステップを入力するには、画面上部中央に見えるパターングリッドウィンドウをクリック(赤枠)

 ここでは、ドラムにおけるクローズ・ハイハットを例にしたStepFilterの使い方を説明しましょう。クローズド・ハイハットのパターンに従って同じサンプル素材を並べていくと、どうしても機械的に聴こえてしまいますよね? そんなとき、僕はStepFilterを使って音色に変化を付け、生演奏っぽさを出すように工夫しています。

 

 まずは画面中央に位置するRATEで、ステップの再生間隔を設定。ハイハットは16分音符でリズムを刻んでいるので、RATEでは1/16を選択します。もちろん、プロジェクトのテンポと同期させるSYNCをオンにしておくこともお忘れなく。

 

 画面右上にあるFILTER TYPEは、ローパス/バンドパス/ハイパス・フィルターを搭載。今回はローパス・フィルターを選択しましたが、ここは素材に合わせて選ぶとよいでしょう。ステップを入力するには、画面上部中央に見えるパターングリッドウィンドウをクリックします。今回は“生っぽさ”を表現したいので、ある程度ばらついた感じでカットオフとレゾナンスを入力してみました。パターングリッドウィンドウにおけるステップ入力では、上下の幅が広くなればなるほど音色の変化も大きくなり、過激な効果を施すことが可能です。

 

 最後に、フィルター・レゾナンスを調整するBASS RESONANCEや、ステップ間にグライドを加えるGLIDなどを微調整し、好みの音色に仕上げましょう。さまざまな素材にかけてみると面白いと思うので、ぜひ試してみてください。それでは!

 

西村サトシ

札幌在住。2010年にエレクトロニカ・ユニット、木箱のプログラマー/ギタリストとしてビクターBabeStar Recordsからメジャー・デビューする。2012年には自主レーベルkitorina recordsを主宰。サウンド・エンジニアとしても活動し、サカナクションの作品などを手掛ける。また、木箱としてはアジアを中心とした海外ツアーのほか、国内ではプラネタリウムでのライブや、森の中でのキャンドル・ライブを行っている。

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