Cubaseを使った作曲方法を順を追って解説〜“リリカピアノ”の作り方も紹介!|解説:柊マグネタイト

Cubaseを使った作曲方法を順を追って解説〜“リリカピアノ”の作り方も紹介!|解説:柊マグネタイト

 今回は、私のSTEINBERG Cubase Pro 12を使った作曲の手順と“何を考えて曲を作っているか”について、解説していきます。私自身、作編曲の方法はすべて独学で身に付けているので、音楽理論的な説明はできません。一方で、音楽の知識があまりない方が理解しやすいような感覚的なお話ができると思いますので、“理論とかよくわかんないし難しそう”という方は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

ルート音のみで仮のコード進行を作成する

 前回もお伝えしたように、私がお勧めする作曲の順番は、①仮でコードを付ける ②メロディを付ける ③コードをメロディに合わせて付け直すというものです。これは作編曲を始めたばかりの初心者から、既に慣れている方まで使える方法で、さらには音楽を聴いているときに近い、楽しい感覚で作れる方法でもあります。一つずつ順番に解説していきましょう。

 まずは①の“仮でコードを付ける”方法について。コード進行と聞くと、作編曲に慣れていない方は難しいと感じるかもしれません。そんな方にお勧めなのは、ルート音だけでコードを付けてしまうという方法です。ルート音というのはコードの基盤となる音のことで、曲においてはベースがこれを鳴らしていることが多いです。例えば“ドミソ”は、“Cメジャー”というコードで、ルート音は“ド”に当たります。

キーエディタの画面。“ドミソ”で構成されたコード、“Cメジャー”が入力されている。一番下に入力されているC3(黄枠)が、ルート音の“ド”に当たる

キーエディタの画面。“ドミソ”で構成されたコード、“Cメジャー”が入力されている。一番下に入力されているC3(黄枠)が、ルート音の“ド”に当たる

 ベースを弾く方は理解しやすいかもしれませんが、そうでない方はこの“ルート音”を感じ取るのに少しだけ慣れが必要かと思います。そこで私がお勧めするのは、EDMなどの打ち込み系の音楽を聴いて、そのベース音をひたすら追いかけるという方法です。EDMなどはベースの音が目立つものが多く、かつルート以外の音をあまり鳴らさないジャンルなので、慣れていない方でも分かりやすいかと思います。ほかのジャンルですと、ベースが動き回りルートから外れたピッチで鳴っていることも多いので、難易度が上がってしまいます。

Halion Sonic SEを使って“リリカピアノ”を手軽に作成

 ルート音の感覚が身に付いたら、好きなコード進行のルート音をキーエディターに入力します。私は“リリース・カット・ピアノ”(以下リリカピアノ)を使って入力することをお勧めします。近年YouTubeやTikTokでこのリリカピアノが流行していますが、これはリリカピアノの“隣り合うコードが濁らない”という性質にあると私は考えています。私がルート音を入力する際にリリカピアノをお勧めするのは、まさにこの性質がフレーズを作る上で非常にやりやすいからです。

 リリカピアノは、その名の通りリリースをカットしたピアノのことで、ピアノ音源から作成する必要があります。私はほぼ毎回Cubase Pro 12付属のHalion Sonic SEを使ってリリカピアノを作っているので、そのやり方を紹介します。

 メニュー・バーから“プロジェクト→トラックを追加”を選択し、インストゥルメントからHalion Sonic SEを選択後、“トラックを追加”をクリックします。トラックを追加できたら、Halion Sonic SEの画面で“Category”から“Piano”をクリックし、プリセットの中から“Mellow Grand Piano”を選びましょう。この音色は適度なアタック感があるものの、音が柔らかく曲になじむので、リリカピアノとして使うことが多いです。

Cubase Pro 12に付属するソフト・シンセHalion Sonic SE。黄枠のCategoryからPianoを選択し、赤枠の部分からMellow Grand Pianoを探してクリックしよう

Cubase Pro 12に付属するソフト・シンセHalion Sonic SE。黄枠のCategoryからPianoを選択し、赤枠の部分からMellow Grand Pianoを探してクリックしよう

 音色を選んだら音作りをします。画面の右下の8個のパラメーターのうち、“Chorus Mix”と“Hall Mix”をゼロにしましょう。“Chorus Mix”は音が柔らかくなりすぎるため、“Hall Mix”はリリカピアノに残響部分が必要ないためです。リリカピアノの特徴であるパキっとした音にするためには、こういったピアノの実音ではない要素を取り除くことが大事です。

Halion Sonic SEに搭載されている8つのパラメーター。リリカピアノを作る際は、黄枠の“Chorus Mix”をゼロにして音が柔らかくなりすぎるのを避け“Hall Mix”をゼロにして残響成分を取り除く

Halion Sonic SEに搭載されている8つのパラメーター。リリカピアノを作る際は、黄枠の“Chorus Mix”をゼロにして音が柔らかくなりすぎるのを避け“Hall Mix”をゼロにして残響成分を取り除く

 続いて、画面上部の6つのタブから“EDIT”を選択し、“AMPLIFIER”の“RELEASE”を“−100”にします。これでリリースをカットできました。後はお好みでコンプレッサーやEQなどをかけて味付けをすればリリカピアノの完成です!

Halion Sonic SEの画面上部のタブから“EDIT”を選択し、“AMPLIFIER”の“RELEASE”(黄枠)を“−100”に設定するとリリースをカットできる

Halion Sonic SEの画面上部のタブから“EDIT”を選択し、“AMPLIFIER”の“RELEASE”(黄枠)を“−100”に設定するとリリースをカットできる

 リリカピアノが作成できたら、仮のコード進行をルート音のみで入力していきます。この段階ではまだ仮なので、思いつかない場合は、王道進行やカノン進行などの定番と呼ばれるコード進行でもいいかもしれません。これらのコードのルート音のみを低めの音で入力するのですが、低すぎると聴こえないので、キーエディターのC1〜B1辺りの音で入力しましょう。

メロディは“入り口”を意識して作成する

 次は②の“メロディを付ける”について。思いついたまま自由に入力していけば大丈夫ですが、私が最も意識しているのはメロディの“入口”です。入口というのは、私が手掛けた楽曲「撫でんな」のサビの歌詞、“アタマから”の部分です。特にサビは、この“入口”が肝になります。ここで“今からサビが来る!”という期待感をリスナーに持たせることが可能です。

 入口には、1拍目からメロディが始まる“強起”と1拍目以外から始まる“弱起”の2種類があります。「撫でんな」のサビはここでいう“弱起”で、1拍目より前からメロディが始まります。Aメロ、Bメロ、サビなど、各セクションでこれらをうまく使い分けると、楽曲としてまとまりやすくなると思います。

筆者が手掛けた「撫でんな」のサビ部分のキーエディター。1拍目よりも前からメロディが始まっているのが分かる(黄枠)

筆者が手掛けた「撫でんな」のサビ部分のキーエディター。1拍目よりも前からメロディが始まっているのが分かる(黄枠)

 最後に③の“コードをメロディに合わせて付け直す”について説明します。これはアレンジやリミックスで行われるコードの付け方と同じです。現在はルート音にメロディが乗っかっている状態かと思いますが、メロディを付けてみて“ここのルート音を変えたらもっと雰囲気が良くなるかもしれない”という部分があれば調整し、もしなければそのままルート音の上に音を重ねていきます。

 コードの基本はルート音を含めて3つ音が重なった3和音なので、ルート音の上に2つ音を重ねてみましょう。ルート音から1オクターブより上の音を重ねると、ルート音と分離して聴きやすいのでお勧めです。

ルート音から1オクターブ以上離して音を重ねている状態。ルート音との分離感があり、聴きやすくなる

ルート音から1オクターブ以上離して音を重ねている状態。ルート音との分離感があり、聴きやすくなる

 コードについてはネットで調べればいろいろと出てきますが、個人的には“適当に間隔を空けて重ねて鳴らしてみて、微妙だったらずらす”という方法がお勧め。既存のコード進行にとらわれず、メロディに合った響きが作れます。この方法がうまくいかない場合はCubaseのコードトラックを使用してコード進行を作るのも良いでしょう。

 次回はCubase Pro 12の機能を使った、オケとボーカルのミックスなどについて解説していきたいと思います。

 

柊マグネタイト

【Profile】VOCALOIDやCeVIOなどの歌声合成ソフトを使用した楽曲を制作するクリエイター。2020年9月に「或世界消失」を動画サイトに初投稿し、活動を開始。『The VOCALOID Collection -2020 Winter-』にて発表した「終焉逃避行」で、ルーキーランキング1位に入賞。多くのアーティストやバーチャル・シンガーへの楽曲提供も行う。代表作は「マーシャル・マキシマイザー」。

【Recent work】

『撫でんな』
柊マグネタイト

製品情報

STEINBERG Cubase

LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 12:13,200円前後|Cubase Artist 12:35,200円前後|Cubase Pro 12:62,700円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 11以降
▪Windows:Windows 10 Ver.21H2以降(64ビット)
▪共通:INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー、8GBのRAM、35GB以上のディスク空き容量、1,440×900以上のディスプレイ解像度(1,920×1,080を推奨)、インターネット接続環境(インストール時)